灰かぶりの姉

吉野 那生

文字の大きさ
27 / 56
入社1年目

初めての〇〇〜綾香〜


高校2年になって、初めてちゃんと彼氏が出来た。


“ちゃんと”って言うと、ちょっと違うのかもしれない。
お付き合いにちゃんとしたものと、ちゃんとしてないものがあるのか、それはわからないから。
なんせ私にとって、彼は初めての恋人ヒトだから。

けれど、必要以上に育った胸のせいで変な目で見られたり、嫌な思いを散々してきたので、それまで男子とまともに話した事がなかった。

もちろん、そうでない子も居たのだとは思う。
でも小学校6年の時に初めてブラを着けた頃から、みんなの視線が胸に集中するようになった。
それは、気のせいでも自意識過剰でもない。


あれは忘れもしない修学旅行の晩。
みんなでお風呂に入り、部屋に戻る途中男子グループとすれ違った。

ブラは一応着けていたけれど、なんせ寝る前、しかもお風呂上がり。
Tシャツにジャージの薄着で、身体の線はほぼ丸わかりだった。
男子の視線はあからさまに胸にくぎ付け。
しかも一部の男子に「胸でけー」「乳揺れてる!」とからかわれ、思わず唇を噛み締めたその時。


「いくら綾香ちゃんの胸が大きいからって、ジロジロ見過ぎ!」

「ちょっと~私達と綾香ちゃんと見比べないでよね」

仲が良いと思っていた子達の、半笑いのその言葉は、私にとって完全にトドメだった。

言葉だけ聞けば庇ってくれてるようにも聞こえるけれど…。
でもからかう男子をたしなめるフリして一緒になって笑っていると、そう感じた。


胸が大きいと言われても、そんなのそうなりたくてなったんじゃない。
背が高いのも低いのも変わらない。
胸の大小も、自分の努力だけではどうにもならないものだから。

だいたい、一部の女子には羨ましがられるけど肩は凝るし、制服のブラウスはパツパツだし、走ると揺れるし、ジロジロ見られるし。
その上、胸が大きいというだけでエロいとか言われるし。

はっきり言って、胸はコンプレックスでしかない。


別に胸元のボタンを必要以上に開けてもないし、スカートだって標準よりちょっと短いかもしれないけど、お尻が見えそうなほどでは決してない。
せいぜい膝丈だ。

もちろん誰も何も誘ってない。

逆にどちらかといえば、それ以降男は苦手だ。



話が逸れたけど、初めてお付き合いする事になったのは、引越ししてから同じ電車に乗るようになった他校の男子だった。


胸が大きい事のもう1つの弊害。
それが電車内で変な人に絡まれやすい事。

その時も、比較的混んでいた車内で父親よりも年配であろうおじさんに「触らせてくれたらお小遣いあげるよ」と囁かれ、咄嗟に固まってしまったのだけど。
隣にいた彼が「俺ですか?」と言ってくれたおかげで、おじさんはそそくさとその場を離れた。

「あ…りがとう、ございます!」

「いえ」

その時は会話も続かなかったし、どこの誰なのかもわからなかった。

わかったのは、やたらガタイが良くてちょっと強面だという事と。
制服の胸に刺繍されていた、校名のイニシャルだけだった。

    * * *

1回意識してしまえば、彼を見つけるのはそう難しい事ではなかった。

何といっても背が高い。
そんじょそこらの高校生より、頭半分くらいは抜け出ている。
肩幅も胸板もガッチリしていて、明らかに身体をちゃんと作っている人だ。

切れ長の目は眼光鋭く、顔つきもシャープとか繊細とは遠い感じだけど…見るからに男らしい。
4日目には彼を見つけ、ちゃんとお礼を言う事もできた。


「その節はありがとうございました!
ちゃんとお礼も言えなくてごめんなさい」

「いや…」

相変わらず会話が続く事はなかった。
けれど同じ方向を向いて、ただ並んで電車に揺られているだけで、不思議と居心地は悪くなかった。


そして、顔見知りとなった彼と私は、毎朝顔を合わせるたびに挨拶を交わし、隣り合って電車に揺られるようになった。

「大地くん、おはよう」

「…おはよ」

少し照れたように短く言葉を交わすのも、もういつもの事。

会話は途切れがちだけど、尋ねたらちゃんと返してくれるし、私の胸をジロジロと不躾に見るような事を彼はしない。


何よりも不器用だけど優しい。

満員の電車で、どちらかといえば背の低い私はギュウギュウに押されて息苦しさを感じるのだけど、ふと気がつくと大地くんが真っ赤な顔して盾になってくれてる事がある。
しかも、頻繁に。

電車内だけでない。
外で会うようになると、ごく自然に歩くスピードを合わせてくれるし、車道側を歩いてくれる。

口数は少ないし無愛想だしパッと見は怖いんだけど、見た目に反して細やかな心配りをしてくれる。


それは私に限った事ではない。

妊婦さんや年配の方に、席を譲るのは当たり前。
困っている人には、時に自分が損したり約束に遅れそうになっても手を差し伸べる。


なんか良いな。
良い人だな。

そんな想いは、あっという間に恋心に変わっていった。



告白したのは私から。

彼は真っ赤な顔をして、キョロキョロと落ち着かなさそうに辺りを見回し、やがて観念したように1つ頷いてくれた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?