婚約破棄から押し倒せ!

吉野 那生

文字の大きさ
2 / 4

攻〜ニーナ〜

しおりを挟む
男の人は、時に心よりも身体が優先されると聞いた事があります。
本当に好きな人でなくても、その気がなくても抱けるのだとか。

それならば…わたくしの事も抱いてもらえるのではないかしら。


1度きり、たった1度で良い。

彼の隣に立ちたいなんて、大それた事は望まないから…。

 *

「ルド兄様」

いくら従兄とはいえ、異性の部屋を訪ねるには少々礼を失した遅い時間だったけれど。
これから起こる事を誰かに目撃される訳にもいかず、人目を忍んでの訪れとなりました。

「どうか、したのかい?」

訝しげな顔をしながら、それでも部屋の中に迎え入れてくれた兄様の目を見て、はっきりと告げる。


「淑女らしからぬ事をしに参りましたの」

「…は?」

目を丸くして聞き返す兄様に見えるよう、隠し持っていたモノを取り出しました。




これでも色々考えたのです、どうすれば良いのか。

最初からこんな‥破廉恥な事を考えていた訳ではありません。
初めは兄様に選んでもらえるよう、頑張ったのです。
見た目はもちろん、立ち居振る舞いも学友達との交流も、立派な淑女となって兄様のお役に立てるよう励みました。

その甲斐あって生徒会メンバーにも選出され、少しは兄様の隣に立つ事も考えていただけるのではないかと思っていた矢先…。


突然の婚約(仮)
しかもお相手は同じ生徒会メンバーのクリスティナ様。

そりゃあ、クリスティナ様は4大伯爵家のご令嬢。
王太子妃となられたセラフィーヌ様の特に親しい友人で、家柄的にも釣り合いが取れる良縁なのでしょう。

比べてわたくしは男爵家。
家柄的には釣り合っているとはいえないし、特に裕福な訳でも期待されるような産業がある訳でもない。
わたくし自身も特別有力な方々との繋がりも特別な力もない、ただ従妹であるというだけの存在。


クリスティナ様なんて、とても…いいえ、他のどなたであってもわたくしに勝ち目があるとは思えません。

やはり諦めざるを得ないのでしょうか…この想いは。


諦めと切なさ混じりにそう思っていたのに。

すったもんだの末、クリスティナ様はユージンの手を取り、兄様は婚約(仮)を解消してしまわれた。


もっとも婚約自体、公にしていなかったおかげでクリスティナ様にも兄様にも瑕疵は付かなかったけれども。
だからと言って、婚約まで考えた女性との破局に兄様が傷つかない訳がない。

いつも飄々として隙を見せず、涼しげな顔の裏で努力を重ねてきた兄様が。
この所、どことなく元気がないように見えます。

兄様をよく知らない方ならわからないかもしれませんが、わたくしにはわかります。


ですが、逆にこれは好機と言えるのではないか。
ふと、そう気がついた時は雷に打たれたような気がしました。


大好きな人が弱っている時につけ込むなんて…人としてどうかと思うような行いですが。
ですが、いきなり巡ってきた好機を逃しては悔やんでも悔やみきれません。

なので思いきって兄様に告白してみたのです。
「兄様のお嫁さんにしてください」
と。


けれども残念ながら、全く取り合ってもらえませんでした。
こちらが真剣になればなるほど、兄様の顔から表情が消えてゆくのです。
薄い笑みを貼り付けた仮面のような顔でわたくしを見つめる兄様に、思わず泣いてしまいました。

それでも…結果的に泣き落としという、わたくし自身も不本意な手ではありましたが、効きませんでした。


この時にはわたくしもすっかり意地になってしまっていて、なんとしてもこの想いを伝えたい。
それが無理ならば、せめて一度限りでも良いから…等と思い詰めてしまっておりました。

とはいえ、力の差は明確。
力づくでどうこうはする事はできません。
寝ている隙にこっそり縛り上げ想いを遂げるのも、難しいでしょう。 
そもそも薬や何かで眠らせてしまったとして、身体が反応してくれなければ想いを遂げる事はできませんし。



——やはり、アレの力を借りるしかないようですね。




小瓶に入った液体を、よく見えるようかざすと兄様は小さく息を飲みました。

「それは…?」

「わたくしの想いを信じていただくためにはこれしかないと思いましたの」


ちゃぷと揺れる液体は、ほのかな灯りにも鮮やかな真紅。
その色合いに兄様を目を眇め、警戒するようにわたくしを見つめました。


「何をするつもりだ?」

警戒心に満ちた声に、フッと笑いが漏れる。

「こうするのですわ」


キュポンと栓を抜き、焦って手を伸ばす兄様の目の前で一気に煽りました。

「ニーナっ!」

そのまま兄様の顔を両手で押さえ、唇を合わせ…。



——これがわたくしにとって大好きな人との初めてのキス。

場違いな事を考えながら、僅かな隙間から液体を流し込むと、驚いたのか兄様はそれを飲み下してしまいました。

驚きのあまり見開かれた目を意識しながら、わたくしも口の中に残った液体を飲み干します。


「ニーナ、今のは何だ?何を飲ませた?」


詰め寄る兄様の目が潤み、顔もほんのりと赤くなってきました。
多分わたくしも同じような顔をしているのでしょうね。


「じんわりと体の奥から熱くなってきておりませんか」



——わたくしなんて、吐息まで熱を帯びているよう…。


「ニーナ!」

掴まれた腕の痛みさえも刺激となって、ズクリとお腹の奥が疼く。

「媚薬、ですわ」


思わず漏れた吐息を吹き込むよう、頭を抱え耳元で囁くと兄さまの体がびくりと大袈裟なほど跳ねました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

【完結】婚約解消を言い渡された天使は、売れ残り辺境伯を落としたい

ユユ
恋愛
ミルクティー色の柔らかな髪 琥珀の大きな瞳 少し小柄ながらスタイル抜群。 微笑むだけで令息が頬を染め 見つめるだけで殿方が手を差し伸べる パーティーではダンスのお誘いで列を成す。 学園では令嬢から距離を置かれ 茶会では夫人や令嬢から嫌味を言われ パーティーでは背後に気を付ける。 そんな日々は私には憂鬱だった。 だけど建国記念パーティーで 運命の出会いを果たす。 * 作り話です * 完結しています * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...