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京都支店
笹の葉さらり
しおりを挟む夜中に降っていた雨も朝方には止み、少し蒸し暑い朝だった。
京都は大学が多く、学生の街としても有名なんだそう。
近年は外国人旅行者も増え、バスも地下鉄も私鉄も、交通機関はどこもパンパンだ。
社会人に混じって通学する学生でごった返す電車から降り、ほっと一息つく。
「さ、行きましょう。
大西教授がお待ちです」
勝手知ったる、と言わんばかりにスタスタ歩いていく山田氏を追いかけて、学生の闊歩するキャンパス内を早足に歩く。
「おはようございます、蒼製作所の山田でございます」
ノックの後、礼儀正しく声をかけて入室する山田氏に続いて冷房の効いた研究室内に入った途端、ある物に目が釘付けになった。
「……あぁ、アレですか」
視線を辿った教授がにんまり笑いながら、1枚の紙を差し出してきた。
「これに願い事を書いてあの笹に吊るしてください。
運が良ければ叶うかもしれませんよ?」
「…運試し、ですか?」
「あぁ、これは失礼。
7月7日の七夕に、このように笹に願い事を書いた紙を吊るし、神様にお願いする。
子供騙しみたいなイベントですが、なかなかどうして人気があるのですよ」
「なるほど」
教授の説明通り笹にはカラフルな紙が吊り下げられ、その1枚1枚に何やら願い事が書かれていた。
折角だからと一緒に手渡されたペンをとり…こんな所でプライベート丸出しな願い事を書くのもなー、と無難に
『共同開発が成功しますように』
と書いて、笹に吊るそうと手を伸ばす。
「どうせだったら、上の方に吊ったらいいですよ。
神様の目に付きやすいって言われてますから」
山田氏の言葉に、1つ頷いて笹の最上部に括りつける。
そんな俺の一部始終を眺めていた教授が
「本当に叶えたい事は神様に頼ったりしないんですよね~」
と意味深に笑った。
~智視点~
■□■
「七夕の笹飾りのライトアップ、ですか?」
「えぇ、そう。
参道の両側に建つ灯篭に火が入れられて、そこを上ると大きな笹飾りがライトアップされているの。
とっても綺麗よ。
駅から貴船神社へ向かう途中、貴船川沿を歩くんやけど、運が良ければ蛍も見られるかもしれへんし」
蛍にライトアップされた笹飾り…確かに見てみたいかも。
「良かったら、北条さんと行ってきはったらどうですか?
京都出張の思い出に」
吉野さんの言葉に、ガックリくる。
「…そんな、わかりやすいですか?」
「北条さんはね。
て言うか、あの人隠す気ないように見えるけど?」
ケラケラ笑う吉野さんは「眼福やし」と言っていたけれど、あまりあからさまなのはどうかと思う。
まぁ、それは置いておいて…智に聞いてみようかしら。
今日明日の夕方の予定でも。
*
叡山電鉄出町柳駅から鞍馬へ向かう電車は、夕暮れ時なのに沢山の人が乗り込んでいた。
お祭りでもないのに浴衣を着た人も居て、改めてここが観光都市なんだなと感じる。
途中までは街中を走る電車が、山の中に入ると車内の灯りが落とされ、速度が落ちてライトアップされた青もみじの中を進んでいく。
「紅葉の時期も綺麗なんでしょうけど、この時期も綺麗ね」
平日の方が比較的空いているけれど、週末になるとライトアップされた青もみじのトンネルが見られる、との情報を元に土曜日の晩、繰り出した私達は、人の波に押されるように貴船口の駅に降り立った。
山の中の何もない小さな駅舎から、全員が同じ方向へ向かって歩いて行く。
京都市内でも北の方にある貴船は、木々の間を吹き抜ける風も幾分涼しい。
「蛍、居ないな」
「そうね、時間が早いのかしら?」
「ま、帰りもこの道歩くから、そん時に期待だな」
ブラブラ歩く事30分。
ようやく見えてきた参道は薄暗がりの中、赤い灯篭に火が灯り幻想的な雰囲気を醸し出している。
参道を上ると、そこには本宮の前に大きな笹があり、沢山の短冊を吊るしてライトアップされていた。
暗闇の中浮かび上がる笹の緑、そしてカラフルな短冊が映える。
「キレイ…」
「壮観だな」
風に揺れる短冊の1つ1つが、誰かの願いの形。
その願いを乗せて、笹の葉がさらりと揺れる。
お守りとか御神籤とか七夕とか。
大きくなり忙しくなるにつれて、関心が薄れてきたけれど、この風景はとても荘厳というか…ステキだなと思う。
「また、来れたらいいな。
今度は紅葉の時期とかに」
「そうね、鞍馬の山を歩いてここに降りてくるというのも楽しそう」
自然と寄り添う私達を、笹が静かに見守っていた。
~悠香視点~
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