灰かぶりの姉

吉野 那生

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大学生

インターン〜9・10日目〜

 
通常の業務を挟みながらのプレゼン資料作りは難航を極めた。

まず圧倒的に足りないのが時間と経験。
試行錯誤と議論を繰り返し、通常業務の合間を縫って作業する。

共同作業も協調性も評価の対象であると気づいたのは、準備を始めてわりとすぐ。


時に白熱する議論の論点を修正したり、各々の意見を要約し折り合う点を探したり。
自分が出来そうな事を見つけては、細々とした作業をこなしていく。

何とか原稿とスライドが完成したのは木曜の夕方だった。
早速空いている会議室を押さえてもらい、皆がプロジェクターなど機材の準備をしている間に原稿の下読みをする。


「まず通しで発表してみて。
皆はそれを聞きながら問題点・改善点の洗い出しね」

浅野さんの言葉に頷きながら、温くなってしまったペットボトルの水を一口含む。
人数が少ないとはいえ、人前で話すのもずいぶん久しぶりだ。

原稿も覚えなきゃいけないし、パワポ操作との連携も必要。


イメトレしていると、柚ちゃんが背中をポンと叩いた。

「後は任せたよ、なっちゃん!」

「緊張するからやめて~」


言いながらも、笑ったおかげで少しだけ肩の力が抜けた。

   * * *

そしていよいよインターン最終日。

修正に次ぐ修正に、いっそ泊まり込みたいと前日の夜訴えてみたけれど、その要望は却下され。
朝イチから昼までリハーサルを繰り返した。
何度も読み返し、赤ペンで修正を入れポイントを整理した原稿は、頭の中に完璧に入っているけれど。
緊張のあまり、全て内容が飛んでしまうかもしれない、という恐怖は常に頭の片隅にあった。


「ごめん、ちょっとお手洗い」

いよいよ本番直前。
少しでも落ち着きたくて、トイレで身だしなみをチェックする為、その場を離れた私はラインの通知に気がついた。

送信者は航平。
中身は『頑張れ!』という短いメッセージと、ガッツポーズのアイコン。

普段絵文字やアイコンを使わない航平の、彼なりのエールが嬉しくて、こっそり気合いを入れ直す。


5人のインターンと3人の指導役、そして人事部の社員に各部の部長や役員達、社長までが会議室に入室し、皆の緊張がピークに達する。


「俺ら以外は南瓜だと思って頑張れ!」

「失敗しても骨は拾ってやるぞ」

「俺達がついてるから」

「なっちゃんなら大丈夫!」

それでも、それぞれ好きな事を言いつつ私の肩や背を叩いて気合いを入れてくれる。



「それでは、これよりインターン研究発表会を開催します」


人事部長の挨拶で、15時からプレゼンが始まった。

持ち時間は10分。
その後質疑応答が5分、審査・講評が5分。


『スライドの文字なんて、相手からはどうせ殆ど見えやしないのだから最低限にして、代わりに図や表は大きく見やすく』

『レーザーポインターなどではなく、手で指す事で視線を引きつける』

『声の大小や滑らかに話す事より、落ち着いて抑揚をつけて話す」

浅野さんからのアドバイスの1つ1つを思い出す。

内容はしっかりと頭に叩き込んできた。


『原稿に目を落とさず俯かず、相手の方を向いて』
『堂々としていれば、ビビっていても焦っていてもそれらしく見えるから』

これは生徒会長として人前で話す時、1番最初にもらったアドバイス。


——大丈夫、やれる。

1つ深呼吸をして、ゆっくり前に進みお辞儀をする。


以外にも、パワポ担当の槙野との連携は悪くなかった。
さすがに何度も練習しただけの事はある。

つっかえる事も内容が飛んでしまう事もなくスライドを見ながら説明し、相手から視線を外させない事を意識しながら、落ち着いて全てを話し終えた。

その後の質疑応答は、他の学生が変わりばんこに答え、最後に全員で深々と頭を下げる。

   * * *

「お疲れ様でした!」

「皆、よく頑張ったね!」

終業後、指導役の4名とインターン生8名、人事課の社員数名で打ち上げが行われた。

さすがに仲間内の飲み会とは違うので、乾杯だけはビールを口にする私の隣で、柚ちゃんはプハァとグラスを空けた。



発表・質疑応答の後。
口から魂が抜けてしまいそうなほど消耗していたのだけど、だからといって行儀の悪い所を見せられる筈もなく。
背筋を伸ばし何事もなかったかのように待ち続けるのは、なかなか心臓に悪かった。


グループワークは自分の力だけでなく、他のメンバーの出来によって評価が分かれる面がある。
ある意味、有能なメンバーと組む事ができれば評価が上がる可能性もあり、また逆も然り。

そういう意味では、今回のメンバーは“当たり”だったのだろう。

対する講評はちょっぴり辛口だった。

『可もなく不可もない内容だが、言いたい事は伝わった』
『学生にしてはよく纏めていた』
『もっと理由や具体例を掘り下げて説明できれば、結論がさらに説得力を増す』

そして、社長の
『今回足りなかった部分は伸び代という事で、今後に期待します』
という言葉で締めくくられた。




終わってみれば、2週間はあっという間だった。
就活の為の物ではなく、内定後のインターンはより実践的な業務を学び、入社後のギャップやミスマッチを防ぐ為のもの。
より、蒼製作所ここで働くという意識とビジョンを明確に持てたと思う。


あとは後日送られてくる雇用通知書にしっかり目を通して、返送すれば来春からの就職が決まる。



そんなこんなで最大の山場も超え、インターンも無事終わったのだった。
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