皇帝の馬番

あるちゃいる

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馬と生きて行きたい

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 宮里英司(28)船橋競馬場の厩務員《きゅうむいん》だ。
20歳から厩務員をやっているので職歴は8年になる

 後輩の馬がレースに出るので装鞍所《そうあんじょ》へ向ってる途中で後輩が足を挫いて歩けないという。
 他のやつを探したが見当たらず、仕方無く俺が変わりに連れて行った。
 調教師に後で他の奴に越させるからと伝えて俺は厩舎へ帰ってる所だ。

 次のレースに俺が担当(持ち馬)してる馬がレースに成るので準備しないと間に合わない。
なので、もう一人の後輩で今日はレースの無い奴に頼もうと、急いで帰ってるところだ。
(携帯は不正防止の為、開催中は使えない)
 別に俺の馬でも任せれば良いと思うだろう、
普段なら任せるかも知れないが、今日は重賞レースなのだ。しかもコイツは人気もあるし、期待もあるし、ここまで気を使って餌なんかも工夫してきた事もある。今回ばかりは任せられない。なので、急いで地下トンネルを抜けて行く。
 ここで、なぜ地下トンネルなんて使ったのかというと、レース中は外に出れないからだ。不正を行わないという保証が無いので地下を通って厩舎へ向かう
 うちの厩舎は道路を挟んだ向こう側だから仕方ないのさ。丁度他の馬も居なかったのでダッシュした
トンネルを抜けると其処は草原だった

「え。」

 俺は目を疑った。
右見て、左見て、後ろ見て、前も見た。
360度草原だった。
「は?」
それしか俺の口からは出なかった。



 草原をテクテク歩く、テクテクテクテク歩く

取り敢えず水とか確保しないとどーにも成らないが

見渡す限り草原という…早々に詰みそうなのだが

 コレでも一応ラノベとかは読んでいたので

ある程度は予備知識はあった

転移とか言うやつだ。

即思ったのがそれだった。

なので何処かへ行く前に唱えるアレも試したさ

「ステイタスオープン!」

シーーンと静まる世界と風の音と草が棚引く音と

虫が鳴く声だけが聴こえる……

「ふぅ…」と息を吐き、誰も居なかった事に安堵した


 次に持ち物だ

初めての未勝利戦で初勝利した時の賞金で買った、ジッポライターを煙草を辞めてからも幸運のアイテムとして持っていた。ここぞって時のレースに持っていると入賞確率が高まったから。

今日は重賞レースだったので当然朝からポケットに忍ばせていた。

 それと、何時でも直ぐに飲ませられる様に水の入ったペットボトル

 レース後に頑張ったと労う為と疲労回復様にスティックシュガーを数本ビニールに入れて持っていた

軍手と安全ブーツに厩務員ジャンパーと膝というか

太腿にもポケットの付いた作業ズボン(頑丈さ優先)

くらいか…


 一応水はあるけど心許ない

火は…オイルは入ってないから使えないが、火花は散るし、裏のワタの部分に替えの火打ち石は入ってるので、油でも見付ければ火は付くだろう

(油があるとは全く思えないが)

 まぁ、ペットボトルとビニールが有れば昼間なら火は付けられる筈……

で、草原に立っていても無意味だろうから適当に歩いている所さ……


 異世界ならゴブリンとか角の生えたウサギとか出ると思うじゃん?見渡す限りの草原だと隠れる所が無いからか何も居ないの……なぁんにも


 森とか水辺とかせめて池とか?あればいーのに

なぁぁにも無いのよ……なので移動してるんだけど、どーしようねコレ…

 因みに時計は着けてる懐中時計……一応アンティークだけど有名所ではない。銀製ってだけ……動いてるからまぁいーんだけど…


 毎日毎日8年間馬とともに歩いてたから全く疲れないんだけど、精神的にはもう寝たい気分


 嫌な事あった日はだいたいすぐ寝れば好転してたから寝たいんだけど、ここまで何にもないと流石に何か見つけたいじゃん?


なので歩いてるんだけど、木すらねーの。

空は青いし雲もあるけど生き物が居ないのは寂しい気がする


 既に2時間ほど歩いてるが何も無し

っと、思ったら第一生き物発見!!!

やった!ようやくイベントが動いた!!!と、思ったのもつかの間

 目の前を左から右へ走ってっただけだった

シルエットは馬だった

 馬装もしてたから誰かがどっかに落ちてる筈なんだけど……動いてるのは居なかった


 指笛鳴らして馬に合図を送ったが、一心不乱に走り去る馬の耳には届かなかった


これは参った、チートも無しとか誰得だよ!


 暫く歩いていくと何かがキラッと光ったので近づいて見る


 第一元兵隊発見……鎧を纏った白骨と槍があった

取り敢えず武器ゲット

夜になって動き出したら怖いので腕と足の骨を砕いておく、気持ち悪いとか思わない。寧ろ夜になって俺が寝ていたら死んでしまうじゃないか?それ防止だよ。

 転生物でも放っといて後で襲われるとかあるだろ?怖いじゃん。なので、念入りに砕く。

よし、あとは…鎧は駄目だな腐ってるサビが酷くて防具としては死んでるし、コレを着るのはちょっと無理。なので、放置しないでこれも念入りに潰しておく。

 アーマー系の魔物とか居るじゃん?リビングアーマーだっけ?そんな物に襲われる未来とか考えたくないので、潰しておく。

 槍の穂先で何回か突き刺してボコボコになったら折り畳む。これでよし!鎧を外したら骸骨が生前持っていたのか、チャラチャラと音のする袋が、出てきたので貰っとく。他にないか探していると短剣が鞘に入って出てきたので抜いてみると、比較的使えそうだったのでそのままベルトに通して持っていく


 こんなもんかと立ち上がり、残った骨に軽く土を掛けて手を合わせておいた。勿論土は槍をスコップ変わりにして使った


 これでOKって事で、また歩く

歩いて歩いてまた暫く歩くと……

第一……竹?発見……一本だけ生えてるというか這ってるというか?動いてたので、近付くと後ろにニュイーンと反ったなぁっと思ったらビュンッ!と攻撃してきた。取り敢えず横に逃げるとベチィィッン!!と地面を少し抉るじゃないか!


 当たったら馬に蹴られるよりも、痛そうだった


まぁ、鉄を履いてない馬なら全治一週間程度の打撲で済むが(骨折してない前提で)


 まともに蹴られても吹っ飛ぶくらいでその日は痛くないから大丈夫(経験者談)

次の日は起きられないから、前日に伝えておいた方がいいよ?

じゃないと、無理矢理起こされて仕事させられるからね?(経験者談)


 まぁ、それはさて置きこの竹だよ……次の攻撃に備えて反撃の方法を考える

 反ったら飛び避ける方向を斜め前にして、槍で横薙ぎにしてみよう……出来るか知らんけど……

 槍を持ち直して構えてると

反った!!!このまま、じっとして置いて…ビュンッ!!ときたら、すかさずジャンプ!!避けられた‼で、力任せに横にぃーっ薙ぎ払う!!!バキィンッ!!と、音がして竹に傷を深々と与えた。よし!当たったぁっ!!!

次に備えて構えていると……動かない。

 そのまま近づいていき、槍で突いて見る。動かない…。倒せたようだ……


 よし物色!…根は一応切って置く。特に何も持ってなかったし魔石みたいな物も落ちて無くてガッカリ。で、折角の薪代わりにと、持っていく。持ちやすい様に2つ折りにする


 

そのまま歩くが何も無かった。その日はもう直ぐ日が暮れそうなのでその場で休む事にした


 竹を椅子代わりにして、その上に座る。地面は濡れてないとはいえ、草の上だしズボンに滲みたら後々気持悪い。竹の枝を打ち払って集めてその上で寝た


 朝靄の中寒くて目が覚める。寝床に使ってた細い竹や葉に何とか火がつかないかと試みるが、やはり生竹では無理があった。

 拾ったナイフで竹を細く削り出して丸めて火種にするが火が付かなきゃ只のゴミである。ジッポの火花で火が付かないか試したら、ポッと火が出た……(あれ?オイル入れたっけ?)と、思ったけど火がつくなら何でもいーやと思い直して、丸めた竹に火を付ける更に燃えるように。竹をガンガン削って行くと一山くらいに削れたので、その上から平たい竹を並べて炙り、水分を飛ばしながら薪にしていく、それを風が入りやすい様に重ねたら火が移ってようやく焚き火らしくなった。

 節のある竹に地面に生えてた草とペットボトルの水を入れて温める。食い物が無いので草でも食べようかと煮ているところ、砂糖があったのを思い出し一本入れる。グツグツ煮出したら取り出してズズーっと呑んで見る……苦いが食えない事もない……

もう少し煮るべきだった様にも思えたが何とか咀嚼して、呑み込んだ。

 周辺がだいぶ明るくなり、少し暖かくなったなぁっと後ろをふと、振り返ると…馬が居た。あー、そーいえば昨日居たなぁ…通り過ぎた奴が…

 スティックシュガーを一本手に取り

ソーッと警戒されない様に近付いて鼻先に草と混ぜて馬に食べさせてみる。

 最初は食べなかったが、パクリと食った瞬間甘いのが分かったのだろう。舌を伸ばして来たので透かさず砂糖を舐めさせる


 どうやら気に入ってくれた様で撫でさせてくれた

一応脚元を確認して怪我が無いか調べるが頑丈な馬なのか、特に何も無かった。足も上げさせて鉄などを調べたが、外れてもいなそうだった。ハミを調べて鞍を調べて手綱に鐙と調べていくが特に何も無い事が分かった。

 これなら乗って移動できる!!!宮里は脚を手に入れた!!!とか、1人で呟く。一応言葉は通じないだろうけど

「乗っていいか?」

と聞いてみる。

 その後で鞍の上をパンパン叩き反応を見るが

耳の動きからは嫌がってる様子は無かった

 俺の居た世界と此方の世界の馬の意思疎通が、耳じゃなかったら詰むが、多分大丈夫だろう

 しかし、この馬小さいな…アラブを一回り小さくした様な、ポニーを一回り大きくさせた様な、そんな体躯をしていた。

 まぁ大丈夫だろ。と、思い槍を地面に突き刺して

そのまま、馬に跨る。

 乗った瞬間くるくる回ったがまぁ大丈夫か。意外と肝っ玉が太いのか、直ぐに落ち着いた。

 そのまま並足で槍のある場所まで移動し槍を取る。馬に当てない様に気を付けながら歩き始めた。


 少し速歩にして見たが特に俺の世界と変わらない事が分かった、なのでスンスン進む並足と速歩を併用しながら、なるべく疲れない様に走る。

 体感で2時間位走ったら休ませて草を食わせる

その間俺は馬から降りてマッサージする。脚をもみ、腹帯を緩め帯の当たるところを拭ってやる、鬣たてがみの付け根をクルクル押し回しながらマッサージしていく。鬣が終わったら次は馬の顔だ

額、頬、鼻筋と撫でながら軽く押す。耳元を拭いてやり、顔も拭ぬぐってやる。耳中を拭いてやり、首下まで拭ぬぐってやる。1時間くらい休ませて、また乗るよーっと伝えてから跨る。

 水をあげられないのが地味に可哀想だが、こればっかりは仕方ない。俺が飲む時は少しづつ分け合い呑んで、また走る。

 ある程度走っていくと街道らしき場所に出た。どっちに行けば良いか分からんので、適当に街道前で止まりそのまま馬に任さて歩き出すと、自然に右側へと歩き出したので、そのまま進ませる。


 また暫く歩いていくと、ようやく城壁らしき物が見えて来た。


よかったー!と、急がず馬に負担のかからない様に歩いて向かった


 城壁っと思ったけど違ったらしい

簡易的な丸太の先が尖ったバリケードだった。

 そのまま門近くまで乗って歩き途中で降りて、そのまま近づいて行くと止められた。

 「此処はアルタール駐屯地だ。 見た所傭兵というわけでも無さそうだが……棒持って馬乗り……あ! 頼んでいた馬番か? そうかそうか! 待ってたぞ! 通れ! 」


 (特に何も調べられず通された……セキュリティ的に問題ないのか? )


 まぁ、此方としては助かるからいっか……


 テクテク進むと目の前に鎧を着た方々が訓練中

左を見るとテントとか天幕とかある住宅風。右を見たら馬と馬屋というか、柵で囲った小さな放牧地……てか、少なくね? 馬で戦はしないようだ。

 取り敢えずそちらが職場っぽいので向かう。


 「こんにちは」と挨拶してみると

何やらカンカン叩いてたオッサンが顔をあげた。

「お? 新しい馬番かい? 前のは逃げちまって困ってたんだよ 」と、いう。


 「まぁ、お偉いさんが戦地まで乗って移動するだけの乗り物だから、給金も安いしな。まぁ何だ、馬は自前かい? それならそっちの空いてる放牧地があるから其処に入れといてくれるか? 」


 小屋の向こう側だよ。というので拾い物の馬の馬装を解いてハミを外す。そのまま放牧地へ連れていき放し、柵を閉めた。

 水桶は無いかと探すと丸太をくり抜いた様な物が転がっていたのでそれを石とかで固定した。


 「水はあるかい? 」と、聴くと。

指を刺された方向を見ると、桶の付いた江戸時代にあった様な井戸があったので、水を汲んで水桶に注いでいく。

 4回ほど往復してようやく満タンになると、指笛で呼んだら直ぐにやって来て飲み出した。

 ゴッキュゴッキュと飲み干して満足した様なので

牧草を山の様に入れて頭を撫でてから、さっきの人に挨拶しにいった。

 「ここは、戦争でもしてるのかい? 」と、聴くと。「なんだ、何も知らずに来たのか? 隣国の領主が攻めてきたんだよ。まぁ、この辺じゃ良くある事でな、攻めて攻められを繰り返してる場所だよ」


 「ふーん。何かよくわからない事をしてるんですねぇ」そういうと、「まぁ儂らにゃ関係ないことさ、相手領主の首でも取れたらこの戦争も終わるんだがよ? 少し戦っては引いて、また戦っては引いての繰り返しでなぁ? 決着が全くつかねぇのさ」と呆れていう。

 「まぁ儂らは戦わないから好きなだけやり合えばいんじゃねーか? 」と笑うとあんた名前は? と、きかれたので

 「ああ、セージだ。よろしく頼む」

「儂はジョーイだ、鍛冶師をしてる。よろしくな」

っと、握手をした。

 「此処のお偉いさんに挨拶でもしてきなよ」と言われたので、どこに居るか聞いてみるとさっきの訓練中の場所を教えてくれた。

 お礼を言ってテクテク歩いて行くと、ガギィンゴギィンと鈍い音が聴こえてきた。

 近付いて分かったが全身鎧の重そうな重騎兵っていうなか? それが、ぶつかり稽古みたいな事してた。

 なんの訓練なんだろうな? 剣は持ってるやつと持ってないやつがいて、持ってる重騎兵は佇んでるだけ剣は構えてるが……動かない。

 昔の戦争は日本のしか知らんし、陣形とかもよく分からんが…多分これは防御練習なんだろう(いや知らんけどね)


 その訓練風景をボーッと眺めていると

俺に気が付いた兵士がやって来た。腰の剣(手を添えながら

 「誰だお前は⁉どこから来た!?」と、聞いてきたので

 「馬の世話をしに来ました」

そういうと、安心したのか剣から手を離しながら

「なんだ…それを早くいえよ。で? 」

緊張した顔を緩めながら笑顔になった


 「隊長に挨拶でもと思いまして」と、なるべく丁寧に話していく(丁寧かどうか分からんが……)


 「そうか、ちょっと待ってろ」

そういうと回れ右して去ってった。


 暫くすると少し皆より豪華で綺麗な鎧を着た人が歩いてきた。


 「新しい馬番とは貴公の事か? 棒を持って現れたと聞いたが何の為に持ってたのだ? 」


 「はい、エージと申します、棒の先には刃が付いてた筈だったんですが取れたようです。で、持ってた理由は護身用ですね」と、適当な事を言っといた


「ほう! 馬番にしては槍を使えるのか? それはちょっと手合わせしようか? おい! 誰か! 槍を持て! 」

(えええええええええ !?何でそうなるの? とは、とても聴ける感じでは無いが、馬番つってるのになぜ手合わせになった!? )と、動揺してたら兵士が木の槍を2本もってきて、1本渡された……


 そのまま背中を押され訓練中の皆様の前へと連れて行かれる。


 (待って⁉ 俺槍なんて高校時代に薙刀部に入ってたくらいのもんで本格的にやってませんけど!? )

【部活紹介で女子の袴姿に宛てられてフラフラと入部届にサインしたのが始まりで、男子は俺ともう一人だけだったもんで、大会には個人戦しか出れず、勝てても3回戦敗退とかだった】


 ボーッと昔の事を思い出していたら、槍を持った兵士がやって来た……。

 (どうしよ! どうしよ!! どうしよーっ!!! )と心の中で叫んでいると


 「よろしくな! あんちゃん! 」と言われ構えるおじさん。

 「よ、よろしくおねしゃす」と少し噛みぎみに答えると

「肩の力抜いて抜いて! 」と、いわれる。

周りの兵士さんを見てみると賭けが始まっていて

先程の隊長が仕切っていた……。


 (あのおっさんただのギャンブル好きなだけじゃねーか!!! )と、思ったのもつかの間、「初めっ!!! 」と叫ばれた。


 「うりゃあっ!!! 」と槍を叩き込まれ吹っ飛んだ俺。と、一本取ったおっさんがガッツポーズしてる

 「おら! 馬番!!! お前に賭けてんだからシッカリしやがれ!!! 」と、知らん兵士に言われる。

 「悪く思うなよ? あんちゃん! 前の馬番もこうやって訓練にかこつけて散々毟りとられてな? 辞めちまったのさ」

と嘲笑うおっさんに少しイラッとした俺は、左手は左腰に、右手は右耳の高さに薙刀を持ち、柄は軽く胸に添え自然に開き、八相の構えを取った。


 「お? やる気かよ! いいねいいね! 」

と、言いながら構えると。

 「二本目!!! 初め!!! 」

と、言うやいなや先程と同じ様に上段から打ってきたので、それをいなしてスパーンと踝を打ち抜いた

 「いぎゃっ!!? 」と脚を叩かれてバランスを崩して倒れるおっさん。


 「おおおおおおおっ!!!! 」と歓声があがる。


 「くっそテメッやりやがったなぁ!!! 」とヨロヨロと立ち上がりビッコを引いてるのを誤魔化しながら構えを取る。俺はそのまま八相の構えから動かず待機する。

 「3本目!!! 初め!!! 」という掛け声からおっさんを睨むが、警戒してるのか隙を伺うようにジリジリと回り出した。

 中々攻めて来ないので此方から胴を狙う振りして

頭に面を打ち込んで……(ぁ、竹薙刀じゃなかったわ)と気がついたが遅く、頭からピューッと血が吹き出してぶっ倒れた。


 「おおおおおおおっ勝ちやがったあぁぁあっ!!!? 」

という怒号と二人くらいの歓声があがって手合わせが終わった。


「くっそ! 何やってんだよ! ガイルのやつ! 油断してたんだろ! 巫山戯んなっ‼ 」と、悔しがる人


 「うっひょおぉぉおっ!!! スッゲ倍率!! マジサイコー! 他に誰かやらねーの? 」と喜ぶ人


 「なになに槍っ強いの? 俺剣しか知らねんだけど? 」と、無知をひけらかす人


 なんだろう……この世界はよく分からない……戦争中じゃないのか……?  


 皆さんの盛り上がりにイマイチついて行けない俺はソローっと木槍を立て掛けてこの場を去ろうとしたが「次!!! 誰かいけ!! これじゃあ赤字なんだよ!‼ 」と、隊長が叫び

 「うおっしゃあ!!! 俺が行く!!! 」と剣を持って現れた


 「あの俺剣は知りません」そういって避けようとしたが、「ああ!? いーよ槍で! ぶっ潰す!!! 」と無駄に気合が入ってる人が来てしまった

 「おら! 構えろ!! 」と、いうので仕方なく構える。


 「第二回戦! 初め!! 」と副隊長が手を降ろす


 「いやっしゃ! おらぁぁっ!!! 」と剣を振り上げるので、いなす前に膝に石突を叩き込む

 ゴキッ…と、鈍い音が響き膝から崩れ落ちる

「アガッ!!? 」とそのまま気絶


 「うおおおおおおおおおおっ!!!! 」と歓声なのか怒号なのか分からない叫びが辺りを包む


 「クソ! 次々いかんか!!! 」と隊長が叫べば

「次は俺いきまっす!!! 」と剣を抜いた。

 「え! ちょっと⁉ あの人真剣何ですけど⁉ 」

と言うが、俺の声は怒号に掻き消された


 「ウラ! 行くぞ!!! 」

と、合図もなしに突っ込んで来たが、俺から観ても隙だらけだったので石突で喉を打った。

「ガキュッ! 」と声でも無い音が響き倒れる

何なんだコレ⁉ なんでこんな……と困惑する。


 ズルズルと引き摺られて端っこに寄せられた青年

他の人は医務室に送られたが……この人はそのまま?  

 何で? 「馬鹿が!!! 合図を待て!!! 卑怯者は我が隊には要らん!!! 」と、言い放った隊長


 (多勢無勢のこの状況と真剣で木槍と対峙するのは卑怯じゃないのか? )


 俺は憤りと不快感と恐怖が混ざりあった感情に支配されていった


 対峙するのは怖いだが、それよりこの状況を作ってるヤツが憎いし、気持ち悪い…


 何をしたら止まるのか? 何もしなければ止まるのか? 自問自答を繰り返すしかなかった


 次から次へと真剣を持ち出して、初めの合図で戦闘が始まる


 そうか……コレはイビリなのだ

そうだ……これはイジメなのだ

 ただ馬の世話がしたかっただけの俺を戦場に叩き込みたいだけなんだ……。なら、俺はどーするべきか、負ける? 痛いのは嫌だ。

 馬の蹴りは耐えられるが、イビリやイジメは受け付けない。殺りたいなら殺り続けてやろう

俺の力が地に伏すまで…。

 段々意識が遠退いて行くのに体だけは俊敏に豪快に壊滅的に鋭さを増していった。

 やれば殺るだけスピードが増し遂には

相手には見えなくなった。

 気が付くと隊長は地に倒れ、副隊長だけが立っていた。

 そして言う

「勝者馬番」と……。「何故ですか? 」とポソリという。「ん? 」

 「何故止めなかったんですか? 」

今度ははっきりと言った。

 「なぜ止めるのかね? 逝きたい奴が逝っただけだろ? 」そう言った男の顔を見ると穏やかな顔で微笑んでいた


 その顔を見た瞬間ゾッとした。ここは…この世界は…狂ってる。

 「ありゃ、全部倒したのかよ……すげぇなおい……」と、声が聴こえた。振り返ると鍛冶屋だった……。

 「ははは、手間が省けたな宰相よ」

は? 宰相? 誰が? と副隊長を見た。

 「私は第八代目アルタール帝国皇帝、ゲルガー・サム・アルタールである 」そういうと、小隊長服を投げ捨てた、後ろから従者がマントを羽織らせた。は? 帝国? 皇帝? え? 

 取り敢えず跪いて頭下げとこう、ザッと跪くと「よくぞやってくれた!! コイツラは罪人だ。何人もの馬番や商人を賭けの対象として、葬り。そればかりか隣国と結託し無駄な戦を延々と続け税金を搾取していたのだよ 」と、語りだした皇帝さん


 「それを調べに元鍛冶屋の宰相が潜り込み調べていたのだ」と、宰相が俺の所に来て肩を叩く。「証拠が中々出なくてな……いやすまんかったなアンチャンよ」腕を取って立たせると、背中をポンポンと叩かれた。「な、何なんだよあんたら……」としか俺の口からは言葉が出なかった。

 「セージよ、褒美をとらす何なりと申してみよ」

俺の騎士でもいいぞ? と、何故か宰相がいい。

 お前の騎士なら俺が貰うわ! とか話してる

だが、俺は……。

 「馬と関わって生きていたいです」

それしか言えなかった。


 「強いのに……馬番とか……出世欲無いのかセージ 」


 「……わかった。ならお前は今日から俺の馬番をやれ」

と言っても移動にしか使わんがな! と笑っていた



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「って、いう過去があって俺は馬番としてここに居るんだよ」と、子供に諭すように言った


 「ふーん。おっちゃん強かったんだな! やっぱり私の師匠になってよ! 」と、少女は言う


 「話聞いてたのか? 」呆れ半分で言ってみるが

全く聞きやがらねぇ……。


 「大丈夫! ちゃんと馬の世話もするからさ! 

父上もお許しになってるんだから! 頷いてよ! 」と、皇女殿下は譲らない


 はぁぁ……と溜め息を吐き出し、あの時拾った馬の世話に向かった。


 アイツの好きな角砂糖をもって。







※カクヨムにも投稿中
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