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3章 変調
9話 倫理:アンバランス(後)
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「……ええっと、……ロラン先生て、レミ君から見てどんな人?」
恐ろしい真実に分け入りたくなくて、強引に話題を変える。
どうせロランのことについて聞くつもりではあったのでちょうどいい。
今後の彼への接し方を考えるため、「自分以外から見たロランの人物像」を知る必要があると思ったからだ。
「ロラン先生~? うん、いい人だよ~。よく怒るし怖いけど、1回も叩かれたことないもん!」
「そ……そっか」
――"いい人"の基準がおかしい。
アハハと笑って重いことを話すレミに頭痛を覚える。
(アカン……違う話題を……)
「そ……そうそう、ロラン先生の髪の色って変わってるよなあ。白と水色て、オレの国ではあんまり見かけん」
「うんうん、すっごいキレイだよね! 純血種の人ってやっぱり違うなあって思う!」
「…………」
重い話を軽めの世間話に切り替えたいがために新たな話を振ったのだが、すぐに後悔する羽目になってしまった。
"純血種"という、不穏な単語――なんとなく言葉の意味は察せられるから聞く必要はない。……聞けば後悔する……。
「ゴメン、純血種って……何かな」
――後悔すると分かっているのに、どうしても聞かずにはいられない。
今自分がどういう表情をしているか分からないので、手を庇のようにして額に当て、顔を隠しながら質問をした。
「あのねー、初日にアンソニーさんがニライ・カナイの話したんだけど、覚えてる?」
「ああ……病気で人口減って、お年寄りばっかり生き残って子孫が増えんから、異世界の人で賄おうとした……ってヤツやんな」
「そうそう。純血種っていうのは、ニライ・カナイに元から住んでた、生き残りの人達のことだよ。先生はきっとその子孫だと思う。……髪が2色だし、もしかして"特等純血種"かも?」
「へえ――」
「いいなあロラン先生。魔法も得意だし、きっと高値で買われたんだろうなあ」
「ん、そっか。……ありがとうレミ君! 参考になったわ」
――聞きたくない話題しか出てこなさそうなので、礼を言って無理矢理話の流れを打ち切る。
レミは一瞬キョトン顔になったが、「どういたしまして~」と言ってまたニッコリ笑った。
なぜそんなに朗らかに笑えるのか――この世界の道徳観念は一体、どうなっているのだろう?
「オレそろそろ、部屋に戻るわ」
「そっかあ。じゃーまた、夕飯の時にね! お水なくなったら、勝手に注いでいっていいから!」
「ん……ありがとう」
立ち上がってから精一杯笑顔を作って礼を言い、トモミチは厨房をあとにした。
◇
「……疲れた……」
自室に戻るやいなや、トモミチはベッドに倒れ込んだ。
――頭が重い。レミから聞いた話は1つとして飲み込めない。
1人で引きこもっているのが嫌だから……とレミに話しかけたことを心底後悔している。
推測とはいえロランに関する情報が少し入手できたのはよかったが、その情報を咀嚼するのに時間がかかる。
あまりにもトモミチの「常識」からかけ離れているからだ。
おそらくロランは、トモミチから見て「狂っている」としか思えない道徳と常識の中で育っている。
『高値で買われたんだろうな』というレミの言葉から察するに、ロランもレミと同じく市場で売られており、それをゴーチエという男が高値で買い取った。
そのゴーチエはロランを褒めないばかりか、まともな人間としてすら扱っていない。
だからこそロランは"好意"という感情を"理解不能なエラー"としか捉えられず、エラーを起こす要因であるトモミチに憤慨しているのだろう。
――気が重い。
これから5日間、自分の心に何が起きているか理解できていない人間に何も説明せず、また気持ちに応えることもしないで、ただただ事務的作業として唇を合わせなければいけない……。
「ハァ……死んだ方がええなあ……」
数秒無言で天井を見つめたあとトモミチは瞠目して、ガバッと勢いよく身を起こした。
「……なに、今の……?」
――今自分の口から漏れ出た言葉は何だろう。
『死んだ方がいい』? ……そんなのは自分の言葉ではない。
この世界のことを知って嫌悪感を抱いた。魔力供給を終えたあとの自分の身の処し方が分からず不安しかない。ロランへの接し方も結局決まっていない。
だからといって「自分は死んだ方がいい」という発想に繋がるのは妙だ。考えが飛躍しすぎている。
やはり自分はおかしい。
心の中に知らない記憶がある。知らない自分がいる――。
「……っ」
頭を振って両頬を叩き、頭の中に浸食しかかっている恐怖を振り払い立ち上がる。
――さっきのレミの話は忘れよう、他のことを考えて気持ちを落ち着けよう。
(せや、免許証見ようと思ってたんや)
トモミチはテーブルの上に置きっぱなしにしていた財布を再び手に取り、中に入っている免許証を取りだした……。
恐ろしい真実に分け入りたくなくて、強引に話題を変える。
どうせロランのことについて聞くつもりではあったのでちょうどいい。
今後の彼への接し方を考えるため、「自分以外から見たロランの人物像」を知る必要があると思ったからだ。
「ロラン先生~? うん、いい人だよ~。よく怒るし怖いけど、1回も叩かれたことないもん!」
「そ……そっか」
――"いい人"の基準がおかしい。
アハハと笑って重いことを話すレミに頭痛を覚える。
(アカン……違う話題を……)
「そ……そうそう、ロラン先生の髪の色って変わってるよなあ。白と水色て、オレの国ではあんまり見かけん」
「うんうん、すっごいキレイだよね! 純血種の人ってやっぱり違うなあって思う!」
「…………」
重い話を軽めの世間話に切り替えたいがために新たな話を振ったのだが、すぐに後悔する羽目になってしまった。
"純血種"という、不穏な単語――なんとなく言葉の意味は察せられるから聞く必要はない。……聞けば後悔する……。
「ゴメン、純血種って……何かな」
――後悔すると分かっているのに、どうしても聞かずにはいられない。
今自分がどういう表情をしているか分からないので、手を庇のようにして額に当て、顔を隠しながら質問をした。
「あのねー、初日にアンソニーさんがニライ・カナイの話したんだけど、覚えてる?」
「ああ……病気で人口減って、お年寄りばっかり生き残って子孫が増えんから、異世界の人で賄おうとした……ってヤツやんな」
「そうそう。純血種っていうのは、ニライ・カナイに元から住んでた、生き残りの人達のことだよ。先生はきっとその子孫だと思う。……髪が2色だし、もしかして"特等純血種"かも?」
「へえ――」
「いいなあロラン先生。魔法も得意だし、きっと高値で買われたんだろうなあ」
「ん、そっか。……ありがとうレミ君! 参考になったわ」
――聞きたくない話題しか出てこなさそうなので、礼を言って無理矢理話の流れを打ち切る。
レミは一瞬キョトン顔になったが、「どういたしまして~」と言ってまたニッコリ笑った。
なぜそんなに朗らかに笑えるのか――この世界の道徳観念は一体、どうなっているのだろう?
「オレそろそろ、部屋に戻るわ」
「そっかあ。じゃーまた、夕飯の時にね! お水なくなったら、勝手に注いでいっていいから!」
「ん……ありがとう」
立ち上がってから精一杯笑顔を作って礼を言い、トモミチは厨房をあとにした。
◇
「……疲れた……」
自室に戻るやいなや、トモミチはベッドに倒れ込んだ。
――頭が重い。レミから聞いた話は1つとして飲み込めない。
1人で引きこもっているのが嫌だから……とレミに話しかけたことを心底後悔している。
推測とはいえロランに関する情報が少し入手できたのはよかったが、その情報を咀嚼するのに時間がかかる。
あまりにもトモミチの「常識」からかけ離れているからだ。
おそらくロランは、トモミチから見て「狂っている」としか思えない道徳と常識の中で育っている。
『高値で買われたんだろうな』というレミの言葉から察するに、ロランもレミと同じく市場で売られており、それをゴーチエという男が高値で買い取った。
そのゴーチエはロランを褒めないばかりか、まともな人間としてすら扱っていない。
だからこそロランは"好意"という感情を"理解不能なエラー"としか捉えられず、エラーを起こす要因であるトモミチに憤慨しているのだろう。
――気が重い。
これから5日間、自分の心に何が起きているか理解できていない人間に何も説明せず、また気持ちに応えることもしないで、ただただ事務的作業として唇を合わせなければいけない……。
「ハァ……死んだ方がええなあ……」
数秒無言で天井を見つめたあとトモミチは瞠目して、ガバッと勢いよく身を起こした。
「……なに、今の……?」
――今自分の口から漏れ出た言葉は何だろう。
『死んだ方がいい』? ……そんなのは自分の言葉ではない。
この世界のことを知って嫌悪感を抱いた。魔力供給を終えたあとの自分の身の処し方が分からず不安しかない。ロランへの接し方も結局決まっていない。
だからといって「自分は死んだ方がいい」という発想に繋がるのは妙だ。考えが飛躍しすぎている。
やはり自分はおかしい。
心の中に知らない記憶がある。知らない自分がいる――。
「……っ」
頭を振って両頬を叩き、頭の中に浸食しかかっている恐怖を振り払い立ち上がる。
――さっきのレミの話は忘れよう、他のことを考えて気持ちを落ち着けよう。
(せや、免許証見ようと思ってたんや)
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