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とある朝(プロローグ)
しおりを挟むバスが駅に着くと皆急いで駅へと吸い込まれていく中、一人だけやけにのんびり歩く男がいた。
中肉中背でくたびれたスーツを着込み、使い古されたビジネスバックを持ち、靴だけがやけにピカピカと光っていた。
人の流れに逆らう訳でも無く端っこの方でノロノロと歩いていた男は、駅の構内に入る前にトイレへと入っていった。
そしてそのまま出てくる事はなかった。
日が沈み会社帰りの人々がチラホラと見て取れる19時頃、朝にトイレへと入った男が出てきた。
腕時計をチラリと見てからバス停へと歩いていった。
少し前ならよく公園で1日中過ごすリストラされたサラリーマンが行く宛も無く公園で時間を潰して通勤してるフリをしていた人は何人か見た事があるが、それとはまた違った雰囲気だった。
その次の日の朝もその男は通勤ラッシュで急ぎ足で進んで行く集団を避ける様に端っこを歩いて、スルリと駅の外トイレへと入っていった。
そしてまたその男はトイレから出てくる事はなかった。
普通に考えて中に入ったら個室に入らない限り潜む場所は無い。
そう思って俺はその男が入っていったトイレへと入っていった。
何をするでも無いし、声を掛けるつもりも無いが、トイレから出て来ない男が何をしてるか気になったのだ。
だが不思議な事にトイレに入っても個室は全て空いていた。
トイレから誰かが出てきたということも無い。
あの男が入ってから次に入ったのが俺だったし、その間にすれ違った人は居なかった。
だが誰も居なかった。
私は首を傾げてトイレから出ると、何時もの様に植木が立ち並ぶ草むらの中へと入った。
因みに俺の寝床がここだった。
トイレの目の前で水とトイレは確保している。
夜は食料を求めて各店の裏手へと廻って掃除をしたり、ゴミ出しを手伝ったりアルミ缶を拾って集めたりしている。
そうすると店の残り物をくれたりするのでゴミ箱を漁る必要が無い。
まぁ、浮浪者にも縄張りというものがあってアルミ缶は拾えなかったりするが、飯は一応食べれてるのでそんなに不便はない。
コンビニやファーストフードのゴミを狙って動く奴も居るが、最近のゴミ箱は鍵が掛かっていて開けられないし、カメラが仕掛けてあって別荘へ行ってしまう奴も少なからず居る。
冬なら別荘も悪くないが今は暖かい春先だ
こんな季節の日に別荘に行った所で面白くはないだろう?まぁ、飯には困らないし職業訓練もしてくれるし、別荘から出てくる頃には仕事も斡旋してくれたりもするが……まぁ、運が良ければの話だ。
俺は深夜には動かないタイプだ。
同業者は店が終わって出てくる残飯狙いだから明け方だったり酔っ払いの汚物塗れだったりして、当たりハズレがある。
一方俺は仕込みが終わる頃に向かうのさ。
そこでゴミ出しなんかを手伝って、新鮮な作り立ての飯を貰ったりしてる。
当たりしかない。
労働に見合った物を貰うので後ろめたくも無い。
だったら働けよと言う人も居るが、好きで浮浪者やってるのに働くのは違うだろう?
仕方なく浮浪者やってる奴も居ないことはないが、というより、殆どがそうだったな。最近は特に……。
まぁ、そんなこんなで植え込みの中で暮らしてる俺が朝もちゃんと起きて人間観察なんかをしていた訳だが。
トイレに入ってから存在が消えてなくなる男の話に戻るとしよう。
首を傾げてトイレから出ると、掃除をしにくるオバちゃんに出会った。
このオバちゃんは何気に長い付き合いで、良くこの辺で見掛ける数少ない顔見知りだ。
因みにオバちゃんと会話をした事はない。
良く見かけるから顔見知りと言ってるだけで、オバちゃんの知り合いでは無い。むしろ、オバちゃんは俺の存在を知らない。
もしかしたら何処かですれ違った事はあるかも知れないが、まぁ世間一般で言うところの赤の他人だ。
このオバちゃんは朝のラッシュが過ぎた10時くらいになると、このトイレへ現れて掃除をして他の場所へと向かう。
2日にいっぺんくらいのペースだったと思う。
そこで俺は初めてオバちゃんに声を掛けた。
「すいませんちょっと良いですか?」
「あ、はい!なんで……しょう?」
後ろから声を掛けた事もあり、最初は元気よく返事をして、振り返ったら浮浪者が居たら、そりゃまぁそうだその反応は正解だ。
オバちゃんは俺を見た瞬間ギョッとした顔に成り、その後眉間にシワを作りながら鼻声でなんかよう?と聞いてきた。
うんうん、スマンね最近躰洗ってなかったから臭いよね!分かる分かるよ?鼻声になるよね。
まぁそれでも聴くんだけどさ
「このトイレの出入り口はここだけですか?」
「ふぁい、そぉでふ」
「そうですか、有難うございます」
俺はお礼を言ってオバちゃんから離れてあげた。
相当臭かったのかオバちゃんは消臭剤を俺が居なくなってから撒いていた。
だがこれで、あのトイレの出入り口はあそこだけだと言うことが分かった。
だったら、朝に入っていく男は何処に消えているのか?俺は益々気になってもう少しこのトイレを眺める事にした。
植え込みに戻った俺はガサゴソと奥へと進み、右に曲がって直ぐの地面を落ち葉ごと端に避けて隠していたマンホールの蓋を開ける、このマンホールは俺の寝床になっている。
この駅は一度建て替えたのだ、その時に植え込みだった筈の場所にマンホールを作ったらしい。
正確に言うと植え込みがある場所の上がバス停へと続く階段に成っていて、その下にあたる。
簡単に言うと失陥工事の残りカスみたいなもんだ。
この場所を見付けたのは只の偶然だった。
当時働いていた俺はだいぶ呑んだあと植え込みで寝てたのさ、その時強風で寒くてどんどん奥の風の入ってこない植え込みへと進んでいって、落ちてた枯れ葉を躰に掛けようとガサゴソしてたら手に触れたのがマンホールの角だった。
当時は気にしてなかったが、こうして浮浪者になった時思い出して、深夜に立ち寄って漁った結果見付けたのが
この空間だった。
この空間は高さ2m横幅は3mでエル字型をしている
そして、水が完全に入らない作りのようで、雨水も貯まらないし、比較的暖かいし、夏もまぁまぁ過ごしやすい。
ネズミやゴキブリの姿も見たことが無いし、問題という問題は灯りが入らないから昼間でも真っ暗って事くらいだ。
其処にゴミ捨て場から持ってきた布団やタンスや何かを集めていって、灯りも何とか色々やって取り込む事に成功した。
なので、実は問題はなかったりする。
って事で俺は少し寝ることにしよう
あの男が現れるのはまだまだ先だし、飯もストックがあるから10日くらいなら労働しなくても生きられる。まぁ、縄張りを取られたくないから真面目に毎日各店に通うんだけどな。
まぁ取り合えず「おやすみなさい」
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