君は少女をみたか!

一陽吉

文字の大きさ
33 / 51
三章 個人探求者

第22話 瑠羅と義体

しおりを挟む
「どういうつもりだ?」

 ほむらちゃんは疑う目をさせながら瑠羅ルラちゃんにいた。

 その様子は聖名夜みなよちゃんも同じ。

 私もそう。

 だって散々、球体を渡さないって言ってたのに、ほらって差し出されても疑ってしまう。

「どういうつもりもないわよ、ほむら。あなた、父様から戦いを評価されて渡すと言われてたんでしょう」

「まあ……、言ってたな」

「ならいいなじゃない。データだって今の分でいいとも言ってたし」

 そのとおりなんだけど、あのとき鉄摩テツマさんが言ってたのは方便で、実際は球体を狙っていた。

 だから、本心としては渡すつもりがないどころか奪う気でいっぱいなんだと思う。

「企んでいると思ってる? だったら、これでいいでしょう」

 すると瑠羅ちゃん、ほむらちゃんに向かって球体を投げた。

 パシッと右手で掴むほむらちゃん。

 反応からも間違いなく本物の球体。

 だけどなんか信じられない。

「これ以上、戦っても目新しいものは期待できないし、所内の維持や復旧の方が大変よ。あんたたちは今のうちに帰ると変えるといいわ」

「……」

 ……。

 いままでずっと戦わせておいて、欲しいのをやったんだから、後は帰っていいっていうのもの何だかなと思うけど、今のうちにというのも引っかかるわね。

「──本当の黒幕はお前か? 瑠羅」

「……」

 ほむらちゃんの目を無言で見つめ返す瑠羅ちゃん。

 ──正直、最初に会った時から少し違和感があったんだ。

 ようこそ、みたいなことを言って指示された割には自分も期待してたように言うし、聖名夜ちゃんを気遣ったり、鉄摩さんを助けに来なかったりしてた。

 一番おかしいと思ったのは自己紹介。

 雷羅ライラちゃんは話すときが無かったから別にしても、利羅リラちゃん、狼羅ロウラちゃん、伶羅レイラちゃんは、フルネームで名乗っていたけど、瑠羅ちゃんはだった。

 名前を言わないで、はぐらかそうとしていたほむらちゃんに指摘するぐらいだから、忘れたり誤魔化しているわけじゃないと思う。

 名字をつけて言いたくなかったんだ。

 でも、父様って慕っているのよね。

 どういう事だろう。

「当たらずとも遠からずね」

 瑠羅ちゃんは観念したかんじで言った。

「私は他の娘と違って、指示、裁量、決定の権限を与えられているの。父様に次いでね。だから、父様が気絶している今は私がトップ。今なら私の判断でどうとでもなるけど、父様が目覚めたら指示に従わなければならなくなるわ」

 なるほど。

 それで独自に動いていたし、今のうちにって言ってたのね。

 じゃあ、名字を名乗らないのって、鉄摩さんの思考から離れたこともできる、自由ってことなのかな。

「だから、さっさとここから出してあげる。でもその代わり、二度とここへは近づかないこと。いいわね」

 うん、まあ、なんかスッキリしないけど、球体は戻ったし帰れるんだからいいよね。

「分かった……。取るもん取ったし、やることはやった。長居する理由がねえしな」

「ええ。出ましょう」

 ほむらちゃん、聖名夜ちゃんも了承し、頷いて答えた。

「それじゃあ、行くわよ」

 そう言って、瑠羅ちゃんが両手で密教の印みたいなのを結ぼうとしたした瞬間──。

「ほっほっほ」

 笑い声と同時に、目の前の空間から画面が現われた。

 三メートル、五メートルくらいの長方形をした画面で、白衣を着た鉄摩さんの上半身が映っている。

 背景にたくさんのモニターや機材も見えるけど、ほむらちゃんが行ったところとは別の場所みたい。

 鉄摩さん、意外と早く回復したのね。

「球体を渡したようだね、瑠羅」

「はい、父様。いけなかったでしょうか」

 両手を戻して問い返す瑠羅ちゃん。

「いやいや、構わんよ。一度はそう言ったんだからね」

「それで、二人にはもう用がないと思います。帰らせてもよろしいですね」

 瑠羅ちゃん、鉄摩さんにも了承前提で言うのね。

「ああ、その事なんだがね。君たち二人、もう一度戦いたまえ」

 え?

「いま話してる私は、差し詰め鉄摩B。鉄摩Aはそこの君に倒され気絶したままだ。身体が別だとはいえ、意識と記憶を共有しているのでね。一男子として、自分が無様に負けたままでは気が済まんのだよ」

 と、ちょっと待って、AとかBって鉄摩さん自身も量産の義体だったてこと?

 意識と記憶を共有って、インターネットとか、そんなかんじの仕組みなのかな。

 いずれにしても、鉄摩さんであることに変わりないんだ。

「で、ですが父様、もう戦える子がいません」

「いるさ、とっておきがね」

 ニヤッと笑って言う鉄摩さん。

 すると、場内の真ん中あたりにある床が丸く開いて、メタリックな円筒形のものが出てきた。

 直径二メートル、高さが三メートルくらいはありそう。

 そして、それは中央から左右に開いて中を見せた。

「なに……、これ……」

 思わず呟く瑠羅ちゃん。

 そこにあったのは、一言でいえば鎧を着た女の神将。

 仏像なんかで見るような肩当や、胸甲、臑当すねあてを身につけている。

 胸甲は女性用になっていて胸元が見えるけど、いやらしさは感じられられない。

 身長二メートル三十センチはあって、腹筋はバキバキに割れ、鍛え上げられた戦士の身体をしてるわね。

 赤黒い肌で、髪は黒のショートポニー。

 目を閉じたまま立っていて、起動待ちをしているかんじ。

 ただ、一番注目するところは胸元もとにある、水晶みたいな五つの丸いやつ。

 ピンポン玉くらいの大きさをしたその水晶に、それぞれ雷羅ちゃん、利羅ちゃん、狼羅ちゃん、伶羅ちゃんの顔が浮かび上がっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...