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三章 個人探求者
第22話 瑠羅と義体
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「どういうつもりだ?」
ほむらちゃんは疑う目をさせながら瑠羅ちゃんに訊いた。
その様子は聖名夜ちゃんも同じ。
私もそう。
だって散々、球体を渡さないって言ってたのに、ほらって差し出されても疑ってしまう。
「どういうつもりもないわよ、ほむら。あなた、父様から戦いを評価されて渡すと言われてたんでしょう」
「まあ……、言ってたな」
「ならいいなじゃない。データだって今の分でいいとも言ってたし」
そのとおりなんだけど、あのとき鉄摩さんが言ってたのは方便で、実際は球体を狙っていた。
だから、本心としては渡すつもりがないどころか奪う気でいっぱいなんだと思う。
「企んでいると思ってる? だったら、これでいいでしょう」
すると瑠羅ちゃん、ほむらちゃんに向かって球体を投げた。
パシッと右手で掴むほむらちゃん。
反応からも間違いなく本物の球体。
だけどなんか信じられない。
「これ以上、戦っても目新しいものは期待できないし、所内の維持や復旧の方が大変よ。あんたたちは今のうちに帰ると変えるといいわ」
「……」
……。
いままでずっと戦わせておいて、欲しいのをやったんだから、後は帰っていいっていうのもの何だかなと思うけど、今のうちにというのも引っかかるわね。
「──本当の黒幕はお前か? 瑠羅」
「……」
ほむらちゃんの目を無言で見つめ返す瑠羅ちゃん。
──正直、最初に会った時から少し違和感があったんだ。
ようこそ、みたいなことを言って指示された割には自分も期待してたように言うし、聖名夜ちゃんを気遣ったり、鉄摩さんを助けに来なかったりしてた。
一番おかしいと思ったのは自己紹介。
雷羅ちゃんは話すときが無かったから別にしても、利羅ちゃん、狼羅ちゃん、伶羅ちゃんは、フルネームで名乗っていたけど、瑠羅ちゃんは名前だけだった。
名前を言わないで、はぐらかそうとしていたほむらちゃんに指摘するぐらいだから、忘れたり誤魔化しているわけじゃないと思う。
名字をつけて言いたくなかったんだ。
でも、父様って慕っているのよね。
どういう事だろう。
「当たらずとも遠からずね」
瑠羅ちゃんは観念したかんじで言った。
「私は他の娘と違って、指示、裁量、決定の権限を与えられているの。父様に次いでね。だから、父様が気絶している今は私がトップ。今なら私の判断でどうとでもなるけど、父様が目覚めたら指示に従わなければならなくなるわ」
なるほど。
それで独自に動いていたし、今のうちにって言ってたのね。
じゃあ、名字を名乗らないのって、鉄摩さんの思考から離れたこともできる、自由ってことなのかな。
「だから、さっさとここから出してあげる。でもその代わり、二度とここへは近づかないこと。いいわね」
うん、まあ、なんかスッキリしないけど、球体は戻ったし帰れるんだからいいよね。
「分かった……。取るもん取ったし、やることはやった。長居する理由がねえしな」
「ええ。出ましょう」
ほむらちゃん、聖名夜ちゃんも了承し、頷いて答えた。
「それじゃあ、行くわよ」
そう言って、瑠羅ちゃんが両手で密教の印みたいなのを結ぼうとしたした瞬間──。
「ほっほっほ」
笑い声と同時に、目の前の空間から画面が現われた。
三メートル、五メートルくらいの長方形をした画面で、白衣を着た鉄摩さんの上半身が映っている。
背景にたくさんのモニターや機材も見えるけど、ほむらちゃんが行ったところとは別の場所みたい。
鉄摩さん、意外と早く回復したのね。
「球体を渡したようだね、瑠羅」
「はい、父様。いけなかったでしょうか」
両手を戻して問い返す瑠羅ちゃん。
「いやいや、構わんよ。一度はそう言ったんだからね」
「それで、二人にはもう用がないと思います。帰らせてもよろしいですね」
瑠羅ちゃん、鉄摩さんにも了承前提で言うのね。
「ああ、その事なんだがね。君たち二人、もう一度戦いたまえ」
え?
「いま話してる私は、差し詰め鉄摩B。鉄摩Aはそこの君に倒され気絶したままだ。身体が別だとはいえ、意識と記憶を共有しているのでね。一男子として、自分が無様に負けたままでは気が済まんのだよ」
と、ちょっと待って、AとかBって鉄摩さん自身も量産の義体だったてこと?
意識と記憶を共有って、インターネットとか、そんなかんじの仕組みなのかな。
いずれにしても、鉄摩さんであることに変わりないんだ。
「で、ですが父様、もう戦える子がいません」
「いるさ、とっておきがね」
ニヤッと笑って言う鉄摩さん。
すると、場内の真ん中あたりにある床が丸く開いて、メタリックな円筒形のものが出てきた。
直径二メートル、高さが三メートルくらいはありそう。
そして、それは中央から左右に開いて中を見せた。
「なに……、これ……」
思わず呟く瑠羅ちゃん。
そこにあったのは、一言でいえば鎧を着た女の神将。
仏像なんかで見るような肩当や、胸甲、臑当を身につけている。
胸甲は女性用になっていて胸元が見えるけど、いやらしさは感じられられない。
身長二メートル三十センチはあって、腹筋はバキバキに割れ、鍛え上げられた戦士の身体をしてるわね。
赤黒い肌で、髪は黒のショートポニー。
目を閉じたまま立っていて、起動待ちをしているかんじ。
ただ、一番注目するところは胸元もとにある、水晶みたいな五つの丸いやつ。
ピンポン玉くらいの大きさをしたその水晶に、それぞれ雷羅ちゃん、利羅ちゃん、狼羅ちゃん、伶羅ちゃんの顔が浮かび上がっていた。
ほむらちゃんは疑う目をさせながら瑠羅ちゃんに訊いた。
その様子は聖名夜ちゃんも同じ。
私もそう。
だって散々、球体を渡さないって言ってたのに、ほらって差し出されても疑ってしまう。
「どういうつもりもないわよ、ほむら。あなた、父様から戦いを評価されて渡すと言われてたんでしょう」
「まあ……、言ってたな」
「ならいいなじゃない。データだって今の分でいいとも言ってたし」
そのとおりなんだけど、あのとき鉄摩さんが言ってたのは方便で、実際は球体を狙っていた。
だから、本心としては渡すつもりがないどころか奪う気でいっぱいなんだと思う。
「企んでいると思ってる? だったら、これでいいでしょう」
すると瑠羅ちゃん、ほむらちゃんに向かって球体を投げた。
パシッと右手で掴むほむらちゃん。
反応からも間違いなく本物の球体。
だけどなんか信じられない。
「これ以上、戦っても目新しいものは期待できないし、所内の維持や復旧の方が大変よ。あんたたちは今のうちに帰ると変えるといいわ」
「……」
……。
いままでずっと戦わせておいて、欲しいのをやったんだから、後は帰っていいっていうのもの何だかなと思うけど、今のうちにというのも引っかかるわね。
「──本当の黒幕はお前か? 瑠羅」
「……」
ほむらちゃんの目を無言で見つめ返す瑠羅ちゃん。
──正直、最初に会った時から少し違和感があったんだ。
ようこそ、みたいなことを言って指示された割には自分も期待してたように言うし、聖名夜ちゃんを気遣ったり、鉄摩さんを助けに来なかったりしてた。
一番おかしいと思ったのは自己紹介。
雷羅ちゃんは話すときが無かったから別にしても、利羅ちゃん、狼羅ちゃん、伶羅ちゃんは、フルネームで名乗っていたけど、瑠羅ちゃんは名前だけだった。
名前を言わないで、はぐらかそうとしていたほむらちゃんに指摘するぐらいだから、忘れたり誤魔化しているわけじゃないと思う。
名字をつけて言いたくなかったんだ。
でも、父様って慕っているのよね。
どういう事だろう。
「当たらずとも遠からずね」
瑠羅ちゃんは観念したかんじで言った。
「私は他の娘と違って、指示、裁量、決定の権限を与えられているの。父様に次いでね。だから、父様が気絶している今は私がトップ。今なら私の判断でどうとでもなるけど、父様が目覚めたら指示に従わなければならなくなるわ」
なるほど。
それで独自に動いていたし、今のうちにって言ってたのね。
じゃあ、名字を名乗らないのって、鉄摩さんの思考から離れたこともできる、自由ってことなのかな。
「だから、さっさとここから出してあげる。でもその代わり、二度とここへは近づかないこと。いいわね」
うん、まあ、なんかスッキリしないけど、球体は戻ったし帰れるんだからいいよね。
「分かった……。取るもん取ったし、やることはやった。長居する理由がねえしな」
「ええ。出ましょう」
ほむらちゃん、聖名夜ちゃんも了承し、頷いて答えた。
「それじゃあ、行くわよ」
そう言って、瑠羅ちゃんが両手で密教の印みたいなのを結ぼうとしたした瞬間──。
「ほっほっほ」
笑い声と同時に、目の前の空間から画面が現われた。
三メートル、五メートルくらいの長方形をした画面で、白衣を着た鉄摩さんの上半身が映っている。
背景にたくさんのモニターや機材も見えるけど、ほむらちゃんが行ったところとは別の場所みたい。
鉄摩さん、意外と早く回復したのね。
「球体を渡したようだね、瑠羅」
「はい、父様。いけなかったでしょうか」
両手を戻して問い返す瑠羅ちゃん。
「いやいや、構わんよ。一度はそう言ったんだからね」
「それで、二人にはもう用がないと思います。帰らせてもよろしいですね」
瑠羅ちゃん、鉄摩さんにも了承前提で言うのね。
「ああ、その事なんだがね。君たち二人、もう一度戦いたまえ」
え?
「いま話してる私は、差し詰め鉄摩B。鉄摩Aはそこの君に倒され気絶したままだ。身体が別だとはいえ、意識と記憶を共有しているのでね。一男子として、自分が無様に負けたままでは気が済まんのだよ」
と、ちょっと待って、AとかBって鉄摩さん自身も量産の義体だったてこと?
意識と記憶を共有って、インターネットとか、そんなかんじの仕組みなのかな。
いずれにしても、鉄摩さんであることに変わりないんだ。
「で、ですが父様、もう戦える子がいません」
「いるさ、とっておきがね」
ニヤッと笑って言う鉄摩さん。
すると、場内の真ん中あたりにある床が丸く開いて、メタリックな円筒形のものが出てきた。
直径二メートル、高さが三メートルくらいはありそう。
そして、それは中央から左右に開いて中を見せた。
「なに……、これ……」
思わず呟く瑠羅ちゃん。
そこにあったのは、一言でいえば鎧を着た女の神将。
仏像なんかで見るような肩当や、胸甲、臑当を身につけている。
胸甲は女性用になっていて胸元が見えるけど、いやらしさは感じられられない。
身長二メートル三十センチはあって、腹筋はバキバキに割れ、鍛え上げられた戦士の身体をしてるわね。
赤黒い肌で、髪は黒のショートポニー。
目を閉じたまま立っていて、起動待ちをしているかんじ。
ただ、一番注目するところは胸元もとにある、水晶みたいな五つの丸いやつ。
ピンポン玉くらいの大きさをしたその水晶に、それぞれ雷羅ちゃん、利羅ちゃん、狼羅ちゃん、伶羅ちゃんの顔が浮かび上がっていた。
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