ケーキ屋の彼

みー

文字の大きさ
64 / 82
9話

7

しおりを挟む
 秋斗と柑菜がお互いに惹かれ合っているのは、はたから見れば分かること。

 今更、誰かが入れる雰囲気じゃない。

「あの人にはきっと他の誰かがいる。でも僕は違う。卒業まであと数年。それに、僕だって大人になったんだ、昔の僕みたいに簡単に人は好きにならないよ」

「違うわ。柑菜ちゃんは秋斗さんに出会ったから大学院のこと考え始めたし、秋斗さんは柑菜ちゃんに出会ったからフランス行きを決意したの」

「フランス行き……?」

 櫻子は口を手で覆った。

 ーー余計なことを言ってしまった……。

 空は鋭い目で櫻子を見る。

 その視線に、櫻子は耐えきれず横を向いた。

「僕なら彼女を1人にはしないよ」
 
 櫻子の予感は的中した。

 きっと彼ならこの言葉を言うと、幼馴染の櫻子にはなんとなくそれが分かっていた。

「…………」

 櫻子は、何も言うことができなかった。

 空の言葉が、紛れも無く本当のことだから。

「僕、ちゃんとした告白するよ」

「それはダメよ!」

 好きでいても構わない、だけどそれだけにしてほしい、櫻子は心からそう願う。

「櫻子こそ、好きな人に告白したらいいじゃないか」

「そんな人……いないわ」

 そう言う櫻子を見る空の顔は、今この時間の中で1番哀しそうな顔をしていた。

 窓から見える、葉の枯れていく木々。

 地面に落ちていく葉は、静かにそっと誰にも気付かれない。

「君はいつまで経っても頑固なんだね。だから僕は……」

 そう言われた櫻子は、無言で空の顔を見る。

 ーーなんで、そんな表情しているの……?

 思わずその空の顔に手を伸ばし、そっと包みたくなる思いが浮かんだが、櫻子はすぐに我に返った。










「なんで今日は3人なのかしら?」

 櫻子と柑菜は、ある秋の休日に大学近くにあるお洒落でレトロなカフェのパンプキンパイを食べに来ていた。

 しかし、そこには空の姿もある。

「いいじゃないか、僕も土橋さんと友達になったんだから」

「あら、そう」

 冷たい声で短い返事をする櫻子に、まあまあと宥める柑菜。

「それより、2人が幼馴染だなんて、びっくりだよ」

「小さい頃の櫻子のほうが可愛かったんだよ」

「それはどう言う意味かしら?」

 柑菜は2人の様子を見ると、つい笑いが出て来てしまった。

 それに、いつもは見ることのできない櫻子の様子が柑菜には別人のように目に映る。

 暫くすると、焼きたてのパンプキンパイが運ばれてくる。

 さっきまで無表情だった櫻子の顔は、それを見ると笑顔を咲かせた。

 それにプラスしホットのダージリンティーも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...