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第3章 大狼討伐戦
第65話 聖歌と暗闇
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才能は時に開花し、時に暴走もする。
扱えれば易し、扱い切れねば破綻する。
至極当然の出来事。
御せぬ力に踊らされ。
躍り舞う花弁。咲けば美しい。咲けねば雑草。
危うい。若さだけでは語り切れない。
危うさこそが若さ。時として美しく咲け。
タッチーは悩んでいた。
有り余る才能の欠片を抱えて。
一つの答えは出ている。
死んで誰かに擦り付ければ、本人は救われる。
他に助言は無い。
「自分で乗り越えるしかないっぺよ」
曖昧。適当。最低限を伝えた。
本当にそれだけしか伝えられなかった。情けない。
これまで幾度の死線を潜り、生き延びた。
若い才能に対して、こんな下らない答えしか与えられないとは。レバ兄に笑われる。
「無理は逆。許容は爆ぜる。抗えば暴発。閉じ込めは暴走を招く。待つだけでも崩壊。必然か偶然か。今まで正常な精神を保ててるんだべさ。悲観する事ないっぺ。じっくり身に馴染むまで待つべ」
「はぁ。主に精神面に負荷が来るスキルっすか」
隣で聞いてるヒオシも。
「言われてみれば、何か急に暴走し出したよなぁ」
彼らなら乗り越えられる。
後は救援が間に合うかどうか。時間との勝負。
運命の歯車は、未だそこまで狂っていない。
「準備は出来たわ。スタジオフルオープンするけどいい?但しルドラちゃんとミストには不利になるかも」
「意識を向けなければ良いのじゃろ?」
「こちらも問題ない。ルドラ様が平気なら大丈夫」
「じゃ、行くよ」
-スキル【聖像】
並列スキル【聖歌】【挽歌】発動が確認されました。
シークレットスキル【ウォーリアーソング】
強制発動されました。-
アビの歌声が、砦の中心から響き渡った。
インカム装着者には直接。
詠唱を始めたアビの代わりにカルバンが。
「繋ぎは私がやります。以降、私たちは参戦不可能となります。皆さん、頑張って」
「おぉ、寒模が…」
「不思議な唄ね。特別何も起きてない」
興奮気味のヴェルガが叫ぶ。
「これが鷲尾さんの歌声。漲ってキターーー!委員長、城島氏。後続はどんな感じ?」
「陸戦部隊の行軍は順調だ。ブラームスの尻を蹴り上げて無理矢理起こした甲斐はあった」
「飛空挺部隊。ナイゾウペアと先頭集団がそこまで辿り着くまで、ざっと1日分の距離。堪えてよ。僕とジョルディも最後尾の舟に乗ってる。他は陸上支援」
「お、俺。出来る、かな…」
「喧しい。黙って私を護れ!」
聞いてる周囲は皆思う。何て夫婦だと。
「俺は不滅を手に入れた。殿は俺だ。建前は帝国の名を歴史に刻む為。本音は南方退路の確保!舟で突っ込んでみるぜ」ヴェルガの本音は余計だった。
【不滅】スキル。
自爆してもその身は無傷で残る。衣服と武装が吹き飛ぶ難点さえ拭えば、ある意味最強とも呼べる凶悪スキル。
低脳な俺が面白スキルを何とか出来た。
タッチーが上手く制御出来ない訳がない。
「僕は工房開いて武装を量産するよ。前に出ると暴走しそうだし、サポートに徹する」
「おれとメイリダは藤原と同じ舟に乗る。リンジーとフウは壁造りに専念してくれ」
「単騎でって言ったのに…。格好付けさせろよ」
「立派なキャノン砲積んでんだ。見す見すロストしたら勿体ないだろ。撃ちまくったら適当な所で離脱するから心配すんな」
「何時も歯痒いな。メイ、ヒオシを頼むわね」
「当然。任せておいて」
フウは構築に集中している為、発言はしなかった。
キュリオはルドラを抱き上げ、ジェシカと共に。
「私たちも残ってタッチーの補助をします」
「初期から雷と風を付与すれば、耐性付けられそうだしね」
「私は火力担当かの」面倒臭そうな声がする。
「早く終わらせたいでしょ?」
「むぅ。仕方ないのぉ」
生き残ったクリス班の人員は、全員砦外周壁上で弓を構えていた。
「良い唄だ。心が躍る。大狼の呪詛も恐るに足らず。我らの退路を開く為の戦いだ。手加減無用。的は巨大だ!」
総勢80名が雄叫びを競り上げた。
飛空挺の浮上と共に、弦を引き絞る。
「矢は潤沢。今だけは欲を捨ててやろうぞ」
上空最後尾の舟。城島は舵を握るジョルディの後ろに控え思考を巡らせていた。
時間が無かったのはこの際仕方無い。
孤立させてしまった有力な仲間や友達を救う為。
大きく見て全部隊の陣形が南北縦長に伸びている。
側面が脆弱過ぎる。
この状況をフェンリルが見逃すはずがない。
「キョウヤ君。本陣本体はあんまし間延びさせない方が良いと思う」
「側面からの急撃だな。指示が通るのは冒険者隊だけだ。国軍には東西への備えを提案する」
委員長の想定内。峰岸君と祐子夫人が居る中段は問題なくても、それ以外の防御が手薄。
後はブラームスの判断。上手く動いてくれないと困るけど軍に直接指示は出せない。めんどいなぁ。
「鴉州さん。岸川さん。後方支援部隊も国軍の真後ろに着けて護って貰える様に布陣させてね」
「解ってるわよ。桐生君が居ないのに孤立なんて真っ平御免よ」
「はーい。救護班の中に居て、死にたくないもんねぇ」
一通りはこれでいい。唯一問題なのは、鷲尾さんの歌声が後ろまで届かない事。流石に百km以上離れていては物理的に無理。
インカムで受信してるソングだけを抽出して拡げる…。
アンテナ…。衛星…。そうか!
インカムをオフにして。
「ジョルディ。この舟を衛星にする。唄を拡散させる中継器に使うんだ。フェンリルにバレたら、最悪死ぬけど」
同じ様に耳から外し。
「この舟から下りろとでも?冗談でもその言葉を呟いたら私が貴方を殺します」
いやぁ、ジョークも言えない真面目っ子め。
「い、一緒に行こうに決まってんじゃん。行けるとこまで上に行って、目立つ様に」
「了解しました。最悪の状況になれば、貴方と共に飛び降りますのでご心配無く」
心配だらけだよ!
人力パラのスカイダイブ(タンデム)をこっちの世界でやる羽目になるとは夢にも思わなかったよ。
人力パラシュートって何だよ!
インカムをON。
「インカム装着者のみんな。ちょっと試したい事がある。鷲尾さんとカルバンさん以外は、暫く発言無しで宜しく。唄はモチ続けてね」
「こちらカルバン、アビ。了解です」
「こちらジェシカ。タッチーが工房に入りましたので通話は私だけになっています。伝言あれば私が受けます。時間差が伴いますのでご注意を」
「今んとこ大丈夫っす」遠く離れてるんで。
元世界のイメージ。
根源は糸電話。音を撚り糸の震動で伝える。
電気の発明と共に、音波、電波、電信。
周波数を特定。有線で繋ぎ合わせ交換配信。
有線から無線。無線と言ってもあれは完全じゃない。
結局末端は有線で繋がり、交換機を介し電波を飛ばしているに過ぎない。
インカムの周波数を切り分ける。
目指すのは進化進歩をすっ飛ばした、完全無線。
衛星回線。
ヒントはタッチーがエンパイアを倒した時の光景。
光とエネルギー線をBOXの亜空間で受け止め、屈折させて放出するあの技。
自分の身体を触媒とする積もりはない。
全く別の物質を大気圏外まで打上げる。
使用可能な手段は限られる。
人の耳が判別出来る周波数帯。僕の天配スキル。
そして高密度エネルギー体の魔石結晶。
触媒、交換機、継続的な電力の役割を全て兼ねさせる。
試作機とは言え、今から8色小粒を並べても意味が無い。
8色石を持っているのはタッチーかヒオシの2人。
「カルバンさん。タッチーから8色魔石を貰って天高く上空に打上げてくれない?出来れば無傷で大きい奴を」
「…可能ですが、目的が理解出来ません」
「ジェシカさん。タッチーにこれだけ伝えて。魔石を衛星にするから特上石ヨロシクってさ。それをカルバンさんに渡して。詳しくはタッチーに聞いて」
「解りました。魔石が大きい場合は、アルバ様助力をお願いします」
「りょ…、あ、いけね」
「無理して黙らなくていいよ。1発目は試作。本番は2発目。2個目にやって貰いたい事があるから準備出来たら教えて」
軍配を取出し、配を振る。
飛空挺は上昇を続けていた。
地上からの攻撃は届かない高度まで。
「ジョルディ。高さは充分。止まっ…」
不意に窓から見えた光景に驚き、思考が一瞬飛んだ。
「そんな…、これは…」
ジョルディも舟の上昇を止めた所で絶句していた。
「嘘だろ…」
見えたこの世界の形。中央大陸の北の果て。
信じられない。
遙か彼方の地平線の先。
この世界は、北の大陸の端から見切れていた。
星よりも大きい何かに囓られた様な。
その先に広がっていたのは、真っ黒な空間。暗闇。
まさか、アレがブラックホ…。
「1つ目。上がります!何が見えたのですか?」
説明してる暇は無い。
「1発目はフェイク。詳しくは合流後に説明する。
タッチー、フウさん。大急ぎでレコーダー作ってアビさんの歌声録音。2発目に賭ける!」
「行き成りそんなの造れないわよ」
「無理でも何でもやってくれ!それが出来なきゃ、僕らは負ける。それ処か、この世界は終わりだ」
「何かヤバそうだね。誰か録音機材持ってない?スマホでもデジカメでも」
「それなら俺の秘蔵のカメラが…」
ヴェルガのその一言で、アビの歌声が中断した。
「それ没収!今直ぐタッチー君に渡して、今直ぐ消しなさいよ!!」
「落ち着けアビ。着替え撮られた位で唄止めんな」
フウに遮られ、詠唱が再開された。
声に怒気が乗っかった。聞いてるこっちの感情も引き摺られる。
「着替え…?今、着替えと?」サリスが怒り心頭。
「頼む。みんな冗談やってる場合じゃないんだ!通信では傍受されるかもだから話せない。1秒でも早く」
「ヴェルガ。デジカメ出せ。ボコっても死なないんだろ?でも殴られれば当然痛いよな」
「…どうぞ。イジメ、イクナイ」
「記録はおれが消す。怒りを静めてくれアビ。進路変更、砦に戻る」
「俺の思い出が…」
「死なないなら、斬ってもいいかな」
「サリス!それは全部終わってからだ!!」
アビの声から怒気が払われた。
何とか落着いてくれたらしい。
ホッとしたのも束の間。
「来る!」ジョルディが叫んだ。
「何が」
「黒点から、高速飛来物体!」
自分で確認出来たのは、真っ白な光の束。
次の瞬間にはジョルディにタックルされ、操舵室側壁から外へ飛び出していた。
誰も居ない、空へと2人の身体は吸い込まれた。
瞬時に消し飛んだ飛空挺。
頭上を通り過ぎた光の束を、ぼんやり見詰めながら。
門藤が求めていた物の片鱗を掴めた気がした。
-スキル【博愛】
並列スキル【空想具現】発動が確認されました。-
具現化したのは、翼の代りのグライダー。
「張りぼてです。飛翔スキルのレベルが低いので依代を用意しました。ガモウ、天啓を」
「お、おけ」
砦までの標を降ろした。激戦只中の中心へ。
扱えれば易し、扱い切れねば破綻する。
至極当然の出来事。
御せぬ力に踊らされ。
躍り舞う花弁。咲けば美しい。咲けねば雑草。
危うい。若さだけでは語り切れない。
危うさこそが若さ。時として美しく咲け。
タッチーは悩んでいた。
有り余る才能の欠片を抱えて。
一つの答えは出ている。
死んで誰かに擦り付ければ、本人は救われる。
他に助言は無い。
「自分で乗り越えるしかないっぺよ」
曖昧。適当。最低限を伝えた。
本当にそれだけしか伝えられなかった。情けない。
これまで幾度の死線を潜り、生き延びた。
若い才能に対して、こんな下らない答えしか与えられないとは。レバ兄に笑われる。
「無理は逆。許容は爆ぜる。抗えば暴発。閉じ込めは暴走を招く。待つだけでも崩壊。必然か偶然か。今まで正常な精神を保ててるんだべさ。悲観する事ないっぺ。じっくり身に馴染むまで待つべ」
「はぁ。主に精神面に負荷が来るスキルっすか」
隣で聞いてるヒオシも。
「言われてみれば、何か急に暴走し出したよなぁ」
彼らなら乗り越えられる。
後は救援が間に合うかどうか。時間との勝負。
運命の歯車は、未だそこまで狂っていない。
「準備は出来たわ。スタジオフルオープンするけどいい?但しルドラちゃんとミストには不利になるかも」
「意識を向けなければ良いのじゃろ?」
「こちらも問題ない。ルドラ様が平気なら大丈夫」
「じゃ、行くよ」
-スキル【聖像】
並列スキル【聖歌】【挽歌】発動が確認されました。
シークレットスキル【ウォーリアーソング】
強制発動されました。-
アビの歌声が、砦の中心から響き渡った。
インカム装着者には直接。
詠唱を始めたアビの代わりにカルバンが。
「繋ぎは私がやります。以降、私たちは参戦不可能となります。皆さん、頑張って」
「おぉ、寒模が…」
「不思議な唄ね。特別何も起きてない」
興奮気味のヴェルガが叫ぶ。
「これが鷲尾さんの歌声。漲ってキターーー!委員長、城島氏。後続はどんな感じ?」
「陸戦部隊の行軍は順調だ。ブラームスの尻を蹴り上げて無理矢理起こした甲斐はあった」
「飛空挺部隊。ナイゾウペアと先頭集団がそこまで辿り着くまで、ざっと1日分の距離。堪えてよ。僕とジョルディも最後尾の舟に乗ってる。他は陸上支援」
「お、俺。出来る、かな…」
「喧しい。黙って私を護れ!」
聞いてる周囲は皆思う。何て夫婦だと。
「俺は不滅を手に入れた。殿は俺だ。建前は帝国の名を歴史に刻む為。本音は南方退路の確保!舟で突っ込んでみるぜ」ヴェルガの本音は余計だった。
【不滅】スキル。
自爆してもその身は無傷で残る。衣服と武装が吹き飛ぶ難点さえ拭えば、ある意味最強とも呼べる凶悪スキル。
低脳な俺が面白スキルを何とか出来た。
タッチーが上手く制御出来ない訳がない。
「僕は工房開いて武装を量産するよ。前に出ると暴走しそうだし、サポートに徹する」
「おれとメイリダは藤原と同じ舟に乗る。リンジーとフウは壁造りに専念してくれ」
「単騎でって言ったのに…。格好付けさせろよ」
「立派なキャノン砲積んでんだ。見す見すロストしたら勿体ないだろ。撃ちまくったら適当な所で離脱するから心配すんな」
「何時も歯痒いな。メイ、ヒオシを頼むわね」
「当然。任せておいて」
フウは構築に集中している為、発言はしなかった。
キュリオはルドラを抱き上げ、ジェシカと共に。
「私たちも残ってタッチーの補助をします」
「初期から雷と風を付与すれば、耐性付けられそうだしね」
「私は火力担当かの」面倒臭そうな声がする。
「早く終わらせたいでしょ?」
「むぅ。仕方ないのぉ」
生き残ったクリス班の人員は、全員砦外周壁上で弓を構えていた。
「良い唄だ。心が躍る。大狼の呪詛も恐るに足らず。我らの退路を開く為の戦いだ。手加減無用。的は巨大だ!」
総勢80名が雄叫びを競り上げた。
飛空挺の浮上と共に、弦を引き絞る。
「矢は潤沢。今だけは欲を捨ててやろうぞ」
上空最後尾の舟。城島は舵を握るジョルディの後ろに控え思考を巡らせていた。
時間が無かったのはこの際仕方無い。
孤立させてしまった有力な仲間や友達を救う為。
大きく見て全部隊の陣形が南北縦長に伸びている。
側面が脆弱過ぎる。
この状況をフェンリルが見逃すはずがない。
「キョウヤ君。本陣本体はあんまし間延びさせない方が良いと思う」
「側面からの急撃だな。指示が通るのは冒険者隊だけだ。国軍には東西への備えを提案する」
委員長の想定内。峰岸君と祐子夫人が居る中段は問題なくても、それ以外の防御が手薄。
後はブラームスの判断。上手く動いてくれないと困るけど軍に直接指示は出せない。めんどいなぁ。
「鴉州さん。岸川さん。後方支援部隊も国軍の真後ろに着けて護って貰える様に布陣させてね」
「解ってるわよ。桐生君が居ないのに孤立なんて真っ平御免よ」
「はーい。救護班の中に居て、死にたくないもんねぇ」
一通りはこれでいい。唯一問題なのは、鷲尾さんの歌声が後ろまで届かない事。流石に百km以上離れていては物理的に無理。
インカムで受信してるソングだけを抽出して拡げる…。
アンテナ…。衛星…。そうか!
インカムをオフにして。
「ジョルディ。この舟を衛星にする。唄を拡散させる中継器に使うんだ。フェンリルにバレたら、最悪死ぬけど」
同じ様に耳から外し。
「この舟から下りろとでも?冗談でもその言葉を呟いたら私が貴方を殺します」
いやぁ、ジョークも言えない真面目っ子め。
「い、一緒に行こうに決まってんじゃん。行けるとこまで上に行って、目立つ様に」
「了解しました。最悪の状況になれば、貴方と共に飛び降りますのでご心配無く」
心配だらけだよ!
人力パラのスカイダイブ(タンデム)をこっちの世界でやる羽目になるとは夢にも思わなかったよ。
人力パラシュートって何だよ!
インカムをON。
「インカム装着者のみんな。ちょっと試したい事がある。鷲尾さんとカルバンさん以外は、暫く発言無しで宜しく。唄はモチ続けてね」
「こちらカルバン、アビ。了解です」
「こちらジェシカ。タッチーが工房に入りましたので通話は私だけになっています。伝言あれば私が受けます。時間差が伴いますのでご注意を」
「今んとこ大丈夫っす」遠く離れてるんで。
元世界のイメージ。
根源は糸電話。音を撚り糸の震動で伝える。
電気の発明と共に、音波、電波、電信。
周波数を特定。有線で繋ぎ合わせ交換配信。
有線から無線。無線と言ってもあれは完全じゃない。
結局末端は有線で繋がり、交換機を介し電波を飛ばしているに過ぎない。
インカムの周波数を切り分ける。
目指すのは進化進歩をすっ飛ばした、完全無線。
衛星回線。
ヒントはタッチーがエンパイアを倒した時の光景。
光とエネルギー線をBOXの亜空間で受け止め、屈折させて放出するあの技。
自分の身体を触媒とする積もりはない。
全く別の物質を大気圏外まで打上げる。
使用可能な手段は限られる。
人の耳が判別出来る周波数帯。僕の天配スキル。
そして高密度エネルギー体の魔石結晶。
触媒、交換機、継続的な電力の役割を全て兼ねさせる。
試作機とは言え、今から8色小粒を並べても意味が無い。
8色石を持っているのはタッチーかヒオシの2人。
「カルバンさん。タッチーから8色魔石を貰って天高く上空に打上げてくれない?出来れば無傷で大きい奴を」
「…可能ですが、目的が理解出来ません」
「ジェシカさん。タッチーにこれだけ伝えて。魔石を衛星にするから特上石ヨロシクってさ。それをカルバンさんに渡して。詳しくはタッチーに聞いて」
「解りました。魔石が大きい場合は、アルバ様助力をお願いします」
「りょ…、あ、いけね」
「無理して黙らなくていいよ。1発目は試作。本番は2発目。2個目にやって貰いたい事があるから準備出来たら教えて」
軍配を取出し、配を振る。
飛空挺は上昇を続けていた。
地上からの攻撃は届かない高度まで。
「ジョルディ。高さは充分。止まっ…」
不意に窓から見えた光景に驚き、思考が一瞬飛んだ。
「そんな…、これは…」
ジョルディも舟の上昇を止めた所で絶句していた。
「嘘だろ…」
見えたこの世界の形。中央大陸の北の果て。
信じられない。
遙か彼方の地平線の先。
この世界は、北の大陸の端から見切れていた。
星よりも大きい何かに囓られた様な。
その先に広がっていたのは、真っ黒な空間。暗闇。
まさか、アレがブラックホ…。
「1つ目。上がります!何が見えたのですか?」
説明してる暇は無い。
「1発目はフェイク。詳しくは合流後に説明する。
タッチー、フウさん。大急ぎでレコーダー作ってアビさんの歌声録音。2発目に賭ける!」
「行き成りそんなの造れないわよ」
「無理でも何でもやってくれ!それが出来なきゃ、僕らは負ける。それ処か、この世界は終わりだ」
「何かヤバそうだね。誰か録音機材持ってない?スマホでもデジカメでも」
「それなら俺の秘蔵のカメラが…」
ヴェルガのその一言で、アビの歌声が中断した。
「それ没収!今直ぐタッチー君に渡して、今直ぐ消しなさいよ!!」
「落ち着けアビ。着替え撮られた位で唄止めんな」
フウに遮られ、詠唱が再開された。
声に怒気が乗っかった。聞いてるこっちの感情も引き摺られる。
「着替え…?今、着替えと?」サリスが怒り心頭。
「頼む。みんな冗談やってる場合じゃないんだ!通信では傍受されるかもだから話せない。1秒でも早く」
「ヴェルガ。デジカメ出せ。ボコっても死なないんだろ?でも殴られれば当然痛いよな」
「…どうぞ。イジメ、イクナイ」
「記録はおれが消す。怒りを静めてくれアビ。進路変更、砦に戻る」
「俺の思い出が…」
「死なないなら、斬ってもいいかな」
「サリス!それは全部終わってからだ!!」
アビの声から怒気が払われた。
何とか落着いてくれたらしい。
ホッとしたのも束の間。
「来る!」ジョルディが叫んだ。
「何が」
「黒点から、高速飛来物体!」
自分で確認出来たのは、真っ白な光の束。
次の瞬間にはジョルディにタックルされ、操舵室側壁から外へ飛び出していた。
誰も居ない、空へと2人の身体は吸い込まれた。
瞬時に消し飛んだ飛空挺。
頭上を通り過ぎた光の束を、ぼんやり見詰めながら。
門藤が求めていた物の片鱗を掴めた気がした。
-スキル【博愛】
並列スキル【空想具現】発動が確認されました。-
具現化したのは、翼の代りのグライダー。
「張りぼてです。飛翔スキルのレベルが低いので依代を用意しました。ガモウ、天啓を」
「お、おけ」
砦までの標を降ろした。激戦只中の中心へ。
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だが、條は集める。
強くなりたいからじゃない。
ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。
逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。
これは――
「役に立たなかった人生」を否定しない物語。
ゴミスキル万歳。
俺は今日も、何もしない。
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