灰かぶりの姉

吉野 那生

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入社1年目

黄金週間〜那月〜


最近、綾香に彼氏ができたっぽい。


まだ本人の口からはちゃんと聞かされていないけれど、土日にどこかへ出かけて行く回数が増えた。

しかもかなりおしゃれをして。

最初は親しい友人ができたのかと喜んでいたのだけど…どうやら違うらしい。
ただの姉の勘だけど。


中学に上がる少し前くらいから、綾香は学校での話をあまりしなくなった。
それまで聞いていた友達の名前を言わなくなり、誰かの家へ遊びに行く事も極端に減り、一時は母さんと心配したものだ。

それでも高校へ入ってからは友達も増えたみたいで、自宅へ遊びにいったり買い物に出かけたりという話を、ちょくちょく聞いてはいた。



初めて出会ったその日から、今現在に至るまで綾香は“美少女”という形容がぴったりの子だ。

クリクリとした目は綺麗な二重だし、顔の造作も整っていて、笑うととっても可愛い。
背はそんなに高くはないけれど、出るとこはしっかり出て、くびれる所はちゃんとくびれていて。
綾香を知っている友人達は、グラビアアイドルのようだと言っていた。

そんな可愛い綾香がモテない筈ないのだけど。
逆に容姿のせいで嫌な思いも怖い思いもしてきた綾香は、男性不信気味だ。


その、綾香が。
無造作に置いてあったスマホがピコンと鳴った瞬間、頬を染め慌てて自室に戻ったり。

週末、出かける際

「行ってらっしゃい。デート?」

とからかうと、慌てふためいて言い訳したり。

本当に可愛い妹だわ。

お相手、良い人だといいんだけどな。

   * * *

そして黄金週間GW最終日。

流石にその日は予定がないらしい綾香と私、そして航平は珍しくおばあちゃんの家に招待されていた。


「お邪魔します」

最寄りの駅で待ち合わせて、揃って玄関のドアを開けた先にいたのは。

茶色い毛玉。
正確には茶トラの仔猫だった。

詳しい月齢はわからないけれど、1週間ほど前に母猫を探してミャウミャウ鳴いていたのを、おばあちゃんが保護したらしい。


「いえね、私だって最初は連れて帰る気は無かったのよ。
でも辺りを見渡しても母猫らしき姿はないし、近くにカラスもいてほっといたら命に関わるとと思ったから」


そう言うおばあちゃんの視線は仔猫…と、それを抱くおじいちゃんに向けられていた。

「うわぁ…おじいちゃんメロメロ」

「ハマのユージ形無しだな」


なんていうか、本当に“メロメロ”という表現がぴったりな顔で、おじいちゃんが仔猫を抱き上げている。


「うるさいぞ、お前達」

そう言いながらも、視線は子猫から外れないのが…また、なんとも。


「この人が、陥落するとは思わなかったわよ、たった5日で。
最初は大反対だったのにね」

「…なんか言ったか?」

「いいえ、チビが可愛いって言ったんですよ」


その間も、おじいちゃんと仔猫はひたすらラブラブだ。

とはいえ、好奇心の強い仔猫にとって、私達は探究心をくすぐる存在らしい。


手のひらサイズのくせに、いっちょ前に背中の毛を逆立てて“シャー!”と威嚇してきたかと思えば。
おじいちゃんの腕の中から興味津々といった様子でこちらを伺い。
そうかと思えば、小さい爪を立てて航平のチノパンをよじ登り。
差し出した指を懸命に吸い、母親を求める仕草をする。


皆、仔猫の愛らしさに1発でノックアウトされてしまった。


「あら、よく見たら那月と航平くん、お揃いの腕時計着けてるのね」

目敏く見つけ、からかうように悪戯っぽく微笑むおばあちゃん。

「素敵ね、2人で同じ時を刻んでいくなんて」

「…うん、そう思う」

照れながら頷く私を、おばあちゃんは目を細めて見上げた。

「良い人ですもの、大事になさい」

「はい」


ふと、目をやると
子猫を抱っこした航平の抱き方が悪いと、おじいちゃんが教えている所だった。


確かに、彼女の祖父母宅なんて敬遠したい場所の筈なのに、航平は嫌な顔1つせず一緒に来てくれる。
一緒に来てくれるだけでなく、本当の祖父母のように大事にしてくれる。

良い人なのは間違いないけど、改めて大事にしたいとそう思った。


「あぁ、そんな抱き方したら…どれ、貸してごらん」

慌てて仔猫を取り上げるおじいちゃんと、横から覗き込む航平。
そんな2人の姿に、思わずおばあちゃんと顔を見合わせて笑ってしまう。



沢山走り回って遊んで疲れたら、電池が切れたように仔猫はコテンと寝てしまった。

「可愛いね」

「ホント、見ていて飽きない」

航平の膝の上で、手も足も投げ出して安心しきって熟睡している様子は、とても愛らしい。


「ホントは猫、飼いたかったんだ」

ポツリと漏らす綾香。


——え?ちょっと待って。
それ初耳なんですけど?

よほど驚いた顔をしていたのだろうか。


「あ、でも子供の頃の話。
それに麻子さん、猫アレルギーだって聞いてたから」

と、綾香はバツの悪そうな顔で言い訳めいた事を口にした。


「そう…なんだ」

「…うん」


綾香の事なら何でも知っていると思っていたけど…どうやら思い違いだったみたい。


それに、もし本当に綾香に彼氏が本当にできたのなら。
私の知らない綾香を知る人が、他に居るって事になるんだろうな。


今までは「お姉ちゃん」って色々話してくれたけど、そういうのも彼氏にするようになるのかも…しれない。


そう気づいた瞬間、何だかとても…寂しい気持ちになった。



でもよくよく考えてみたら、私だっていつまでも綾香とベッタリではいられない。
今は高校生だけど、そのうち大学生になれば今よりもっと綾香の世界も拓けていくんだろう。
もしかしたら、遠くの大学を受けるのかもしれない…ちゃんと話した事はないけど。
あくまで可能性の話だけど…。



——妹離れ、しなきゃなぁ。 

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