神様ごっこ

木芙蓉

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3:青春と呼ばれる時

ズレ

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「ちっ、またこの夢か。」
 
 秀太は目の前の光景を見て思わず舌打ちをしてしまった。秀太自身は宙に浮いていて、下には幼い自分がいてベッドの上の老人の手を握っている。その人は秀太の祖父だ。繰り返し同じ夢を見ている事に秀太はこの時気付いた。いつも目覚めると最後に見た夢以外の事を忘れてしまっていたことも。なぜ突然思い出したのだろう。不思議に感じつつもそれは事実であると秀太は素直に受け入れて疑うことはなかった。それは何故だろう、秀太はそれ以上考えることはしなかった。


「おじいちゃん、僕を置いて行かないで。」

 秀太は足下で泣き叫ぶ幼い自分から視線を外し目を瞑り拳を握り、身構えた。何時もだとそろそろ幼い自分自身の中に押し込まれるタイミングだった。それも秀太にとって見覚えのある光景だった。だが待てど待てども幼い自分に意識を押し込まれた様子は感じ取れなかった。秀太が恐る恐る瞑っていた眼を開けると、眼を閉じている間に目蓋の奥で感じ取れていた光が突然消え真っ暗になった。しばらく時間が経って闇に眼が慣れた頃、あたりを手探りで探ってみても誰の姿も其処には無かった。秀太は事態が飲み込めないまま立ち尽くしていたが、少し間が空いた後、夢なんだから何が起こってもしょうがないと自分に言い聞かせた。
 混乱するきっかけになった出来事に自分自身で説明できたことで秀太は幾分落ち着きを取り戻していった。ふーと深いため息を吐き出し力を抜いていた時だった。

「ねえ…。」

 背後から突然女の声がした。それまで完全に気配は感じられなかった声をかけられた瞬間、女は其処に気配を現し秀太が驚いて振り返ると其処には確かに女が存在した。驚きながら咄嗟に無表情な女だなと秀太は感じ、同時にどこかで見覚えのある顔だなと秀太は思った。咄嗟の驚きの余り言葉を返せないでいた秀太の返事を待つわけでもなく女は言葉を秀太に投げかけた。


「君は寂しいの?」

 投げかけられた言葉に聞き覚えのあることに秀太は気付いた。それはいつもと同じだ、いつもの流れに戻ったんだと考えた。いつもであれば幼い自分自身に押し込まれた時に女が現れて秀太に同じ言葉を投げかけていたはずだと、秀太は頭の中の記憶を整理して納得した。だがすぐにまた新しい疑問が湧いてくる。記憶の中で女に答えていたのは幼い自分だった。入り込んでいた自分は何をしていたのか、「今の自分」に問いかけてきた彼女に「自分」は何と答えればいいのか秀太にはわからなかった。女はそれを意に介さない様に三度、秀太に言葉を投げかけて来た。

「君は独りぼっちなの?」

 何と答えようか必死に答えを探す秀太の意識とは関係なく、秀太の口は勝手に女に言葉を返した。

「寂しくなんかないよ。でも僕は独りぼっちだ。でも寂しくなんかないよ。誰かに頼ったって誰も助けてくれない!何が神様だよ!お願いなんてしてないよ!」

 叫んでいるのは幼い時の自分の意識だろうかと秀太は考えた。彼の発する神様という言葉に秀太の意識は引っかかっていった。それが何故か秀太自身話からjなかった。吐き捨てたくなる様な嫌悪感と依りかかりたくなる様な安心感が入り混じった様な不思議なものを感じていた。
 女は秀太の方をじっと見ていた。自分を見ているのか幼い自分を見ているのか秀太は測りきれずにいるのと同時に彼女に対しても無表情で冷たい表情をしているなと感じつつ、其処にやはり暖かみも入り混じっている様な不思議な感覚を抱いていた。

「私が神様です。貴方を独りぼっちにはさせません。」

女は秀太の言葉を少し待った後、言葉が返ってこないと判断するとそっと呟いた。幼い秀太の意識はそれに反発して何故そんなこと言えるんだと泣き喚いた。

「だって私は神様だから、出来るんです。今はまだ全てを明かすには早い。あっちの世界へ、貴方の世界へ戻りなさい。」

女が手を秀太に差しのべるように手を出した。秀太は疑問を抱えながらも女の手をとった。その瞬間に手が瞬く間に光り輝き始め、秀太は思わず眼を強くつむった。そしてそのまま意識が遠のいていった。
 気が付くと秀太の周りには辺り一面真っ暗闇で誰もいなくなっていた。秀太は自分の身に何が起きたのか必死に考えようとした。だが考えがまとまらないどころか、一切頭に浮かんでくるものがなく、秀太は考えることをやめた。だがすぐに新しい疑問は無意識に湧いてきた。此処は何処だろう。何があったのだろう。これからどうなるのだろう。いくら考えても答えは見つかりそうにないことを秀太は知っていた。それでも考えることを止めることはできなかった。

「独りぼっち」、考えを巡らせる中、その言葉が頭の中で不意に浮かび脳裏にこびり付いて離れなくなった。

ー独りぼっち…。そうか、俺は独りぼっちか。ずっとそうだ。いつからだ?何故こうなった?いやもうそんなことはどうでもいい。もう俺はずっとこうなんだ。

 珍しく答えの見つからないはずの自問自答に秀太はその時答えを導き出してしまった。秀太は考えることをやめ、空を見上げた。だが其処はあたり一体闇、そのうち上も下もわからなくなってい木、さらに起きてるのか寝てるのかさえの感覚さえあやふやになっていった。


「…ねー…。シュウ…。」

 秀太はハッとした、何処かで誰かが自分を呼んだ様な気がしていた。たしかに自分のなを呼んでいたはずだと考え秀太は耳を澄ました。すると、


「ねえ…、シュウ…、秀太・・・。」

たしかに自分を呼ぶ声がしたと秀太は確認したと同時にその声は見る見るうちに大きくなっていった。それはまるで秀太の頭の中に直接呼びかける様に繰り返し繰り返し、徐々に大きくなり秀太を呼び続けた。秀太は頭が割れそうになる様な感覚に陥り半ば発狂しそうになりながら頭を抱えて蹲った。それでも声は止まることなく秀太の名を呼び続けた。


「ややめろおおおお、うわああああ」

秀太は発狂して叫びながら立ち上がった。気付けば声はやんでいた。落ち着きを取り戻してまわりを確認すると其処見慣れた景色だった。目の前では前の席のクラスメイトがこっちを心配そうに見つめている。彼女は鈴木紗季、入学式の日に中よくなった4人組のうちの1人だ。紗季の眼を見ていると混乱している自分の心が落ち着いて行くのを秀太は自覚していた。同時に彼女の顔に何処か懐かしさを感じている自分に戸惑っていた。


「大丈夫?秀太くんうなされてたみたいだけど。悪い夢でも見ていたの?」

 そうだねと秀太が答えると、どんな夢を見ていたのかと紗季は秀太に尋ねた。どんな夢か思い出そうとしたが秀太はうまく思い出すことができなかった。ただとても苦しい、怖い、そんな想いをした様な余韻だけが心に残っていると感じた。

「そんなに怖い夢なのに、全然起きずにずっと眠っていたんだね。ほらもうとっくに帰る時間過ぎてるよ。」

紗季の言葉をきっかけに時間を確かめるため秀太は携帯電話の画面を見た。画面には7月17日金曜日16:30と表示されていた。

「もうすぐ夏休みだね。花火楽しみだね。」

帰り際、やはり何処か懐かしさを感じさせる表情をしながら言っていた言葉が深く秀太の印象に残った。

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