お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第77話 休暇出発

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朝早く窓を開け放ち、ベッドを整え、
トレーニング&お風呂後の朝食。

カツレツサンドと味噌スープ。

「さてさて何時あちらに行きますか?」
「ホテルには昼過ぎに入ればいいから…何処に飛ぼうかも悩みます」

「海開きは来月だよね」
「そうなんす」

「海辺はそろそろ人が居ると」
「だと思います」

「ご家族連れを驚かしても気分が悪いし」
「町から北のどっかに飛ぶかな」


それしかないなと。旅の準備をした。

俺は上着無しの普段着にロープオンリー。
フィーネは普段着シュシュ、チョーカーマスク
+ビスチェオンリー。
クワンは新しいチョーカー+普通のケージ。

偽装はどうでもいいやとなった。

どうせバレるんだし。

準備を終えた頃にアローマが来た。

若干お疲れ気味の…大きなお世話だな。
「もうご出発ですか?」

「後はシュルツに挨拶するだけだし。飛ぶのは昼過ぎ」
「それまで何しようかなぁって」
「クワァ」

歯車時計を見ながらダラダラ。

お茶を淹れて貰いダラダラ。

「ダメ人間になりそう」
「蕩けて動けませんなぁ」

「あの、スターレン様。お許し頂けるならスマホの四番をお借り出来ませんでしょうか」

「いいよ。何かあった?」

「先日ここで待機していた時に、少々気になる箇所があったので」

スマホをアローマに渡すと、
通話選択画面で、指定番号を長押しした。

そこで現われたのは。
「「Cメール!」」

流石はベルさん。その機能は外してなかった。

「ここで長押しだったか」
「ナイス、アローマさん」

「いえいえ。それはどう言った機能なのですか?」

「簡単な文章を送り合う機能だよ。
直ぐに応答出来ない状況とか、声でお話出来ない時に使えるね」


急遽3番のシュルツを呼び出し。
「今からこっちに来られる?」

「はい!着替えてから向います。少々お待ちを」
起きたばかりだったか。

昨日無理してなきゃいいけど。



侍女長さんに連れられ、息を切らせてシュルツ到着。

「昨日…ちょっと、夜更かしをしてしまい…寝坊を」

「もー。無理しちゃダメでしょ」

「でも、色々考えている内に楽しくなってしまって」

まあ落ち着けと、適度に冷えたオレンジジュースを出して飲ませた。

ここは牛乳だったかな。

飲み終わった頃に。
「ごめんな。後で挨拶に行く積もりだったけど。
スマホの機能に新しい発見があって、その説明を」

「そうなのですね。それは聞きたいです」


1を俺が。2をクワン。3はシュルツ。
4をアローマ。5はフィーネ。

Cメールの使い方を説明しながら打ち合った。
絵文字は無い。純粋な文章と改行だけ。

文字数制限の明記は無かったが、大体300文字は余裕で打ち込めた。

「凄いです!これなら応答出来ない状況でもお返事が打てますね。
…クワンティが翼の先で文章を普通に打ってしまったのも驚きです!」
「クワッ!」

「この方が足の爪で書くよりも断然早いね」
「クワァ!」

器用過ぎだろ…。

「次の持ち主が決まるまでこのままの配分で行くか。
クワンのはケージの中として…底面に置くか側面。
どっちがいい?」

「普通のケージは狭いので、側面がいいです」

「おっけ」

ケージ内前方の側面に固定化した。

「アローマさんもまた何か見付けたら教えて」

「畏まりました」

「シュルツもだけど。
もしも誰かに強奪されても、まず自分の身を守るのが最優先で。取り返すのは私たちがやるから」

「そうそう。命より大切な物じゃないからな」

「「はい!」」

「どうせこんな複雑な物は誰にも真似出来ないし、
自分で使う以外に用途はないし。変な奴に拾われたら他の全部でブロックすればいい」

「そうね。あ、そうだシュルツ。こないだ渡した蔦って余りそう?」

「はい。半分位は余ると思います」

「ならスマホの上に空いてる小さい穴に通して、貴重品ポーチに繋げられる紐の作成もお願いしてもいい?」

「はい!了解しました」

「頼み事ばっかでごめんな」

「大丈夫です。
その代わりにラフドッグで一杯遊んで下さい」

「何時ぐらいになりそう?」

「まだ…。お爺様の説得に難航中ですが。
予定通りの真ん中辺りで何とか」

可愛い孫を手元に置いておきたいのかな。


冷蔵庫のシャンパンを詰め込み、戸締まりをして本棟で昼食を頂いて、ラフドッグ方面へ飛んだ。

そこは街道を西に逸れた獣道。
町と財団の港を繋ぐ陸路の途中。

「いいねここ。人が居ないし迷惑にもならない」
「次から何かあった時はここだな。
最初の時にゴーギャンさんが教えてくれたのも、
何かの際にはこっちを使えって事だったのかもね」

「なるほど~。ゴーギャンさんって凄い人だね。
流石はロロシュさんに一目置かれるだけはある」
「そのゴーギャンさんが急に秘書官を付けた。
ピレリさんには俺も注目してたし…」

「だから教育を?」
「それも含めて。一度シュルツに会わせてみたいなと。
どうかな」

「う~ん。真面目で情熱的…
少し私たちより年上…
会わせてみてお互いの許容が許せばってとこかな」

「そもそも彼が独身かどうか確認してからか」
「そりゃそうだ」


森林地帯を抜ける前に、昨晩の余韻が忘れられず
暫く停滞した後。

街道に入って、
北の入口からラフドッグの街並みを眺めた。

「やっぱり落着くなぁ、この景色」
「…スタンさん?」

「何ですかフィーネさん」
「切り替えが…早過ぎませんか?」

「ここで甘い言葉を囁いてしまうと、ホテルから出たくなくなってしまうので、これでも我慢しているのですが?」
「…仕方がありません。ですが行動を移す前には
必ず一言が欲しいです」

「次から善処します」
「修正願います。…さてと」


エリュグンテにチョックインと日数確認。
ディナーは部屋で取る事にした。

最上階の部屋。

春夏用のブーツも靴下も脱いで素足で歩き回った。

「全然寒くないね。素足が気持ちい~」
「忘れられない和の感覚。…テラス出てみるか」

前回は寒くて堪えられなかったオープンテラス。

海は一段と輝いて見えて、夏の到来を感じさせる緩やかな潮風。

クワンも飛び立ち、遙か上空を旋回。

「クワンティも楽しそう」

そんな彼女を後ろから抱き締めた。
「ここでキスしてもいいですか?」
「ここでの問い合わせは不要でしょう」


最高の景色を横目に重ね合う。


室内に戻って荷物の整理。

小型冷蔵庫にシャン…
「入ってるやん!」
「これは先手を取られましたね」

やるではないかエリュグンテさん。

「1本空けてからお出掛けする?」
「それは夜のお楽しみで。お参りが先です」

「その通りで御座いました」


クワンを呼び戻して、お出掛け。


通い慣れた礼拝堂で到着報告。

俺たちに気付いた人々が方々に走って行った。
毎度の事です。

もう気にしない。


白い砂浜にやって来た。


やはり家族連れが多い。

子供たちが手を振ってくれたので振り返した。


暫く腰を下ろして海を眺めた。

「これは…」
「日焼け止めが要るね」

振り返って用品店を確認すると3軒に増えていた。

水着を購入した店とは違う店へ。

「来月来る予定はないけど。俺も水着買っとくわ」
「私も普通の奴買おう」

ポロリがあってはいけない。
正しい実用性を考えなければ。

裾の長いトランクスタイプがあったのでそれを。
フィーネさんは面積の大きい水色のビキニを。

そっと上を渡して来たのでサイズを確認。
「大丈夫。ピッタリ」
「そう。便利なのか、ただのエロなのか微妙」

それをやらせたのは貴女では?

ただエロいだけなので反論は無い。

日焼け止めのローションも購入して退店。


「ここにも屋台並ぶのかな」
「どうだろ。それだけ見に来るのもありだな。
仕事中に行き成り翌日真っ黒とか笑えるし」

「どうしたんですか!てなるね絶対に」



もう日中なら半袖で行けるのが解ったので、
服屋さんで半袖と短パンを数点購入。

鍔の大きな麦わら帽も幾つか購入した。

「これぞ夏って感じの服だね」
「遂に来た。でも俺は泳げない」

「全くだっけ?」
「泳げた記憶が何処にも無いっす」

「その時が来たら教えてあげる」
「お願いしまっす」

今は彼女の胸ばっかり見る自信しかない。

「目が既にエロいのですが?」
「気の所為でしょう」


幾つか店を回り終わった頃には、空はすっかり茜色。


ホテルに戻って夕食を待っている間も
綺麗な夕焼けを眺めた。

「海辺の景色と夕焼けって、どうしてこんなにも綺麗なのかな」
「空も海も街並みも。
茜色を迎えて、何処か懐かしい郷愁。
これは何処にでも在って。誰の物でもない。
欲しても決して手は届かない。だから切ない」

「…相変わらず振れ幅が激しいです」
「お褒め頂き光栄です」

「褒めてないし」


続々とリビングテーブルに運び込まれるお料理。
副菜に鶏モモ肉のソテーがあったので、別途ポークソテーを追加発注。

「追加のオーダー。デザートのご用意の際は係の者までお申し付けを。
それではごゆっくりご賞味あれ」

誰も居なくなってからクワンがスマホに向かった。

「なになに。鶏肉はまだ抵抗があります。
鶏の唐揚げはもう暫くお待ち下さい。
カレーは美味しかったです。きっと実害は無いです」

「「唐揚げが遠い!」」

「気長に行こう」
「まだまだ人生長いんだから」
「クワッ」


シャンパンとジュースで乾杯。


「豚肉の唐揚げなら作れるから」
「それでもいいね。帰ったら作ってみよっか」
「クワァ」


ラウンジでは出来なかったアーンをしたり、たっぷりとディナーを満喫した。

デザートは白桃と李の冷製シロップ漬けだった。

「これも夏っぽいね」
「寒天が在る筈だから、ジュレも提案に加えるかな」

「そう言えば2つ提案するって言ってたけど」
「1つは鰹節。もう1つは蒟蒻」

「そっかぁ。全部海産物を使う物か」
「そうそう。だからここだけの提案。
あとは蒟蒻芋が近くにあるかどうかだね」

「なら明日は魚市場じゃない方の市場に参りましょう」
「あるといいなぁ。多分普通じゃ食べられない芋だから捨てられてそうな予感」

「楽しみだね」


食後に新しく購入した服を見せ合い、試着しながら夜を過ごした。
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