ケーキ屋の彼

みー

文字の大きさ
75 / 82
11話

3

しおりを挟む

 午後6時半。

 インターホンが部屋の中に鳴り響き、来客を伝えた。

「今日は呼んでくれてありがとう」

 扉を開けると、秋斗と美鈴が寒さで顔を赤くさせていた。

 外はやはり寒いらしい。

 家の中に入ると、2人は手袋やマフラーを外して暖かさにほっと一息ついているよう。

 柑菜は、秋斗の姿を見ると、頰が緩んでにやけてしまう。

 秋斗が近くにいるだけで、柑菜の心は高まってしまう。

 いつからこんなに好きになってしまったのかな……なんて柑菜は自問するけれど、答えは分からない。

 ただ、分かることは、とても秋斗のことが好きだということ。

「柑菜さん、今日は呼んでくれてありがとう」

 柑菜の目の前に立つ秋斗。

「はいっ、ぜひ楽しんでいってください!」

「うん」

 言いながら、秋斗は柑菜の頭の上に自分の手を置いた。

「あ、秋斗さん……」

 大きい手が優しく柑菜の頭を撫でる。

「あ、ごめん、なんか……ううん、なんでもない」

 秋斗は、顔を真っ赤にして柑菜から目を逸らす。

 可愛かったからつい、その言葉を秋斗は柑菜に伝えるには、勇気がまだなかった。

 自分のことをもし好きじゃなかったら、そんなことを考えると、あともう一歩を踏み出せないでいる。

 でも、自惚れてしまう自分もいることに、秋斗は悶々としていた。

 柑菜は、顔を赤くしている秋斗の姿を見て、益々その気持ちが高まってくる。

 だから、ついこんなことを言ってしまう。

「秋斗さん……あの……明日、話したいことがあるんです」

「…………うん、分かった」

 秋斗は、その言葉を聞くとどうしてもやはり自惚れの気持ちが湧いてきてしまう。

 でも、どうにかそれを押し込めて平静を装うも、周りの人たちはそんな秋斗をニヤついた目で見ていた。

「お2人さん、そろそろいいですか?」

 飲み物の注がれたカップを片手に持った美鈴が、2人の世界の中に割り込んできた。

「あ、はい!」

 柑菜は思わず、大きな声を出してしまう。

 みんなに見られていたかと思うと、顔から火が出そうな思いの柑菜。

 秋斗もまた、さきほどよりも顔を赤くさせていた。

「はい、これ持って。乾杯してパーティ始まるから、そしたらまた2人の世界へ」

「美鈴さんっ、そ、そんな、2人の世界なんて……みんなで楽しみましょう」

 柑菜は、みんな、という言葉を強調させて、美鈴の背中を押してみんなの元へ向かった。

 その後ろを、秋斗は柑菜の背中を見つめながら追いかけていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...