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第107話 南方への視察05
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避雷道具の検証結果は上々。
ソラリマを巻き上げ、プラズマを盛りで内包した空刃をフィーネに当てようとしたが綺麗に手前で霧散した。
残る課題は小物商品をどうやって梱包するか。こちらは追々探って行こう。
強引に斬撃で粉微塵にする策もあるが、下段には霊亀が控えている。もっと良い方法を探してみてから。
古代都市再突入はそれからだ。
ラフドッグに4人とクワンで飛び、実はエリュグンテでしたと紹介すると当然2人は喜ぶと同時に。
「王都の居残りには言えねえ…」
「言えませんね」
早めに仕事を切り上げ他の3人も泊まらせてあげようとの案で一件落着。
ソプランたちの部屋は下の4階の角部屋。
始めて見る4階からの南向きの景色も新鮮。真夏の日差しが眩しいです。
最上スイートの間取りを縮小化した4分の1スペースでも充分広い。複数でとなれば上下で男女別でもいい。
…男が下だわな。
我らがスイートにも2人を案内。
アローマのテンションが可笑しくなってしまい、フィーネを連れ回してキャッキャしていた。
テラスにも出て直射を浴びた。
「来たぜ夏!」
「やっぱ夏!」
「クワッ!」
「海かぁ。何年振りだっけなぁ」
「潮風の匂い。日差しが強くても爽やかですね」
日焼け止めを塗らないと大変だと。各ペアに分かれ塗りたくり1階ラウンジで集合。
「視察団はどの辺りに居るんだ?」とソプランが問う。
「確かゴーギャン宅の近くに財団の宿舎が…」
と俺はスマホでシュルツの位置を探った。
「あ。シュルツこっちに向かって来てる」
「待ち切れない、と言ったご様子ですね」
アイスコーヒーを飲みながら待っているとシュルツが侍女長を連れ、日傘を片手にやって来た。
「お待ちしておりました。今日は私が町をご案内します!」
元気一杯だな。
宜しくと俺たちもホテルの小洒落た日傘を貰い、シュルツの先導で町中を練り歩いた。
勝手知ったる迄ではないが粗方歩き回ったと自負するラフドッグ。しかしシュルツの目線は一味違い、ガイドマップには乗っていなかったペットショップやハイセンスで可愛らしいアクセショップ、雑貨店等を多く紹介してくれた。
「どうですか?」得意気な笑顔に。
「「お見逸れしました」」謝るしかありません。
「昨日も来てしまったのですが」
と丼屋さんに6人で入店。
昼時のピークを過ぎていて混雑はしていない。
鰹と鮭の湯引き二色丼、白子と海胆の相乗り丼、
鱈の親子丼、鮭とイクラの親子丼等々。
各自で好きな物を発注。お好みで魚醤と出汁醤油の瓶が置いてあった。
「遂に醤油がここまで来たか」
「満を持してって感じだね」
お店の許可を得て。自分たちだけ薬味に山葵を追加。
「辛みが苦手なら少量でね」
「こないだのシュルツみたいにクシャミが止まらなくならないように」
「恥ずかしいので思い出さないで下さい」
山葵を見掛けた店員さんがそれは何と聞くのでお裾分け。
「大量に塗ると激烈に辛いんですが。湯引きとかに少量塗って食べると風味が全く異質な物に変化して美味しいですよ」
「鼻の奥に抜ける香りが突き抜ける爽やかさです」
自分で小皿でお魚を持って来た店員さんが一口パクり…
目を見開いて厨房に飛んで行った。
「未知との遭遇の反応は何時見ても面白い」
「あらあらお人が悪い」
引き返して来た料理人が何処で購入出来ますかとのご質問。
現在の取扱はアッテンハイムの首都だけ。国内で栽培している物が成功すればロロシュ財団経由で拡販しますと未来の宣伝をしておいた。
大切な夕食会が財団舎屋であると言うシュルツは、緊張した面持ちで夕暮れ前に帰って行った。
鮮やかな夕焼けに染まる海辺の町を。ホテルのテラスから眺めて初日は解散した。
こっから先はそれぞれ夫婦の時間。と思ってオーダーお摘まみで強いお酒を煽っていたら…。
ペリーニャからの初直通話。
「はいはーい。どうした。何かあった?」
「堪えられません。私も港町に行きたいです!」
「「えぇ!?」」
「御父様は説得出来たの?」
「グリエル様が許さんでしょ。ペリーニャ単独じゃ連れ出せないし。誘拐なんてしたくないぞ」
「何としても捻じ伏せます。我慢の限界です。私はお二人のお部屋にお邪魔します。護衛数名の宿の手配を是非!」
「ここに泊まるのは俺が降りれば済むけど。責めて護衛の人数確定させて。それじゃ手配も出来ないよ」
「…承知しました。頑張ります」
「そっちの方向で頑張って欲しくなかった」
最後はションボリした弱い音色で通話を終えたが、大丈夫なんだろうか。
「折角助け出されても、実家に軟禁状態ならストレスも溜まるわなぁ」
「気持ちは解る。グリエル様応じてくれるかなぁ」
ヘルメンっちに伝えるべきか否か。
シーズン真っ盛りで大人数が泊まれる宿は空いているのか等心配事が増えてしまった。
「ペリーニャって今…こっちの状況見えてた?」
「スマホを通じて?」
真贋の瞳恐るべし!
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朝食時。コンシェルの人にホテル周辺で10人前後が泊まれる宿を探して貰ったが…有る訳無かった。
「ロロシュさんに頼み込むかぁ」
「それしか無さそうね」
下の2人に事情を説明し、ペリーニャ来たら2人の部屋に俺を泊めてと伝えると。
「まあ…仕事なら…」明らかな拒絶色。
「ソプラン。今は新婚旅行ではありませんよ」
「わーってるよ。しゃーねーなぁ」渋々了解。
「旅行なら俺たちが南に渡った後でたっぷりと」
「何の邪魔も入らないわ」
説得は実り2人は赤ら顔。俺たちの散々な新婚旅行よりは余程楽しい物になるんだから我慢してよ。
午前の早めにゴーギャン宅の西奥手に在る財団宿舎を訪問した。
そこにはシュルツを前にして腕組みで唸り続ける、斜めご機嫌なロロシュ氏が。
「何かあったの?」
「スターレン様。昨日の夕食時から、御爺様がご立腹で」
「怒ってはおらぬ。決して怒りではない。シュルツに婿を探してみるとも言ったのはわしだ。だがあのピレリでは…少々役不足かと思案しておるのだ」
適度に冷やしたアイスティーを頂きながら。
「彼の将来性だけでは勝負出来ない。ロロシュさんはそう言いたいんですね」
「極論を言えばな。ピレリが持つ寒天や海蘊酢事業。財団の伝手を使えば多くの利益が見込める。若くして苦労した人生経験も有り、真っ直ぐな好青年だと感じた。君らが目を掛けるだけは有る。だがしかし…ライザーとの縁を切るには武器が弱いと考えてしまう」
海蘊は自分で見付けたみたいだな。いいぞその調子で頑張れピレリさん。
フィーネに小声で。
「温泉事業譲ってもいい?」
「スタンが見付けた物だもの。好きにしていいよ」
軽く咳払いして。
「本人を差し置いて。ご両親への挨拶回りも済んでいない段階で他人が横槍を入れるべきではないのは承知の上で2つ、ロロシュさんとシュルツに提案したい案件があるんですが。聞きます?絶対怒らないで」
「わしが怒る様な内容なのか。…話せ」
マッサラ真東の未開拓の山岳地帯に温泉の源泉を発見して既に土地を丸っと買収。将来的に温泉郷を開く構想を地図を見せながら説明した。
傍らで栽培中の山葵もオマケで。
どうして購入前に言わんのだと激怒されたのは無視。
「偶には自由に商人やらせて下さいよ。俺たちは財団の傘下に居ても。商売上では個人事業主なんですから」
舌打ちだけ返したロロシュ氏。
「温泉郷のリゾート開発事業は近年で一番の大事業になると思ってます。必要となる多くの人手は将来開放されるかも知れない奴隷層の人々からも賄えます。
但し。事業にはそれを一手に管理する人材が必要。まだ始まってもいない段階で。開発初頭から彼に参入して貰えれば、充分な武器になる。とは思いませんか?」
「将来的に譲るのか」
「それでは彼への負担が大きすぎます。立ち位置的に俺たちはオーナー。彼は総支配人。それも独りぼっちじゃ辛すぎる。そこでそんな孤独な彼を、表も裏も影から支える財団幹部が…」
「私ですね!」シュルツが万歳。
「むぅ」
「本人の意志が固まるなら。この事業を丸ごとロロシュさんにお譲りします。これ以上無い案だと思いますが」
暫く思案を重ねたロロシュ氏。
「明日ここで昼食会を開く。ピレリも呼び付けてな。そこで詳しく話をして問い正そう」
「有り難う御座います。御爺様」
駆け寄ってロロシュ氏の頬にキスをプレゼント。
これには頑固な爺ちゃんもデレデレ。チョロいな。
そして頑張れピレリ!
「もう1つ。全く別件のご相談が」
「何じゃ」緩々なお顔で。
アッテンハイムの聖女ちゃんが最低10人規模の護衛引き連れてここへ来たがっていて。ペリーニャ以外の護衛を泊められる場所は無いかと。
「…ヘルメンには秘密か」
「いやぁ悩みましたが何か起きては大問題です。王都に戻って事前に報告して来ますよ。何ならグリエル様と直接通話して貰います」
「なら良い。場所ならこの建屋の一角を開けてやろう」
「そう言ってくれると思いました」
「我が儘ばかりで御免なさい」
「なあに。多難ではあるが明るい話題だ。幾らでも聞いてやる。バインカレみたく無視された挙句にポイ捨てされるような老害とは呼ばれたくないのでな。
これでカメノスにも一泡吹かせられると思うと笑いが止まらんぞ」本音はそっちかよ。
そのまま昼食を財団宿舎で頂き、今回の本分。クルーザー運転訓練を遂行。
来る度に進化する豪華仕様に溜息を漏らしつつ乗船。
サポーターとしてゴーギャンさんも乗り込み出港。
沖に出る道半ば。
「スターレン様。フィーネ様。そろそろこの船に名前でも付けられては如何ですかな」
船の名前か…。貰った当初は使い捨てで考えていて付ける発想はなかった。今では捨てられん。
「どうするフィーネ」
「そうねぇ。私たちの名を取って「スタフィー」ってどうかしら」
俺たちの未来の子供に付けるような重要な話でもない。船にならアリか。
「それいいな。採用で」
「今日からこの子はスタフィーです!」
「良いお名前ですね」シュルツに褒められフィーネもニッコニコ。
「俺たちの子供の名前もフィーネが考える?」
「それはしっかり2人で考えましょうよ」
そうかそうかとイチャイチャ。
急上昇した暑さに文句を垂れるソプラン。
「船内がクソ暑い。ゴーギャン氏。何時かこの船に冷暖房機能入れてくれ」
「それは名案ですな。考案しておきます」
「お二人のお子…。楽しみですね」
自分たちと重ねているのかアローマの顔もニヤけてる。
さっさと使命を終わらせよう。でないときっと実らない。
今はまだプレッシャーに感じる年齢じゃないが。この先何十年と掛けるようなら本末転倒。
俺とフィーネに肉体的年齢差が生まれて不妊に陥る可能性だってあるんだ。ダラダラなんてしてられるか。
と決意も新たに挑んだ操縦訓練。
天才シュルツは数分でマスター。
魔力を流す事に慣れていないソプランとアローマが手子摺った。
意気消沈する2人に。
「明日の午後も訓練あるのみ。1週間位は猶予あるから頑張れ」
「おぅ…」
「はい…」
追憶の双剣に魔力吸われる感覚の逆のイメージが近いかもとアドバイスして訓練初日は終了。
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午前は自主練。
の間に単独で城に戻り、陛下にお目通り。
ペリーニャのご招待案件を相談した。
「報告を怠らなかったのは評価するが…いや困ったな。
一介の町娘を招待するのとは訳が違う。聖女の身の安全はお前が保証するのだな」
「それはもう全力で」
「ならば特別に許可しよう。グリエル教皇ともお前が責任を以て交渉せよ」
丸投げされてもた。
「賜りました」まあ一手間省けたと考えるか。
話題が切り替わり。
「所で古代遺跡の件はどうなっておるのだ」
「お気が早いですよ。あれは直ぐに結果が出せる物ではありません。…強いて言うなら。無数に散る難敵を一挙に集めて一網打尽に屠る。そんな道具でも無い限り先へは進めない。と言った所です」
「…進んでおるではないか。例えばそれは集塵器のような道具か」
掃除機。得てして合致しているかも。
「近いですね。しかし水中故に水と分離せねば」
「確かに。締結の鎖は消え去ってしまったしな。あれに類する物は私の記憶には無い。そちらの案件は気長に待つとしよう」
「良好な結果を以てご報告致します」
「ふむ」
ペリーニャの件の許可は得た。しかし遺跡で必要な道具は不明。
欲張っちゃいかんな。
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今後の打ち合わせを兼ねたラフドッグでの昼食会。
ゴーギャン、メドーニャ、ピレリの大緊張した3人を交えたお昼の後で。俺から一大温泉郷事業計画を説明した。
呆ける3人を前に。
「俺たちが用意出来るお膳立てはここまで。猶予は変わらずシュルツが成人するまでの約4年。後は…肝心のピレリさんの気持ちと決意次第」
「…」
シュルツ自身が駄目押し。
「御爺様の許可は得ています。私の気持ちもライザー殿下から離れております。私を救って頂けますでしょうか。
ピレリ様」
そのピレリが奮い立ち宣言した。
「丸で激流に身を投じているような感覚ですが。その使命必ずや達成して見せます!お嬢様にここまで言わせておいて引き下がるなら生涯の恥。
その戸を開き、道まで用意して頂いたスターレン様への感謝を忘れず。邁進し、死に物狂いで実績を積み。殿下の下よりシュルツお嬢様を奪還致します」
「嬉しいお言葉です。ピレリ様」
「わしの台詞は無いようだな」
場が落着いた所で。
「ピレリさんのやる事は変わりませんが…。このままではライザー殿下が余りにも哀れ。婚約まで果たし、他国の首脳の前で宣言までした女の子に振られる訳ですから。
成婚直前で奪われたら。俺なら泣いて怒り狂います。
それを認めた陛下や王族の皆に泥を塗る形です。これでは非常に体裁が悪い。
他の候補者を捜せるだけの時間も必要と考えます」
「今の段階で説得を試みるか」
「その方が良いでしょうね。今なら偶然にもシュルツの両親とライザー殿下がウィンザートに居ます。
外堀を埋めきった後で心苦しいですが。この場の関係者と家族総出で頭を下げに行くのがベストかなと」
「…スターレン様の仰る通りですね。散々利用してから切り捨てては、私は飛んだ悪女に成る所でした」
ロロシュ氏が決議を述べた。
「アッテンハイムの聖女が何日滞在するかは知らんが。
その接待が終わったら行こう、皆でウィンザートに」
ウィンザートへの移動手段は財団の中型高速船を使う案で合意したが操縦訓練は訓練。
昨日よりは動かせるようにはなったがまだまだソプランとアローマは難航中。
今日の乗船は4人だけ。アドバイザーは無し。
「難しいなぁ。動けよ!て怒りに任せても動かねえ」
「難しいですね。想像とは全く違います」
「私たちの教え方が悪いのかしら」
「うーん。こればっかは当人のセンスの問題だからなぁ」
あれこれと考案して実践してみたが上手く行かず。
荒療治とばかりに。2人をロープで船の上空に運び、上視点で船を動かすイメージを掴んで貰った。
結果これが功を奏し、かなり動かせるように進歩した。
そこからは早い物で。
「おぉこれか!これでいいのか!」
「これですね。身体から魔力が抜けて行くのが解ります」
まだ力任せにレバーを押し倒す雰囲気が抜け切らないがいい感じだ。
「この調子なら明日もうちょい練習すれば物に出来るよ」
「今日はこの辺にして。巡航速度を変化させながら帰りましょう」
よしと意気込む2人に対してクワンが突然交代を要求。
あっさりと操縦して見せ。
「クワンティーに負けた…」
「私たちはいったい…」
残念でしたと慰め、その夜はラウンジで集まりプチ慰安会を開いた。
人間2人は自棄酒を部屋に帰ってからも飲み明かしたと言う話。
俺たちが部屋へ戻った時にペリーニャから入電。
「はいはい。説得は出来たのかい?」
どうでもいいがペリーニャは俺の方に直接来るな。
「その説得をお手伝い願いたく思い…」
ペリーニャの後ろから大きな咳払い。
「グリエルだ。娘は渡さないぞ」
「スターレンです。そんな嫁に出す訳でもないんですから大袈裟な。
護衛付きで数日旅行させるだけです。今のタイラントは平和そのもの。俺たちもちゃんと見てますから」
「安心してお任せ下さい」
「うぅ…」まだ悩んでる様子。
「グリエル様…ひょっとして御自分が行けないからって拗ねてます?」
「そ、その様な事は無い。断じて無いぞ。私は娘の身を案じているだけで」
「では護衛は何人になりますか?泊まれる場所を確保したいので正確に」
暫く間が空き。
「ゼノンの部隊から六名。選出する…」
意外に少ないな。信頼関係の表れと捉えよう。
「早速明日の昼過ぎにお邪魔しても宜しいでしょうか」
「こっちは何時でも。ヘルメン陛下の許可も得てますんで。
滞在は何日予定?」
「二泊三日が希望です」
「了解」
「仕方ない。今回は特別で特例だぞ」
「私が自律する機会を奪わないで下さいまし!」
いい加減に子離れしてよと、ペリーニャの怒りでフィニッシュ。
通話を終えて。
「明日の操縦訓練は午前だけだな」
「午後からは接待かぁ。何処案内しようか」
「ペリーニャの顔は知られてないし。自由に本人の希望に任せよう」
「シュルツにも会わせたいし。忙しいね」
何でこんなに忙しいのやら。
シュルツとアローマに明日に聖女以下7名を迎える予定をメールして晩酌開始。
「俺たちって水入らずで過ごせる時間短くない?」
「夫婦円満。末永く過ごす為にはこれ位が丁度いいんじゃない。ポジティブに考えましょう」
そうしましょう。
「南に渡ってからも何かに邪魔されそう…」
「それは嫌ね。全力で邪魔者たちから逃げ回ろう」
いっそゴーストダンジョンに逃げ込むか。などと冗談を言い合いながら。
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操縦訓練は程々に切り上げ、早めに昼食。
午後になり何処に飛ぶのと相談の上。首都滞在時に貸与された部屋に飛ぶ事となった。
「じゃあ行って来る」
「ちょっと待って。物凄くいやーな予感するから私も行く。クワンティはお留守番」
「クワッ」
嫌な予感?何だ?とは言え置いて行く理由も無い。
2人で飛ぶと…。
室内にはグリエル様とペリーニャ。同行予定の6名が待ち構えていた。
今回の護衛はゼノンとリーゼル、女性騎士も混成隊。
万全の武装状態。
「お久し振りです。隊員の武装は全てペリーニャのポーチに収納して下さい。町中での武装は認められません」
「しかし…」
「衛兵と喧嘩したいのですか?隠密としての配慮を」
「良い。彼らの言う通りだ。これはペリーニャの旅行であって戦地に赴く訳ではないからな」
総員武装解除中に、やや残念そうなペリーニャが。
「出発前に先日のお礼代わりに。この様な物が隣国の愚王から送り付けられまして」
包みから取り出された…筒状の物体。
短い銀色のバトンみたいな形をしている。
「これを頂いても宜しいのですか?」
「鑑定しても意味不明。使い方も解らん。そんな使えそうもない道具を。ピエールは此度の詫びの品だと送って寄越した」
それでは拝借。
名前:集塵の祝砲(古代兵器)
性能:群れを為す集団の中に投げ込めば集約可能
完全耐圧、完全防水
初手に当てられれば同種を残らず纏められる
特徴:小さく散らばる鬱陶しい魔物等に最適
「おぉ!これ欲しかった奴じゃん」
「これさえあれば行けるわね」
「喜んで頂けて何よりです。どうぞお使い下さい」
お礼を言って有り難く頂戴した。
「だがしかし」
「1発勝負ね。気合いと運でぶっ倒してやるわ」
「いったい何と戦うのだ」
「「秘密です!」」
「海底の…」
「「言っちゃ駄目」」
秘密って言ってるのにバラしちゃ駄目でしょ。悪戯するなら連れってあげないぞ。
「御免なさい。慎みます」
疑いの目を向けられたがアッテンハイムとは全く無関係の国内案件ですと答えて乗り切った。事実だし。
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町の北から入り、財団宿舎までの工程で軽くツアーガイドをしながらラフドッグをご紹介。
首都と違い一面水色の外壁の町並みを見回して全員思い思いの反応と感嘆を漏らしていた。
序でに小さな女神教の教会にも立ち寄った。
「別に迫害でも差別でもないですよ」
「信者の方が殆ど居ないだけです。誤解無きよう」
「存じておりますよ」
管理する神官夫婦にペリーニャたちが挨拶している間にメンバーと合流。
夫婦は別れ際までペリーニャの手を離すまいと泣いてたな。
挙って宿舎を訪問。ロロシュ氏との顔合わせを経てシュルツとペリーニャの初対面。
手を取り合って喜び合って燥いでいた。
流れでシュルツも引き連れ町のガイドを続行。
出店で色取り取りの海の幸を食べ回り、腹ごなしに海水浴客で賑わう海岸線を練り歩き、屋台でも軽食を摘まんだ。
「そんなに食べるとホテルで夕食食えないぞ」
「大丈夫です。育ち盛りですから」
「あれ?ペリーニャ様はホテルにお泊まりに?」
「お二人のお部屋にお邪魔を」
だったら私も泊まるとシュルツが対抗意識を燃やした。
ゼノンらも聞いてないぞと異議を唱えたが。ペリーニャの一喝で収まった。
「ゼノン。我が儘はお止めなさい。お二人にご迷惑です」
「わが…」どっちがだよと言わんばかり。
「私の自由は成人までの後二年しか有りません。それすら許さないと言うなら。私は全てを捨てますよ」
「ぐ…。承知しました。グリエル様には内密に致します」
アローマとソプランに宿舎とホテルへ夕食変更のお知らせに走って貰い強引に解決した。
事前に話すと反対されたに違いない。
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ホテルに戻り4人とクワンで部屋食。
結構重いの摘まんでいたがペリーニャはペロリと夕食を平らげた。
「やはり本場の魚介は美味しいですね。海に面したクワンジアには行きたくないですし。お邪魔をするなら今しか無いと。お許し下さい」
「まあ気持ちは解るよ」
「もう少し早く言って欲しかったかな」
「済みません。説得材料が浮かばなかったもので」
シュルツがペリーニャに問う。
「ペリーニャ様は明日何を為さいますか?」
「出来れば市場を見て回り、お二人の船に乗せて頂きたいのですが」
「護衛隊も連れてくとソプランたちは待機だな。シュルツはどうする?」
「丁度定員10人ね」
「行きます!」
明日の方針は決まったな。
更にペリーニャが。
「三日目は水着で海を泳いでみたいです」
シャンパンで咽せた。
「ゲホッ…。流石にそれは無理だろ」
フィーネが俺の背中を撫でながら。
「衝撃発言。ペリーニャは泳げるの?」
「いいえ全く。ですので浜辺近くで遊ぶ程度にしようかなと思います」
入るのは決定事項か。
「全員分の水着は買うとして。ゼノンさんたちの説得はペリーニャがしてくれよ」
「はい。お任せを」
シュルツもそっと手を挙げた。
「私も買います!」
「大人しい健全な水着を探しましょうね。エッチな誰かさんの目に触れてもいいような」
余計な事を…。
出来る限り過去の光景は思い出さないように。食事も終わった所でアローマにメールして退出を…。
「下に降りられるのですか?」
「そりゃそうでしょ。未婚の聖女と寝所を共にするなんて国際問題だ」
「そうですか。私は構わないのですが」
「俺が構うの。アローマと交代するから。明日の朝メールする」
何で俺が逃げ出さなきゃならんのだ。
下に降りた後。ソプランに晩酌を付き合って貰った。
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お風呂は交代で入り、就寝前のベッドの中で。
隣床で眠りに入るペリーニャに話し掛けた。
「ねえペリーニャ。スタンに色目使うの止めてくんない」
「…色目などは使っていません」
突然始めた不穏な話で対岸のシュルツとアローマが飛び起きた。
「じゃあなんで困らせるような事ばかり言うの。それもスマホで直接。違うなら私に言えばいいじゃない」
「不服でしょうか。では次回からはフィーネ様に」
「はぐらかさないで。私結構怒ってるのよ」
ペリーニャが。出会った時からスタンに好意を寄せているのは傍で見ていれば明らか。
「好意では…ありません」
「じゃあ何なの」
「憧れ、だと思います。ラザーリアで助けて頂いた時。私の目にはスターレン様が、希望の光に見えました。私を自由にしてくれる。英雄様に」
「都合の良い言葉に聞こえるわ。それって嫉妬ではないのかな。スタンの隣に私が居なければって」
全ては偶然の巡り合わせ。ペリーニャは確実に本心を隠している。
「私は…逃げたいのです。幼少の頃からお前は聖女。やがて女神教を背負って立つ存在だと、言われ続けて育ちました。物心付いた時には猜疑心が芽生え、この不自由な生活から逃げたいと考えるように成りました。
あの外道に拉致された時も。本当は抵抗も出来たのに。
外道に言われた、私を自由にしてやるとの甘い戯れ言に誘われ、乗ってしまったのは半分は私の意志です」
何処に行っても囚われの身か。同情はするけど。
薄ら涙を浮べるペリーニャに嘘の色は見えない。
「泣かないでよ。ペリーニャは本気で戦ったの?救出の件でグリエル様も目が覚めたでしょ。話を聞いてくれる程度には折れた筈よ」
「戦う…」
「親子だもん。立場も色々。親に自分の人生を捻じ曲げられたら他人にされるより憎さ百倍よ。だからこそ。もっと本心剥き出して打つかり合うべきだと思うよ。
お父さん生きてるじゃない。私には誰も居ない。フレゼリカに操られた聖騎士たちに殺されてしまったから。
私は独りぼっちで逃げ出した。逃げ出した先で出会ったのがスタンよ。私にはスタンしか居ないの。
彼は私の全てなの。お願いだから奪わないで」
「奪いはしません。只もう少しだけ。戦う勇気が持てるまで。甘えさせて下さい。お願いします」
やっと本心が出た。
「素直に言えばいいのよ。解ったわ。ちょっとだけなら。
特別に許してあげる。でも度を超したら許さない」
「難しいですね」
「難しいのは当たり前。結局は他人なんだから。愛していたって喧嘩はするし。心や本音が見えたとしても。他人を思い通りに動かすのは難しいものよ」
「はい、胸に刻みます。フィーネ様」
「何?」
「甘え序でに…。添い寝のお許しを」
ペリーニャまでもか。
「どうぞ。勝手に入って隣で寝れば。シュルツは?」
「わ、私は我慢します!」
ムッとして布団を頭から被って横になった。
「お休みぃ」
3人の返事が聞こえて私も眠りに入った。
しかし!翌朝。シュルツまで潜り込んでいて。私の両腕は2人の枕になっていた。
どうしてこうなった。
痛いし動けない。腕枕って一晩やるとこうなるのか。
でも今までスタンに嫌だと言われた事無いし。
自粛しよう…いや残念だが止めはしない。嫌って言われるまでは。
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朝。朝食を最上階で6人で食べ、身支度して日焼け止めを丹念に塗り込み出発。
最上階が女の子の香りで満たされている。
素晴らしい!僥倖だ!有り難う。
フィーネに頭を軽く叩かれた。
「デレデレしない」
「そんなに叩いたらお馬鹿になるぞ」
「それは困ります。じゃあ次からは眼球と鼻の穴に刺激的な軟膏塗り込むわ」
「自重します!」
「そうして下さい」
ゼノン隊を拾う為に宿舎へ向かった…。
ペリーニャが腕を組んで来た?
それも軽くじゃない。成長中の柔らかい膨らみが腕にめっちゃ当たるんですけど。
「私の粗末な物で喜んで頂けるなんて」
反対側の腕はシュルツに掴まれた。
フィーネは肩を奮わせ我慢をしている。
やせ我慢で自我を殺す。
「めっちゃ歩き辛い。ペリーニャ。ゼノンさんとフィーネに俺が殺されるから離れてくれないか」
「許可は得ております。宿舎の前までですから」
許可?フィーネが許したの?嘘だろ。
「シュルツも誤解されるだろ」
「ペリーニャ様が良いなら私も良い筈です」
「アローマさん助けて」
ご当人はソプランの腕に絡み。
「私には何も見えません」嘘でしょ。
取り敢えず宿舎が見え始めた所で離れてくれた。
幸せな時間だったが何だったんだ…。
4人共黙ってるから解りません。
まあいいや。
合流後に市場を回り、ペリーニャが手当たり次第に爆買いを押っ始めた。女の人は買い物でストレス発散するって言うあれか。
ゼノン隊の女性兵2名も便乗参戦。
ポーチの中を食料品や土産で埋め尽くそうってか。商売繁盛で止めなさいとは言わないが。
あのエネルギーは男では太刀打ち出来ない。
勢いそのままに海辺の用品店で水着を漁り始めた。
取り乱すゼノン隊の男性陣。
服の上からオーソドックスなワンピ水着を当てながら。
「ゼノン。似合うと思いますか?」
「わ、私には何とも…。その前に買われるのですか」
「明日は海で泳いでから帰るのですもの。買わなければなりません」
「へ…?お、泳ぐ?ペリーニャ様が?」
「否定は受け付けません。今日から私は我が儘に。在るが儘に生きると決めたのです。さあ似合うのか似合わないのかどうなのですか」
しどろもどろでピンクの水着とペリーニャを見比べる。
「ス、スターレン様。ご助力を」
「知らん。ゼノン隊の皆も海でペリーニャを助けたいなら水着を各自買うように!
ペリーニャはサイズや色を沢山買って部屋で試着出来るようにな」
「はい」
既に水着を持っている俺たちは店内から退散して外でだらけた。
店前の石段に腰を下ろして海辺の風景を眺めていると。ソプランが紙カップのドリンクを近くの屋台から買って来てくれた。
「何か凄え事になってるな」
「昨日の夜何かあったんだろうけど怖くて聞けない」
「聞かねえ方が身のためだ」
「サラッと流すのが吉」
キンキンに冷えたエール酒が美味い…。なんだ作らなくてもあるじゃん。ビールに似た物なら。
「これだと摘まみ欲しくなるなぁ」
「昼飯近くで食うか。買い物長引きそうだし」
そうだなぁと周囲を見渡した。
「財団管理棟の食堂にしようかと思ってたけど…。屋台で済ませようか。それぞれ好きな物買って」
屋台の間の共有スペースの簡易テントを指差して。
フィーネに屋台のテントで場所取りしてるから早めに来てとメールして2杯目のエールを買いに行った。
ゾロゾロと買い物組が参戦。
「何飲んでるの?」
「キンキン冷え冷えエール酒」
ふーんこれから船乗るのに?と言いながらも半分残った俺のをグビグビと。
「うふ。初めて飲んだけど中々美味しいじゃない」
買えばいいのにと。
「各自屋台で好きな物買ってここで昼食。自信あるならエール酒でもどうぞー」
はーいと皆元気な返事。ゼノン隊もどうやら諦めて開き直った様子だ。
ソプランと数名が場所キープしてる間に適当に。
焼きそばに近い細麺魚介焼きパスタ、海鮮お好み焼きとエール酒を大量購入。
「飲み物のカップや食べ物の台紙は購入店隣の空入れに返却で。間違っても浜辺に捨てない。海に投げ捨てたらグリエル様に苦情入れまーす」
全員やらないと返答。そりゃそうだ。
運んだトレイを返しに行こうとするとアローマが奪い。
「返却なら私が。スターレン様はお食事をごゆっくり」
何だか今日は女性陣が優しい気がする。気の所為か。
フィーネとペリーニャに挟まれる形でジャンクフードを美味い美味いと頬張った。
左のフィーネがポテトフライをアーンすると、右のペリーニャもお好み焼きの切れ端を運ぶ。
モグモグしながら。
「急にどうしたんだ。フィーネ絶対嫌だろ」
「別に。明日まで期間限定の特別許可よ」
ちょっと意味が。
深く突っ込んだら藪蛇。スルーに限る。
船に乗る前に酔い止め代わりの解毒剤を配布し、管理棟の食堂で休憩を挟んでから出航。
それでもペリーニャ以外のゼノン隊のメンバーは青い顔。
「吐くなら海に餌付けしてねー」
「限界多数なら引き返しまーす」
何とか沖まで辿り着き停泊。
弱い人にはこの緩やかな揺れでもキツいらしい。
無事なのは俺たちとシュルツとペリーニャだけ。他は全滅で外の景色すら見てない。
デッキにペリーニャを連れ出し、日傘を差し出した。
「どうかな南の海は」
「海の記憶自体が殆ど有りませんので。何もかも新鮮で美しく。心が洗われるようです。水竜教の皆様が海を愛するお気持ちが少しだけ解った気がします」
「海はみんなの物さ。誰の物でもない。信仰だって陸地の人間の思想だけ。ここには本当の自由がある。俺はそう思ってる」
「本当の、自由…」
儚げにそう呟いた彼女に、それ以上の言葉は掛けられなかった。
きっと人には吐き出せない物が胸の内にあるんだろう。それは誰もが同じ。
---------------
何十年振りの海水浴は新鮮だった。
通算しようがしまいが実質初体験と言ってもいい。
俺は後で送迎があるから程々で上がり、砂浜のパラソルの下から女性陣の水着姿を瞳の奥に録画した。
あぁ撮りたい。盗撮じゃない。正面から堂々と。
衛兵に捕まる?何を言う。俺様は今や国の高官。些細な罪など揉み消してやるわ。
フィーネとペリーニャに海から睨まれた。
嘘です冗談です御免なさい。爽やかな軟膏攻めは勘弁して下さい。
お知り合いの中では巨乳のアローマとゼノン隊の女性メンバーに注視していたが…。頑丈で健全な水着はポロリを許さなかった。
隣で同じ様に休むソプランに。下腹部にバスタオルを投げ掛けられた。
「節操ないなお前。大層ご立派な下半身を制御しろ。隣に居る俺が恥ずかしい」
「ごめん…」若さ故お許しを。
お遊びはここまでにして。
目を閉じて今後のプランを構想し直し。
ペリーニャを送り返す。お土産は自分たちで買ったから無しでいいよと。
明日のライザーの説得。みんなで行けば怖くない。
ロロシュ氏が居たって怒るだろうなぁ。本人挽回しようと頑張ってるもんなぁ。
ソプランペアとカーネギペアの入替え。プリタは宿舎かどうするか要相談。
フィーネの遺跡探訪。道具は揃えられたが行かせてあげられるタイミングが無い。今月内のクリアが微妙。
来月頭にいよいよ南大陸へ出発。楽しみ半分、不安半分と言った所。石版の欠片入手が優先事項。
サンタギーナから東に行くと見せ掛けて一路西に向かい、ペカトーレ共和国に滞在して作戦を練り直すのも良い。
急がば回れだ。
新興派の動向も気になるし色々あるなぁ。
ホテルと宿舎に別れ、シャワーを浴び直し帰り支度。
「休暇は楽しめた?」
「はい。心身共にスッキリと。楽しかったです」
お土産として梅肉サンドを人数分持たせた。
「それは良かった。今度外出する時は事前に説得しといてな。これは帰ってからみんなで食べて」
「有り難う御座います」
「じゃあ行こうか」
と飛ぼうとした俺をフィーネが止めた。
「ペリーニャは私が送る。スタンは陛下に報告を」
「そう?じゃあペリーニャとはここでお別れだな」
「ウフフ。愛されてますね。私には刺激が強すぎます。それではまた」
「よく解らんけど。またな」
マントに包まれたペリーニャと一緒に消えた…。
部屋にシュルツを残して。
「あれ?シュルツは?」
「…折角なので。もう一泊を」
「じゃあアローマたちと留守番してて」
「はい!」
城に入り、フィーネからの帰還報告を受け陛下に報告。
「聖女は無事にフィーネが送り届けました」
「うむ。接待ご苦労だった。今度は何を持たせたのだ」
「新作のサンドイッチだけですね」
「何時か聞こうと思っておったが。私には無いのか」
「サンドイッチですか?」
「それ以外に何がある。ロロシュ卿やメルシャンばかりが食しておるのにここには持って来ないとはどう言う了見だ」
「毒味も無しの手料理じゃ拙いでしょ」
「構わん。寄越せ」
欲張りだなぁ。食い意地張ってる。
「では適当に4人分置いて行きます」
態々新品の箱を下ろして詰め込んだ。
「夏場の疲れによく効く梅の実の塩漬けソースを使っていて美味しいですよ。貴重品なんでよく味わって食べて下さいね」
「解っておる」
報告に来ただけなのに大切なおやつが奪われた。
城外に出るのに北周りでノイちゃんの執務室に寄り道しようと歩いていたら。
ウキウキ上機嫌なニーダと擦れ違った。
「お。ご機嫌だなニーダ」
「スターレン様。ノイツェ様が急に私を養子にして下さる運びと成りまして」
急に…。俺の説教が効いた。とは思えない。
「そっかぁ。そりゃ良かったな」
「それもこれもスターレン様のお陰です」
序でに聞いちゃうか。
「唐突な質問だけど。ニーダってどんな人が好みなの?
貴族の一員に成ると普通に縁談話とか来るぞ」
「え…。そうなのですか。でもノイツェ様やスターレン様のご紹介なら受けるだけ受けても良いかなって思います。
好みで言えば…。実はライザー殿下のような剽軽なのに生真面目な方が好みではあります。シュルツ様には内緒ですよ」
「へ、へぇ。かわ…。変化球タイプが好きなんだな。勿論シュルツには内緒だ」
人の好みは色々だ。奥が深い。
ベルさんはライザーと波長が合った。ニーダにはベルさんの欠片が取り憑いていた。
これも何かの縁かも知れないな。
兵舎の方に用事があると言うニーダと別れ、執務室のドアを叩いた。
「スターレンです。入りまーす」
「何時も何時も。こちらの返事を待てんのか」
「お互い忙しいでしょ。時短だよ時短。でロルーゼ方面の件がどうなったか聞きたいんだけど。今駄目なら後日にしようか」
「丁度今一区切り付いた所だ。お茶でも…。君が持ってるなら出してくれ。今日は水筒を忘れてしまった。
マリカの弁当に気を取られてな」
もう事実婚状態だな。良きかな。
接客テーブルにグラスを並べてアイスティーを注いだ。
「そう言えばさっきニーダと擦れ違って。養女にするとか聞いたけど。東の件と関係あるの?」
「…相変わらず鋭いな。前々からニーダの出生に関わる事案で調査を進めていた。それがクインケ・シャシャ。
当初は只の小物と見過ごしていたが。先日君が雨乞いの密偵を捕えた所から調べ直してみたら…。以外に厄介な相手だった。
君の縁者であると言うモーゼス・ウインケルはロルーゼ南端。国境沿いを占める辺境伯に伸し上がっている。
クインケは男爵位。爵位低位の男が狙う物。それは辺境伯の領地かと思ったが違う。奴は地盤を奪い取り、ここタイラントへの進出を画策している。
中枢の意向を半ば無視してな」
意外に大それた事をしようとしてたんだな。
「一貴族だけで戦争を仕掛ける気なのか。単なる阿呆だろそんなの。乗っ取り計画失敗してるし」
「ウインケル家に打診と注意喚起はした。そのまま潰されればそれまでだが。どうやら…ニーダをまだ諦めていないらしい」
「はぁ?」
「ニーダがタイラントに居ると言う情報を誰かが流した。若しくは偶然掴んだ。何方にしろその情報を得てクインケ動き出した帰来が窺えるのだ。
トルレオ家の詳細とシャシャ家の繋がりは不明。飛躍し過ぎかも知れないが」
「トルレオ家が…王族の分家かも?」
「可能性は充分に有る。クインケが無理矢理血縁を結ぼうとしたり。
彼の英雄が敢えてロルーゼを相手にするなと伝えたのだとしたら。逃したニーダを守りたかったのだとしたら。君にはどう見える」
あぁ…そうか。全く逆の可能性。ロルーゼを起こすな。
その警告とも取れる。
「逆も又然り、かぁ」
「英雄の伝え通りに無視は貫く。次の領土侵害が起きるまではな。その先手としてニーダを養子に迎えたのだ」
「詳細情報をクインケだけが持ってるなら。籍の入替えで封じ切れると」
「その通り。しかしここまで大きな話に成ると私一人だけでは抱えきれない。
近日中に陛下にご報告を持ち上げる。
済まんな。任せろと豪語しておいて」
「いや。俺も注意が足りなかった」
「動きが有り次第連絡する」
「宜しく。対処に困りそうなら何時でも呼んで。直ぐに叩き潰しに行くから」
「ああその時は」
そこで用事を終えたニーダが戻って来た。
次から次へと、よくもまあ。
大きな案件を3件も残して南を攻めるのかぁ…。
頭が痛くなってきたぜ。
「また来るよ。ニーダも浮かれ過ぎるなよ」
「またな」
「浮かれてなど居りませんよ」
顔が緩んでいるのは気の所為じゃない。
---------------
ホテルに戻って来たのは夕方前。
先に帰って来ていたフィーネは、ソプランたちと4人でトランプを楽しんでいた。
「どうしたのスタン。遅かったし…疲れた顔してる。お城で何かあったの?」
「ドッと疲れる話をノイちゃんから聞いてさぁ…」
4人にお茶を飲み下しながらお悩み相談。
………
「スタン。私、頭痛くなって来た」
「俺もだよ」
意味も無く解毒剤を飲んでしまった。
シュルツが冷静に。
「可能性は感じますが。今はまだ推測の域を出ません。
小規模にしろ大規模にしろ。実力行使で動き出す前には必ず政治的な動きも同調します。その時ニーダさんが狙われるのなら。予兆が見えた瞬間に何処かへ隠してしまうのが最も手堅い手段だと思われます」
銀縁眼鏡がキラリと光る。
眼鏡しながらトランプしてたの?狡くない?
「おぉ…、シュルツが別人に見える」
「私のシュルツが…大人に」
照れたシュルツはやっぱりシュルツだった。
「ニーダが王族ってのも確定じゃない。シュルツが言ったみたいな状況になるなら。またロロシュ邸かカメノス邸で匿えばいいだろ。
身内と城内では顔が広いし知られてる。
白昼堂々と襲える状況じゃねえよ」
「そりゃそうだけどさぁ」
「何でもお前らだけで抱え過ぎなんだよ。ニーダは俺たちに任せてさっさと南でも東でも行けってんだ」
「もう少し身内や仲間、上司や部下を信用為さっては如何でしょうか。私共ではお役に立てないと言われているように聞こえてしまいます」
「「…」」
「船の訓練が終わったら一足早く帰る。アローマは宝具持ってるし。カーネギたちとカメノス氏に相談してロルーゼに行商隊組んでやるよ。
あっちにはカメノス氏の長女も嫁いでる。どっからでも情報は取れる。それで充分だろ今は」
知らず知らずの内にみんな色々考えてくれてたんだな。
「ごめんみんな。東の件は任せるよ」
「信用してないとかじゃないの。御免なさい」
クワンも。
「地図さえあれば。最速で偵察に行って来ます」
「クワンもありがとな」
「それは最終手段にしたいかな。クワンティは私たちと一緒に居て欲しいし。私が寂しい」
「クワッ!」
「序でにここで飯にしようぜ。俺腹減ったわ」
「私もです」
「食事は大勢で食べるとより美味しいですものね」
「よし。じゃあ頼んじゃおう」
「スタンは座ってて。声掛けて来るから」
---------------
課題は山盛りだが1つ1つ片して行こう。
ソプランの言う通り。
案件を幾つも囓っては途中で捨て、また増やしていては近い将来破綻する。任せられる物は任せるべきだった。
朝食後に準備して財団宿舎で出発メンバーと合流。
先布令はシュベイン夫妻にしか届けられていない。全く知らないのはライザーだけ。完全な不意打ち。
俺なら激怒する。悪いイメージしか浮かばん。
中型商船で昼前にウィンザート着。休まずシュベイン宅へ押し掛けた。
親子の感動的再会。シュルツはずっと我慢して来た。
その一言に尽きる。
甘えられる人が居る。それがどれ程有り難い事か。
抱き合う親子に飾る言葉なんざ要らないさ。
王子を呼び立てるのに部下や恋敵なんて同席させられないと。リビングに集まるは、俺とフィーネ、ロロシュ氏、シュベイン夫妻、シュルツの6名。
ゼファーは隣室。ソプランたちやゴーギャン、ピレリは表通りの茶店で待機中。
昼過ぎに夫妻に呼び出されたライザーは。到着初めは良い話が聞けるのかと明るく上機嫌で颯爽と現われたが。
こちらのメンバーの顔を見回すや否や曇った。
うん。解るよ。これは酷いドッキリだ。
シュルツがこれまでの御礼を述べ、自分の心がもうライザーに全く無い事を告げ、婚約解消を願い出た。
「…私はもう不要か。どうしても私では駄目なのか」
「申し訳有りません。殿下に抱く感情は。スターレン様と同じく兄を見ている様な感情です。恋愛感情では有りません。将来、殿下の世継ぎを生まねば成らぬと想像するだけで反吐が出ます」
シュルツが止めだと抉る。腸を抉り取るようなボディーが容赦無く繰り出された。
「そうか…。誰か好きな男でも現われたのかい」
「処罰されても困ります故。詳細は伏せますが。
大変有望で素敵な殿方が不意に現われました」
「ロロシュ卿やシュベイン殿はそれをお認めに」
「わしの部下の息子だ。スターレンも一目置く男。まだ荒削りだが商売に対する着眼も高く評価出来る」
「私はまだ直接会っては居りませんが。父上がそう評価するなら安心して任せられる逸材だと判断します」
返答を聞いてライザーは深く息を吐き出した。
「辛いな…。私の父ヘルメンは…。
欲する物をどんな汚い手を使ってでも手に入れて来た御人だ。先王を罠に嵌めてまで王座を勝ち取った。
そんな父に恐怖を感じる反面で、憧憬にも似た感情を抱いても居た。私もそう成らんと努力して来た積もりだった。
出来もしない事を出来ると虚栄を張ったり、弱い心を隠す為に尊大に振舞ったりな」
どっちだ。怒り出す流れなのか?
「スターレン殿!」
「何?」
「私に対する世間の評価は駄駄下がりだ。最早挽回も容易ではない。以前の候補の貴族子女にも今更見向きもされないだろう。私から切り捨てたのだし」
「それで…?」
「君ら夫婦は方々でお相手探しを請け負ったり、取り持ったりしているそうだな」
「似たような事は確かに。それが?」これはまさか…。
「恥を忍んでお願いしたい!誰か紹介してくれ!」
「「え…」」誰か嘘だと言ってくれ。
助けを求めても誰も目を合わせてくれない。
俺たちは何時から結婚相談所の相談員に成ったんだ。
「落着いて下さい。殿下に紹介出来るような高貴な女性が急に見付か……」
「ちょっとスタン。勝手に勧めちゃっていいの?」
「だ、大丈夫だ。と思う。偶然好みの男性を聞いたら、ライザー殿下が好みのタイプだって本人が言ってたから」
「誰か居るのか」
「ニーダと言う女性を覚えてますか?ノイツェ殿の部下で何度か目にしていると思うんですけど」
「ニーダ…。あの珍しい銀髪の娘か」
「その人です。ミラン様とも面識があり、近々ノイツェ殿の新興貴族家に養子縁組される予定で。
王都に戻ったら一度会食してみます?」
ライザーV字回復。
「是非とも!何と好都合。ここの復興も後数日で第一段に目処が着く。丁度王都に戻る予定だった」
「人柄は温厚。気立ても器量も良好。真面目で文官としての才能も優れ、ノイツェ殿が認める女性です。そこに家柄も付随すれば」
「素晴らしいではないか!誰にも文句は言わせん。
おぉ、今直ぐ会いたくなって来たぞ」
「但し…。少々懸念事項が」
「何だ」
ニーダの出生はノイちゃんが別途調査中。判明しているのはロルーゼの孤児で避難民。とある貴族に襲われそうになり逃げて来た。数年経った今でもその貴族が彼女を付け狙い、不穏な動きを見せ始めていると伝えた。
ライザーが熱くテーブルを叩いた。
「許せん!この私が今直ぐ兵を率いて」
ロロシュ氏が叱責。
「馬鹿者が!それは時期尚早。国防と外交が絡む重大な事案だ。出しゃばるな!」
「済みません…。興奮の余りに」
「先の事は国防と陛下のご判断に任せましょうよ」
「何よりニーダ本人が知り得ない所で事は進んでいます。詳細が不明瞭な現段階で彼女に知られると無駄に悩ませるだけで。真面目で繊細な彼女は、抱かなくてもいい責任感に胸を痛めてしまうでしょう。
彼女の為を思うなら。不要な言動は慎むべきだと思いませんか」
「君らの言う通りだ…」
「雑事は静観して置いて。まずは2人切りで世間話でもして親交を温めて下さい」
「仲良くもなっていないのに走り出しては彼女の英雄には成れません。英雄気取りの道化が関の山。いざと言う時に守れるよう策を練って置くだけで充分です」
「彼女の英雄か。良い響きだ。
今度こそ。シュルツみたく逃げられぬ様に。良好な関係を築くのが先決だな」
「俺たちが出来るのは最初の会食を取り付けるまで」
「それ以降は御自分で進めて下さいね」
「うむ。宜しく頼む!」
胸を張り悠然と出て行くライザーを見送り、ソプランたちを呼び、ピレリのシュベイン夫妻へのご挨拶で幕を閉じた。
ガチガチの緊張で面白かった。笑ってはないよ。
善き方向な雰囲気で胸が温かくなりました。
ソラリマを巻き上げ、プラズマを盛りで内包した空刃をフィーネに当てようとしたが綺麗に手前で霧散した。
残る課題は小物商品をどうやって梱包するか。こちらは追々探って行こう。
強引に斬撃で粉微塵にする策もあるが、下段には霊亀が控えている。もっと良い方法を探してみてから。
古代都市再突入はそれからだ。
ラフドッグに4人とクワンで飛び、実はエリュグンテでしたと紹介すると当然2人は喜ぶと同時に。
「王都の居残りには言えねえ…」
「言えませんね」
早めに仕事を切り上げ他の3人も泊まらせてあげようとの案で一件落着。
ソプランたちの部屋は下の4階の角部屋。
始めて見る4階からの南向きの景色も新鮮。真夏の日差しが眩しいです。
最上スイートの間取りを縮小化した4分の1スペースでも充分広い。複数でとなれば上下で男女別でもいい。
…男が下だわな。
我らがスイートにも2人を案内。
アローマのテンションが可笑しくなってしまい、フィーネを連れ回してキャッキャしていた。
テラスにも出て直射を浴びた。
「来たぜ夏!」
「やっぱ夏!」
「クワッ!」
「海かぁ。何年振りだっけなぁ」
「潮風の匂い。日差しが強くても爽やかですね」
日焼け止めを塗らないと大変だと。各ペアに分かれ塗りたくり1階ラウンジで集合。
「視察団はどの辺りに居るんだ?」とソプランが問う。
「確かゴーギャン宅の近くに財団の宿舎が…」
と俺はスマホでシュルツの位置を探った。
「あ。シュルツこっちに向かって来てる」
「待ち切れない、と言ったご様子ですね」
アイスコーヒーを飲みながら待っているとシュルツが侍女長を連れ、日傘を片手にやって来た。
「お待ちしておりました。今日は私が町をご案内します!」
元気一杯だな。
宜しくと俺たちもホテルの小洒落た日傘を貰い、シュルツの先導で町中を練り歩いた。
勝手知ったる迄ではないが粗方歩き回ったと自負するラフドッグ。しかしシュルツの目線は一味違い、ガイドマップには乗っていなかったペットショップやハイセンスで可愛らしいアクセショップ、雑貨店等を多く紹介してくれた。
「どうですか?」得意気な笑顔に。
「「お見逸れしました」」謝るしかありません。
「昨日も来てしまったのですが」
と丼屋さんに6人で入店。
昼時のピークを過ぎていて混雑はしていない。
鰹と鮭の湯引き二色丼、白子と海胆の相乗り丼、
鱈の親子丼、鮭とイクラの親子丼等々。
各自で好きな物を発注。お好みで魚醤と出汁醤油の瓶が置いてあった。
「遂に醤油がここまで来たか」
「満を持してって感じだね」
お店の許可を得て。自分たちだけ薬味に山葵を追加。
「辛みが苦手なら少量でね」
「こないだのシュルツみたいにクシャミが止まらなくならないように」
「恥ずかしいので思い出さないで下さい」
山葵を見掛けた店員さんがそれは何と聞くのでお裾分け。
「大量に塗ると激烈に辛いんですが。湯引きとかに少量塗って食べると風味が全く異質な物に変化して美味しいですよ」
「鼻の奥に抜ける香りが突き抜ける爽やかさです」
自分で小皿でお魚を持って来た店員さんが一口パクり…
目を見開いて厨房に飛んで行った。
「未知との遭遇の反応は何時見ても面白い」
「あらあらお人が悪い」
引き返して来た料理人が何処で購入出来ますかとのご質問。
現在の取扱はアッテンハイムの首都だけ。国内で栽培している物が成功すればロロシュ財団経由で拡販しますと未来の宣伝をしておいた。
大切な夕食会が財団舎屋であると言うシュルツは、緊張した面持ちで夕暮れ前に帰って行った。
鮮やかな夕焼けに染まる海辺の町を。ホテルのテラスから眺めて初日は解散した。
こっから先はそれぞれ夫婦の時間。と思ってオーダーお摘まみで強いお酒を煽っていたら…。
ペリーニャからの初直通話。
「はいはーい。どうした。何かあった?」
「堪えられません。私も港町に行きたいです!」
「「えぇ!?」」
「御父様は説得出来たの?」
「グリエル様が許さんでしょ。ペリーニャ単独じゃ連れ出せないし。誘拐なんてしたくないぞ」
「何としても捻じ伏せます。我慢の限界です。私はお二人のお部屋にお邪魔します。護衛数名の宿の手配を是非!」
「ここに泊まるのは俺が降りれば済むけど。責めて護衛の人数確定させて。それじゃ手配も出来ないよ」
「…承知しました。頑張ります」
「そっちの方向で頑張って欲しくなかった」
最後はションボリした弱い音色で通話を終えたが、大丈夫なんだろうか。
「折角助け出されても、実家に軟禁状態ならストレスも溜まるわなぁ」
「気持ちは解る。グリエル様応じてくれるかなぁ」
ヘルメンっちに伝えるべきか否か。
シーズン真っ盛りで大人数が泊まれる宿は空いているのか等心配事が増えてしまった。
「ペリーニャって今…こっちの状況見えてた?」
「スマホを通じて?」
真贋の瞳恐るべし!
---------------
朝食時。コンシェルの人にホテル周辺で10人前後が泊まれる宿を探して貰ったが…有る訳無かった。
「ロロシュさんに頼み込むかぁ」
「それしか無さそうね」
下の2人に事情を説明し、ペリーニャ来たら2人の部屋に俺を泊めてと伝えると。
「まあ…仕事なら…」明らかな拒絶色。
「ソプラン。今は新婚旅行ではありませんよ」
「わーってるよ。しゃーねーなぁ」渋々了解。
「旅行なら俺たちが南に渡った後でたっぷりと」
「何の邪魔も入らないわ」
説得は実り2人は赤ら顔。俺たちの散々な新婚旅行よりは余程楽しい物になるんだから我慢してよ。
午前の早めにゴーギャン宅の西奥手に在る財団宿舎を訪問した。
そこにはシュルツを前にして腕組みで唸り続ける、斜めご機嫌なロロシュ氏が。
「何かあったの?」
「スターレン様。昨日の夕食時から、御爺様がご立腹で」
「怒ってはおらぬ。決して怒りではない。シュルツに婿を探してみるとも言ったのはわしだ。だがあのピレリでは…少々役不足かと思案しておるのだ」
適度に冷やしたアイスティーを頂きながら。
「彼の将来性だけでは勝負出来ない。ロロシュさんはそう言いたいんですね」
「極論を言えばな。ピレリが持つ寒天や海蘊酢事業。財団の伝手を使えば多くの利益が見込める。若くして苦労した人生経験も有り、真っ直ぐな好青年だと感じた。君らが目を掛けるだけは有る。だがしかし…ライザーとの縁を切るには武器が弱いと考えてしまう」
海蘊は自分で見付けたみたいだな。いいぞその調子で頑張れピレリさん。
フィーネに小声で。
「温泉事業譲ってもいい?」
「スタンが見付けた物だもの。好きにしていいよ」
軽く咳払いして。
「本人を差し置いて。ご両親への挨拶回りも済んでいない段階で他人が横槍を入れるべきではないのは承知の上で2つ、ロロシュさんとシュルツに提案したい案件があるんですが。聞きます?絶対怒らないで」
「わしが怒る様な内容なのか。…話せ」
マッサラ真東の未開拓の山岳地帯に温泉の源泉を発見して既に土地を丸っと買収。将来的に温泉郷を開く構想を地図を見せながら説明した。
傍らで栽培中の山葵もオマケで。
どうして購入前に言わんのだと激怒されたのは無視。
「偶には自由に商人やらせて下さいよ。俺たちは財団の傘下に居ても。商売上では個人事業主なんですから」
舌打ちだけ返したロロシュ氏。
「温泉郷のリゾート開発事業は近年で一番の大事業になると思ってます。必要となる多くの人手は将来開放されるかも知れない奴隷層の人々からも賄えます。
但し。事業にはそれを一手に管理する人材が必要。まだ始まってもいない段階で。開発初頭から彼に参入して貰えれば、充分な武器になる。とは思いませんか?」
「将来的に譲るのか」
「それでは彼への負担が大きすぎます。立ち位置的に俺たちはオーナー。彼は総支配人。それも独りぼっちじゃ辛すぎる。そこでそんな孤独な彼を、表も裏も影から支える財団幹部が…」
「私ですね!」シュルツが万歳。
「むぅ」
「本人の意志が固まるなら。この事業を丸ごとロロシュさんにお譲りします。これ以上無い案だと思いますが」
暫く思案を重ねたロロシュ氏。
「明日ここで昼食会を開く。ピレリも呼び付けてな。そこで詳しく話をして問い正そう」
「有り難う御座います。御爺様」
駆け寄ってロロシュ氏の頬にキスをプレゼント。
これには頑固な爺ちゃんもデレデレ。チョロいな。
そして頑張れピレリ!
「もう1つ。全く別件のご相談が」
「何じゃ」緩々なお顔で。
アッテンハイムの聖女ちゃんが最低10人規模の護衛引き連れてここへ来たがっていて。ペリーニャ以外の護衛を泊められる場所は無いかと。
「…ヘルメンには秘密か」
「いやぁ悩みましたが何か起きては大問題です。王都に戻って事前に報告して来ますよ。何ならグリエル様と直接通話して貰います」
「なら良い。場所ならこの建屋の一角を開けてやろう」
「そう言ってくれると思いました」
「我が儘ばかりで御免なさい」
「なあに。多難ではあるが明るい話題だ。幾らでも聞いてやる。バインカレみたく無視された挙句にポイ捨てされるような老害とは呼ばれたくないのでな。
これでカメノスにも一泡吹かせられると思うと笑いが止まらんぞ」本音はそっちかよ。
そのまま昼食を財団宿舎で頂き、今回の本分。クルーザー運転訓練を遂行。
来る度に進化する豪華仕様に溜息を漏らしつつ乗船。
サポーターとしてゴーギャンさんも乗り込み出港。
沖に出る道半ば。
「スターレン様。フィーネ様。そろそろこの船に名前でも付けられては如何ですかな」
船の名前か…。貰った当初は使い捨てで考えていて付ける発想はなかった。今では捨てられん。
「どうするフィーネ」
「そうねぇ。私たちの名を取って「スタフィー」ってどうかしら」
俺たちの未来の子供に付けるような重要な話でもない。船にならアリか。
「それいいな。採用で」
「今日からこの子はスタフィーです!」
「良いお名前ですね」シュルツに褒められフィーネもニッコニコ。
「俺たちの子供の名前もフィーネが考える?」
「それはしっかり2人で考えましょうよ」
そうかそうかとイチャイチャ。
急上昇した暑さに文句を垂れるソプラン。
「船内がクソ暑い。ゴーギャン氏。何時かこの船に冷暖房機能入れてくれ」
「それは名案ですな。考案しておきます」
「お二人のお子…。楽しみですね」
自分たちと重ねているのかアローマの顔もニヤけてる。
さっさと使命を終わらせよう。でないときっと実らない。
今はまだプレッシャーに感じる年齢じゃないが。この先何十年と掛けるようなら本末転倒。
俺とフィーネに肉体的年齢差が生まれて不妊に陥る可能性だってあるんだ。ダラダラなんてしてられるか。
と決意も新たに挑んだ操縦訓練。
天才シュルツは数分でマスター。
魔力を流す事に慣れていないソプランとアローマが手子摺った。
意気消沈する2人に。
「明日の午後も訓練あるのみ。1週間位は猶予あるから頑張れ」
「おぅ…」
「はい…」
追憶の双剣に魔力吸われる感覚の逆のイメージが近いかもとアドバイスして訓練初日は終了。
---------------
午前は自主練。
の間に単独で城に戻り、陛下にお目通り。
ペリーニャのご招待案件を相談した。
「報告を怠らなかったのは評価するが…いや困ったな。
一介の町娘を招待するのとは訳が違う。聖女の身の安全はお前が保証するのだな」
「それはもう全力で」
「ならば特別に許可しよう。グリエル教皇ともお前が責任を以て交渉せよ」
丸投げされてもた。
「賜りました」まあ一手間省けたと考えるか。
話題が切り替わり。
「所で古代遺跡の件はどうなっておるのだ」
「お気が早いですよ。あれは直ぐに結果が出せる物ではありません。…強いて言うなら。無数に散る難敵を一挙に集めて一網打尽に屠る。そんな道具でも無い限り先へは進めない。と言った所です」
「…進んでおるではないか。例えばそれは集塵器のような道具か」
掃除機。得てして合致しているかも。
「近いですね。しかし水中故に水と分離せねば」
「確かに。締結の鎖は消え去ってしまったしな。あれに類する物は私の記憶には無い。そちらの案件は気長に待つとしよう」
「良好な結果を以てご報告致します」
「ふむ」
ペリーニャの件の許可は得た。しかし遺跡で必要な道具は不明。
欲張っちゃいかんな。
---------------
今後の打ち合わせを兼ねたラフドッグでの昼食会。
ゴーギャン、メドーニャ、ピレリの大緊張した3人を交えたお昼の後で。俺から一大温泉郷事業計画を説明した。
呆ける3人を前に。
「俺たちが用意出来るお膳立てはここまで。猶予は変わらずシュルツが成人するまでの約4年。後は…肝心のピレリさんの気持ちと決意次第」
「…」
シュルツ自身が駄目押し。
「御爺様の許可は得ています。私の気持ちもライザー殿下から離れております。私を救って頂けますでしょうか。
ピレリ様」
そのピレリが奮い立ち宣言した。
「丸で激流に身を投じているような感覚ですが。その使命必ずや達成して見せます!お嬢様にここまで言わせておいて引き下がるなら生涯の恥。
その戸を開き、道まで用意して頂いたスターレン様への感謝を忘れず。邁進し、死に物狂いで実績を積み。殿下の下よりシュルツお嬢様を奪還致します」
「嬉しいお言葉です。ピレリ様」
「わしの台詞は無いようだな」
場が落着いた所で。
「ピレリさんのやる事は変わりませんが…。このままではライザー殿下が余りにも哀れ。婚約まで果たし、他国の首脳の前で宣言までした女の子に振られる訳ですから。
成婚直前で奪われたら。俺なら泣いて怒り狂います。
それを認めた陛下や王族の皆に泥を塗る形です。これでは非常に体裁が悪い。
他の候補者を捜せるだけの時間も必要と考えます」
「今の段階で説得を試みるか」
「その方が良いでしょうね。今なら偶然にもシュルツの両親とライザー殿下がウィンザートに居ます。
外堀を埋めきった後で心苦しいですが。この場の関係者と家族総出で頭を下げに行くのがベストかなと」
「…スターレン様の仰る通りですね。散々利用してから切り捨てては、私は飛んだ悪女に成る所でした」
ロロシュ氏が決議を述べた。
「アッテンハイムの聖女が何日滞在するかは知らんが。
その接待が終わったら行こう、皆でウィンザートに」
ウィンザートへの移動手段は財団の中型高速船を使う案で合意したが操縦訓練は訓練。
昨日よりは動かせるようにはなったがまだまだソプランとアローマは難航中。
今日の乗船は4人だけ。アドバイザーは無し。
「難しいなぁ。動けよ!て怒りに任せても動かねえ」
「難しいですね。想像とは全く違います」
「私たちの教え方が悪いのかしら」
「うーん。こればっかは当人のセンスの問題だからなぁ」
あれこれと考案して実践してみたが上手く行かず。
荒療治とばかりに。2人をロープで船の上空に運び、上視点で船を動かすイメージを掴んで貰った。
結果これが功を奏し、かなり動かせるように進歩した。
そこからは早い物で。
「おぉこれか!これでいいのか!」
「これですね。身体から魔力が抜けて行くのが解ります」
まだ力任せにレバーを押し倒す雰囲気が抜け切らないがいい感じだ。
「この調子なら明日もうちょい練習すれば物に出来るよ」
「今日はこの辺にして。巡航速度を変化させながら帰りましょう」
よしと意気込む2人に対してクワンが突然交代を要求。
あっさりと操縦して見せ。
「クワンティーに負けた…」
「私たちはいったい…」
残念でしたと慰め、その夜はラウンジで集まりプチ慰安会を開いた。
人間2人は自棄酒を部屋に帰ってからも飲み明かしたと言う話。
俺たちが部屋へ戻った時にペリーニャから入電。
「はいはい。説得は出来たのかい?」
どうでもいいがペリーニャは俺の方に直接来るな。
「その説得をお手伝い願いたく思い…」
ペリーニャの後ろから大きな咳払い。
「グリエルだ。娘は渡さないぞ」
「スターレンです。そんな嫁に出す訳でもないんですから大袈裟な。
護衛付きで数日旅行させるだけです。今のタイラントは平和そのもの。俺たちもちゃんと見てますから」
「安心してお任せ下さい」
「うぅ…」まだ悩んでる様子。
「グリエル様…ひょっとして御自分が行けないからって拗ねてます?」
「そ、その様な事は無い。断じて無いぞ。私は娘の身を案じているだけで」
「では護衛は何人になりますか?泊まれる場所を確保したいので正確に」
暫く間が空き。
「ゼノンの部隊から六名。選出する…」
意外に少ないな。信頼関係の表れと捉えよう。
「早速明日の昼過ぎにお邪魔しても宜しいでしょうか」
「こっちは何時でも。ヘルメン陛下の許可も得てますんで。
滞在は何日予定?」
「二泊三日が希望です」
「了解」
「仕方ない。今回は特別で特例だぞ」
「私が自律する機会を奪わないで下さいまし!」
いい加減に子離れしてよと、ペリーニャの怒りでフィニッシュ。
通話を終えて。
「明日の操縦訓練は午前だけだな」
「午後からは接待かぁ。何処案内しようか」
「ペリーニャの顔は知られてないし。自由に本人の希望に任せよう」
「シュルツにも会わせたいし。忙しいね」
何でこんなに忙しいのやら。
シュルツとアローマに明日に聖女以下7名を迎える予定をメールして晩酌開始。
「俺たちって水入らずで過ごせる時間短くない?」
「夫婦円満。末永く過ごす為にはこれ位が丁度いいんじゃない。ポジティブに考えましょう」
そうしましょう。
「南に渡ってからも何かに邪魔されそう…」
「それは嫌ね。全力で邪魔者たちから逃げ回ろう」
いっそゴーストダンジョンに逃げ込むか。などと冗談を言い合いながら。
---------------
操縦訓練は程々に切り上げ、早めに昼食。
午後になり何処に飛ぶのと相談の上。首都滞在時に貸与された部屋に飛ぶ事となった。
「じゃあ行って来る」
「ちょっと待って。物凄くいやーな予感するから私も行く。クワンティはお留守番」
「クワッ」
嫌な予感?何だ?とは言え置いて行く理由も無い。
2人で飛ぶと…。
室内にはグリエル様とペリーニャ。同行予定の6名が待ち構えていた。
今回の護衛はゼノンとリーゼル、女性騎士も混成隊。
万全の武装状態。
「お久し振りです。隊員の武装は全てペリーニャのポーチに収納して下さい。町中での武装は認められません」
「しかし…」
「衛兵と喧嘩したいのですか?隠密としての配慮を」
「良い。彼らの言う通りだ。これはペリーニャの旅行であって戦地に赴く訳ではないからな」
総員武装解除中に、やや残念そうなペリーニャが。
「出発前に先日のお礼代わりに。この様な物が隣国の愚王から送り付けられまして」
包みから取り出された…筒状の物体。
短い銀色のバトンみたいな形をしている。
「これを頂いても宜しいのですか?」
「鑑定しても意味不明。使い方も解らん。そんな使えそうもない道具を。ピエールは此度の詫びの品だと送って寄越した」
それでは拝借。
名前:集塵の祝砲(古代兵器)
性能:群れを為す集団の中に投げ込めば集約可能
完全耐圧、完全防水
初手に当てられれば同種を残らず纏められる
特徴:小さく散らばる鬱陶しい魔物等に最適
「おぉ!これ欲しかった奴じゃん」
「これさえあれば行けるわね」
「喜んで頂けて何よりです。どうぞお使い下さい」
お礼を言って有り難く頂戴した。
「だがしかし」
「1発勝負ね。気合いと運でぶっ倒してやるわ」
「いったい何と戦うのだ」
「「秘密です!」」
「海底の…」
「「言っちゃ駄目」」
秘密って言ってるのにバラしちゃ駄目でしょ。悪戯するなら連れってあげないぞ。
「御免なさい。慎みます」
疑いの目を向けられたがアッテンハイムとは全く無関係の国内案件ですと答えて乗り切った。事実だし。
---------------
町の北から入り、財団宿舎までの工程で軽くツアーガイドをしながらラフドッグをご紹介。
首都と違い一面水色の外壁の町並みを見回して全員思い思いの反応と感嘆を漏らしていた。
序でに小さな女神教の教会にも立ち寄った。
「別に迫害でも差別でもないですよ」
「信者の方が殆ど居ないだけです。誤解無きよう」
「存じておりますよ」
管理する神官夫婦にペリーニャたちが挨拶している間にメンバーと合流。
夫婦は別れ際までペリーニャの手を離すまいと泣いてたな。
挙って宿舎を訪問。ロロシュ氏との顔合わせを経てシュルツとペリーニャの初対面。
手を取り合って喜び合って燥いでいた。
流れでシュルツも引き連れ町のガイドを続行。
出店で色取り取りの海の幸を食べ回り、腹ごなしに海水浴客で賑わう海岸線を練り歩き、屋台でも軽食を摘まんだ。
「そんなに食べるとホテルで夕食食えないぞ」
「大丈夫です。育ち盛りですから」
「あれ?ペリーニャ様はホテルにお泊まりに?」
「お二人のお部屋にお邪魔を」
だったら私も泊まるとシュルツが対抗意識を燃やした。
ゼノンらも聞いてないぞと異議を唱えたが。ペリーニャの一喝で収まった。
「ゼノン。我が儘はお止めなさい。お二人にご迷惑です」
「わが…」どっちがだよと言わんばかり。
「私の自由は成人までの後二年しか有りません。それすら許さないと言うなら。私は全てを捨てますよ」
「ぐ…。承知しました。グリエル様には内密に致します」
アローマとソプランに宿舎とホテルへ夕食変更のお知らせに走って貰い強引に解決した。
事前に話すと反対されたに違いない。
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ホテルに戻り4人とクワンで部屋食。
結構重いの摘まんでいたがペリーニャはペロリと夕食を平らげた。
「やはり本場の魚介は美味しいですね。海に面したクワンジアには行きたくないですし。お邪魔をするなら今しか無いと。お許し下さい」
「まあ気持ちは解るよ」
「もう少し早く言って欲しかったかな」
「済みません。説得材料が浮かばなかったもので」
シュルツがペリーニャに問う。
「ペリーニャ様は明日何を為さいますか?」
「出来れば市場を見て回り、お二人の船に乗せて頂きたいのですが」
「護衛隊も連れてくとソプランたちは待機だな。シュルツはどうする?」
「丁度定員10人ね」
「行きます!」
明日の方針は決まったな。
更にペリーニャが。
「三日目は水着で海を泳いでみたいです」
シャンパンで咽せた。
「ゲホッ…。流石にそれは無理だろ」
フィーネが俺の背中を撫でながら。
「衝撃発言。ペリーニャは泳げるの?」
「いいえ全く。ですので浜辺近くで遊ぶ程度にしようかなと思います」
入るのは決定事項か。
「全員分の水着は買うとして。ゼノンさんたちの説得はペリーニャがしてくれよ」
「はい。お任せを」
シュルツもそっと手を挙げた。
「私も買います!」
「大人しい健全な水着を探しましょうね。エッチな誰かさんの目に触れてもいいような」
余計な事を…。
出来る限り過去の光景は思い出さないように。食事も終わった所でアローマにメールして退出を…。
「下に降りられるのですか?」
「そりゃそうでしょ。未婚の聖女と寝所を共にするなんて国際問題だ」
「そうですか。私は構わないのですが」
「俺が構うの。アローマと交代するから。明日の朝メールする」
何で俺が逃げ出さなきゃならんのだ。
下に降りた後。ソプランに晩酌を付き合って貰った。
---------------
お風呂は交代で入り、就寝前のベッドの中で。
隣床で眠りに入るペリーニャに話し掛けた。
「ねえペリーニャ。スタンに色目使うの止めてくんない」
「…色目などは使っていません」
突然始めた不穏な話で対岸のシュルツとアローマが飛び起きた。
「じゃあなんで困らせるような事ばかり言うの。それもスマホで直接。違うなら私に言えばいいじゃない」
「不服でしょうか。では次回からはフィーネ様に」
「はぐらかさないで。私結構怒ってるのよ」
ペリーニャが。出会った時からスタンに好意を寄せているのは傍で見ていれば明らか。
「好意では…ありません」
「じゃあ何なの」
「憧れ、だと思います。ラザーリアで助けて頂いた時。私の目にはスターレン様が、希望の光に見えました。私を自由にしてくれる。英雄様に」
「都合の良い言葉に聞こえるわ。それって嫉妬ではないのかな。スタンの隣に私が居なければって」
全ては偶然の巡り合わせ。ペリーニャは確実に本心を隠している。
「私は…逃げたいのです。幼少の頃からお前は聖女。やがて女神教を背負って立つ存在だと、言われ続けて育ちました。物心付いた時には猜疑心が芽生え、この不自由な生活から逃げたいと考えるように成りました。
あの外道に拉致された時も。本当は抵抗も出来たのに。
外道に言われた、私を自由にしてやるとの甘い戯れ言に誘われ、乗ってしまったのは半分は私の意志です」
何処に行っても囚われの身か。同情はするけど。
薄ら涙を浮べるペリーニャに嘘の色は見えない。
「泣かないでよ。ペリーニャは本気で戦ったの?救出の件でグリエル様も目が覚めたでしょ。話を聞いてくれる程度には折れた筈よ」
「戦う…」
「親子だもん。立場も色々。親に自分の人生を捻じ曲げられたら他人にされるより憎さ百倍よ。だからこそ。もっと本心剥き出して打つかり合うべきだと思うよ。
お父さん生きてるじゃない。私には誰も居ない。フレゼリカに操られた聖騎士たちに殺されてしまったから。
私は独りぼっちで逃げ出した。逃げ出した先で出会ったのがスタンよ。私にはスタンしか居ないの。
彼は私の全てなの。お願いだから奪わないで」
「奪いはしません。只もう少しだけ。戦う勇気が持てるまで。甘えさせて下さい。お願いします」
やっと本心が出た。
「素直に言えばいいのよ。解ったわ。ちょっとだけなら。
特別に許してあげる。でも度を超したら許さない」
「難しいですね」
「難しいのは当たり前。結局は他人なんだから。愛していたって喧嘩はするし。心や本音が見えたとしても。他人を思い通りに動かすのは難しいものよ」
「はい、胸に刻みます。フィーネ様」
「何?」
「甘え序でに…。添い寝のお許しを」
ペリーニャまでもか。
「どうぞ。勝手に入って隣で寝れば。シュルツは?」
「わ、私は我慢します!」
ムッとして布団を頭から被って横になった。
「お休みぃ」
3人の返事が聞こえて私も眠りに入った。
しかし!翌朝。シュルツまで潜り込んでいて。私の両腕は2人の枕になっていた。
どうしてこうなった。
痛いし動けない。腕枕って一晩やるとこうなるのか。
でも今までスタンに嫌だと言われた事無いし。
自粛しよう…いや残念だが止めはしない。嫌って言われるまでは。
---------------
朝。朝食を最上階で6人で食べ、身支度して日焼け止めを丹念に塗り込み出発。
最上階が女の子の香りで満たされている。
素晴らしい!僥倖だ!有り難う。
フィーネに頭を軽く叩かれた。
「デレデレしない」
「そんなに叩いたらお馬鹿になるぞ」
「それは困ります。じゃあ次からは眼球と鼻の穴に刺激的な軟膏塗り込むわ」
「自重します!」
「そうして下さい」
ゼノン隊を拾う為に宿舎へ向かった…。
ペリーニャが腕を組んで来た?
それも軽くじゃない。成長中の柔らかい膨らみが腕にめっちゃ当たるんですけど。
「私の粗末な物で喜んで頂けるなんて」
反対側の腕はシュルツに掴まれた。
フィーネは肩を奮わせ我慢をしている。
やせ我慢で自我を殺す。
「めっちゃ歩き辛い。ペリーニャ。ゼノンさんとフィーネに俺が殺されるから離れてくれないか」
「許可は得ております。宿舎の前までですから」
許可?フィーネが許したの?嘘だろ。
「シュルツも誤解されるだろ」
「ペリーニャ様が良いなら私も良い筈です」
「アローマさん助けて」
ご当人はソプランの腕に絡み。
「私には何も見えません」嘘でしょ。
取り敢えず宿舎が見え始めた所で離れてくれた。
幸せな時間だったが何だったんだ…。
4人共黙ってるから解りません。
まあいいや。
合流後に市場を回り、ペリーニャが手当たり次第に爆買いを押っ始めた。女の人は買い物でストレス発散するって言うあれか。
ゼノン隊の女性兵2名も便乗参戦。
ポーチの中を食料品や土産で埋め尽くそうってか。商売繁盛で止めなさいとは言わないが。
あのエネルギーは男では太刀打ち出来ない。
勢いそのままに海辺の用品店で水着を漁り始めた。
取り乱すゼノン隊の男性陣。
服の上からオーソドックスなワンピ水着を当てながら。
「ゼノン。似合うと思いますか?」
「わ、私には何とも…。その前に買われるのですか」
「明日は海で泳いでから帰るのですもの。買わなければなりません」
「へ…?お、泳ぐ?ペリーニャ様が?」
「否定は受け付けません。今日から私は我が儘に。在るが儘に生きると決めたのです。さあ似合うのか似合わないのかどうなのですか」
しどろもどろでピンクの水着とペリーニャを見比べる。
「ス、スターレン様。ご助力を」
「知らん。ゼノン隊の皆も海でペリーニャを助けたいなら水着を各自買うように!
ペリーニャはサイズや色を沢山買って部屋で試着出来るようにな」
「はい」
既に水着を持っている俺たちは店内から退散して外でだらけた。
店前の石段に腰を下ろして海辺の風景を眺めていると。ソプランが紙カップのドリンクを近くの屋台から買って来てくれた。
「何か凄え事になってるな」
「昨日の夜何かあったんだろうけど怖くて聞けない」
「聞かねえ方が身のためだ」
「サラッと流すのが吉」
キンキンに冷えたエール酒が美味い…。なんだ作らなくてもあるじゃん。ビールに似た物なら。
「これだと摘まみ欲しくなるなぁ」
「昼飯近くで食うか。買い物長引きそうだし」
そうだなぁと周囲を見渡した。
「財団管理棟の食堂にしようかと思ってたけど…。屋台で済ませようか。それぞれ好きな物買って」
屋台の間の共有スペースの簡易テントを指差して。
フィーネに屋台のテントで場所取りしてるから早めに来てとメールして2杯目のエールを買いに行った。
ゾロゾロと買い物組が参戦。
「何飲んでるの?」
「キンキン冷え冷えエール酒」
ふーんこれから船乗るのに?と言いながらも半分残った俺のをグビグビと。
「うふ。初めて飲んだけど中々美味しいじゃない」
買えばいいのにと。
「各自屋台で好きな物買ってここで昼食。自信あるならエール酒でもどうぞー」
はーいと皆元気な返事。ゼノン隊もどうやら諦めて開き直った様子だ。
ソプランと数名が場所キープしてる間に適当に。
焼きそばに近い細麺魚介焼きパスタ、海鮮お好み焼きとエール酒を大量購入。
「飲み物のカップや食べ物の台紙は購入店隣の空入れに返却で。間違っても浜辺に捨てない。海に投げ捨てたらグリエル様に苦情入れまーす」
全員やらないと返答。そりゃそうだ。
運んだトレイを返しに行こうとするとアローマが奪い。
「返却なら私が。スターレン様はお食事をごゆっくり」
何だか今日は女性陣が優しい気がする。気の所為か。
フィーネとペリーニャに挟まれる形でジャンクフードを美味い美味いと頬張った。
左のフィーネがポテトフライをアーンすると、右のペリーニャもお好み焼きの切れ端を運ぶ。
モグモグしながら。
「急にどうしたんだ。フィーネ絶対嫌だろ」
「別に。明日まで期間限定の特別許可よ」
ちょっと意味が。
深く突っ込んだら藪蛇。スルーに限る。
船に乗る前に酔い止め代わりの解毒剤を配布し、管理棟の食堂で休憩を挟んでから出航。
それでもペリーニャ以外のゼノン隊のメンバーは青い顔。
「吐くなら海に餌付けしてねー」
「限界多数なら引き返しまーす」
何とか沖まで辿り着き停泊。
弱い人にはこの緩やかな揺れでもキツいらしい。
無事なのは俺たちとシュルツとペリーニャだけ。他は全滅で外の景色すら見てない。
デッキにペリーニャを連れ出し、日傘を差し出した。
「どうかな南の海は」
「海の記憶自体が殆ど有りませんので。何もかも新鮮で美しく。心が洗われるようです。水竜教の皆様が海を愛するお気持ちが少しだけ解った気がします」
「海はみんなの物さ。誰の物でもない。信仰だって陸地の人間の思想だけ。ここには本当の自由がある。俺はそう思ってる」
「本当の、自由…」
儚げにそう呟いた彼女に、それ以上の言葉は掛けられなかった。
きっと人には吐き出せない物が胸の内にあるんだろう。それは誰もが同じ。
---------------
何十年振りの海水浴は新鮮だった。
通算しようがしまいが実質初体験と言ってもいい。
俺は後で送迎があるから程々で上がり、砂浜のパラソルの下から女性陣の水着姿を瞳の奥に録画した。
あぁ撮りたい。盗撮じゃない。正面から堂々と。
衛兵に捕まる?何を言う。俺様は今や国の高官。些細な罪など揉み消してやるわ。
フィーネとペリーニャに海から睨まれた。
嘘です冗談です御免なさい。爽やかな軟膏攻めは勘弁して下さい。
お知り合いの中では巨乳のアローマとゼノン隊の女性メンバーに注視していたが…。頑丈で健全な水着はポロリを許さなかった。
隣で同じ様に休むソプランに。下腹部にバスタオルを投げ掛けられた。
「節操ないなお前。大層ご立派な下半身を制御しろ。隣に居る俺が恥ずかしい」
「ごめん…」若さ故お許しを。
お遊びはここまでにして。
目を閉じて今後のプランを構想し直し。
ペリーニャを送り返す。お土産は自分たちで買ったから無しでいいよと。
明日のライザーの説得。みんなで行けば怖くない。
ロロシュ氏が居たって怒るだろうなぁ。本人挽回しようと頑張ってるもんなぁ。
ソプランペアとカーネギペアの入替え。プリタは宿舎かどうするか要相談。
フィーネの遺跡探訪。道具は揃えられたが行かせてあげられるタイミングが無い。今月内のクリアが微妙。
来月頭にいよいよ南大陸へ出発。楽しみ半分、不安半分と言った所。石版の欠片入手が優先事項。
サンタギーナから東に行くと見せ掛けて一路西に向かい、ペカトーレ共和国に滞在して作戦を練り直すのも良い。
急がば回れだ。
新興派の動向も気になるし色々あるなぁ。
ホテルと宿舎に別れ、シャワーを浴び直し帰り支度。
「休暇は楽しめた?」
「はい。心身共にスッキリと。楽しかったです」
お土産として梅肉サンドを人数分持たせた。
「それは良かった。今度外出する時は事前に説得しといてな。これは帰ってからみんなで食べて」
「有り難う御座います」
「じゃあ行こうか」
と飛ぼうとした俺をフィーネが止めた。
「ペリーニャは私が送る。スタンは陛下に報告を」
「そう?じゃあペリーニャとはここでお別れだな」
「ウフフ。愛されてますね。私には刺激が強すぎます。それではまた」
「よく解らんけど。またな」
マントに包まれたペリーニャと一緒に消えた…。
部屋にシュルツを残して。
「あれ?シュルツは?」
「…折角なので。もう一泊を」
「じゃあアローマたちと留守番してて」
「はい!」
城に入り、フィーネからの帰還報告を受け陛下に報告。
「聖女は無事にフィーネが送り届けました」
「うむ。接待ご苦労だった。今度は何を持たせたのだ」
「新作のサンドイッチだけですね」
「何時か聞こうと思っておったが。私には無いのか」
「サンドイッチですか?」
「それ以外に何がある。ロロシュ卿やメルシャンばかりが食しておるのにここには持って来ないとはどう言う了見だ」
「毒味も無しの手料理じゃ拙いでしょ」
「構わん。寄越せ」
欲張りだなぁ。食い意地張ってる。
「では適当に4人分置いて行きます」
態々新品の箱を下ろして詰め込んだ。
「夏場の疲れによく効く梅の実の塩漬けソースを使っていて美味しいですよ。貴重品なんでよく味わって食べて下さいね」
「解っておる」
報告に来ただけなのに大切なおやつが奪われた。
城外に出るのに北周りでノイちゃんの執務室に寄り道しようと歩いていたら。
ウキウキ上機嫌なニーダと擦れ違った。
「お。ご機嫌だなニーダ」
「スターレン様。ノイツェ様が急に私を養子にして下さる運びと成りまして」
急に…。俺の説教が効いた。とは思えない。
「そっかぁ。そりゃ良かったな」
「それもこれもスターレン様のお陰です」
序でに聞いちゃうか。
「唐突な質問だけど。ニーダってどんな人が好みなの?
貴族の一員に成ると普通に縁談話とか来るぞ」
「え…。そうなのですか。でもノイツェ様やスターレン様のご紹介なら受けるだけ受けても良いかなって思います。
好みで言えば…。実はライザー殿下のような剽軽なのに生真面目な方が好みではあります。シュルツ様には内緒ですよ」
「へ、へぇ。かわ…。変化球タイプが好きなんだな。勿論シュルツには内緒だ」
人の好みは色々だ。奥が深い。
ベルさんはライザーと波長が合った。ニーダにはベルさんの欠片が取り憑いていた。
これも何かの縁かも知れないな。
兵舎の方に用事があると言うニーダと別れ、執務室のドアを叩いた。
「スターレンです。入りまーす」
「何時も何時も。こちらの返事を待てんのか」
「お互い忙しいでしょ。時短だよ時短。でロルーゼ方面の件がどうなったか聞きたいんだけど。今駄目なら後日にしようか」
「丁度今一区切り付いた所だ。お茶でも…。君が持ってるなら出してくれ。今日は水筒を忘れてしまった。
マリカの弁当に気を取られてな」
もう事実婚状態だな。良きかな。
接客テーブルにグラスを並べてアイスティーを注いだ。
「そう言えばさっきニーダと擦れ違って。養女にするとか聞いたけど。東の件と関係あるの?」
「…相変わらず鋭いな。前々からニーダの出生に関わる事案で調査を進めていた。それがクインケ・シャシャ。
当初は只の小物と見過ごしていたが。先日君が雨乞いの密偵を捕えた所から調べ直してみたら…。以外に厄介な相手だった。
君の縁者であると言うモーゼス・ウインケルはロルーゼ南端。国境沿いを占める辺境伯に伸し上がっている。
クインケは男爵位。爵位低位の男が狙う物。それは辺境伯の領地かと思ったが違う。奴は地盤を奪い取り、ここタイラントへの進出を画策している。
中枢の意向を半ば無視してな」
意外に大それた事をしようとしてたんだな。
「一貴族だけで戦争を仕掛ける気なのか。単なる阿呆だろそんなの。乗っ取り計画失敗してるし」
「ウインケル家に打診と注意喚起はした。そのまま潰されればそれまでだが。どうやら…ニーダをまだ諦めていないらしい」
「はぁ?」
「ニーダがタイラントに居ると言う情報を誰かが流した。若しくは偶然掴んだ。何方にしろその情報を得てクインケ動き出した帰来が窺えるのだ。
トルレオ家の詳細とシャシャ家の繋がりは不明。飛躍し過ぎかも知れないが」
「トルレオ家が…王族の分家かも?」
「可能性は充分に有る。クインケが無理矢理血縁を結ぼうとしたり。
彼の英雄が敢えてロルーゼを相手にするなと伝えたのだとしたら。逃したニーダを守りたかったのだとしたら。君にはどう見える」
あぁ…そうか。全く逆の可能性。ロルーゼを起こすな。
その警告とも取れる。
「逆も又然り、かぁ」
「英雄の伝え通りに無視は貫く。次の領土侵害が起きるまではな。その先手としてニーダを養子に迎えたのだ」
「詳細情報をクインケだけが持ってるなら。籍の入替えで封じ切れると」
「その通り。しかしここまで大きな話に成ると私一人だけでは抱えきれない。
近日中に陛下にご報告を持ち上げる。
済まんな。任せろと豪語しておいて」
「いや。俺も注意が足りなかった」
「動きが有り次第連絡する」
「宜しく。対処に困りそうなら何時でも呼んで。直ぐに叩き潰しに行くから」
「ああその時は」
そこで用事を終えたニーダが戻って来た。
次から次へと、よくもまあ。
大きな案件を3件も残して南を攻めるのかぁ…。
頭が痛くなってきたぜ。
「また来るよ。ニーダも浮かれ過ぎるなよ」
「またな」
「浮かれてなど居りませんよ」
顔が緩んでいるのは気の所為じゃない。
---------------
ホテルに戻って来たのは夕方前。
先に帰って来ていたフィーネは、ソプランたちと4人でトランプを楽しんでいた。
「どうしたのスタン。遅かったし…疲れた顔してる。お城で何かあったの?」
「ドッと疲れる話をノイちゃんから聞いてさぁ…」
4人にお茶を飲み下しながらお悩み相談。
………
「スタン。私、頭痛くなって来た」
「俺もだよ」
意味も無く解毒剤を飲んでしまった。
シュルツが冷静に。
「可能性は感じますが。今はまだ推測の域を出ません。
小規模にしろ大規模にしろ。実力行使で動き出す前には必ず政治的な動きも同調します。その時ニーダさんが狙われるのなら。予兆が見えた瞬間に何処かへ隠してしまうのが最も手堅い手段だと思われます」
銀縁眼鏡がキラリと光る。
眼鏡しながらトランプしてたの?狡くない?
「おぉ…、シュルツが別人に見える」
「私のシュルツが…大人に」
照れたシュルツはやっぱりシュルツだった。
「ニーダが王族ってのも確定じゃない。シュルツが言ったみたいな状況になるなら。またロロシュ邸かカメノス邸で匿えばいいだろ。
身内と城内では顔が広いし知られてる。
白昼堂々と襲える状況じゃねえよ」
「そりゃそうだけどさぁ」
「何でもお前らだけで抱え過ぎなんだよ。ニーダは俺たちに任せてさっさと南でも東でも行けってんだ」
「もう少し身内や仲間、上司や部下を信用為さっては如何でしょうか。私共ではお役に立てないと言われているように聞こえてしまいます」
「「…」」
「船の訓練が終わったら一足早く帰る。アローマは宝具持ってるし。カーネギたちとカメノス氏に相談してロルーゼに行商隊組んでやるよ。
あっちにはカメノス氏の長女も嫁いでる。どっからでも情報は取れる。それで充分だろ今は」
知らず知らずの内にみんな色々考えてくれてたんだな。
「ごめんみんな。東の件は任せるよ」
「信用してないとかじゃないの。御免なさい」
クワンも。
「地図さえあれば。最速で偵察に行って来ます」
「クワンもありがとな」
「それは最終手段にしたいかな。クワンティは私たちと一緒に居て欲しいし。私が寂しい」
「クワッ!」
「序でにここで飯にしようぜ。俺腹減ったわ」
「私もです」
「食事は大勢で食べるとより美味しいですものね」
「よし。じゃあ頼んじゃおう」
「スタンは座ってて。声掛けて来るから」
---------------
課題は山盛りだが1つ1つ片して行こう。
ソプランの言う通り。
案件を幾つも囓っては途中で捨て、また増やしていては近い将来破綻する。任せられる物は任せるべきだった。
朝食後に準備して財団宿舎で出発メンバーと合流。
先布令はシュベイン夫妻にしか届けられていない。全く知らないのはライザーだけ。完全な不意打ち。
俺なら激怒する。悪いイメージしか浮かばん。
中型商船で昼前にウィンザート着。休まずシュベイン宅へ押し掛けた。
親子の感動的再会。シュルツはずっと我慢して来た。
その一言に尽きる。
甘えられる人が居る。それがどれ程有り難い事か。
抱き合う親子に飾る言葉なんざ要らないさ。
王子を呼び立てるのに部下や恋敵なんて同席させられないと。リビングに集まるは、俺とフィーネ、ロロシュ氏、シュベイン夫妻、シュルツの6名。
ゼファーは隣室。ソプランたちやゴーギャン、ピレリは表通りの茶店で待機中。
昼過ぎに夫妻に呼び出されたライザーは。到着初めは良い話が聞けるのかと明るく上機嫌で颯爽と現われたが。
こちらのメンバーの顔を見回すや否や曇った。
うん。解るよ。これは酷いドッキリだ。
シュルツがこれまでの御礼を述べ、自分の心がもうライザーに全く無い事を告げ、婚約解消を願い出た。
「…私はもう不要か。どうしても私では駄目なのか」
「申し訳有りません。殿下に抱く感情は。スターレン様と同じく兄を見ている様な感情です。恋愛感情では有りません。将来、殿下の世継ぎを生まねば成らぬと想像するだけで反吐が出ます」
シュルツが止めだと抉る。腸を抉り取るようなボディーが容赦無く繰り出された。
「そうか…。誰か好きな男でも現われたのかい」
「処罰されても困ります故。詳細は伏せますが。
大変有望で素敵な殿方が不意に現われました」
「ロロシュ卿やシュベイン殿はそれをお認めに」
「わしの部下の息子だ。スターレンも一目置く男。まだ荒削りだが商売に対する着眼も高く評価出来る」
「私はまだ直接会っては居りませんが。父上がそう評価するなら安心して任せられる逸材だと判断します」
返答を聞いてライザーは深く息を吐き出した。
「辛いな…。私の父ヘルメンは…。
欲する物をどんな汚い手を使ってでも手に入れて来た御人だ。先王を罠に嵌めてまで王座を勝ち取った。
そんな父に恐怖を感じる反面で、憧憬にも似た感情を抱いても居た。私もそう成らんと努力して来た積もりだった。
出来もしない事を出来ると虚栄を張ったり、弱い心を隠す為に尊大に振舞ったりな」
どっちだ。怒り出す流れなのか?
「スターレン殿!」
「何?」
「私に対する世間の評価は駄駄下がりだ。最早挽回も容易ではない。以前の候補の貴族子女にも今更見向きもされないだろう。私から切り捨てたのだし」
「それで…?」
「君ら夫婦は方々でお相手探しを請け負ったり、取り持ったりしているそうだな」
「似たような事は確かに。それが?」これはまさか…。
「恥を忍んでお願いしたい!誰か紹介してくれ!」
「「え…」」誰か嘘だと言ってくれ。
助けを求めても誰も目を合わせてくれない。
俺たちは何時から結婚相談所の相談員に成ったんだ。
「落着いて下さい。殿下に紹介出来るような高貴な女性が急に見付か……」
「ちょっとスタン。勝手に勧めちゃっていいの?」
「だ、大丈夫だ。と思う。偶然好みの男性を聞いたら、ライザー殿下が好みのタイプだって本人が言ってたから」
「誰か居るのか」
「ニーダと言う女性を覚えてますか?ノイツェ殿の部下で何度か目にしていると思うんですけど」
「ニーダ…。あの珍しい銀髪の娘か」
「その人です。ミラン様とも面識があり、近々ノイツェ殿の新興貴族家に養子縁組される予定で。
王都に戻ったら一度会食してみます?」
ライザーV字回復。
「是非とも!何と好都合。ここの復興も後数日で第一段に目処が着く。丁度王都に戻る予定だった」
「人柄は温厚。気立ても器量も良好。真面目で文官としての才能も優れ、ノイツェ殿が認める女性です。そこに家柄も付随すれば」
「素晴らしいではないか!誰にも文句は言わせん。
おぉ、今直ぐ会いたくなって来たぞ」
「但し…。少々懸念事項が」
「何だ」
ニーダの出生はノイちゃんが別途調査中。判明しているのはロルーゼの孤児で避難民。とある貴族に襲われそうになり逃げて来た。数年経った今でもその貴族が彼女を付け狙い、不穏な動きを見せ始めていると伝えた。
ライザーが熱くテーブルを叩いた。
「許せん!この私が今直ぐ兵を率いて」
ロロシュ氏が叱責。
「馬鹿者が!それは時期尚早。国防と外交が絡む重大な事案だ。出しゃばるな!」
「済みません…。興奮の余りに」
「先の事は国防と陛下のご判断に任せましょうよ」
「何よりニーダ本人が知り得ない所で事は進んでいます。詳細が不明瞭な現段階で彼女に知られると無駄に悩ませるだけで。真面目で繊細な彼女は、抱かなくてもいい責任感に胸を痛めてしまうでしょう。
彼女の為を思うなら。不要な言動は慎むべきだと思いませんか」
「君らの言う通りだ…」
「雑事は静観して置いて。まずは2人切りで世間話でもして親交を温めて下さい」
「仲良くもなっていないのに走り出しては彼女の英雄には成れません。英雄気取りの道化が関の山。いざと言う時に守れるよう策を練って置くだけで充分です」
「彼女の英雄か。良い響きだ。
今度こそ。シュルツみたく逃げられぬ様に。良好な関係を築くのが先決だな」
「俺たちが出来るのは最初の会食を取り付けるまで」
「それ以降は御自分で進めて下さいね」
「うむ。宜しく頼む!」
胸を張り悠然と出て行くライザーを見送り、ソプランたちを呼び、ピレリのシュベイン夫妻へのご挨拶で幕を閉じた。
ガチガチの緊張で面白かった。笑ってはないよ。
善き方向な雰囲気で胸が温かくなりました。
10
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