異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる

文字の大きさ
13 / 77

13

しおりを挟む


 「あれから2ヶ月か……」

 ザケヘルは朝食を済ませた跡、帝国で仕入れた紅茶を楽しんでいた。

 迷い人の海人と出会う前に、ギャンブルで作った借金で首が回らなく成り、焦る馬鹿貴族を方に嵌めて狙い通りアイテムバッグを手に入れた。
 その後、金貨数枚で少しお高めの紅茶を買ったのだ。

 それを一人で優雅に嗜むのが、ザケヘルの密かな楽しみだった。
 勝利の美酒ならぬ勝利のお茶だった。

 彼は誰も信用しない。

 例えそれが自分の奴隷であっても、同じ屋根の下で暮らす事はしない。
 昔、外街で受けたトラウマが今でも残っているからだ。

 故に結婚もしていない。

 金があるのだから、その都度女は買えば良いと思っているらしい。

 食事だって自分で作るし、苦でもないのか自分の手料理の話を自慢気に商談で話す事もあるという。
 だからといって、自分の家に呼んでまで振る舞おうとは思わないらしい。

 海人には悪いが宿に行って貰ったのは、そんな思いがあったからのようだ。





 ーーそれにしても、迷い人ってのは変わっているな。
 何故使役してる俺よりも地竜と仲良く出来るんだ?
 使役してる側には実際のところ使役してる獣の言葉は分からない。「キュイキュイ」と鳴いてる様にしか聞こえないのだ。
それでも気持ちは通じるのか、何となく言ってる内容は伝わる。だが、迷い人の海人は普通に会話をしてる様に感じた。

 言ってる言葉は分からない様だったが、俺の様な感覚で理解しているみたいだった。

 子分として扱われる事を、海人が認めたからなのか、子分として海人を扱うと地竜がなのか分からないが……。多分両方だろう。

 使役側からすると、主人の言葉は数日経つと完全に理解するらしい。
 過去にそんな実験をした学者がいた。

 言葉の繋がりのない者通しで使役させ、相手の言葉を理解できるのか実験したのだ。
 確か、あれは猫好きの変わり者で、自身の飼うペットと会話をしたいと目論んだ実験だったとか……。まぁ、結果的には使役した側が言葉を交わす事は出来なかったが、された側は流暢に理解出来たと言う話だった。

 その学者はその後、自分を猫に使とか何とか風の噂で聞いたが、本当か嘘かは分からない。
 モノ好きにも程があるが、まぁ知ったことではないか。

 それにしても海人が来てから地竜の奴も良く鳴くようになった。
 俺と二人だけの時は、滅多に鳴かなかったのになぁ……。
 しかも、あんなに喜んで……。
 俺は2ヶ月前の事を思い出してクスリと笑う。

 地竜に海人を任せるに当たって、詳しく立場を教える必要があった。
 そうしないと野営の時の様に、構うばかりで何もやらせずに終わるからな。
 なので【弟子】という言葉を使ったんだが……。まさか、あんなに瞳を潤ませて喜ぶとは思って居なかった。
 はしゃいで掴みあげると、らんらんとした顔で走り去ったからな、盗られるとでも思ったのだろうか?
 あんな人間ぽい仕草もするんだな、地竜て……。本当に面白い反応だった。

 地竜と海人が走り去ったあの日から数日は街でも噂になっていたしな。
 尻尾を振り乱しながら喜ぶ地竜が、頬を染めながら可愛らしい顔の人種を抱えて走り去る姿を見た街の人々は、人と竜の駆け落ちだの何だのと騒いでいた。

 祝福するやつやら大事じゃないかと叫ぶ奴とで別れていたが、しばらく経つと忘れたのか騒がなくなったな、まぁ、今でも酒の肴にはなっているが。

 顔が良ければ魔力が無くても地竜に可愛がられるかもなと、冗談ぽく言うのだ。

 それを聞いて青ざめる奴も居るが、暗い未来しか見えてない奴には夢の様な話らしいからな。世の中ってのは分からないもんだ。

 俺は飲み終わったカップと食器にクリーンを唱えて綺麗にすると、戸棚に仕舞う。
 家で使うコップや食器は白陶磁でちょっとお高いので、アイテムバッグには仕舞っていない。旅用のは木製なのだ、落としても割れない物を使っている。

 戸棚に大事そうにしまっていると、裏庭の方から懐かしい声が聴こえてきた。

 「キュイキュイッ!キュキュキュっ!キュイキュイキュイッ!ッシャーッ!」

 懐かしいとは思ったが、こんなに荒れた鳴き声は余り無い。
 俺は何事かと裏の戸口から外を覗くと案の定地竜だった。

 その足元には、何かの液体をネッチョリと体中に纏わりつかせ、寝転がる海人の姿だった。
 服は所々破けているし、裾やら裂けた場所は少し溶けているように見える。

 「なんだ? スライムにでも襲われたのか?」

 スライムは益獣の部類なので、人を襲う事は無い。だが、海人は迷い人で獣に好かれる体質を持っているのかも知れないと疑っていたので、そうザケヘルは言ったのだ。

 が、「キュイキュイ」と何かを訴える声で鳴く地竜を見て違っていたと気付く。

 地竜はしきりに自分の腹にある袋をひっくり返し、中身を洗おうとしていたからだ。その袋からドロっとした液体が溢れている。
 そしてザケヘルの鼻にもその匂いが漂ってきたのか、鼻をつまむと眉間を寄せる。

 「おいおい……まさかゲロかそれ。 困るなぁ……俺もその中に入って移動する事もあるんだぞ?」

 そう言いながら地竜の側まで来ると、クリーンを地竜に掛ける。
 だが、それでも安心できなかったのかザケヘルは火と水の生活魔法を混合させて作ったお湯を地竜の袋の中へと入れると、バッシャバッシャと洗い出す。
 ある程度洗うと満足したのか再び「クリーン」と唱えると、地竜を指差し

 「お前もご苦労だったな、取り敢えず今日は休め、な?」

 そう言って宥めると好物のアデルという林檎に似た果物を数個手渡した。

 地竜の怒りは治まらなかったが、優しく労られて大人しくなると、命令に従い寝床の厩へと入っていった。

 「海人? 生きてるか?」
 地面に横たわり身動きしない海人にザケヘルは声を掛けた。

 すると、少し動いたので同じくクリーンを唱えて、服や体に付いたゲロを消してやると、肩を貸してやって起こす。

 「何があったんだ?」

 顔を青く曇らせ呻く海人を介抱しながら聞くが、返事は返ってこない。

 仕方ないと思い、海人を持ち上げる様に抱き起こすと、裏口から部屋に……は、入れずに表玄関へと引き摺っていった。

 「ピュイッ」と口笛を鳴らすと、何処からともなく辻馬車が寄って来た。それに海人を御者と共に押し込むと、とある宿屋の名前を告げて、自分も馬車に乗り込んだ。

 こんな姿になった男でも他人なので部屋には入れたくなかったザケヘルは、昔世話になった宿屋へと海人を運び、空いてる部屋へと宿主と一緒に運んだ。

 「取り敢えず二泊分な、飯や何かは気が戻ったらソイツに聞いてくれ。それと目覚めたら俺に話をしに来いと伝えておいてくれ」

 そう言うと、宿賃とは別に銀貨を数枚握らせて、ザケヘルは宿屋を跡にした。



 その日の昼過ぎにザケヘルの玄関を宿屋の奥さんが戸を叩いた。

 「お、リンカちゃんか!久し振りだな!」

 昔世話になった宿屋の主は数年前に他界して、その跡を当時看板娘だったリンカと今の旦那が婿入りして宿屋を切り盛りしているのだ。リンカの母親は既に死に別れたとかで居なかった。父娘二人で頑張っていたので、ザケヘルも贔屓にしていたのだ。

 「ザケヘル様、お久しぶりです。海人くんですが、意識を取り戻しました。 少し元気は無いですが、麦がゆもちゃんと完食しましたので、話も出来ると思います」

 わざわざ知らせに来てくれた様で、お礼に数枚銀貨を渡そうとしたが、受け取らず

 「既に主人が受け取っていますし、私は仕入れの出先のついでに来ただけですので」

 そう言ってニコリと笑顔だけ残して、市場の方へと歩いて行った。

 ザケヘルは玄関の鍵を閉めると、「ピュイッ」と指笛を吹き、辻馬車を呼ぶとそれに飛び乗って海人を迎えに行く。

 そのまま馬車を待てせて宿屋の食堂へと向かう。

 カウンターに座り、その両隣にリンカの娘のステラとアトカを侍らせ、鼻の下を伸ばしてだらしない顔を晒してる海人を呼ぶ。

 「おい、海人! 行くぞ!」

 そう言うと凄く嫌そうな顔を振り向かせ、二人の美少女に「また後でね!」っと、明るく声を掛けて手を振ると側まで歩いて来た。

 「随分元気になったな……」

 ザケヘルは呆れながらそんな海人を見て言うと、海人は心外なのか「全然元気ねーよ!」と、不貞腐れて言う。

 ーー元気じゃねーか。と、思ったが言わなかった。

 宿の部屋で話したいと駄々を捏ねる海人に、「まぁ、ここじゃ何だから……」と外に連れ出して馬車に乗せる。

 そのまま走り出した馬車は少しお高目のカフェへとやって来た。

 2ヶ月ぶりに人間らしい生活空間へと帰ってきたのだから、多分甘味に飢えてるんじゃないかと思って配慮したのだ。

 その予想は当たっていた様で、海人は甘いケーキや飲み物を頼むと、暫くガツガツと食べた。
 その目に涙を浮かべて無心で食べる海人を黙って見届けるザケヘルは、漸く落ち着いてきた海人を見て、この二ヶ月間に何があったのか聞いた。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

処理中です...