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6章 最後の1枚
9話 〝正義〟(3)
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「さて。……おい、てめえら。よくもやりやがったな」
キムが、捕らえた〝空の連盟〟の男達を視線だけで見下ろして低く唸った。
今この場にはキム以外にもたくさんの人間がいる。アンソニー、自警団員、そして消防隊員……総勢20名ほど。
だが誰も言葉を発さない。今耳に届いているのは、焼けたトミーの家の見回りをしている消防隊員の足音、そして消防馬車を引っ張ってきた馬が鼻を鳴らす声のみ。
この静けさが逆に恐ろしい。
肩と背中に、先ほどアンソニーが剣を振り下ろそうとした時と同じ怖気が走る。
――寒い。
この場の誰も、殺気を隠そうとしていない……。
「隊長!」
消防隊員の1人が、トミーの家の前に立つ隊長のところに駆けてきて何かを報告する。
隊長はその場から動かず、現場や隊員の様子を見回しているようだ。
報告を聞いた隊長は拳を握り肩を震わせる。
「おい、どうしたぁ?」
キムの問いに、隊長は歯噛みをしながら「火元が分かった」と答えた。
「火元? どこだ」
「キッチンだ。外壁の焼け方からして間違いない。……そのうえ壁と地面から、わずかだがアルコール臭がした」
「……!」
「……ふぅん。度数の高いお酒を撒いて、そこに火をつけたってわけ。すさまじい殺意ねえ」
アンソニーが吐き捨てるように言う。隊長はそれにうなずき、再度口を開いた。
「……おそらく、壁や地面に酒を撒いて、酒を染み込ませた布に火を点けて投げ込んだんだろう。酒を発火源とした火災は燃え広がりやすいうえ、消えにくい。……さっきそこの兄さんが水をぶつけた時に『もしや』と思ったが……」
「…………」
――身体が勝手に震える。
火元はキッチン。そこには油、酒、調理器具、木製の食器棚や食器、布巾、それにカーテンなど、燃えやすいものばかりが置いてある。
さらにキッチンには食堂が隣接している。そこもキッチンと同様、火の材料だらけだ――。
(……こいつらが、トミーの家を探っていたのは……)
トミーは「空の連盟が家周りをうろつくようになった」とぼやいていた。
話を聞いた時点ではその行動の目的が分からなかったが、今回のことで理解できてしまった。
キッチンの位置を把握するためだ。
食事時になれば、そこから包丁の音が聞こえる。料理の匂いもしてくるだろう。
……しかも……。
『料理が好きなのか?』
『うん、好きだねー。楽しいし』
トミーは料理をするのが好きだ。
朝昼夜の食事以外にも色々と作っていると言っていた。つまり彼は、キッチンにいる確率が高い。
彼の家周りをうろついていれば、その生活パターンも把握しているはず。
そのうえで、キッチンに火を……。
「なぜそうまでして、トミーの命を……」
「黙れ、悪魔崇拝者め!! 貴様に〝命〟について語る資格はない!!」
「!?」
わけの分からない罵倒に息を呑む。
――「悪魔崇拝者」?
一体何を言っているんだ、こいつは……。
「騙されるな、同志よ! こいつは屍霊術師――悪魔の使いだ!! あのトミーという男を思いやっているようなそぶりを見せているが、心の底では『〝泥遊び〟の良質の素材が手に入った』とほくそ笑んで、……がっ!?」
言葉の途中で「ヒュッ」と空気を切り裂くような音がして、男の喉に白く光る線状の〝何か〟が突き刺さった。
戦闘中に飛び交っていた矢とは違う、魔力でできた「光の矢」だ。
男の喉や口から血が出ていないことから、殺傷力はなさそうだ。
男は口をパクパクさせてもがいている。この矢のせいで声を出せないのだろうか?
「……オイ、もういいぜぇ。降りてきな」
キムが人差し指で帽子の鍔を上げ、少し先にある木の上を見つつ声をかける。
それを受け、弓を持った緑の髪の男が木の上から飛び降りてきた。
(あいつは、オルコット……)
弓の射手は、先ほどキムの店で会った「ジャン・オルコット」だった。
オルコットは着地したあと、手に持っていた弓を肩に掛け、結んだ長髪を一撫でしてからこちらに歩み寄ってきた。
その様子を見てキムが小さく口笛を吹いた。
「さすがの腕前だなぁ。……オイ、この矢は何だ?」
「〝沈黙の矢〟。……相手を喋れなくする超必殺技」
「死んでねェのに〝超必殺 〟か」
「……子供と共同開発した技ですから」
オルコットがニッと笑いながら言うと、キムは口の右端を吊り上げ「そりゃ参ったな」と肩をすくめて笑った。
しかしすぐに真顔になり、空の連盟の者を見下ろしながら、
「……で? 〝悪魔崇拝〟がなんだって?」
と問うた。
が、問われた男は〝沈黙の矢〟のせいで喋れない。
その代わりに彼の隣にいた男が僕を睨みながら口を開いた。
「魂を盗んで泥に宿す――神をも恐れぬ背徳行為だ。これを〝悪魔崇拝〟と言わず、なんと言う!」
「……それは俺も否定はしねえ。命を作ってイイのは神サマだけだ。……けど、この世界では禁じられてねェんだぜ」
「禁じられていなくとも、手を出してはならない領域があると分かるだろう! 道徳を備えた人間ならば!!」
「……〝道徳〟。道徳、ねえ……」
ため息まじりにキムが後ろを向いた。
視線の先にあるのは、無残に焼け落ちたトミーの家――今も消防隊員達が、残り火がないかどうかを確認するために見回っている。
「小僧ども。俺らはなあ、いつだっておめえらを簡単にぶちのめすことができたんだぜ。そうしなかったのはなんでだと思う? トミーのヤツが、『そこまでしなくてもいい』『乱暴はやめてくれ』って言ったからだ――」
そう言ってキムが、先ほど吠えた男のアゴをつま先でクイッと上げ、すぐにその足を一度引いて男の顔面に蹴りを入れた。
「おめえらは、おめえらが殺そうとしたヤツの〝道徳〟に守られてたんだよ!!」
キムの行動を皮切りに、自警団の男達が捕らえた空の連盟の人間に暴行を加え始めた。
殴られ、蹴られるたび、空の連盟の男達がうめき、叫ぶ。
連中は無抵抗のトミーの家を焼き払い、間接的にだが彼を死の寸前にまで追いやった。
だがまだ彼は死んでいない。今の行為は正直、行き過ぎに思える。
頭をよぎるのは、先日のトミーとの会話――あの連中は、勧誘を断ったトミーに「逆らわないように頭をいじられている」などと言ってきたという。
もしかすると、断った者全員に同じようなことを言っていたのかもしれない。
みな、腹に据えかねる思いだったのだろう。
それが今回のことで爆発した――。
「っ……」
――止めるべきだろうか?
だが僕が止めに入ったところで、奴らは先ほどのように吠え立ててくるだけではないだろうか。
「悪の屍霊術師」「悪魔崇拝者」「お前に命を語る資格はない」などと言って……。
ふと、アンソニーはどうしているのかと彼を見やる。
消防馬車やキム達が現れる直前は怒りと殺意に満ちていたが、暴行には加わっていない。
腕組みをして、ことの成り行きを見届けているようだ。
怒れる群衆を見て逆に冷静になったのだろうか……?
「…………」
少し考えたが、どうしても連中を助ける気が起こらない。
彼らはトミーを苦しめ、殺そうとした。
許すことはできない。
暴行に加わりはしないが、連中を助けることもしない。その理由がない。
僕は、トミーのような〝優しい善人〟じゃない――。
今この場において、僕が果たす役割はない。
騒ぎに背を向け、僕はトミーとビクトルのもとに駆け出した。
「……ビクトル。トミーは……?」
「魔力のほとんどを明け渡したので、危険水域からは脱しました。ただ……」
横たわるトミーを見ると、肌の色はすっかり元通りになっていた。
だが、青緑に変化していた部分が全くといっていいほど戻っていない。
「これは……どうして」
「この部分は、元の世界での彼の死因なのかもしれませんね。戻すには、泥の継ぎ足しが必要だ……」
そう言うとビクトルは頭を押さえて目を閉じ、がっくりとうなだれる。
明らかに顔色が悪い……。
「ビクトル、……魔力が……」
「大丈夫……少し、疲れただけです。一度、ザビーネ様の元へ戻りましょう。転移魔法1回分ならまだ使えます」
「分かった。アンソニーを呼んでくる――」
「やめろぉっ! 目を覚ませ、話を聞けぇっ……」
「!!」
空の連盟の連中がまた叫んでいる。
「有無を言わさず」というわけではないらしく、自警団員達は一度暴行をやめた。
それを好機とみたのか、空の連盟の一員が僕を指さしながら口を開き、息を大きく吸い込んだ。
「お前ら、そこのガキを知っているのか!? そいつの名は〝ロラン・ミストラル〟! 悪の権化、屍霊術師ゴーチエ・ミストラルの弟子だ!!」
男の叫びに、その場の空気が一変した。
視線が一斉に僕に集まったかと思うと、みながひそひそ話を始めた。
「ゴーチエって?」「屍霊術師の始祖ってやつだろ」「でも死んだって聞いたぞ」など――ゴーチエの話をしているのに、全ての言葉が僕に突き刺さっているように思える。
針のむしろとは、こういうことを言うのだろう。
今の自分の言葉に手応えがあったと思ったらしい男が歯を剥き出しにして笑い、再度口を開いた。
「ゴーチエ・ミストラルは死んだが、完全に滅してはいない! そいつがゴーチエの再臨を狙って活動しているからだ!!」
「な、何を……」
「今もゴーチエの魂が収まるための器を作り続けているんだろう、悪魔の申し子め!」
「…………」
「同志よ、騙されるな!! 刃を向けるなら、討つならばそいつだ!」
僕がゴーチエの再臨を狙い、器を作り続けている……彼らの言っていることは無茶苦茶で、何ひとつ筋道が通っていない。
〝屍霊術〟とは、彷徨う魂を泥に宿して、人間として再形成するだけの術。
今彼らが言ったようなことを実現する力など僕にはない。
ゴーチエなら可能だったかもしれないが、今この場にそれを理解してくれる人間がどれほどいるのか……。
――逃げたい。
でもそうすれば、彼の言葉を真実と証明してしまうことになる。
(……トモミチ……)
思わず、心の中で彼の名を唱える。
トモミチ、僕はどうしたらいい?
僕はただ、仲良くなった人を助けたかっただけなんだ……。
キムが、捕らえた〝空の連盟〟の男達を視線だけで見下ろして低く唸った。
今この場にはキム以外にもたくさんの人間がいる。アンソニー、自警団員、そして消防隊員……総勢20名ほど。
だが誰も言葉を発さない。今耳に届いているのは、焼けたトミーの家の見回りをしている消防隊員の足音、そして消防馬車を引っ張ってきた馬が鼻を鳴らす声のみ。
この静けさが逆に恐ろしい。
肩と背中に、先ほどアンソニーが剣を振り下ろそうとした時と同じ怖気が走る。
――寒い。
この場の誰も、殺気を隠そうとしていない……。
「隊長!」
消防隊員の1人が、トミーの家の前に立つ隊長のところに駆けてきて何かを報告する。
隊長はその場から動かず、現場や隊員の様子を見回しているようだ。
報告を聞いた隊長は拳を握り肩を震わせる。
「おい、どうしたぁ?」
キムの問いに、隊長は歯噛みをしながら「火元が分かった」と答えた。
「火元? どこだ」
「キッチンだ。外壁の焼け方からして間違いない。……そのうえ壁と地面から、わずかだがアルコール臭がした」
「……!」
「……ふぅん。度数の高いお酒を撒いて、そこに火をつけたってわけ。すさまじい殺意ねえ」
アンソニーが吐き捨てるように言う。隊長はそれにうなずき、再度口を開いた。
「……おそらく、壁や地面に酒を撒いて、酒を染み込ませた布に火を点けて投げ込んだんだろう。酒を発火源とした火災は燃え広がりやすいうえ、消えにくい。……さっきそこの兄さんが水をぶつけた時に『もしや』と思ったが……」
「…………」
――身体が勝手に震える。
火元はキッチン。そこには油、酒、調理器具、木製の食器棚や食器、布巾、それにカーテンなど、燃えやすいものばかりが置いてある。
さらにキッチンには食堂が隣接している。そこもキッチンと同様、火の材料だらけだ――。
(……こいつらが、トミーの家を探っていたのは……)
トミーは「空の連盟が家周りをうろつくようになった」とぼやいていた。
話を聞いた時点ではその行動の目的が分からなかったが、今回のことで理解できてしまった。
キッチンの位置を把握するためだ。
食事時になれば、そこから包丁の音が聞こえる。料理の匂いもしてくるだろう。
……しかも……。
『料理が好きなのか?』
『うん、好きだねー。楽しいし』
トミーは料理をするのが好きだ。
朝昼夜の食事以外にも色々と作っていると言っていた。つまり彼は、キッチンにいる確率が高い。
彼の家周りをうろついていれば、その生活パターンも把握しているはず。
そのうえで、キッチンに火を……。
「なぜそうまでして、トミーの命を……」
「黙れ、悪魔崇拝者め!! 貴様に〝命〟について語る資格はない!!」
「!?」
わけの分からない罵倒に息を呑む。
――「悪魔崇拝者」?
一体何を言っているんだ、こいつは……。
「騙されるな、同志よ! こいつは屍霊術師――悪魔の使いだ!! あのトミーという男を思いやっているようなそぶりを見せているが、心の底では『〝泥遊び〟の良質の素材が手に入った』とほくそ笑んで、……がっ!?」
言葉の途中で「ヒュッ」と空気を切り裂くような音がして、男の喉に白く光る線状の〝何か〟が突き刺さった。
戦闘中に飛び交っていた矢とは違う、魔力でできた「光の矢」だ。
男の喉や口から血が出ていないことから、殺傷力はなさそうだ。
男は口をパクパクさせてもがいている。この矢のせいで声を出せないのだろうか?
「……オイ、もういいぜぇ。降りてきな」
キムが人差し指で帽子の鍔を上げ、少し先にある木の上を見つつ声をかける。
それを受け、弓を持った緑の髪の男が木の上から飛び降りてきた。
(あいつは、オルコット……)
弓の射手は、先ほどキムの店で会った「ジャン・オルコット」だった。
オルコットは着地したあと、手に持っていた弓を肩に掛け、結んだ長髪を一撫でしてからこちらに歩み寄ってきた。
その様子を見てキムが小さく口笛を吹いた。
「さすがの腕前だなぁ。……オイ、この矢は何だ?」
「〝沈黙の矢〟。……相手を喋れなくする超必殺技」
「死んでねェのに〝超必殺 〟か」
「……子供と共同開発した技ですから」
オルコットがニッと笑いながら言うと、キムは口の右端を吊り上げ「そりゃ参ったな」と肩をすくめて笑った。
しかしすぐに真顔になり、空の連盟の者を見下ろしながら、
「……で? 〝悪魔崇拝〟がなんだって?」
と問うた。
が、問われた男は〝沈黙の矢〟のせいで喋れない。
その代わりに彼の隣にいた男が僕を睨みながら口を開いた。
「魂を盗んで泥に宿す――神をも恐れぬ背徳行為だ。これを〝悪魔崇拝〟と言わず、なんと言う!」
「……それは俺も否定はしねえ。命を作ってイイのは神サマだけだ。……けど、この世界では禁じられてねェんだぜ」
「禁じられていなくとも、手を出してはならない領域があると分かるだろう! 道徳を備えた人間ならば!!」
「……〝道徳〟。道徳、ねえ……」
ため息まじりにキムが後ろを向いた。
視線の先にあるのは、無残に焼け落ちたトミーの家――今も消防隊員達が、残り火がないかどうかを確認するために見回っている。
「小僧ども。俺らはなあ、いつだっておめえらを簡単にぶちのめすことができたんだぜ。そうしなかったのはなんでだと思う? トミーのヤツが、『そこまでしなくてもいい』『乱暴はやめてくれ』って言ったからだ――」
そう言ってキムが、先ほど吠えた男のアゴをつま先でクイッと上げ、すぐにその足を一度引いて男の顔面に蹴りを入れた。
「おめえらは、おめえらが殺そうとしたヤツの〝道徳〟に守られてたんだよ!!」
キムの行動を皮切りに、自警団の男達が捕らえた空の連盟の人間に暴行を加え始めた。
殴られ、蹴られるたび、空の連盟の男達がうめき、叫ぶ。
連中は無抵抗のトミーの家を焼き払い、間接的にだが彼を死の寸前にまで追いやった。
だがまだ彼は死んでいない。今の行為は正直、行き過ぎに思える。
頭をよぎるのは、先日のトミーとの会話――あの連中は、勧誘を断ったトミーに「逆らわないように頭をいじられている」などと言ってきたという。
もしかすると、断った者全員に同じようなことを言っていたのかもしれない。
みな、腹に据えかねる思いだったのだろう。
それが今回のことで爆発した――。
「っ……」
――止めるべきだろうか?
だが僕が止めに入ったところで、奴らは先ほどのように吠え立ててくるだけではないだろうか。
「悪の屍霊術師」「悪魔崇拝者」「お前に命を語る資格はない」などと言って……。
ふと、アンソニーはどうしているのかと彼を見やる。
消防馬車やキム達が現れる直前は怒りと殺意に満ちていたが、暴行には加わっていない。
腕組みをして、ことの成り行きを見届けているようだ。
怒れる群衆を見て逆に冷静になったのだろうか……?
「…………」
少し考えたが、どうしても連中を助ける気が起こらない。
彼らはトミーを苦しめ、殺そうとした。
許すことはできない。
暴行に加わりはしないが、連中を助けることもしない。その理由がない。
僕は、トミーのような〝優しい善人〟じゃない――。
今この場において、僕が果たす役割はない。
騒ぎに背を向け、僕はトミーとビクトルのもとに駆け出した。
「……ビクトル。トミーは……?」
「魔力のほとんどを明け渡したので、危険水域からは脱しました。ただ……」
横たわるトミーを見ると、肌の色はすっかり元通りになっていた。
だが、青緑に変化していた部分が全くといっていいほど戻っていない。
「これは……どうして」
「この部分は、元の世界での彼の死因なのかもしれませんね。戻すには、泥の継ぎ足しが必要だ……」
そう言うとビクトルは頭を押さえて目を閉じ、がっくりとうなだれる。
明らかに顔色が悪い……。
「ビクトル、……魔力が……」
「大丈夫……少し、疲れただけです。一度、ザビーネ様の元へ戻りましょう。転移魔法1回分ならまだ使えます」
「分かった。アンソニーを呼んでくる――」
「やめろぉっ! 目を覚ませ、話を聞けぇっ……」
「!!」
空の連盟の連中がまた叫んでいる。
「有無を言わさず」というわけではないらしく、自警団員達は一度暴行をやめた。
それを好機とみたのか、空の連盟の一員が僕を指さしながら口を開き、息を大きく吸い込んだ。
「お前ら、そこのガキを知っているのか!? そいつの名は〝ロラン・ミストラル〟! 悪の権化、屍霊術師ゴーチエ・ミストラルの弟子だ!!」
男の叫びに、その場の空気が一変した。
視線が一斉に僕に集まったかと思うと、みながひそひそ話を始めた。
「ゴーチエって?」「屍霊術師の始祖ってやつだろ」「でも死んだって聞いたぞ」など――ゴーチエの話をしているのに、全ての言葉が僕に突き刺さっているように思える。
針のむしろとは、こういうことを言うのだろう。
今の自分の言葉に手応えがあったと思ったらしい男が歯を剥き出しにして笑い、再度口を開いた。
「ゴーチエ・ミストラルは死んだが、完全に滅してはいない! そいつがゴーチエの再臨を狙って活動しているからだ!!」
「な、何を……」
「今もゴーチエの魂が収まるための器を作り続けているんだろう、悪魔の申し子め!」
「…………」
「同志よ、騙されるな!! 刃を向けるなら、討つならばそいつだ!」
僕がゴーチエの再臨を狙い、器を作り続けている……彼らの言っていることは無茶苦茶で、何ひとつ筋道が通っていない。
〝屍霊術〟とは、彷徨う魂を泥に宿して、人間として再形成するだけの術。
今彼らが言ったようなことを実現する力など僕にはない。
ゴーチエなら可能だったかもしれないが、今この場にそれを理解してくれる人間がどれほどいるのか……。
――逃げたい。
でもそうすれば、彼の言葉を真実と証明してしまうことになる。
(……トモミチ……)
思わず、心の中で彼の名を唱える。
トモミチ、僕はどうしたらいい?
僕はただ、仲良くなった人を助けたかっただけなんだ……。
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