ケーキ屋の彼

みー

文字の大きさ
37 / 82
6話

2

しおりを挟む

「柑菜ちゃん、人参の大きさはこれでいいかしら?」

 普段料理をしない人参を担当している櫻子は、困っていた。

 ーー料理くらい、やっておくべきだったわ。

 包丁を持つ手もなんだか不器用で、その様子を見ている方がハラハラしてしまう。

「うん、そんな感じでいいと思う。でも、もう少し大きくてもいいかな」

 可愛らしいサイズの人参は、子供にはきっと大変好かれるだろう。

 でも、ここにいる皆は大学生以上で、その人たちにとっては少し小さい。

 櫻子のアドバイスをしながら、柑菜は手つきよく玉ねぎを切っていた。

 その隣でジャガイモの皮を剥いている春樹は、目を抑えて上を向いている。

「柑菜……玉ねぎが……」

 その目には、涙が溜まっていた。

 もちろん、悲しいわけでもなく笑いすぎたわけでもない。

「ごめん、でも、我慢して」
 
 謝りつつも、玉ねぎを切る手を止めない柑菜。

 もちろんカレーに玉ねぎが必要なことを知っている春樹は、それ以上は何も言わない。

 玉ねぎをテンポよく切る音が、キッチン中に鳴り響く。

「待ってて、すぐ切り終わるから」

 ティッシュで涙をふく春樹の隣で、すごい勢いで玉ねぎを切っている柑菜の姿は笑いを誘った。

 切るものを切り、炒めるものを炒め終わったところで、あとは煮込む作業だけが残っていた。
 
 大きい鍋に入れられた具材たちは、音を立てている。

 ぐつぐつという音は、食欲をかき立たせる。

 ちょうどよいところでカレーのルーを入れ少し待っていると、お腹を空かせる匂いがキッチンに充満してきた。

「煮込んでいる間、ちょっと休憩しようかな」

 秋斗は鍋に蓋をして、リビングのソファに座った。

 それに続き、春樹も冷蔵庫から飲み物を取り出してテーブルの上に置き、ソファに座る。

 美鈴はコップを6つ用意すると、その飲み物の横に置いた。

「カレー楽しみだね」

「カレーといえば、学食のカレーってクオリティ高くない?」

 美鈴は、「よく分かんないけど、とにかく美味しいの」とそれに続けて言う。

「分かります、美味しいですよね、学食のカレー」

「そんなに美味しいの?」

 唯一学食とは縁のない秋斗が、興味津々に学食のカレーについて聞いてきた。

「そう、秋斗今度食べに来たらいいよ」

「行きたいな」

 柑菜はつい、キャンパス内を歩く秋斗を想像してしまう。

 ーー絶対、モテるだろうなあ。

 そう考えると、来てほしいとは思う反面なんだか来てほしくないような気もすると矛盾している柑菜だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...