永遠のさよならは―――

杜鵑花

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片巻町

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 「片巻町、片巻町、お降りの方は右側のドアからお降り下さい。」

俺は車掌の何処か無機質な……感情のこもっていない声で目を覚ました。
どうやら片巻町に着いたらしい。
俺はゆっくりと起き上がってドアに向かう。
電車内にあるデジタル時計は午前0時00分、つまり12時を指していた。
珍しい時計だ。
俺がドアの前に立った瞬間、ぷしゅーと音を立ててドアが開いた。
まず初めに目に飛び込んできたのは少し苔が生えた駅名標だ。
真ん中に片巻町と大きく書かれているのがギリギリ読める。
それから誰も居ない駅が飛び込んできた。
雨上がりのような匂いがする。
片巻町は雨が降っていたようだ。
今はすっかり止んでいて青空が雲と雲の間に見える。
町を見ると、昔の記憶が少しずつ取り戻される。
取り敢えず昼飯でも食べに行こうかな。
昔の記憶が正しければ近くに美味い料理屋があったはずだが……
俺は記憶を頼りに歩き出した。
幾つかの角を曲がり、狭い路地裏を通る。
確かこの角を曲がった所にあるはずだ。
俺は最後の角を曲がった……が、そこにあったのは平地と売土地と書かれた看板だけだった。
俺はガックシと肩を落とした。

「俺の昼飯が……」

「あの!……料理屋を探しているんですか?」

不意に後ろから声がした。
俺はすぐさま振り返る。
そこには、長い髪が特徴の女の子が居た。
女の子と言っても俺と同じぐらいの年齢だろうが……

「えっ!零夜さんじゃないですか!」

女の子に自分の名前を言われ、驚いた。
なんだ?何故俺の名前を知っているんだろうか。もしかして、同級生かな……
女の子の顔をよく見ると心なしか見たことがあるような気がしてきた。
だとしたら名前を思い出せないのはとても失礼だ。
少しだけ会話をしてなんとか思い出そう。

「おぉ!久しぶりだな。」

「本当に久しぶりですね!料理屋を探してるんですか?」

「あぁそうなんだ。久しぶりに地元に帰ってきたら俺のお気に入りの料理屋が無くなってて昼飯どうしようって困ってたんだ。」

「そうなんですか。じゃあ丁度良い料理屋がありますよ!着いてきて下さい!」

女の子は歩き出した。
俺はそれに着いていく。
少し会話してみたがさっぱり誰か分からない。
名前を聞くタイミングも見失ってしまった。
仕様がない、このまま突き通すしかないだろう。
そんな事を考えながら女の子に着いていっていると、少しイタリアンな店に着いた。
最近できた店だろうか……少なくとも俺の記憶の中にはこんな店は無かった。

「ここのピザが美味しいんだよ!さぁ、入ろう!」

女の子に言われるがまま、俺は店の中に入った。
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