ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生

文字の大きさ
36 / 50
京都支店

笹の葉さらり

しおりを挟む

夜中に降っていた雨も朝方には止み、少し蒸し暑い朝だった。

京都は大学が多く、学生の街としても有名なんだそう。
近年は外国人旅行者も増え、バスも地下鉄も私鉄も、交通機関はどこもパンパンだ。

社会人に混じって通学する学生でごった返す電車から降り、ほっと一息つく。 


 「さ、行きましょう。
大西教授がお待ちです」

勝手知ったる、と言わんばかりにスタスタ歩いていく山田氏を追いかけて、学生の闊歩するキャンパス内を早足に歩く。


「おはようございます、蒼製作所の山田でございます」

ノックの後、礼儀正しく声をかけて入室する山田氏に続いて冷房の効いた研究室内に入った途端、ある物に目が釘付けになった。 

「……あぁ、アレですか」

視線を辿った教授がにんまり笑いながら、1枚の紙を差し出してきた。

「これに願い事を書いてあの笹に吊るしてください。
運が良ければ叶うかもしれませんよ?」

「…運試し、ですか?」

「あぁ、これは失礼。
7月7日の七夕に、このように笹に願い事を書いた紙を吊るし、神様にお願いする。
子供騙しみたいなイベントですが、なかなかどうして人気があるのですよ」

「なるほど」

教授の説明通り笹にはカラフルな紙が吊り下げられ、その1枚1枚に何やら願い事が書かれていた。


 折角だからと一緒に手渡されたペンをとり…こんな所でプライベート丸出しな願い事を書くのもなー、と無難に

『共同開発が成功しますように』

と書いて、笹に吊るそうと手を伸ばす。


「どうせだったら、上の方に吊ったらいいですよ。
神様の目に付きやすいって言われてますから」

山田氏の言葉に、1つ頷いて笹の最上部に括りつける。 
そんな俺の一部始終を眺めていた教授が

「本当に叶えたい事は神様に頼ったりしないんですよね~」

と意味深に笑った。

  ~智視点~    
      
     ■□■

「七夕の笹飾りのライトアップ、ですか?」

「えぇ、そう。
参道の両側に建つ灯篭に火が入れられて、そこを上ると大きな笹飾りがライトアップされているの。
とっても綺麗よ。
駅から貴船神社へ向かう途中、貴船川沿を歩くんやけど、運が良ければ蛍も見られるかもしれへんし」


蛍にライトアップされた笹飾り…確かに見てみたいかも。

「良かったら、北条さんと行ってきはったらどうですか?
京都出張の思い出に」
 

吉野さんの言葉に、ガックリくる。

「…そんな、わかりやすいですか?」

「北条さんはね。
て言うか、あの人隠す気ないように見えるけど?」

ケラケラ笑う吉野さんは「眼福やし」と言っていたけれど、あまりあからさまなのはどうかと思う。


まぁ、それは置いておいて…智に聞いてみようかしら。
今日明日の夕方の予定でも。

   *

叡山電鉄出町柳駅から鞍馬へ向かう電車は、夕暮れ時なのに沢山の人が乗り込んでいた。
お祭りでもないのに浴衣を着た人も居て、改めてここが観光都市なんだなと感じる。

途中までは街中を走る電車が、山の中に入ると車内の灯りが落とされ、速度が落ちてライトアップされた青もみじの中を進んでいく。

「紅葉の時期も綺麗なんでしょうけど、この時期も綺麗ね」


平日の方が比較的空いているけれど、週末になるとライトアップされた青もみじのトンネルが見られる、との情報を元に土曜日の晩、繰り出した私達は、人の波に押されるように貴船口の駅に降り立った。

山の中の何もない小さな駅舎から、全員が同じ方向へ向かって歩いて行く。
京都市内でも北の方にある貴船は、木々の間を吹き抜ける風も幾分涼しい。


「蛍、居ないな」

「そうね、時間が早いのかしら?」

「ま、帰りもこの道歩くから、そん時に期待だな」


ブラブラ歩く事30分。
ようやく見えてきた参道は薄暗がりの中、赤い灯篭に火が灯り幻想的な雰囲気を醸し出している。

参道を上ると、そこには本宮の前に大きな笹があり、沢山の短冊を吊るしてライトアップされていた。

暗闇の中浮かび上がる笹の緑、そしてカラフルな短冊が映える。


「キレイ…」

「壮観だな」

風に揺れる短冊の1つ1つが、誰かの願いの形。
その願いを乗せて、笹の葉がさらりと揺れる。


お守りとか御神籤とか七夕とか。
大きくなり忙しくなるにつれて、関心が薄れてきたけれど、この風景はとても荘厳というか…ステキだなと思う。


「また、来れたらいいな。
今度は紅葉の時期とかに」

「そうね、鞍馬の山を歩いてここに降りてくるというのも楽しそう」


自然と寄り添う私達を、笹が静かに見守っていた。

  ~悠香視点~


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?

足りない言葉、あふれる想い〜地味子とエリート営業マンの恋愛リポグラム〜

石河 翠
現代文学
同じ会社に勤める地味子とエリート営業マン。 接点のないはずの二人が、ある出来事をきっかけに一気に近づいて……。両片思いのじれじれ恋物語。 もちろんハッピーエンドです。 リポグラムと呼ばれる特定の文字を入れない手法を用いた、いわゆる文字遊びの作品です。 タイトルのカギカッコ部分が、使用不可の文字です。濁音、半濁音がある場合には、それも使用不可です。 (例;「『とな』ー切れ」の場合には、「と」「ど」「な」が使用不可) すべての漢字にルビを振っております。本当に特定の文字が使われていないか、探してみてください。 「『あい』を失った女」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/802162130)内に掲載していた、「『とな』ー切れ」「『めも』を捨てる」「『らり』ーの終わり」に加え、新たに三話を書き下ろし、一つの作品として投稿し直しました。文字遊びがお好きな方、「『あい』を失った女」もぜひどうぞ。 ※こちらは、小説家になろうにも投稿しております。 ※扉絵は管澤捻様に描いて頂きました。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』 三十歳:身長百八十五センチ 御更木グループの御曹司 創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者) 祖母がスイス人のクオーター 祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳 『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』 三十歳:身長百七十五センチ。 料理動画「即興バズレシピ」の配信者 御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが…… 『咲山翠(さきやまみどり)』 二十七歳:身長百六十センチ。 蒼也の許嫁 父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授 『須垣陸(すがきりく)』 三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家 ************************** 幼稚園教諭の咲山翠は 御更木グループの御曹司と 幼い頃に知り合い、 彼の祖父に気に入られて許嫁となる だが、大人になった彼は ベンチャー企業の経営で忙しく すれ違いが続いていた ある日、蒼也が迎えに来て、 余命宣告された祖父のために すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる お世話になったおじいさまのためにと了承して 形式的に夫婦になっただけなのに なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、 絶体絶命のピンチに みたいなお話しです

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

処理中です...