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 学校。
 そこでの生活は誰にとっても、人生の中で一際輝く場所だろう。
 友人と話し、絆を築き、恋愛して、一つのことに一生懸命になったりして……
 人はそれを“青春”と呼び、美しく尊いものとする。

 だが私には、それがない。

 話し絆を築く友人はおらず、当然恋焦がれ、惚れられる異性はできず、皆がイベントに燃える中、ただ一人端から眺めるのみ。

 何がまずかったのだろうか。

 どうしてこうなったのだろうか。
 
 ああ、わかっている。わかっているとも。

 私は人と竜の子。魔物に近しい存在、半竜。学校に通うのは人間や、エルフや、ドワーフ、獣人がほとんど。その中で半竜の私はどうしても浮く。
 短めに切ったダークブラウンの髪の間からは一対の竜の捻じ曲がった角が生え、背中からは鱗に覆われた蝙蝠のような翼が生え、腰からは甲殻に包まれた爬虫類の長い尾が生えている。
 人族と比べて、その姿は異形に他ならない。魔人といった方がいいかもしれない。

 そんな者と、一体誰が仲良くしたいというのだろう。
 幸い、虐められることはなかった。だが、それは虐めるのも嫌なくらい、怖かったのだろうか。

 学校から帰っても、別段面白いことはない。
 普通の者たちは学校での出来事を家族と食卓を囲んで話すのだろう。だが、私には家族はいない。
 私の父は核熱の竜。私が生まれる前に何処かへと行ってしまった。私の母は私を生み落す時に角で胎内を傷つけられ、亡くなってしまった。親戚は誰も半竜たる私を養おうとせず、今私を養っているのは孤児院。
 孤児院の保母との仲は悪くない。が、良くもない。学校に行かせてくれる彼女に感謝していないわけでもない。だが、それ以上の仲ではない。所詮は赤の他人。



 私は生まれて16年、常に孤独であった。


 これからもずっと孤独であるのだと思った。


 かの日、かの路地で、蹲った彼女に会うまでは。


◆◆◆◆


 鞄を揺らし、丘の上にある公国立デラスト学園へと続く道を進む。
 周りを見れば、たむろする男子や横に並んで話に花を咲かせる女子が登校している。
 そんな彼らが身につけるのは、教科書の類が入った鞄というオーソドックスなものだけではなかった。その腰には、なぜか剣や杖が下げられているのだ。
 なぜ、学生が武装しているのか。それは、この学園が『冒険者』を育成する学校であるからだ。
 この世界には人知を超えた獣────魔獣や人知を超えた土地や遺跡────ダンジョンが存在している。それに対抗し、人々を守るのが冒険者であり、彼らには個の力とチームワークが求めらた。
 そのスキルを磨くのがこの公国立デラスト学園である。当然、ここに集うのは夢を求め、冒険者を目指す者たちだ。
 私もその一人である。

 だが、私の周りには誰もいない。逆に、人はおらず、見えない隔たりができている。
 
 だが、これもいつものことだ。
 何度も繰り返して来たことだ。
 狭く薄暗いが故にほとんど誰も通らない学園への近道を通る。
 
 当然、人はいない。
 だが、私にとってはそれが心地よい。
 仲間とともに楽しそうにしている彼らを見るのは……やはり今でも少し辛いのだ。
 だからこそ、私はこの人のいない近道が好きなのだ。

 すこし曲がりくねった路地を行く。
 薄暗いが、半竜の私にとっては暗所も見渡せる。
 だから、怖くはない。
 
 私は路地を進む。
 人がいないことに安堵しながら。

 だが……枝分かれする路地の影にあるものを見て、私は身を強張らせた。
 誰もいないと思い込んでいたが故に、衝撃は大きかった。

 路地の脇道にもたれかかるように座る人物が、そこにいたのだ。
 腕は細い。着ているものはボロボロ。身体中煤けてさえいる。
 そのボブカットの髪はロシアンブルーの毛色に似ており、その頭頂からは猫の耳が生えていた。
 獣人の一種、猫人に違いない。
 顔を伏すように座っているため、その顔を確認することはできない。

 なぜ、こんなところに座り込んでいるのか。
 なぜ、こんなにも煤けているのか。

 気がつけば、私はその猫人に声をかけていた。

「あの……」

 返事はない。
 その肩に手をかけ、揺すりながら声をかけて見る。

「あの、すみません……」
「……」

 ようやく、猫人はその顔を上げた。
 やはり顔も煤けていた。がしかし、それでもくすまないほどの美しさ……いや、小動物的可愛らしさをその猫人の少女は持っていた。
 だがその青い瞳は疲れ切ったソレ。その瞳を通して疲労、絶望、諦念……様々な負の感情が滲み出て押し寄せてくるかのようだった。
 その瞳を見た瞬間、あまりに重たい瞳に私はたじろいだ。

 だが、それでもそそくさと見て見ぬ振りをして逃げなかったのは……神の悪戯か。

「あ……あなたは、なぜ、こんなところに……?」
「……」
「……わっ、私は……ノア・ネザーソル。この先のデラスト学園の高等部二年生です……あなたは?」

 理由を、名前を聞こうとする。
 だが、何も答えない。
 暖簾に腕押し。無駄か。

 そう思った時、微かに声が聞こえた。

「………………………るか」
「……え?」
「初対面の者に名乗るのか」

 その声は重かった。
 元は明るかったのだろう声色も、酷く重くかすれたものになっている。

 そして、その声をよく聞こうと猫人の少女に顔を近づけた時。
 私は見てしまった。

 その手に握られた短剣を、その首にずっと突き立てていたのを。
 
 切っ先が皮に引っかかる程度であったが、わずかに血が滲んでいた。
 力を加えれば、濁流のように血が噴き出すことだろう。
 これを見て察さない者はおそらくいるまい。
 彼女は、自殺しようとしている。

 瞬間、自分の中で何か弾けたのだ。
 なぜそんなことをしようと思ったのか、わからない。
 まるで発作のように、体が動いたのだ。

 気づけば、私はナイフを持つ手を取り、強引に引き、駆け出していた。
 元来た道を戻り、学生の流れを逆走し、訝しみの視線を浴びながら私は走った。
 その時の少女の顔など見てはいない。見る余裕もなかった。

 そのまま孤児院へ、私はその少女を連れ込んだのだ。
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