ケーキ屋の彼

みー

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8話

6

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「うん、分かった」

 春樹は、少し考えた後にそう答える。

「楽しみだね、今日も美味しいチョコ食べたんだけど、2人っきりっていうのに緊張してさ……。明日ならいつものメンバーだしきっと今日より楽しめるはず」

「……なんかあった?」

「…………」

 何かを話していれば、今日のことを考えなくて済む、そうしたら少しだけ楽になれる。

 嫌なことや泣きたくなるようなことがあると、いつもよりも口数が多くなるのは幼い頃からの柑菜の癖。

 双子の春樹には、それがすぐに分かる。

 言葉を聞かなくても、柑菜の表情や声から春樹には分かってしまう。

 柑菜の目から流れる涙の量は、きっと今までずっと我慢してきたものが溢れたもので、それは止まることなく静かに流れ続ける。

「フランス……行っちゃうんだ、秋斗さん」

「…………」

「でも、フランスに行ってもっとお菓子の勉強して、私に美味しいお菓子食べさせてくれるんだって」

 柑菜は涙を流しながら、羨ましいでしょ?  と笑っている。

 春樹は何も言わずに、泣いている柑菜を置いてリビングを出た。

 そして、ある人に電話をかける。

「西音寺?」

「あら、どうしたの?」

「柑菜がさーー」

 一通り話し終えると、春樹は電話を切って、再びリビングに戻る。

 柑菜の心が少しでも落ち着くように、ホットミルクを作った春樹は、それを柑菜の元に置いた。

「ありがとう……」

 それを飲む柑菜の顔には、少しだけ落ち着きを取り戻したような表情が浮かんでいた。







 数十分後、インターホンが家に鳴り響いた。

「……誰かな?」

「俺行くよ」

 玄関の扉が開く音が柑菜の耳に聞こえる。

 すると、「柑菜ちゃん、大丈夫?」と、柑菜のよく知っている人の声がした。

「櫻子……?」

「春樹くんに電話で話聞いたの。それで、私心配で……」

 柑菜は櫻子の姿が見えると、その姿に安心感を覚えぎゅっと抱きついた。

 その友達の胸の中で思いっきり涙を流す。

「春樹くん、私今日泊ってもいいかしら?柑菜ちゃん、きっと1人じゃ心細いと思うの」

 柑菜を思うと、櫻子は彼女を1人にはしておけなかった。

「うん……西音寺って、優しいんだな」

「柑菜ちゃんは、大事な友達だもの」

 ニコッと笑いながら言うその言葉を聞いた春樹は、櫻子の顔をじっと見つめる。

 そして櫻子に対し「ありがとう」と一言言った。

 櫻子の、純粋に友人を思う気持ちに、春樹は少しずつその人柄に惹かれていく。

「柑菜ちゃん、お部屋行きましょう」

「うん……」

 だいぶ落ち着いたように見える柑菜は、櫻子の腕を掴んでリビングを後にした。





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