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いろいろな感情をもたらした校外学習が終わって、いつもの学校生活が訪れた。
授業を受けて、豪華なランチを食べて、また授業を受ける。
そんな時、特に何も考えることがないと、涼の顔が頭に浮かんできてしまうように……。
窓の外の空に浮かぶ苺の形のような雲をぼーっと見ている時だった。
「桜さんっている?」
教室の扉付近で激し目の口調で話す、聞いたことのない女子の声が聞こえてくる。
桜、と言う名前は私しかいないし、ということは私のことを探しているというわけで、さりげなく声の主を探した。
彼女の姿を捉えると、彼女も私の姿に気付いたようで、まるで鋭利な刃物のような視線を送ってくる。
姿勢良く私のところまでかつかつと靴の音を立てながら威圧的な雰囲気を伴って来た。
「もう、いるなら返事してよね」
その言い方、言葉に体が縮こまる。
「ご、ごめんなさい」
謝らなくても良いはずなのに、つい出て来てしまうその言葉。
その人は、校外学習で何度か見かけたあの美少女だった。
「ちょっと話したいことがあるの。いいかしら?」
今日の授業は全て終わり、後は帰るのみで時間はある。
「いいけれど……」
「それなら、ついてきて」
「あ、はい」
見た目とは随分受ける印象が違って、気が相当強そうな話し方に背筋が自然と伸びる。
なにか知らないところで怒らせるようなことをしてしまったのだろうかと思い出せる範囲で過去を振り返るも、多分彼女に関わるような出来事はない。
とりあえず彼女の後をついていき校内から出て、大きな噴水のある中庭に来た。
くるっと私の方を向き、不機嫌な顔を私に見せてくる。
「あなた、どういうつもり?」
「えっと……なにが、ですか?」
どういうつもりといきなり聞かれても、本当になんのことだか見当もつかない。
「涼さまという婚約者がいながら、他の人と2人きりで過ごすなんて、どういうつもりか聞いてるのよ」
「えっと、それは……」
「私、許せないのよ。ふらふらしてるあなたが」
「もしかして、涼が好きなんですか?」
「な、な、な、なんでそんな単刀直入に聞くわけ?」
分かり易いくらいに動揺して、顔をトマトのように真っ赤にする彼女は恋する少女だった。
「えっと、ごめんなさい……」
「と、とにかく、中途半端な気持ちならあなたから土下座して婚約解消でもしてちょうだい」
「そんなこと言われても……」
「いい? 必ずよ」
言いたいことを全て言い終えたのか、私の返事を聞く前に目の前から消えてしまった。
まるで、台風のようだった。
涼さまって呼ぶくらいだからきっと相当涼のことを慕っていると思う。
涼にとっても、きっと私なんかといるより、彼女のように涼のことを好きでいてくれる人が婚約者の方がいい。
でも……。
授業を受けて、豪華なランチを食べて、また授業を受ける。
そんな時、特に何も考えることがないと、涼の顔が頭に浮かんできてしまうように……。
窓の外の空に浮かぶ苺の形のような雲をぼーっと見ている時だった。
「桜さんっている?」
教室の扉付近で激し目の口調で話す、聞いたことのない女子の声が聞こえてくる。
桜、と言う名前は私しかいないし、ということは私のことを探しているというわけで、さりげなく声の主を探した。
彼女の姿を捉えると、彼女も私の姿に気付いたようで、まるで鋭利な刃物のような視線を送ってくる。
姿勢良く私のところまでかつかつと靴の音を立てながら威圧的な雰囲気を伴って来た。
「もう、いるなら返事してよね」
その言い方、言葉に体が縮こまる。
「ご、ごめんなさい」
謝らなくても良いはずなのに、つい出て来てしまうその言葉。
その人は、校外学習で何度か見かけたあの美少女だった。
「ちょっと話したいことがあるの。いいかしら?」
今日の授業は全て終わり、後は帰るのみで時間はある。
「いいけれど……」
「それなら、ついてきて」
「あ、はい」
見た目とは随分受ける印象が違って、気が相当強そうな話し方に背筋が自然と伸びる。
なにか知らないところで怒らせるようなことをしてしまったのだろうかと思い出せる範囲で過去を振り返るも、多分彼女に関わるような出来事はない。
とりあえず彼女の後をついていき校内から出て、大きな噴水のある中庭に来た。
くるっと私の方を向き、不機嫌な顔を私に見せてくる。
「あなた、どういうつもり?」
「えっと……なにが、ですか?」
どういうつもりといきなり聞かれても、本当になんのことだか見当もつかない。
「涼さまという婚約者がいながら、他の人と2人きりで過ごすなんて、どういうつもりか聞いてるのよ」
「えっと、それは……」
「私、許せないのよ。ふらふらしてるあなたが」
「もしかして、涼が好きなんですか?」
「な、な、な、なんでそんな単刀直入に聞くわけ?」
分かり易いくらいに動揺して、顔をトマトのように真っ赤にする彼女は恋する少女だった。
「えっと、ごめんなさい……」
「と、とにかく、中途半端な気持ちならあなたから土下座して婚約解消でもしてちょうだい」
「そんなこと言われても……」
「いい? 必ずよ」
言いたいことを全て言い終えたのか、私の返事を聞く前に目の前から消えてしまった。
まるで、台風のようだった。
涼さまって呼ぶくらいだからきっと相当涼のことを慕っていると思う。
涼にとっても、きっと私なんかといるより、彼女のように涼のことを好きでいてくれる人が婚約者の方がいい。
でも……。
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