ケーキ屋の彼

みー

文字の大きさ
19 / 82
4話

3

しおりを挟む
 土曜日、櫻子と柑菜はホームパーティ用の料理を、レシピを見ながら作っている。

 櫻子の立派な家の一角にある、広々としたキッチンは、2人が並んでもまだまだ余裕があった。

 白が基調のキッチンは、清潔感が漂う。

 キッチン用品は、まるで新品であるかのように綺麗なもので揃えられていた。それに、家電も最新のもので、ここにいればなんでも作れそうな気がしてくる。

 ドアの近くには、西音寺家のメイドが1人立っていて、2人の様子を見ている。

 キッチンの壁に掛けられた時計は、櫻子が出かける5分前を指していた。

「じゃあ、私は出かけるわ。真波さん、柑菜ちゃんのお手伝いよろしくね」
 
 櫻子は、メイドに向かってそう言った。

 その光景を見た柑菜は、櫻子とは住む世界が違うんだなと、改めてしみじみと思う。

「承りました」

 真波の洗練された声が、柑菜の耳に入る。
 
 櫻子はエプロンを外し、「じゃあ行ってくるわ」と柑菜に告げ、キッチンを後にした。

 柑菜は、ケーキ屋に向かうその後ろ姿を羨ましそうな視線で見つめていた。






 慣れないキッチンで、ほぼ初対面の真波と2人きりになった柑菜は、緊張している。

「柑菜さま、なにをお手伝いしたらよろしいでしょうか?」

 真波は早速柑菜に話しかける。

 柑菜は、柑菜さま、という言葉に慣れずにそわそわとしていた。

「じゃあ、これと同じものをあと10個作っていただけますか?」

「かしこまりました」

 ちょうど完成した生春巻きを真波に見せる。

 中には、エビやレタス、きゅうりや人参が具材として入っていた。

 真波はそれを見て、手際よく具材を乗せ巻いていった。

「真波さん、じょうずですね」

「料理は得意なもので」

 普段あまり褒められることのない真波は、柑菜に褒められ、ポーカーフェイスを崩してどこか恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 そして、あっという間に10個の生春巻きを完成させる。

「それにしても、3人でこの量って多いと思いませんか?」 

 柑菜は、午後から作っていた料理の品を見て、真波に同意を求めた。

「3人、ですか?」

 その返しに柑菜は少し疑問に思いつつも、会話を続ける。

「はい、私と櫻子と今日が主役の友達の3人です」

 柑菜は、他に誰かいたかなと確かめながら数を数えた。

「そうですね、少し多いかもしれませんね」

 何かを悟ったように、真波は先ほどの『3人、ですか?』という質問がなかったかのように、そう答える。

「でも、足りないよりはいいんじゃないでしょうか」

 真波は、正当な理由で柑菜を納得させる。

「そうですね……あ、じゃあ次はこの林檎の皮を向いていただけますか?」

 赤色の林檎を、真波に渡す。

「はい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...