お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第291話 8月後半から夏季休暇

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8月20日。
雨期の分厚い曇天が消え。今年も暑い夏がやって来た。

同時に開かれた我らの訓練棟。
敷地面積は最も広い。勇者隊関係者が多く利用する為最新のトレーニング設備も充実。

ティンダー隊とタツリケ隊。新宿舎の入居者。外部ではミーシャやシルビィも。女性陣の目当ては専ら地下大浴場だったりもする。

俺たち専用のプールも開き。早速利用…。
何と初日にして王家3人娘まで遊びに来てしまった。
際どい方の水着を揃って着熟して。
「ちょっと駄目よメル!ミラン様もリシャーノも。どうしてそっち着ちゃうのよ。後で怒られるの私だよ」
嫁らとエルラダさんを加えてすっごい目の保養で目福。
俺も流石のソプランも前屈みでプールに飛び込んだ。
でも温いから収まらねえ!

「フィーも他も着てるじゃない。新作水着の際どいの」
「だって初日に来るなんて聞いてないもん。自分たちは家族だからいいの」
「護衛は近衛数名。口止めして建物の外の警護です。黙っていればバレません」
「自分の責任は自分で取りますよ」
「折角買ったのですから着てみないと。下の無駄毛も綺麗にしましたし。スターレン様に一度見て頂きたくて。ライザー様にお披露目するよりも早いのですよ?」
「それが駄目だって言ってるんでしょ!」

「王宮でもラフドッグの海でも着られませんもの!殿方に見て貰わねば意味が無いわ。私の胸が大きいのも今限定。ならばここしか有りません」
「買う時に止めるべきだった…」

「さあそこの二人。沈んでないで上がって感想を述べなさいな!」
「前屈みでも許します。寧ろ有り難い」
「私も嬉しいです!」
女子の思考回路がぶっ飛んでる。
「今は無理です!勘弁して下さい」
「もう少々お時間を。制御しますんで。じゃなくてシャワールームで冷却します!」

プレマーレだけが周りに無関心で空きレーンで遊泳中と言うシュールさ。

男2人はシャワールームに逃げ込み一気に沈静化。
しかし出れば際どいお召し物の天女が14人も!
「これは俺たちへの試練か」
「間違いねえ。最上級の試練だ」
一番下のシュルツでも肖像画までもう少しと言う発展途上具合。他は成熟完了。メルシャンは期間限定巨乳。元から大きいからもう無理。

中身を知っている先生も堂々と色気を放出。その時点で限界ギリギリだったのに…。

俺たちは観念してバスタオルを腰に巻き。ゲスト3人の前で土下座。
「訳有って直視は出来ません」
「お許し下さい」

「見せに来たのに見ないとは何ですか!」
「許可を出したのですからご覧に成って」
「今だけです。遠慮は為さらずに」

「何て誘惑だ…」
「幸せな拷問だぜ…。命懸けの」

深呼吸を繰り返し。拝見させて頂きますと銘打ち。面を上げて直視。

「有り難う御座います。我らは。俺はまた独房行きでしょうか」
「三日程度で納めて頂けると有り難く」

「ここは閉鎖空間。外には漏れません。安心為さい」
「今回は私が責任以て揉み消します」
「どうぞご存分に」

メルシャンは黒ビキニ。ミラン様は青色ビキニ。
リシャーノは白青ストライプビキニ。

真っ白なお肌ではなく。面積の狭い布の方を視界に納めて素直な感想を2人で並べ。ゲスト3人を赤面させるに至った。

ご満足を得られてやっと終わったかと思いきや。
「ねえスタンさん。ソプラン。当然私たちも、だよね?」
「「え…」」
プールサイドに横並びの嫁ら11人もポージング。
何故かプレマーレまでプールから上がっていた。

そちらに関してはシュルツ以外は熟知している。
夜の営みの光景を脳裏から振り払い…。振り払えなかったが何とか堪えに堪え。感想を述べ讃えた。

14人を赤面満足させた後。
「今日はもう自宅へ帰ります」
「そちらの水風呂に入って冷却を」
脱兎の如く男子更衣室へ向かう。通路を我が嫁らが塞いでしまった。

「駄目よ。折角来たんだし泳いでくれないと。泳ぎが苦手なゲスト3人。
メルはスタンさんが。ミラン様はソプランが。
リシャーノは接近禁止で私が。手取り足取り教えるの」
「何故そんな無謀な試練を!」
「お嬢。無理だ。逃がしてくれ!」

「嫌なのですか?」
「それは酷い仕打ち。勇気を奮って来たのに。ヘルメンには内緒で」
「私は…無念です…」

「それが終わったら私たちと遊ぶのよ。明日はプールの清掃と実用後の点検。明後日はアルカナ号で深海ツアー。
23日からはモーランゼアのオリオン関係者をタイラント観光案内。26日からはフラジミゼールの関係者案内。
9月1日にペカトーレのモデロン視察招待と案内とリオーナとのシークレットお見合い。
2日に帝国要人とクルシュとレレミィのご招待。
リオーナが駄目だったらクルシュ。
ミゼッタとモーリアのセッティングも同時進行。
途中5日はラザーリア関係者の半日ご招待。
今月皆でプールで遊べるのは今日しか無いの」
「「…」」
天国と言う名の地獄がここに在りました!


自棄糞モードで水深の低いサイドで手取り足取りバタ足の練習からスタート。
時々サイドに上がって休み休み。その頃にはやっと愚息が落ち着いた。
「なあメルシャン。なんでこんな無茶するんだよ。ちょっとは俺の身にも成れって。フィーネの立場とか。水着はメイザーに見せるだけで充分だろ」
「刺激が強すぎて遊泳禁止に成りますわ」
「解ってるならそもそも買うなよ。ミラン様まで巻き込んで一歩間違えば国外追放だぞ俺ら」
「今しか遊べませんもの。次は何時実るか解りませんし。大丈夫です。今度こそ責任は全部こちら持ちです」
「ホントだろうな」
「ホントです」
「はぁ…。キスなんてしないぞ。あれが最初で最後だ」
「チッ」
「舌打ちすんな。帰らせるぞ」
「…解りましたわ。今は我慢します。今は」
「ずっとだ」
「キス位でウジウジと」
「あーそうですか。次はロープ使って支えるよ」
「嫌です嘘です冗談です」
必死。あのキスは失敗だったかも…。でもまあ後悔はしてないし。したら失礼だ。善き思い出として。

昼は事務棟の食堂。プールサイドで水着茶会を挟み。外の護衛隊を交代で休ませ。王族3人は14時過ぎに帰して丸々1日夜中までプールで遊び尽くした。

何故かプール上がりの女子更衣室前で泣きながらメルシャンにキスを強請られ…。
「なんで我慢が出来ないんだ」
「あの日のキスが忘れられないのです。ここなら外にはバレません。今しか無い。お願い。ご褒美のキスを」
「どうなっても知らんぞ」
「はい。キスまでですから」
同意を得られてしまい。嫁たちも影で了承。何故だ!

仕方無いと言う後ろ向きは捨て。誠心誠意感謝のキスに愛情を載せて贈った。

10分後。さあ終わったと思いきや…。ミラン様が順番待ちをして。
「何をしてるんですか?」
「順番待ちですね。私も頂かないと口が閉じませんよ?」
「俺を打ち首にしたいと」
「これ程のキスを見せ付けられて我慢が出来ますか。キス程度で首など飛びません。私を信じふうっ」
もう遠慮なんてしない。実は前前からしたいと思っていたのは正直な所。

たっぷり愛情込めて10分間。

同時に2人の普段なら絶対に触れられない素肌も余さず堪能。流石に大切な部分は除き腰やら背中やらを。

次のリシャーノはフィーネが連れ去り。
「リシャーノは駄目。私で我慢」
「そ、そんなご無体な。フィ、フィーネ様。あのふごっ」
行き成りの同性キスは流石に拙いと…。
思ったが何振り構わず本気のキスをしていた。

さあ終わったかと思えばまだ甘い。
「フィー…。当然私にも」
「望む所よメル。スタンさん仕込みの優しいキスをたっぷりあげるわ」
溶け合う程のキスを交し。やっと王族3人娘は満足して城へ帰ってくれた。

シュルツの狙い澄ましたポロリにも冷静に対応。
軽いデコピンで着せ直した。
「ダーメ。後9ヶ月の辛抱です」
「今のタイミングでは無かった。反省です」
「論点が違う!」
「違いません!」
「ソプランにも見られてるんだぞ!」
「どの道それ以上をするのですから同じです!」
なんてこった。成人間近の思春期娘はもう止まらない。




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8月22日。王族関係者限定深海ツアー。
陛下とメイザーは城でお留守番。

航行は順調で絶好調。
アルカンレディア遺跡は何度見ても壮観。

樹脂板窓に張り付くメルシャンはダリアが抱き留め。
リシャーノはライザーがバックハグ。
「スターレンには惚れるなよ。格好良くても」
「大丈夫です。私の中でライザー様が一番。スターレン様は三番ですから」
「そうか良かった…?二番は誰なのだ」
「フィーネ様です。あのお美しい青銀鎧…。今度触らせて頂きたいです」
「うむ。それを聞いて安心した」
俺も安心した!原因はアレで間違い無い。


8月23日。オリオン関係者のご招待。

王都内観光はそこそこに初日はラフドッグのエリュロンズに宿泊。
24日にラフドッグの財団宿舎で打ち合わせ。
ロロシュ、カメノス、コマネンティ各財団の主要者を一気に招き。議題はオリオン進捗。王都観光は25日。

昼中半分は打ち合わせの皆でラフドッグ観光。
子供たちも大喜び。立っちで動き回るエリュトJrのエリュラ君は元気一杯。奥さんのサメリアさんが汗汗。

サンメイルの妻カナロゼさんもラフドッグの景色に大満足。
長男15歳のサンジュロ君はツンツン態度。しかしフィーネの前では大人しい。
「あら可愛い。私に惚れたの?でも駄目よ。私はスタンだけの物なの」
「ち、違うよ!ほ、惚れてなんか…」
顔を真っ赤にドギマギ君に妹のミエセロちゃん12歳が突っ込み。
「お兄ちゃんの嘘吐きぃ~。出発前はお会い出来るかな今回お会い出来るかな。お茶なんてふごごご」
慌てて口を塞いで。
「違います!これは妹の妄想で!」
「ごめんねぇ。お茶は今は無理かなぁ。オリオンに移住してからかな。頑張ってお父さんの下で勉強してね」
「は、はい!頑張ります!スターレン様もご一緒に」
「おぉいいぞ。そんな気を遣わなくてもお茶位で文句は言わないって」
「凄い人だ…やっぱり」
褒められて俺も良い気分。


25日はロロシュ邸会議室での短時間打ち合わせからスタート。終了後に都内観光。各財団の邸宅へ訪問。

26日はシュルツとファフに対応引き継ぎ。フラジミゼールの両家をご招待。前回で王都巡りはしたのでラフドッグへ直行。こちらはエリュランテに宿泊で観光。

夕方前にミゼッタとセントバ氏を連れ。突然のお見合いをラウンジの片隅で実施。

セントバ氏とモーちゃんたちには根回し済。知らぬは本人たちばかり。2人切りにして放置。俺たちは上の部屋で午後の紅茶タイム。
「リオーナにもお見合い相手をご用意してます」
「え!?ほ、ほんとですか!?」
「9月1日に王都へ連れて来るペカトーレの役人。あっちで色々お世話に成ってる若手有力株。将来的にタイラントに来てくれる人」
「やったー♡スターレン様のお墨付きだぁ。母様父様。良いですよね。お会いしても」
「勿論だとも」
「こちらのお話も聞いてますから。ガンガン行きましょう」
「はい!頑張ります。後六日後。あぁ~ドキドキが止まらない。兄さんの事なんてどうでもいい」
「落ち着け。あっちには予告してないんだから。行き成りアタックすんな。まずはお茶だ」
「ふぅーふぅー。良し。落ち着いて頑張ります」

下が気に成るセントバ氏に。
「セントバさんも落ち着いて。上手く行くとは限りませんし」
「あぁ見に行きたい。トイレの振りをして下へ降りても?」
「振りって言ったら意味が無いでしょ。駄目です。ここで待機です。取り敢えずミゼッタの良い所をモーちゃんとリオナさんにお話を」
「おぉそうでしたな。順序が。孫娘をどうぞ貰って…。いや違うな。失礼。一つ紅茶で冷静に…」
紅茶をガブ飲み。
「ミゼッタは義理堅く実直。出自はクワンジアの中流貴族家でしたが今は解体してタイラントへ移住しました。
訳有って母親は他界。馬鹿息子の父親は変な宗教に嵌まって行方知れず。私と孫だけで来ました」
「ほぉクワンジアの出でしたか」
「ご苦労を為さって」
「縁有ってスターレン様らに救われ孫娘共々拾って頂けたのが現在。二人共、将来はオリオンのホテルで仕事をさせて頂こうと勉強中です」
リオーナが挙動停止。
「丁度良かったですわスターレン様」
「どした急に」
「私と兄のお仕事希望。私たちもオリオンの希望を出そうかと家族内で相談していたのです」
「お!いいじゃんバッチリ。リオーナのお見合い相手もオリオンの候補者だから。希望が他に無ければだけど」
「あぁ何て素晴らしい偶然。これはもう運命」
「だから落ち着けって」

隣のペリーニャが挙動不審。
「済みません。役立たずで済みません」
「大丈夫。ペリーニャは座ってるだけで皆が和む」
「そ、そうですか…置物…」

フィーネとダリアとエルラダさんが隣部屋でナノモイ夫妻とお喋り中。
従者2人はオリオン招待者の対応補佐で同行。
レイルとプレマーレとロイドとオメアニスは何処かの家でイチャイチャしながら自由行動。今頃南極拠点かな?
ペッツはクワンにお任せと言う布陣。

「まだ時間有りますが夕食どうします?隣と下と合流してラウンジ借りましょうか」
皆がそれにしようと一致。隣の了解も得られた。

「問題は下だな。ペリーニャ。フロントで人数分の夕食メニューはお任せで。そーっとラウンジの様子見て来て」
「はい!行って参ります!」
お仕事を得て飛んで走って行った。

約10分後に帰還。
「大変良い感じでした。内容は聞こえませんでしたが盛り上がっていて両者の心もピンク色。相性バッチリ。
御夕食は半貸し切りで。私の思い出のスープをお出ししてくれるそうで」
「おぉあの時の南国スープか。ペリーニャ風邪で食べられなかったもんな。気が利くぜ料理長」
「はい。予期せぬご褒美です♡」

「そんなに?」
「美味しいのですか?」
「多分世界初。ここへ泊まった人しか食べられない絶品スープ。ちょっと辛くて酸っぱくて魚介がプリプリ。あれから2年経つから更に改良されてる筈。やべ唾液が…」
皆も固唾を吞んだ。

ラウンジから連絡が入り隣と合流後に下へ。

お見合い2人の結果は聞くまでも無く良好。
「モーリアも面喰いだなぁ。フィーネたち見ても伸びなかった鼻の下伸び伸びだぞ」
「おー負けちゃったかぁ。ミゼッタに」
「いやそんな…。こ、これは失礼を。ミゼッタさん。僕は貴女の容姿よりも内面が好きで…。いや!そんな重たい意味ではなくて!」
「う、嬉しいですわ。素直に。そんなストレートなお言葉を頂けたのは初めてです…。顔が熱い…」
両者顔が真っ赤っか。
「2人のテーブルだけ暑いなぁ。ここ外だっけ」
「暑い暑い。でももう直ぐ出て来るのは辛くて酸っぱい冷製スープなり」
「早く来ませんかね」
ペリーニャはもうスープで頭が一杯。

進化した料理長自慢のトムヤムクンスープは超絶品。ブートの葉で臭みが全く無く。程良い酸味の後を追う刺激的な辛さ。香辛料が追加されたようだがカレーには寄せない絶妙なバランス感。海老とアサリがプリプリジューシー。

メインのガーリックローストチキンが霞む程の美味。

堅焼きパンを浸して殻と葉を残して全部飲み干した。
全員のスプーンとフォークが止まらず大絶賛。

支配人のカメオラさんと料理長のソドモさんを呼び出して熱いハグ。
「素晴らしい!真似したくても真似出来ない絶品スープでした。スープカレーなんて目じゃないです」
「スターレン様にこれ程絶賛して頂けるとは…。頑張って来た甲斐が有ります」
料理長感涙。

ペリーニャも言葉無く感激で恍惚。

「ローストチキンと程良い堅焼きパン。温野菜のドレッシング。何れも邪魔せず完璧な組合せです。
来月前半に1週間程。自分たちでも泊まりに来るので同じの頼めますか」
「それは勿論喜んで」
カメオラさんが。
「まだお決まりではない様子…。総帥一行の後でしょうか」
「他にも何件か被ってて。少し延長して更に被るかもで決められないんです」
「もう少々お待ちを」

「畏まりました。いっそ前半丸々最上階と下階一部屋を押えます。丁度先客が月末の御退出です故。ご自由にと」
「助かります。後でフロントに行きますね」
「承知を」
「他にもご賞味頂きたい物が幾つか。そちらも楽しみにと存じます」
「おぉ楽しみが増えた」
2人が一礼して退席。

皆を振り返り。
「来客そっち退けで済みません。モーリアとミゼッタはどうする?明日2人切りでここでデートしてみたい?」
「「是非!」」
「今日の所は落ち着いて。ミゼッタとセントバさんは王都に帰します。朝食後位の時間でミゼッタだけ連れて来ますんで。モーリア肝心な挨拶宜しく」
「挨拶?あい…あ!これは失礼を。セントバ様。僕はこちらモーゼスの子でモーリアと申します。御挨拶が遅れてしまって申し訳有りません」
「いやいや何の。こちらこそ押し掛けてしまって。礼儀正しい好青年。モーゼス殿もご自慢でしょうな」
「まだまだ日よっ子です。長い目で見てやって下さい。何れ近い内に息子と娘は王都へ移住させる積もりで居ますのでどうぞ友人としてでもお願いします」

「私はリオーナと申します。兄共々宜しくねミゼッタさん。まーだ姉さんと呼ぶには早いので」
「それは性急ですね。良き友人としてこちらこそ宜しくリオーナさん」

「良好良好。…テーブルの上が綺麗に無いので。お摘まみ追加して少しお酒を入れましょうか」
「賛成」
「名案ですスターレン様」
「お母さんは程々に」
「解ってますよ。寝てしまったらフィーネ様に送って頂きます」
「了解。お姫様抱っこでお送りします」
ちょっとだけ先生を送りたい自分が居る。こんなに決意が弱くて未練がましい男だったとは驚きだ。




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27日も昨日の人員配置で方々ご案内。

朝からガイドマップを持たせて2人切りにと思っていたが先に皆をスタフィー号に乗せたいと提案。午前中は南海クルーズにお出掛け。

何時も鮪漁をしているポイントで停泊。パラソルとチェアーをデッキに並べてのんびり波に揺られる時間。

潮風も波音も穏やか。

カップルや親子で思い思いの場所で景色を楽しんだ。
俺の両サイドはフィーネとペリーニャ。
「今更だけど女子会でシュルツ浮いてたりしない?」
「全然全く」
「ロープを駆使してあのレイル様を屈服させました。二回目の時にはもう」
「マジか…」
凄えなシュルツ。
「私やオメアさんの蔦如きじゃ10本手には勝てなくて。本人含めたら12本…。3回目には9人全員陥落」
「四回目には女子会の女王様に君臨しました。気持ち良いの何の。絶頂と絶叫の嵐で…」
「わーお。心配するだけ無駄やったね」
恐ろしい子やわ。

「昼食は皆で食べるけど午後からどうする?ミゼッタとモーリアは別。他を両家で分けようか」
「あぁそうね。動き難いし。私は少しダリアとエルラダさんに任せてお婆ちゃん家に遊びに行く。クレハジルの代わりの新人がまた何も出来ない子みたいで楽しそうだけど大変そうだから」
「へぇ。面白そうな子揃ってるな海軍。勝手なイメージ寮生活で家事一般出来ると思ってたけど」
「寮だと全部寮母さんたちがやってくれるみたいで身に付く以前に怠けちゃうんだって」
「成程ぉ」
「以前の私みたいですね。黙っていると全部やられてしまうのは」
色々有るんだなぁ。寮生活も。

「クルシュの相手候補居なくなったな。あの様子だと」
「巡り合わせね。成婚率高水準に揺るぎなし」
「でも確定移住定住者を結ぶのは悪い選択ではないと思います。クルシュさんは暫く帝国内で探すでしょうし。余りお世話し過ぎても怠惰を発症しますし。エンバミル卿は流石に動きませんし」
「「確かに…」」

「余計なお世話だな」
「今直ぐは余計だったね」
「帝国内にこそ真面目で一途な方が居ると。居ないと可笑しいです」
「放置やね」
「放置ですね」
クルシュの放置が密かに決定。


昼はラフドッグで良く使う麦飯丼の店で海鮮丼。米とは違うプチッと香ばしい感じを思い出した。変な話懐かしい。

ミゼッタたちを送り出し。フィーネのみ別行動で分散。

海水浴客で賑わう浜辺にモーちゃん一家3人を連れ。
「荒ぶる東海峡には無い光景だろ」
「あぁ…。こんな楽しげな浜は無いな」
「羨ましいですわ」
「真に羨ましく。母様私たちも水着を買って明日からの時間で泳ぎ…は無理でも遊びませんか?」
「良いですわね。遠浅で波も緩く怖くも無い。あなたも偶には日焼けでもして」
「あぁそうだな。仕事を忘れて一時を」

「日焼け前後の塗り薬渡すよ」
「今日の船の上でも焼けましたし。本日の解散時に両家にお渡ししましょう。説明はその時に」
「何から何まで」
「申し訳無いです」
「水竜教に変わられてもペリーニャ様は聖女様ですね」
「何方でも購入出来る市販のお薬ですよ。大袈裟です」
性根の優しさは変わらない。と言う程の事でもない。

4人とは少し離れて。
「カタリデとピーカー君は?ラブラブ?」
「そうねラブラブよ」
「ずっと念話でお話を」
もう隠しもしやがらねえぜ。
「まあ来月まで接待と休みだからお気軽に。でもクルシュは少し気に掛けて。暴走すると厄介な子だから」
「ラジャー」
「了解です」
人間みたいに恋で周りが見えなくなる事は無さそうなカップルで安心。ピーカー君が圧倒的に冷静。

この頃から何となく…。何となーく嫌な予感がヒタヒタと北の方角から近付いて来ている気がしていた。

人の恋路を邪魔する妄想乙女の足音が。




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27日の夜。

各方面からメンバーを集めて。
「えーっと。南極拠点でバカンス中の4人は放置しましてお集まり頂き感謝します。
それぞれのご案内お疲れ様です。接待なので特に何も起きない。なーんて事は有りません」
「スタンさんが気に成る事?」

「よくぞ聞いてくれましたフィーネさん。モデロンの話をし始めた頃からどうも背筋が寒い。あら夏風邪?なんて事も無く普通に嫌な予感。
妄想暴走乙女のクルシュが…。9月2日着を前倒し1日にラーランの転移でやって来て。さあ何をしますかペリーニャさん」
「…まさか。リオーナさんとモデロンさんのお見合いを邪魔しに来るとか」
「正解!」
自宅に集まるメンバーで頭を抱えた。

「お父さんのお説教も本人の反省も俺との約束も何処へやらであの子はとっても怠け者。
何をしたのかと言いますと…。多分俺の周囲を監視中。
良い物件は無いかしら。ああ無いかしら。
俺が誰かに紹介する人はどんなかな。
おぉあんな良い人が。これは私が会わねば。彼はきっと私にこそ相応しい」
「あの子…馬鹿なの?」
「重傷患者ですね」
「いったいどうすれば…」
「放って置くと…厄介だな」
「困った子ですね」
「会ってもないのに面倒臭い子」
「再会するのが嫌に成りました」
エルラダ先生の口が開く前に。
「エルラダさんの言いたい事は解ります。ダリアの未来視を使えと。でもクルシュも未来視持ちなんです。こっちから読もうとすると上に行く。前回がそうだったんで」
「な、成程…」

「と言う訳で俺は考えました…。が口に出しても紙に書いても読まれてしまう。ロイド経由で発表したくともバカンス中でどうしましょ。お楽しみ中の所に凸する勇気は有りますかフィーネさん」
「えー…非常に厳しいです。レイルは途中で割り込まれるのが一番嫌いなんで。それはシュルツでも難しいです」
「困りました。何かお仕事を与えるべきだったかなと今更もういいです。他に読まれない方法…。
ダリアが俺を読もうとするとクルシュも隣から読む。駄目だ全然浮かばない」

ピーカー君が救いの手。
「僕がスターレン様のお口に入ります。その上から全身をブランちゃんで覆って下さい。無効化を二重で掛ければ流石に突破…手緩いな。
ブランちゃんの上にカタリデ様の障壁を薄く張り。クワンティ様がクルシュさんを敵だと認識した上でソラリマさん装備で神格化。輪廻の輪をクワンティ様が所持。
更にオーラさんの障壁をテーブル周辺に展開。極め付けは黒竜様の盾をスターレン様の背中へ置く。
時間干渉と外部干渉と識別無効化の五重奏。これを越えられるならもう諦めましょう」
「素晴らしい。自分の全力。全員の総力でも破れそうに無い五重奏だ」
「流石私のダーリン♡」
「いえいえ。拠点のオメアニス様とレイル様が加われば八重奏まで行けます」

「完全無欠の要塞だ。そもそも暇を与えてしまった俺が悪いんで五重奏でやってみよう」
「放置した私も同罪。良し。私も皆も聞くだけ喋らず驚かず閉口で」

全てを整えピーカー君は最少化して俺の舌の裏側。

「思い付いた方法は簡単。リオーナを月末31日の夜にホテルから拉致。ペカトーレ首都で出張準備中のモデロンの居場所をゲリラ訪問します。
先に会わせてしまえばこっちの物。クルシュが来た時泣き崩れたらスキルを強制没収する。以上」




-------------

8月31日の夜。

クルシュには一切触れず。帰って来た4人にも何も言わずに夕食後暫くして唐突に出発。

いったい何が?
説明は後。ロイドはそこで待て。超緊急事案だ。
はい…。

エリュランテでリオーナを呼び出し身嗜みのチェック。
「服装は問題無し。お酒は飲んでないな。大蒜料理は食べた?」
「え?少しだけ夕食に出されました」
オーナルディア産の臭い消しを飲ませてロビーから転移。

首相官邸ポイント着直ぐに受付へ。モデロンの所在を確認するともう直ぐ仕事終わりだと言うので俺とフィーネと従者2人とリオーナの5人で待合室で待機。

待ち時間中にロディに説明。

成程…。遊んでいて済みません。
遊びって言うな!俺たちのは愛有ってこそ真面目。
…その通りです。謝罪は不適切でした。
オメアたち3人に小声で伝えてくれ。次クルシュに会って泣き言を垂れたら未来視スキルを取り押さえて強制没収する。逃げてもコンパスで追い掛けると。
はい!

待合室へ来てくれたモデロンに。
「押し掛けて済まん。こちらが明日タイラントでお見合いさせようとしていたリオーナだ」
「え!?そんな急に」
「初めまして」
リオーナは落ち着いた一礼。
「初め…まして。失礼。私はここの財務担当省に従事しているモデロンと申します。
リオーナ様は…何も知らぬご様子。今日に成った訳をお聞かせ願えますか。スターレン様」

応接室へ。2人に思い込みの激しい未来視持ちの子がお見合いを邪魔しに来ると説明。
「スキル以外は普通な子だから物理的に危険と言う程じゃない。大変厳格な父親が傍に居るし。説得には応じてくれる少々面倒な子がね」
「はぁ。いやはや面倒」
「余り…お会いしたくはない方のようで」

「反省の弱い怠け者だよ。でどうしよう。リオーナは宿泊ホテルで夕食食べちゃった。モデロンまだだよな」
「はい。ですが夕食や晩は小食で。我が家の借家はエリュライトより近いのでそちらのラウンジでお茶でも如何でしょうか。リオーナ様」
「是非。喜んでそちらへ」

「おけ。リオーナの放置は入国的にも出来ないんで。ラウンジ内の離れたテーブルで俺たちは酒でもチビチビやってるよ」
「良かった。でもここから先は2人の時間。何時間でも待つし。明日王都パージェント内の何処で会うとかは2人だけの秘密にして。私たちには言わないで」
「「はい」」

場所を変えお摘まみとお勧めの赤を頼んで4人で晩酌。
オリオン関係招待客の話を聞いた。
「オリオンの現場見せて安心して貰えたかな」
「オリオン含め。長時間ではないが国内全部の町回って大変満足だとよ」
「タイラント以上に安全な国は存在しないと皆様納得で帰国されました」
「「良かったぁ」」

「何たってガイドがシュルツお嬢様だしな。俺たちは後ろに付いて回って」
「子守りと警護をしていただけです」

双方の進捗を話し合い。ロイドにも伝えて他へも連絡を回した。

1時間程で緊急茶会の2人が席を立ちこちらへ。

「明日回る所は決めました。これからリオーナ様と皆様を個人的に推奨する…。固いですね。見て頂きたいキッタントゥーレの夜景を一望出来る隠れスポットが在るのでご案内したいのですが」
「お、いいね」
「良い良い。ここの夜景ってちゃんと見てなかったし」
従者2人も当然ノリノリ。

リオーナは別の意味で不満顔。
「モデロン様。私に様を付けるのはお止め下さい。他人行儀で嫌ですわ。どうぞ呼捨てに」
「それは…。では私も呼捨てに出来ますか?」
「え…。いやそれは年上の殿方をお立てする淑女として難しいと」
「ならこのままです」
モデロン、紳士やな。見込んだ通りの。
「モ、モデロン…」
「有り難う。ではリオーナ。お手を拝借しても?」
「ど、どうぞ」

初々しい手繋ぎデートをする2人。それを少し後ろから追う俺たち。

自分たちもそれぞれのペアで手を握り絞めて。
海岸沿い南側の今まで見過ごしていた階段から上がった展望台へと辿り着いた。

心地良く涼しい夜の潮風吹き抜ける。灯台下の割と広い展望エリア。街路灯は程良く道を照らし。家家の灯火は自然で淡く浮かび。眩しく輝くではない幻想浮遊。

シャインジーネの展望台と少し似た構図。港から官邸。その奥の旧王城跡地まで一望出来る特別な場所。

「ここは誰もが知っている筈なのに町の誰もが忘れる不思議な展望台。灯台下暗しとはこれなのかもと。でも私はこれを大切に。何時か大切だと思える人と見たい。見せたいと胸に刻みました。
リオーナ。先程出会ったばかりだけど。君にどうしても見せたいと思えた。心の底から。迷惑かい?」
「いいえ…」
ホロリと涙が流れた。
「嬉しくて…。胸が一杯です。モデロン」
その涙をモデロンがハンカチで拭い。
「許されるならキスしたい。のは山々だけど。耐え忍んで明日ご両親への挨拶をしてからにするよ」
「私も…したい。のは我慢して。浅ましい女だと思われるのは何よりも辛いので」

肩を寄せ合いリオーナが頭を預ける。健全で美しい幻想夜景に浮かぶ2人の隣で…。

俺たちは我慢が出来ずに構わずキスし捲った。
あぁ止められない止められない甘いキス。気付いた2人のジト目がとっても胸に痛かった。

「彼方は正統な夫婦なので気にせず。どうかなリオーナ。タイラントのラフドッグや故郷のフラジミゼールの夜景と比べて。優劣ではない印象的に」
「優劣は無粋ですものね。浮かぶ灯りは淡く優しく。それぞれの国で違う物なのだなと。何処も美しいのは当然。
フラジミゼールの夜は港方面の灯りを着けません。沿岸部から波が荒くて誰も使えず意味が無いからと。でも景観と治安の為には必要なのではと感じました。
ここの波はラフドッグと同じで穏やかで柔らかく。南海で繋がっていると。海で繋がっているのだと安心しました。
モデロンやスターレン様の優しさに包まれているような気がします」
「それは高過ぎる評価です。でも素直に嬉しく。そのままお受け取りします。
これ以上は…隣の影響でキスしたく成るばかりなので!今宵はこの辺りで」
「はい…。次回は二人切りで」

モデロンに怒られ我に返って口を離す俺たち4人。
「ごめん。許して」
「ごめんなさーい」
「我慢出来なかった」
「耐えられず…」
結局2人を挑発してしまった愚かな形。何しに来たん?


翌9月󠄃1日。

モデロンを回収する前に両家全員を王都へ移動。
ロロシュ邸側の会議室に集め。ロロシュ氏とカメノス氏と改めてのご挨拶。

ロロシュ氏がモーちゃんに。
「領事官が町を離れるには手続き諸々時間が掛かる。何の協力も出来ないが責めて相応しい役職と住居は約束しよう。
先出しの長男長女の住居はスターレン君の新宿舎で確保済。もし私が倒れてもスターレン君とシュルツ。隣のカメノスも居るから安心して来て欲しいと願う」
「過分な言葉痛み入る。ナノモイのアッペルト家と協力すれば二年以内。
オリオン開業と同時期位には纏まりそうです。まあ全て綺麗にとは行きませんがそれは後追いでも。我ら夫婦の改信はその時にと考えています」

「うむ。ナノモイ夫妻はカメノスが担当で私とは余り話をしていないが。何かこちらに要望が有るなら聞いて置こう」
「特に…と言いたい所ですが一点。私がフラジミゼールに溜め込んでいる珍品魔道具をこちらの倉庫。地下蔵などが空いていれば運び入れたい。フラジミゼールとロルーゼ新王に寄付する物を差し引き…この会議室二つ分の収納が有れば余裕。それを頼みたい」

ロロシュ氏が室内を見渡し。
「二つ分か…。まあ地下の半分は今後不要に成る物だし空きは有る。医療に関わる物ならカメノスの方へ」
「助かります。他の要望は私は無く。エリィは?要望が有るなら正直に」
「一つ我が儘を言わせて頂ければ…。カメノス邸内の研究棟への立入の許可を。昔から香水やお香作りに興味が有りまして。該当部門に空きがお有りならばそちらで従事をしたいと希望します。如何でしょうかカメノス様」

腕組みして唸る。
「即答は控える。娘たちとも相談せねば。信用云々ではなく香水部門も他も。大半がスターレン殿と勇者隊限定や両財団内などの城や身内だけにしか配布しない物ばかりで外販用の物が少ない。医薬品の開発としてなら順次展開しているが…。香水の販売は今の所は考えて無いな」
「そうでしたか…。確かにフィーネ様に言われましたものね。あの香水は身内限定だと」
「非売品なのです。今でも残念ながら。外部との差別化と偽装破りの一環としてが原点。城の許可も必要で私の一存では決められません」

「解りました。高望みはせず。こちらの五区に在るお香のお店に弟子入り志願をしてみます。前回の訪問時に伺い募集はしているとの事。間に合えばそちらの方向性で」

ここで昔話を少々。エリィさんの話題に出たお香の店。
あの今では懐かしいエバンシアのお香。初期の頃はお世話に成っていたのにパッタリと使わなく成った催淫の香りだったのだが…。身体の慣れや防御性能の向上などで有る日全く効果が感じられなく消え去った。自分たちには只の良い香りの芳香剤。

更に国から危険視され販売差し止めに遭い。現在効果を抑えた物を都外町の娼館向けに売られているそうな。

プラシーボ効果は長続きしない物。一度違うなと認識してしまえばお終い。

エリィさんが進化させてしまうかも。などと淡い期待。
邪気払いを持つ彼女が作る物ならきっと安全。

何とか纏まり打ち合わせが終了。

先帰りのナノモイ夫妻をフラジミゼールへ送り届け。折り返しに滞在延長をするモーちゃん一家と相談。
「滞在場所をどうしようか。5区のホテルかここの来賓用宿舎か。来賓ならモデロンもここへ連れて来るし。新宿舎に居るミゼッタとも会い易い。
反面で性急で急接近し過ぎな気もする。良識有る2人だから余計な心配?」
「う~。デートはしたいです。ここに居られる内に。しっかりと仕事の話とかも」
「私もです。モデロンの財務官の視察仕事は邪魔をせずに出来ればデートを。お城で彼の令嬢様と遭遇するかもと思うと心配で心配で」
「そっちは俺たちで止めるから心配要らない。後は4人の裁量に任せる。宿泊は取り敢えずここの来賓で。暇に成るモーちゃん夫婦は適当なとこで先帰りでも」
「うむ。二人を宜しく」
「お頼み申し上げます」

「了解です。ミゼッタも焦らないように。今だけじゃなく将来を見据えて」
「はい。重々承知を。不埒な欲望を抑えるには慣れて居ります故」
「信じましょう。じゃあシュルツは来賓部屋の手配。俺とソプランでモデロン回収。フィーネたちは手筈通りに帝国陣営の城への到着待ちとクルシュの対処を」
「はい!」
「おっけー任せて。こう言うのは女同士じゃないとね。特にスタンさんは女性に甘いから」
そこが一番自信無い…。




-------------

9月1日11時頃。
スタンさんとソプランがペカトーレへ向かった後の自宅リビング。

探索コンパスでクルシュの動きをテーブル上でクルクル把握しながらの打ち合わせ。
「男子2人はモデロンさんを迎えに。そのまま2組のカップルの移動サポートで遠方からの見守りをします。
エルラダさんは昨日出張から帰った本命の人の元へとアタックに向かいました。男子2人から入念なリサーチをしたと聞き。きっと私たちも知っている人物ですが気にしないように心懸け。ダリアは未来視で覗かないように」
「はい。気に成りますが見ていません」

「宜しい。クルシュはまだ帝城の白月に居て動き無し。
一見諦めたと思わせ突然動き出す事も有り得ます。モデロンさんだけでなくモーリア君も狙いに来るかも知れませんので要注意。
スタンさんがモデロンとリオーナペア。ソプランがモーリアとミゼッタペアのサポート。
ここに居る女性フルメンバーでクルシュの対処を完遂します。
帝国組の宿泊先は城内の特別迎賓宿舎で確定。
突入班は私、アローマ、カル、オメアさんとレイルさん。
レイルさんは行き成り殺さないように」
「了解。正直鬱陶しいけどスターレンが困るから我慢する」

「その通り。帝国との国交が破綻します。
ここ自宅待機はペリーニャとダリアとシュルツとペッツ。こちらまで飛び火した時用の待機です。
通常案内なら結構。飽くまで単独行動を起こした場合に対応する為に。クワンティはお空でも。
ファフとプレマーレはクルシュに会わない要員で事務棟厨房でお菓子作りやプール遊びなどで待機とします。
他何か異議や意見は」
特に無し。

「オメアさんのスキル剥奪は一瞬?時間が掛かる?」
「肩や頭何処でも露出部に触れさえすれば一瞬です。授与スキル枠へ入れるのでダリアに移譲するタイミングは任意です。空きは三つまで」

「超便利で助かります。本日着でも明日着でも5日に迎える御父様と帝国、タイラントの三国非公式会合まではエンバミル卿とクルシュが滞在します。
2組のデート期間とモロ被り。モデロンまで会合に出てしまうと大混乱なのでそれは日を外します。
5日を乗り切り6日からラフドッグ休暇を迎えましょう。

この後のお昼は本棟で頂き。ここへ戻って分散。突入班と待機班は…ボードゲームでもして気長に待ち。防音室でもどうぞ」

………

クルシュが動いたのはこちら時間の14時過ぎ。

モデロンのご両親への挨拶と昼食会が終わり2人切りで邸外へ出掛けた後の事。
(サポーターは引き続きスタンさん)

コンパスを傍らにトランプに興じていた所。
「動いた。白月前の転移ポイントへ移動。エンバミル卿とラーランも集まってる。レイル。聞こえてる?」
直ぐに防音室からレイルとオメアが降りて来た。
「聞こえてるわよ」
「突入は直ぐですか?」

「確実に城内に入ってから。単独行動じゃないし。ここまでの時間は予定を早めるのに手間取ったかモデロンが外へ出るのを待ってたかね。
私たちは着後に悠々と地下道から向かいます。あの子も単独で逃げたら人生終わりだって解ってる。
最初は様子見。だと思わない?アローマ」
「私もそう思います。こっちに来て接近してから未来視の精度を高めるのだと。意中の方と二人切りに成れるかどうかを」

城外に出なければ有り得ないが今回もラフドッグへの観光を兼ねている。外に出られればチャンスは有ると。

身支度済ませて登城。

護衛はラーラン隊のみ。ラザーリアの載冠式典と同じメンバーで話が通じ易い。

明日の予定を勝手に早めた為に宿舎の準備やら事情説明で一時王宮前の待機所で待つ面々の前に5人で立った。

「勝手に早めて貰っては困るわクルシュ。それともエンバミル卿のご都合でしょうか」
「いや。準備は整っていた所で娘がどうしても早くと言うのでな。観光の時間を増やし…まさかクルシュ…」

「使える力を使って何が悪いのですか?」
開き直りやがったわ。

「私とスターレン殿と交した約束はどうした!口約束で忘れたとは言わせぬぞ!」
「…」
事情を知らないレレミィを盾に隠れた。
「ちょ…何クルシュ。何がどうしたの」

何時もなら私が突っ込んで行く所。好い加減に私も成長しました。
「エンバミル卿落ち着いて。まずはお話を。何も知らないレレミィが怪我をしたら可哀想です。直ぐに治癒しますが」
「むぅ…」
振り上げようとした拳を下げた。

「クルシュ。気持ちは解るわ。誰だって楽をしたい。手っ取り早く自分の未来が見えてしまうならどうしても見たく成る物。
でも貴女は誓った。父親とスタンと私たちの前で極力使わず自分の目と耳と足で探してみると。一応聞くけど何れ位探したの?探す他には何処まで国内を回ったの?この3ヶ月間で」
「帝都の周辺町を四つ」
「は?」
たったの…4箇所?

エンバミル卿も目を剥いた。
「お前…私に嘘を吐いたのか。馴染みの薄い東部町を訪れたと」
「東部と取引の有る行商たちからお話を伺いました。実質行ったのと変わりま」
「変わるわ!己の足を使って歩かねば地方の風土など解るものか。話を聞いただけ…お前には失望だ」

「私もガッカリです。カルとレイルで抑えて!エンバミル卿少しだけ離れてお話を」
直ぐに取り押さえられ。レレミィはアローマが救出。

オメアが地面に這い泣き叫ぶクルシュの前に立ち。
「情け無い。何が貴女をそこまで怠惰にしてしまったのか」

離れた場所でエンバミル卿に耳打ち。
「未来視のスキルを神の力で剥奪します。ご許可を」
「やってくれ存分に。クルシュには邪魔でしかない。国の未来ではなく自分の事にしか使わないのであれば」
「承知しました」

私の合図を受けたオメアがクルシュの首背に手を添えた。
「いやぁぁぁーーー」
便利なスキルが奪われる苦しみ。私もブリッジが他者に奪われていたら発狂していたのだろうか。
「スターレン様に!見付けて貰って!拾われたあんたたちに私の何が解るのよぉぉぉ」

「やっと本音が聞こえたわ。だったら何故タイラントまで走って来なかったの?ラザーリアの方がもっと近い。前皇帝の毒牙に掛かる前に。私よりも先にスタンを救う道をどうして選ばなかったのよ!」
「うぅ…うわぁぁぁん」
子供みたいに駄駄を捏ねて。

「エンバミル卿。彼女には頭を冷やす時間が必要です。女性衛士を付けて白月で謹慎させて下さい。今のクルシュをここに置く事は出来ません」
「うむ。馬鹿娘を国に戻す。フィーネ嬢に送って貰う。ラーラン隊の半数付いて参れ」
「ハッ!」

決着は未来視を使う迄も無く実にあっさりした物だった。




-------------

9月2日~4日。
帝国客を持て成しつつ若手のデートサポート。

2日。
爆弾を奪われた爆弾娘は滞在1時間で強制送還。謹慎。
邪魔者が居なくなり2組のカップルも安心してラフドッグ内デート。日没までの景色を楽しませて回収。

ぼっちのレレミィがちょい心配だったが事情を把握した途端あぁそれでと超納得。
「大狼様のお側に居る時から時々妄想めいた言動をしていたのはスターレン様の事だったのですね。てっきり現実逃避なのかと」
「それも半分有ったんじゃない?色々脚色して皆が喜ぶから虚像も悪くないな、とか」

「あぁ~。私もドジっ子でしたがクルシュもリーダーの器では無かったと。大狼様が居てくれたから落ち着いていただけだったりして」
「有るかもね。で今日のラフドッグ観光どうする?寂しいならフィーネとか付けるけど。クルシュが居ないから堂々とラーランとデートするも良し。一応エンバミル卿は全然OKだってさ」
「悩むぅ~。でもフィーネ様とはまた北でお会い出来ます。ラーランとの自由は今だけ。ならば答えは一つです!」
「んじゃ30分後に皆運ぶからデートの準備と本人への連絡宜しく」
「はい!」

計3組のカップルを送り出し。毎年恒例の浜辺のタープテントで残った男衆をお持て成し。ここも俺たち専用と成ってしまった場所…。町民の総意なので甘んじて。

惣菜と冷え冷えビールをエンバミル卿に差し出し。
「偶には仕事を忘れて頂いて。ストレスの種は排除されたんで是非長生きを」
「死んでも死ねん。娘を育てると言うのは難しいな。母親が居ないと」
「いっそ自分が再婚してみては?娘なんてとっくに成人してますから放置で。下手に使える役職を全没収すればいいんですよ」
大笑いしてビールをガブ飲み。
「旨い!これがビールか。泡酒も初めてだがこんなに旨い物とは。単なる惣菜も野菜が入ってちゃんとした食事に成っている。
ついつい甘やかしてああ成った。今度は心を鬼にして取り上げる。大人に成ってからの方が修正が難しい。
しかし再婚…は考えては無かった」
「勿体無いっすよ。人生半分損してます」

「仕事に逃げていたのは私の方かもな」
「有るかも知れませんね。俺も嫁たちと喧嘩した時は独り部屋に籠ったり城の執務室に居座ったりして」
「やはり貴殿もそうか」
そしてまた大笑い。後ろの護衛も付き人も皆が。
男の悩みなんて大体同じです。


3日4日は都内の自由観光。
4日はモデロンを城へ招き陛下やノイちゃんとタイラントの財政話を少々。
「王政を敷きながら平民末端まで還元してしまえる豊かな財政…。共産を謳うペカトーレが霞んでしまいます。
昨日スターレン様に六区内も見せて頂いたのですが我が国の平民暮らしと遜色無く。
奴隷区とは何でしたでしょうか?と頭が混乱しました。
視察など烏滸がましく。大変に良い勉強をさせて頂きました。持ち帰って上に自慢します」
陛下が笑って。
「ペカトーレの財務官と聞いて構えていたが冗談も言えるその余裕。スターレンが直接引き抜きたいと言う理由にも納得だ。
どうだ城へ来ないかモデロン」

「陛下。兼任なんてさせませんよ。彼はオリオン担当なんですから」
「と確定して居ります故。どうぞご容赦を」
「むぅ惜しいな。ノイツェ。どうして自国の若手は一向に育たんのだ」
「…国の進歩に追い付けないんです。普通レベルでは」
「成程な…。絶望的に納得だ。誰かの所為で!」
3人同時に俺を睨んだ。
「大事な所は口出ししてないじゃないですか。良いのですか?もっともっと引っ張れますよ?
将来ミラージュ財団を丸ごと引き継ぎますし。国の財政じゃんじゃん上乗せして」

「…や、止めよう。これ以上未来を話すとメイザーが逃亡してしまう」
「止めましょう」
「敵に回してはいけない。そう言う事ですね」


5日。父新母ご招待。
流石にスタルフと王妃2人は引っ張れず。父母の慰労を兼ねてのお持て成し。
午前は非公式三国会合。午後にラフドッグ。夜は父上が何時も楽しみにしているトワイライトのステーキ三昧。
こちらの嫁はシュルツまでの5人。1卓最大6人なので仕方無く。

今回特に護衛は居ないので気軽な半分新婚旅行。

自宅リビングで残り嫁3人のご機嫌を取りながら父母と優雅に赤ワインを飲んだ。

「男女比、に付いてはもう触れないが。それでも落ち着く家だなここは」
「ここで安らげなかったら帰る場所が無いです。シュルツが先を見越して建ててくれたんで」
父上がシュルツを見ながら。
「天才少女も来年成人か」
「はいローレン御父様。流石にここまでに成るとは想定外でしたが。増築を考慮した土台設計にはして有るのでご心配無く」

「ふむ。真に天才だ」
「先読みですね。私は普通に子育てしたいと思います」
「次からは普通の子で良いな。でないと我が屋敷の方が安らげん…」

「余り先の話は止めましょう。楽しみ過ぎて今が見えなく成りそうで。
父上と母様は挙式などは考えていますか?家はシュルツが成人迎えての来年後半に8人一挙に挙げますが」
それを聞いた嫁らが紅潮。
「スタンさん。私も良いの?」
「当然遣り直し。1人だけ並ばないなんて可笑しいし。寂しい思いはさせないよ」
「有り難う…。嬉しい」
落ちる涙は自分のハンカチで。ゲスト2人が居なければ抱き締めて凄い事に成ってました。

「家はどうするか。悩むな。ソフィの為に何れは挙げる。しかし今ではない」
「改信してからでしょうね。詰り未定です。純粋に家族式にして自屋敷内で挙げてしまうかも知れません」
「その方が落ち着いて良いかもですね」

この日を境に嫁らのドレス作りに熱が入るように成った。
被らないように相談しながら仲良く。事務棟の会議室の1室をそれ専用とする位に。


6日の昼前にモデロン帰国。
リオーナとの涙涙のお別れのキスは遠目から見てるこっちの胸が切なく苦しい光景で。
移住完了後に転移で連れて行くと約束してサヨナラと。

午後からは自分たちの長期休暇を満喫。
ラフドッグの昼間は略浜辺で過ごして海水浴と冷え冷えビール三昧。
日帰り分割で王都の関係者をピストン輸送。王族3人娘は騒ぎに成るので自重して貰った。
夜はシュルツを除き久々の皆でドロドロに蕩ける熱い日々を過ごした。
シュルツとの個別デートの前夜は男子休息日として休養もしっかり確保。
下の部屋はシュルツを交えて女子会に使用。

上に取り残された男2人は夜空を見上げ。
「下…見たいよな」
「見てえな。多分一度見れば充分な気がする」
「シュルツの無双らしいよ」
「予想通りだが。俺らもヤバくねえか?」
「酷い拘束するならもうしない、て言えば楽勝」
「おぉそか。要は起たせなきゃいいんだ」
「その通り。ロープをそんな事に使っちゃ駄目だと教えなきゃな」
女子と同じで男子もそれなりにデリケートな物。何方も精神面が影響するのは一緒。

気に成る料理長自慢の新作とは。
エリュダー商団特性改良型ナンプラー。詰り臭みの少ない魚醤と爽やかな香草と香辛料から繰り出されるトムヤムクンに始りコーン生地の生春巻き。
麦飯パエリアや炒飯。ココナッツミルクで子供向けと大人向けを小憎く演出するなどバリエーションも豊富で止めのキーマカレーに打ち砕かれた。

ソドモさんを皆で讃えつつ。
「これに使ってる魚醤…。少し分けて貰えたりは」
「流石に無理ですね。オリオンのホテルを見越した総帥の自信作ですから直接問われても出せないと泣かれますよ。私もたった今泣きそうです」
「あー嘘嘘。ちょっとした冗談さ。でもオリオン目標か。ライバルばっかだな」
「ご理解痛み入ります」

退出後にフィーネが。
「4つの商団で大小8つのホテルや旅館だもんね。それぞれ個性出して行かないと。私たちのアワーグラスもそろそろ中身を考え始める時期かもね」
「だなぁ。一番肝心な料理人が全く決まってない」
レイルが首を傾げて。
「ラメルじゃ駄目なの?」
「ラメル君置いたら宿泊客が帰らないよ。事務棟で食べられなくなるし。本人たちのお休み無くなる」
「あぁ全然駄目ね」
「不思議料理を具現化出来るジョゼが化けてくれないかなと淡い期待。ソプランとアローマ。時間有ったら徹底的に扱け」
「おぅ。化けるか腐るかは保障出来んが」
「将来の候補者は増やしませんと。食通で知られるお二人の直営ホテルが料理で出遅れては最悪です」
「多分二度と来なくなる。リピーター逃したら廃業だ」
「厳しいぃ~けどそれが現実ね」
等々将来に付いて話し合ったりも。


後半のルーナ両国での休暇も同様の流れに。と考えていたが流石にロロシュ氏の雷が落ちた。
「ホテルと旅館は違う!従業者の目が完全に抜けてしまえば遣りたい放題ではないか。今でも状況は変わらないが外の噂には必ず尾鰭が付く。スターレン君は文屋に取って格好の獲物だ。
好い加減に自分の感情を優先するのは止めよシュルツ。今からそれでは婚姻後直ぐに破綻して離縁だ」
「そこまで…」
「常に最悪を想定せよ!ダリア嬢の未来視を私情に使わせる積もりなのか。何と言う我が儘。それでは帝国のクルシュと何も変わらぬぞ。
断言する。後九ヶ月。女子会で凌げる最少参加配分にしないとお前はスターレン君に飽きる。なーんだこんな物だったのかと直ぐにな」
「…」

「自分を御するのは自分しか居ない。成人したら御せるように成るのではない。御せてこその大人だ。返事は!」
「はい!きっちり計画性と節度を持って。自分自身の成長に合せて参加します。甘い考えは一切捨てて!」
「うむ。エルラダ女史と一緒に留守番だ」
「はい!泳ぎ捲って運動し捲って解消致します!」

こんな事も有って。夜は燃えるが昼間は健全な個別デートを重ね。男子休息日には藍色遊郭で皆で遊び倒した。




-------------

9月25日。竜の谷突撃準備。
迷宮訓練も要所に加えて戦闘準備は万端。
お土産のお酒3種と赤青林檎を各10個(半分予備)
何方もキッチリ鑑定で抜け漏れ無し。

登山用品の一斉点検で異常無し。
最新コテージも本来の小型版を用意。大型も一新。
場所に合わせたテントやトイレを補強。

ダリアの未来視では普通に挨拶して。オーラと黒竜様が反転空間でバトルして楽しげに笑い合い。
何故かその後で俺がソロで戦わされて重傷は負うものの全く死にはしないさと背中を押された。
「もう模擬やっちゃうのかぁ」
レイルさんは満足げに。
「これで何時でも西へ行けるじゃない。戦力は現状でも充分よ。ソプランとアローマを中央に残したとしても」
「まあね。未定です未定ですじゃ怒られるし。覚悟を決めてやってみよ。
俺の次は従者2人とロイドとレイルとオメアとペリーニャとクワン抜きでのフィーネとプレマーレでやるんだぞ?」
「え?え?なんで?未来視したっけ?」
「へ?何故?私に死ねと?」
「俺だけやって帰れると思ってんの?念話を特別に許された巫女さんと。ぼっちに成ったら加護まで与えてやると直接言われた魔族が?」
「あ…あぁ…。私もかぁ。だよねぇ。そうよねぇ。挨拶しただけで帰れないよね…。
登ってる間にアローマと作戦練るわ。とりまグーニャとルーナは貸して」
「怖くも嬉しく。全力で打つかります。共闘して」
「了解」

ダリアが恥ずかしそうに挙手。
「済みません。助言的な未来を読もうとしたら凍て付く眼差しで睨まれ…漏らしちゃいました。掃除とお風呂へ」
「駄目だって黒竜様は。掃除はしとくからお風呂入って」
「着替え手伝うわ。行きましょ」
「御免為さい…」

出発前夜はリビングの床掃除も少しだけ。




-------------

私の謹慎は白月の自室ではまだ甘いと。帝宮側の個室に入れられた。罪を犯した訳ではないので独房でも監獄でもないが外出は許されない不自由な生活。

期間は年内。長い時間を独りぼっち。
廊下には父直下の女性衛士が二人。軽いお喋りは許されているが長時間は報告されてしまう。

本棚には政治に関する難しい本ばかり。
読めば眠く成るのが利点。未来視の力はもう無い。
スキルと自由が取り上げられた。暇潰しの道具としても。

いざ無くなってみると意外な程に気が楽で。肩の力と凝りがフッと消えたように軽く成った。

今まで私は何を見ていたのだろう。自分の事ばかりに使ってと言う父の言葉が思い出される。

人の為に使うダリア姫とは真逆。宝の持ち腐れだった。

フィーネ様の指摘通りだ。この私が誰よりも先にスターレン様に辿り着ける道がたった一本。
十三歳の春に見えたラザーリアまでの無事の到着。その後の有利な展開とラザーリア内で完結出来た道筋。
アミシャバに犯される前の時点で私はここを出られた。

私はスターレン様を救うのではなく…。自分を守った。
いいえ違う。アミシャバに抱かれても良いと考えた。
その方がお金や人脈を確保出来て後で楽が出来ると。
気持ちの良い方を選んだ。そう私は喜んで股を開いていた只の淫乱。

クソ女神の御告げは殆ど無く。全て自分の選択。

誰に文句を言える資格も無い阿呆。こんな私がどうしてスターレン様や関係者に相応しいと心の底から考えてしまっていたのか。

これも女神の呪いだろうか。そうで有って欲しい。
そしてまた人の所為。

謹慎生活での唯一の楽しみはお料理。
朝昼しっかり夕は軽めに。運動をしてないので何時も満足で美味しい。

監視の二人に素朴な疑問を投げた。
「宮内の料理長が代われたの?前はこんなに美味しいと感じた事は無かった。
今は白月ばかりでこちらは食べていなかったから」
「前皇帝が退いて暫くの後交代されました」
「現在はパーク料理長です」

「お礼を伝えたいのだけれど許可は下りるかしら。謹慎明けでも良いのですがお忙しい年始では少々」
「エンバミル卿へ問い合わせてみます」
「恐らく下りるかと。お礼ですし」

翌日の昼にパークさんが来てくれた。
「有り難う。貴方のお料理が心の支えです。この気持ちは素直に。誰かにお礼を本心で告げるのは何時振りかも解らぬ程です。
何か味付けを変えられたとかでしょうか」
「痛み入ります。過分な誉れ。しかし基本的な味付けは昔と何ら変わらず。私と他の料理人たちの。食べて頂ける方々への気持ち一つ」
「気持ち、一つ…」
「たったそれだけの違い。季節の素材を活かし。適性な香辛料を選び。食べられた方が笑顔に成れるようにと思い浮かべる。
スターレン様とフィーネ様がここでローストビーフとジャムソースを拵えた時と同じ思い遣り」
「思い遣り」
「誰が食べようと手を抜かず。最悪捨てられるのも覚悟して手間を惜しまず。あの時は徹夜をされたそうです。白月に居られた貴女様も食された筈ですが」

勝手に流れる涙。
「あの時…。私は感謝の言葉を伝えていない…。プリンを頂いた時も。与えられるのが当然なのだと」
「言葉でなくとも伝わります。貴女様が心からの笑顔を浮べられて居られたなら」

「私は…笑顔で居られたのかしら。来年お会い出来たらお聞きしなくては」
「お時間がお有りでしたら。クルシュ様もお料理をしてみませんか?」
「お料理を…」
「お世話に成られたお二人への感謝の料理を」

パークさんが全ての答えを運んでくれた。
急に周りの景色が輝いて見えた。

「やってみたいです。基本から全部叩き込んで下さい。直ぐに怠けてしまうので厳しく。御弟子様の教育と同じに。
教えて下さいパークさん」
「畏まりました。許可をお取りし早速明日より」
「パークさんは独身でしょうか」
「独身…ですが?」
「そうですか。候補の方が居たりは」
「今の所居りません。料理に夢中で」
「成程…。頑張ります!お料理」
「頑張りましょう」

今までなら絶対に見向きもしなかった料理人。視野を広げればこんなにも素敵な方が。

スターレン様のお言葉通り。何もかも。
今度は私から感謝の言葉と料理をお届けしよう。必ずや。
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