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6章 最後の1枚
16話 嘘
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「つーか、めちゃ今さらやねんけど。オレ、バリバリ大阪弁で喋ってもうてるよなー。ロラン君、オレの言うてること分かる?」
「…………」
――本当に今さらすぎる。
あのあともカズヒデは、〝ツレ〟の話や家族の話、料理の話などを延々と語り続けていた。
前にトモミチが「自分はそんなに〝シャベリ〟ではない。カズはもっと喋る」と言っていたが、カズヒデは本当によく喋る。
体感だが、トモミチの3倍くらい喋る。そのうえ早口で情報量が多い。
トモミチが自分を指して「実は寡黙」と言っていた。
「どこがだ」と思ったが、カズヒデと比べると確かに〝寡黙〟の部類に入るかもしれない。カズヒデと比べれば、の話だが……。
「……大丈夫だ。一応、分かる」
「ホンマに? やるなあ」
「でもあの……できればもう少し、ゆっくり」
「おっ、……ゴメンな。1回訛り出てもうたら、『ドバーッ』なってもうて~」
そう言ってカズヒデは頭の後ろをポリポリと掻いた。
心なしか、さっきよりも喋り方がゆっくりだ。……それでもまだトモミチより早口だが……。
「……にしても、理解度すごない? 関西人と関わったことあるとか?」
「うん……まあ」
「あっ! もしかして、今生き返らしてるのが?」
「……うん」
僕の返事を聞いて、カズヒデはパッと顔を明るくした。出会ってから今までで一番、明るい表情に思える。
その彼の反応にギクリとしている自分がいる。
今の話を聞いた彼が次に繰り出す言葉は、当然――。
「えーっ、マジかあ。会ってみたいなあ!」
「………………」
――何をどうするべきか、何が正しいのか、僕にだって分かる。
カズヒデは明るく振る舞っているが、孤独を抱えている。酷い目にだって遭っている。なんでもいいから、誰かと話をしたい。
トモミチはカズヒデの死をきっかけに精神の均衡を崩した。
2人を会わせれば、何もかも……とまではいかないが、事態は良い方向に動いていくに違いない――……。
「……すまない。彼は今、とても不安定で」
気付けば、口が勝手に動いていた。
「そっかあ……」
カズヒデが残念そうに眉を下げる。
(………………)
――罪悪感が胸を刺す。
でも、どうしても嫌だった。
2人が再会したら、僕は要らない存在になってしまう。
僕は「2人にとって必要なこと」より、「自分が必要であること」を選び取った。
2つの事象を天秤に載せることすらせず……。
「ほんならさあ、その人が安定してきたなーって思ったら、紹介してくれる? 電話番号渡してくれてもいいし」
「…………分かった」
僕の返事を聞いて、カズヒデはまた歯を見せて笑った。
――頭がグラグラする。
自分が何をやっているのか分からない。
僕はトモミチが好きだ。
カズヒデのことだって好きだ。
この好意は、トモミチに対するものとは違う。
カズヒデと話していると肩の力が抜ける。楽しいし、安心できる。
――友達として、彼のことが好きだ。
なのに、僕は彼に嘘をついた。
トモミチとカズヒデが大切な友人同士であると気付いていながら、会わせない選択をした。
『オヤジかカズくらいかなあ、オレのこと"トモミチ"って呼ぶの』――
カズヒデの口から〝親友〟の名が出なくて良かったと心の底から思っている自分がいる。
トモミチもカズヒデも、お互いが生きてここにいることを知らない。
知っているのは、気付いているのは、僕ひとりだけ。
事実を伏せても無駄だ。近いうちに僕の嘘は必ず露呈する。
そうなればトモミチもカズヒデも、嘘をついた僕に呆れ、怒り、嫌うだろう。
それが分かっているのに、僕は――……。
数日前の僕なら、確実に2人を会わせていたはず。
それが最も合理的だ。物事が綺麗に動く。
トモミチはカズと再会する。2人の心は安定する。
完成体になったトモミチはカズに譲る。
僕は彼らと別れて庵に戻り、「ようやく完成した」「やっとうるさいのがいなくなった」と、次のホロウの組成の準備に入る。
ずっと繰り返されてきた日常に戻るんだ。
でももう、それはできない。
トモミチとの関わりで、〝心〟を――人の温かみを知った。
それは人として生きていく上で必要不可欠なもの。
だがその代償か、僕の頭からは合理性と判断力が失われた。
この選択が良い結果をもたらすはずがないと分かっているのに、そうせずにはいられなかった。
〝心〟は僕をどうしようもなく弱く、愚かにさせる。
――だって、約束したんだ。
「2人で沈んで、ずっと溺れている」って。
トモミチは「自分を置き去りにしないでくれ」と言った。
僕だって置き去りは嫌だ。1人になりたくない。
勝手に浮き上がっていくなんて、許せない……。
「…………」
――本当に今さらすぎる。
あのあともカズヒデは、〝ツレ〟の話や家族の話、料理の話などを延々と語り続けていた。
前にトモミチが「自分はそんなに〝シャベリ〟ではない。カズはもっと喋る」と言っていたが、カズヒデは本当によく喋る。
体感だが、トモミチの3倍くらい喋る。そのうえ早口で情報量が多い。
トモミチが自分を指して「実は寡黙」と言っていた。
「どこがだ」と思ったが、カズヒデと比べると確かに〝寡黙〟の部類に入るかもしれない。カズヒデと比べれば、の話だが……。
「……大丈夫だ。一応、分かる」
「ホンマに? やるなあ」
「でもあの……できればもう少し、ゆっくり」
「おっ、……ゴメンな。1回訛り出てもうたら、『ドバーッ』なってもうて~」
そう言ってカズヒデは頭の後ろをポリポリと掻いた。
心なしか、さっきよりも喋り方がゆっくりだ。……それでもまだトモミチより早口だが……。
「……にしても、理解度すごない? 関西人と関わったことあるとか?」
「うん……まあ」
「あっ! もしかして、今生き返らしてるのが?」
「……うん」
僕の返事を聞いて、カズヒデはパッと顔を明るくした。出会ってから今までで一番、明るい表情に思える。
その彼の反応にギクリとしている自分がいる。
今の話を聞いた彼が次に繰り出す言葉は、当然――。
「えーっ、マジかあ。会ってみたいなあ!」
「………………」
――何をどうするべきか、何が正しいのか、僕にだって分かる。
カズヒデは明るく振る舞っているが、孤独を抱えている。酷い目にだって遭っている。なんでもいいから、誰かと話をしたい。
トモミチはカズヒデの死をきっかけに精神の均衡を崩した。
2人を会わせれば、何もかも……とまではいかないが、事態は良い方向に動いていくに違いない――……。
「……すまない。彼は今、とても不安定で」
気付けば、口が勝手に動いていた。
「そっかあ……」
カズヒデが残念そうに眉を下げる。
(………………)
――罪悪感が胸を刺す。
でも、どうしても嫌だった。
2人が再会したら、僕は要らない存在になってしまう。
僕は「2人にとって必要なこと」より、「自分が必要であること」を選び取った。
2つの事象を天秤に載せることすらせず……。
「ほんならさあ、その人が安定してきたなーって思ったら、紹介してくれる? 電話番号渡してくれてもいいし」
「…………分かった」
僕の返事を聞いて、カズヒデはまた歯を見せて笑った。
――頭がグラグラする。
自分が何をやっているのか分からない。
僕はトモミチが好きだ。
カズヒデのことだって好きだ。
この好意は、トモミチに対するものとは違う。
カズヒデと話していると肩の力が抜ける。楽しいし、安心できる。
――友達として、彼のことが好きだ。
なのに、僕は彼に嘘をついた。
トモミチとカズヒデが大切な友人同士であると気付いていながら、会わせない選択をした。
『オヤジかカズくらいかなあ、オレのこと"トモミチ"って呼ぶの』――
カズヒデの口から〝親友〟の名が出なくて良かったと心の底から思っている自分がいる。
トモミチもカズヒデも、お互いが生きてここにいることを知らない。
知っているのは、気付いているのは、僕ひとりだけ。
事実を伏せても無駄だ。近いうちに僕の嘘は必ず露呈する。
そうなればトモミチもカズヒデも、嘘をついた僕に呆れ、怒り、嫌うだろう。
それが分かっているのに、僕は――……。
数日前の僕なら、確実に2人を会わせていたはず。
それが最も合理的だ。物事が綺麗に動く。
トモミチはカズと再会する。2人の心は安定する。
完成体になったトモミチはカズに譲る。
僕は彼らと別れて庵に戻り、「ようやく完成した」「やっとうるさいのがいなくなった」と、次のホロウの組成の準備に入る。
ずっと繰り返されてきた日常に戻るんだ。
でももう、それはできない。
トモミチとの関わりで、〝心〟を――人の温かみを知った。
それは人として生きていく上で必要不可欠なもの。
だがその代償か、僕の頭からは合理性と判断力が失われた。
この選択が良い結果をもたらすはずがないと分かっているのに、そうせずにはいられなかった。
〝心〟は僕をどうしようもなく弱く、愚かにさせる。
――だって、約束したんだ。
「2人で沈んで、ずっと溺れている」って。
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勝手に浮き上がっていくなんて、許せない……。
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