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攻〜ニーナ〜
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男の人は、時に心よりも身体が優先されると聞いた事があります。
本当に好きな人でなくても、その気がなくても抱けるのだとか。
それならば…わたくしの事も抱いてもらえるのではないかしら。
1度きり、たった1度で良い。
彼の隣に立ちたいなんて、大それた事は望まないから…。
*
「ルド兄様」
いくら従兄とはいえ、異性の部屋を訪ねるには少々礼を失した遅い時間だったけれど。
これから起こる事を誰かに目撃される訳にもいかず、人目を忍んでの訪れとなりました。
「どうか、したのかい?」
訝しげな顔をしながら、それでも部屋の中に迎え入れてくれた兄様の目を見て、はっきりと告げる。
「淑女らしからぬ事をしに参りましたの」
「…は?」
目を丸くして聞き返す兄様に見えるよう、隠し持っていたモノを取り出しました。
これでも色々考えたのです、どうすれば良いのか。
最初からこんな‥破廉恥な事を考えていた訳ではありません。
初めは兄様に選んでもらえるよう、頑張ったのです。
見た目はもちろん、立ち居振る舞いも学友達との交流も、立派な淑女となって兄様のお役に立てるよう励みました。
その甲斐あって生徒会メンバーにも選出され、少しは兄様の隣に立つ事も考えていただけるのではないかと思っていた矢先…。
突然の婚約(仮)
しかもお相手は同じ生徒会メンバーのクリスティナ様。
そりゃあ、クリスティナ様は4大伯爵家のご令嬢。
王太子妃となられたセラフィーヌ様の特に親しい友人で、家柄的にも釣り合いが取れる良縁なのでしょう。
比べてわたくしは男爵家。
家柄的には釣り合っているとはいえないし、特に裕福な訳でも期待されるような産業がある訳でもない。
わたくし自身も特別有力な方々との繋がりも特別な力もない、ただ従妹であるというだけの存在。
クリスティナ様なんて、とても…いいえ、他のどなたであってもわたくしに勝ち目があるとは思えません。
やはり諦めざるを得ないのでしょうか…この想いは。
諦めと切なさ混じりにそう思っていたのに。
すったもんだの末、クリスティナ様はユージンの手を取り、兄様は婚約(仮)を解消してしまわれた。
もっとも婚約自体、公にしていなかったおかげでクリスティナ様にも兄様にも瑕疵は付かなかったけれども。
だからと言って、婚約まで考えた女性との破局に兄様が傷つかない訳がない。
いつも飄々として隙を見せず、涼しげな顔の裏で努力を重ねてきた兄様が。
この所、どことなく元気がないように見えます。
兄様をよく知らない方ならわからないかもしれませんが、わたくしにはわかります。
ですが、逆にこれは好機と言えるのではないか。
ふと、そう気がついた時は雷に打たれたような気がしました。
大好きな人が弱っている時につけ込むなんて…人としてどうかと思うような行いですが。
ですが、いきなり巡ってきた好機を逃しては悔やんでも悔やみきれません。
なので思いきって兄様に告白してみたのです。
「兄様のお嫁さんにしてください」
と。
けれども残念ながら、全く取り合ってもらえませんでした。
こちらが真剣になればなるほど、兄様の顔から表情が消えてゆくのです。
薄い笑みを貼り付けた仮面のような顔でわたくしを見つめる兄様に、思わず泣いてしまいました。
それでも…結果的に泣き落としという、わたくし自身も不本意な手ではありましたが、効きませんでした。
この時にはわたくしもすっかり意地になってしまっていて、なんとしてもこの想いを伝えたい。
それが無理ならば、せめて一度限りでも良いから…等と思い詰めてしまっておりました。
とはいえ、力の差は明確。
力づくでどうこうはする事はできません。
寝ている隙にこっそり縛り上げ想いを遂げるのも、難しいでしょう。
そもそも薬や何かで眠らせてしまったとして、身体が反応してくれなければ想いを遂げる事はできませんし。
——やはり、アレの力を借りるしかないようですね。
小瓶に入った液体を、よく見えるようかざすと兄様は小さく息を飲みました。
「それは…?」
「わたくしの想いを信じていただくためにはこれしかないと思いましたの」
ちゃぷと揺れる液体は、ほのかな灯りにも鮮やかな真紅。
その色合いに兄様を目を眇め、警戒するようにわたくしを見つめました。
「何をするつもりだ?」
警戒心に満ちた声に、フッと笑いが漏れる。
「こうするのですわ」
キュポンと栓を抜き、焦って手を伸ばす兄様の目の前で一気に煽りました。
「ニーナっ!」
そのまま兄様の顔を両手で押さえ、唇を合わせ…。
——これがわたくしにとって大好きな人との初めてのキス。
場違いな事を考えながら、僅かな隙間から液体を流し込むと、驚いたのか兄様はそれを飲み下してしまいました。
驚きのあまり見開かれた目を意識しながら、わたくしも口の中に残った液体を飲み干します。
「ニーナ、今のは何だ?何を飲ませた?」
詰め寄る兄様の目が潤み、顔もほんのりと赤くなってきました。
多分わたくしも同じような顔をしているのでしょうね。
「じんわりと体の奥から熱くなってきておりませんか」
——わたくしなんて、吐息まで熱を帯びているよう…。
「ニーナ!」
掴まれた腕の痛みさえも刺激となって、ズクリとお腹の奥が疼く。
「媚薬、ですわ」
思わず漏れた吐息を吹き込むよう、頭を抱え耳元で囁くと兄さまの体がびくりと大袈裟なほど跳ねました。
本当に好きな人でなくても、その気がなくても抱けるのだとか。
それならば…わたくしの事も抱いてもらえるのではないかしら。
1度きり、たった1度で良い。
彼の隣に立ちたいなんて、大それた事は望まないから…。
*
「ルド兄様」
いくら従兄とはいえ、異性の部屋を訪ねるには少々礼を失した遅い時間だったけれど。
これから起こる事を誰かに目撃される訳にもいかず、人目を忍んでの訪れとなりました。
「どうか、したのかい?」
訝しげな顔をしながら、それでも部屋の中に迎え入れてくれた兄様の目を見て、はっきりと告げる。
「淑女らしからぬ事をしに参りましたの」
「…は?」
目を丸くして聞き返す兄様に見えるよう、隠し持っていたモノを取り出しました。
これでも色々考えたのです、どうすれば良いのか。
最初からこんな‥破廉恥な事を考えていた訳ではありません。
初めは兄様に選んでもらえるよう、頑張ったのです。
見た目はもちろん、立ち居振る舞いも学友達との交流も、立派な淑女となって兄様のお役に立てるよう励みました。
その甲斐あって生徒会メンバーにも選出され、少しは兄様の隣に立つ事も考えていただけるのではないかと思っていた矢先…。
突然の婚約(仮)
しかもお相手は同じ生徒会メンバーのクリスティナ様。
そりゃあ、クリスティナ様は4大伯爵家のご令嬢。
王太子妃となられたセラフィーヌ様の特に親しい友人で、家柄的にも釣り合いが取れる良縁なのでしょう。
比べてわたくしは男爵家。
家柄的には釣り合っているとはいえないし、特に裕福な訳でも期待されるような産業がある訳でもない。
わたくし自身も特別有力な方々との繋がりも特別な力もない、ただ従妹であるというだけの存在。
クリスティナ様なんて、とても…いいえ、他のどなたであってもわたくしに勝ち目があるとは思えません。
やはり諦めざるを得ないのでしょうか…この想いは。
諦めと切なさ混じりにそう思っていたのに。
すったもんだの末、クリスティナ様はユージンの手を取り、兄様は婚約(仮)を解消してしまわれた。
もっとも婚約自体、公にしていなかったおかげでクリスティナ様にも兄様にも瑕疵は付かなかったけれども。
だからと言って、婚約まで考えた女性との破局に兄様が傷つかない訳がない。
いつも飄々として隙を見せず、涼しげな顔の裏で努力を重ねてきた兄様が。
この所、どことなく元気がないように見えます。
兄様をよく知らない方ならわからないかもしれませんが、わたくしにはわかります。
ですが、逆にこれは好機と言えるのではないか。
ふと、そう気がついた時は雷に打たれたような気がしました。
大好きな人が弱っている時につけ込むなんて…人としてどうかと思うような行いですが。
ですが、いきなり巡ってきた好機を逃しては悔やんでも悔やみきれません。
なので思いきって兄様に告白してみたのです。
「兄様のお嫁さんにしてください」
と。
けれども残念ながら、全く取り合ってもらえませんでした。
こちらが真剣になればなるほど、兄様の顔から表情が消えてゆくのです。
薄い笑みを貼り付けた仮面のような顔でわたくしを見つめる兄様に、思わず泣いてしまいました。
それでも…結果的に泣き落としという、わたくし自身も不本意な手ではありましたが、効きませんでした。
この時にはわたくしもすっかり意地になってしまっていて、なんとしてもこの想いを伝えたい。
それが無理ならば、せめて一度限りでも良いから…等と思い詰めてしまっておりました。
とはいえ、力の差は明確。
力づくでどうこうはする事はできません。
寝ている隙にこっそり縛り上げ想いを遂げるのも、難しいでしょう。
そもそも薬や何かで眠らせてしまったとして、身体が反応してくれなければ想いを遂げる事はできませんし。
——やはり、アレの力を借りるしかないようですね。
小瓶に入った液体を、よく見えるようかざすと兄様は小さく息を飲みました。
「それは…?」
「わたくしの想いを信じていただくためにはこれしかないと思いましたの」
ちゃぷと揺れる液体は、ほのかな灯りにも鮮やかな真紅。
その色合いに兄様を目を眇め、警戒するようにわたくしを見つめました。
「何をするつもりだ?」
警戒心に満ちた声に、フッと笑いが漏れる。
「こうするのですわ」
キュポンと栓を抜き、焦って手を伸ばす兄様の目の前で一気に煽りました。
「ニーナっ!」
そのまま兄様の顔を両手で押さえ、唇を合わせ…。
——これがわたくしにとって大好きな人との初めてのキス。
場違いな事を考えながら、僅かな隙間から液体を流し込むと、驚いたのか兄様はそれを飲み下してしまいました。
驚きのあまり見開かれた目を意識しながら、わたくしも口の中に残った液体を飲み干します。
「ニーナ、今のは何だ?何を飲ませた?」
詰め寄る兄様の目が潤み、顔もほんのりと赤くなってきました。
多分わたくしも同じような顔をしているのでしょうね。
「じんわりと体の奥から熱くなってきておりませんか」
——わたくしなんて、吐息まで熱を帯びているよう…。
「ニーナ!」
掴まれた腕の痛みさえも刺激となって、ズクリとお腹の奥が疼く。
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