灰かぶりの姉

吉野 那生

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大学生

インターン〜初日〜


7月に入り、いよいよインターンが始まった。


当日、あおい製作所の総務課に集まった学生は8名。
ビジターカードを手渡され、インターン期間中の簡単な説明を受ける。

男子が6名、女子が2名。
技術部志望の木下 伸二、西村 啓太、森口 信之の3名はそちらに。
そして相原 遼、黒澤 祐希、藤川 柚月、槙野 純一、そして私の5名は営業にそれぞれ振り分けられた。

内定までの段階で何度か見かけた事はあるけれど、ちゃんと自己紹介をしたのは今日が初めてだ。
大学も違えば、学部学科も違う8名。
この8名が、もしかしたら来春同期として入社するのかもしれない。

そう思うと、緊張する反面妙にくすぐったい気がした。


「藤川 柚月です。よろしくね、国枝さん。
女子は私達だけなんだね。
しかも私達、両方名前に“月”が入ってるなんて、すごい偶然。
なっちゃんって呼んでいい?」

「国枝 那月です、よろしく。
じゃあ私も柚ちゃんって呼んでいい?」

人懐こそうな笑顔が可愛くて、こちらも微笑んでしまう。

「わ、なっちゃんってクールなイメージだったけど、笑うとキュート!」

そう言う柚ちゃんの方が華奢でほんわかしていて、表情がクルクル変わって可愛らしい。
小動物系というか癒し系というか、どちらにしてもちょっとだけ綾香に似てる、かも。

たった2人の女子だから、団結力というかすぐに打ち解けられた。

だからといって、本来人付き合いの苦手な私にとって、愛想よく誰とでもお喋りができる訳ではない。
だからこそ、唯一気軽に話せそうな柚ちゃんと同じ課に配属されれば、と内心願っていたのだけど…。
その柚ちゃんとは別の課に配属されてしまった。

柚ちゃんと相原は営業2課。

槙野は営業3課。

そして黒澤と私が配属されたのが営業1課。
そこで指導役の先輩につき、営業のノウハウと社会人としてのあり方を教わる。

 

お得意様への挨拶に名刺の出し方、商談での座る位置、電話の取り方。
些細な事かもしれないけれど、社会人としてのマナーを1つ1つ教わり、製品の知識を学び売り込む術を覚えていく。

友人や家族に対するものとは違う言葉遣いや態度が求められ、丁寧かつ迅速さとある程度の成果が見られている。


大学の授業とは違う実務に、ついていくのに必死だ。
インターンだからか、みんな優しく接してくださるが、こちらは笑顔も引きつり気味だし、慣れないパンプスに踵が擦りむけた。


「うわ、痛そう。
なっちゃん、バンソーコあるよ。
トイレで貼っといで」

「柚ちゃんありがとう、助かる」

穴が開き血の滲んだストッキングを履き替える際、結実ちゃんから貰ったバンソーコを踵に貼る。
そう言う柚ちゃんは私よりも高いヒールのパンプスを履いているのに、靴擦れもせず軽やかに歩き回っている。


それに、パッと見ただけではわからないけれど、よく見れば彼女のメイクは手が込んでいる。

まつげはフサフサしてバッチリ上向きだし、毛穴もくすみもない肌は、もちろん昼過ぎてもテカっていない。
控えめに塗られたアイシャドウは新色だと言っていたし、唇を彩るリップもつややかでよく似合っている。


私も最低限眉を整えたり、ファンデやリップを塗ったりはしているけれど。

…なんていうか、全然違う。


——これが、女子力の差?

その上、私の踵にもすぐ気がつき、さっとバンソーコを手渡す気配り。
と言うか、バンソーコを持ち歩いている時点で全然違う。

女子力選手権があったら、私はダントツ最下位かもしれない。
同じ女子なのに…。


今まであまり気にした事がなかったけれど、なんか…色々な意味で凹んだ。



「国枝、浅野さんが呼んでる」

トイレでストッキングを履き替えたところで黒澤に呼び止められた。

「浅野さんが?ありがとう」

インターン期間中、私と黒澤についてくれる浅野さんは、入社3年目の素敵な女性だ。


「あ、国枝さん。
今から納品がてら外回りするので、一緒に行きましょう。
黒澤君はこれ持ってね、国枝さんはこっちお願い」

製品カタログと思しき紙袋、そして鞄を抱えて浅野さんの後をついていく。


「お!今から外回りか。
暑いから気をつけて行ってこいよ」

気さくな先輩が何人も声をかけてくださる。
中でも一際目を引くイケメンがいた。

「今の人が若手のホープ、北条さんよ」

爽やかで、いかにも“デキる”風じゃないのに、どこか他の人とは違う余裕めいたものを感じられる人だった。


「爽やかで人懐っこくて、人の懐に入り込むのが上手なの。
北条さんと一緒に出る機会があったら、彼のやり方を見ておいて。
損はないから」

話をしながら向かった先は、地下駐車場。

ライトバンの助手席に荷物を置くと、後ろに乗るよう言われる。


「じゃあ行くよ」

   * * *

挨拶回りを終えて社に戻ると、夕方になっていた。
あとは今日1日教わった事をレポートにまとめるだけ。
割り振られた席で、貸与されたPCと睨めっこしている間に終業時間となった。


「レポートできたら帰宅でいいよ」

と浅野さんが言ってくださったので、ありがたくあがらせてもらう。

「なっちゃん、お疲れ~」

「柚ちゃんもお疲れ様、さっきはバンソーコありがとね」

帰るタイミングが同じだったせいか、何となくインターンの営業チームが纏まって歩く。
そのまま、最寄り駅まで情報交換しながら歩いていると


「お姉ちゃん⁈」

「綾香?こんな所でどうしたの?」

ちょうど下校時間だったのか、綾香と偶然出くわした。


「うわ、可愛い!現役高校生?国枝の妹さん?」

まだちゃんと話した事がない槙野が、1人興奮した様子で割って入ろうとするのを相原が止めている。

「どうしたの?ここ、通学コースじゃないよね」

「うん。友達の家がこの近くなの。
で、遊んだ帰り」

言いながら、綾香の目線は後ろにいるインターン生達に釘付けだった。


「今日から一緒にインターンする仲間達だよ。
こっちは妹の綾香」

何となく流れでお互いを紹介する。


「綾香ちゃんって言うんだ、高校何年生?
1年⁈うわまじ可愛い、初々しい。
でも姉妹で全然似てないのな。
綾香ちゃんは華があって可愛いのに、国枝は…クールで。
なんていうか、武士?いや、坊主みたいな」

一度は相原に止められた槙野が、そんな事を言うもんだから、全員が妙に焦ったようにこちらを見た。


「悪かったわね、似てない姉妹で」


——殆ど初対面のあんたに言われる筋合いはないわよ。

そう思いつつも、その場の雰囲気を壊してまで揉めたくもなくて、適当に流した。

けれど

「クールに見えるけど、とっても優しくて自慢の姉です。
失礼なこと言わないでください」

目にいっぱい涙を溜めた綾香の抗議に、その場が凍りついた。



「なんだなんだ、青春か?」

そんな中、空気を読まずに…でも私にとっては間違いなく救いの手を差し伸べてくれたのは、若手のホープ・北条さんだった。


「あ、いえ…」

「学生諸君、明日も早いんだから寝坊するなよ」

完全に子供扱いなのが気になるけれど、呑気な発言にみな毒気を抜かれた。

「お、お疲れ様です」

「おー、気をつけて帰るんだぞ」

ピラピラと手を振り、社へ戻っていく北条さんを見送っていると、横から気まずそうに声をかけられた。


「あのさ、さっきはヘンなこと言ってごめん」

見ると、居心地悪そうな顔で槙野が私と綾香を見つめていた。

「ううん、こっちこそなんか…ごめん。
みんなもゴメンね、変に気を使わせちゃったね」

そう言う私に皆、苦笑を返してくれた。
柚ちゃんを除いて。

「なっちゃんが謝る事じゃないよ~槙野君が無神経なだけ。
綾香ちゃん?も気にしないでね」

意外と辛口な柚ちゃんに、またしても苦笑する男性陣。



ともあれ。

そんなこんなで、インターン初日が終わったのだった。

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