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3章 変調
12話 あやしい店から出られない件について(前)
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「はい、お待たせ~。他に欲しい物ある~?」
買った物を詰めた袋をこちらによこしたあと、店員が再び問うてきた。
もう用事はないから早く立ち去りたいが、これから先話が聞けそうな友好的な態度の人間がどれくらいいるか分からない。
できるなら残りの物――色見本に似た色の食材の情報は聞いておきたい。
そう思い、懐からトモミチに渡された色見本を取り出して男に見せた。
「……この色の食べ物を探している」
「えー、このカード――」
「僕のところにいる、ホ、……僕のところにいる奴が、『食べ物の色が嫌で食べられない』と言っている。それでこれを僕に渡して、『この色のなら食べられるかもしれない』って……取り扱っている店を、知らないだろうか!?」
「な、なるほど。えっとね……」
「急いでいるから長居は出来ない。ここから帰るのに3時間はかかる……夕食の時間までには帰りたい。あ、あいつが……腹を空かせて僕の帰りを待っているから!」
相手に口を挟ませないよう言いたいことを一気に言ったのはいいが、すぐに自分の言動の支離滅裂さに気づき羞恥心に襲われる。
ここに長居をしたくないのは事実だ。しかし夕食の時間はそこまで厳密に決めているわけではないから、別に急いではいない。
それにトモミチは腹を空かせていない。僕の帰りを待っているということもない。
勢いづけて言うためとはいえ、普段出さないような大声を出して何を口走ってしまったのか……。
店員の男は僕の勢いに瞠目していたが、すぐに「プッ」と吹きだして破顔した。
「ハハッ……面白いねーお兄さん。えっとねー、そういう食材売ってるとこ知ってるっちゃ知ってるけど……ウチにもあるから見てみる?」
「え?」
「まあ~、食べ物まであるの? なんでも売ってるのねえ」
アンソニーが会話に混じってきた――そういえばこいつも一緒にいたんだった。服屋の時と違ってずっと沈黙していたから、存在が頭から抜け落ちてしまっていた。
先ほどの僕の立ち居振る舞いを見られた。あとでまたからかわれるかもしれない……。
「いやまあ、売ってるっていうか、オレ個人が持ってるヤツなんだけど。急いでるっていうんなら譲ってあげてもいいよ。その代わり、1個だけ条件があるんだけど……」
「条件?」
「うん。……ま、モノ見てから話しようか」
こちらの返事を待たずに男がカウンターの後ろにある扉を開け、中に引っ込んでいく。
……待っていなければいけないだろうか……。
「こんにちはーっ!」
「!」
店員が引っ込んだのとほぼ同時に、後ろから誰かの声が聞こえてきた。振り返ると、そこには男と少年が立っていた。
「トミーのおじさーん! どこー」
少年が大声で叫びながら、店内に駆け足で入ってくる。
「トミー」というのは、あの店員のことだろうか。
少年のあとをついて、男も店内に入ってきた。男が「声が大きすぎるよ」と少年を諫めると、少年は「だって~!」と言って身体を左右に揺らす。
同じ髪色、会話の気軽さから見て、おそらく2人は親子だろう。
「あー、オルコットさん! こんちは~」
店員の男――トミーが食べ物の入ったカゴを抱えて戻ってきた。
トミーはカゴをカウンター横のチェストに置いたあと「ごめん、ちょっと待っててもらえる?」とこちらに手のひらを向けながら言い、すぐに「オルコット」という男に向き直り話を始めた。
聞き耳を立てる気はないが、店内が狭いので会話が自然に耳に入ってくる。
オルコットは子供の筆記用具を買いに来たようだ。それを聞いたトミーが「子供が使いやすい鉛筆」とやらを探してきてオルコットとその子に渡してやると、子供はニコニコ顔で「すごい! さすがトミーのおじさんだ!」と叫ぶように礼を言った。
トミーは「おじさん」という呼称に苦笑いをしながら子供の頭を撫で、オルコットは「すみません」と平謝りしつつ会計をする。
商品を手にした2人はトミーに改めて礼を言って去って行った。
滞在時間は5分にも満たなかったが、終始和やかな雰囲気だった。
……が。
「……さ! 商売の話しよっか!」
2人を見送ったあとトミーがこちらを振り向き、満面の笑みで「パン」と手を打つ。先ほどまであの親子に接していた時の笑顔と明らかに違う。
――しまった……やはり彼が引っ込んでいる間に逃亡しておくべきだったか……。
トミーがチェストに置いてあったカゴの中から野菜や肉を取り出し、順番にカウンターに置いていく。
いずれもトモミチに渡された色見本の色と同じ色合いだ。
「これねえ、今日の晩飯にしようと思って買ってたヤツなんだ~。お兄さん達、これ使ったレシピとか分かる?」
「いや……」
「だよね~。この食材とレシピをあげるからさあ、オレが作った調味料のモニターになって欲しいんだよね~」
「調味料のモニター……?」
「そー。これなんだけどねー」
言いながらトミーが、身に着けているエプロンのポケットから赤や緑や黄色の液体が入ったビンを取り出し食材の横に並べ置く。
一見、絵の具のようだが……しかし先ほどトミーは〝調味料〟だと言った。一体これは何なのか……。
「ちょっと……なんなの、これ? 調味料にしてはちょっと色がキツすぎない? 素材は何なのよ」
さすがに怪しいと思ったのか、アンソニーが怪訝な顔で口を挟んできた。
この体躯の男がこの表情で絡んでくると、それだけで威圧感がある。だがトミーはそれに怯むことなく笑顔で話を続ける。
「ただの白い粉を魔法で染めただけのモンだよ」
「白い粉、ですって……?」
「だいじょ――ぶ、麻薬とかじゃないよ。……でも、作り方と素材は教えられない!」
「「…………」」
――怪しい。
怪しさしかない……。
買った物を詰めた袋をこちらによこしたあと、店員が再び問うてきた。
もう用事はないから早く立ち去りたいが、これから先話が聞けそうな友好的な態度の人間がどれくらいいるか分からない。
できるなら残りの物――色見本に似た色の食材の情報は聞いておきたい。
そう思い、懐からトモミチに渡された色見本を取り出して男に見せた。
「……この色の食べ物を探している」
「えー、このカード――」
「僕のところにいる、ホ、……僕のところにいる奴が、『食べ物の色が嫌で食べられない』と言っている。それでこれを僕に渡して、『この色のなら食べられるかもしれない』って……取り扱っている店を、知らないだろうか!?」
「な、なるほど。えっとね……」
「急いでいるから長居は出来ない。ここから帰るのに3時間はかかる……夕食の時間までには帰りたい。あ、あいつが……腹を空かせて僕の帰りを待っているから!」
相手に口を挟ませないよう言いたいことを一気に言ったのはいいが、すぐに自分の言動の支離滅裂さに気づき羞恥心に襲われる。
ここに長居をしたくないのは事実だ。しかし夕食の時間はそこまで厳密に決めているわけではないから、別に急いではいない。
それにトモミチは腹を空かせていない。僕の帰りを待っているということもない。
勢いづけて言うためとはいえ、普段出さないような大声を出して何を口走ってしまったのか……。
店員の男は僕の勢いに瞠目していたが、すぐに「プッ」と吹きだして破顔した。
「ハハッ……面白いねーお兄さん。えっとねー、そういう食材売ってるとこ知ってるっちゃ知ってるけど……ウチにもあるから見てみる?」
「え?」
「まあ~、食べ物まであるの? なんでも売ってるのねえ」
アンソニーが会話に混じってきた――そういえばこいつも一緒にいたんだった。服屋の時と違ってずっと沈黙していたから、存在が頭から抜け落ちてしまっていた。
先ほどの僕の立ち居振る舞いを見られた。あとでまたからかわれるかもしれない……。
「いやまあ、売ってるっていうか、オレ個人が持ってるヤツなんだけど。急いでるっていうんなら譲ってあげてもいいよ。その代わり、1個だけ条件があるんだけど……」
「条件?」
「うん。……ま、モノ見てから話しようか」
こちらの返事を待たずに男がカウンターの後ろにある扉を開け、中に引っ込んでいく。
……待っていなければいけないだろうか……。
「こんにちはーっ!」
「!」
店員が引っ込んだのとほぼ同時に、後ろから誰かの声が聞こえてきた。振り返ると、そこには男と少年が立っていた。
「トミーのおじさーん! どこー」
少年が大声で叫びながら、店内に駆け足で入ってくる。
「トミー」というのは、あの店員のことだろうか。
少年のあとをついて、男も店内に入ってきた。男が「声が大きすぎるよ」と少年を諫めると、少年は「だって~!」と言って身体を左右に揺らす。
同じ髪色、会話の気軽さから見て、おそらく2人は親子だろう。
「あー、オルコットさん! こんちは~」
店員の男――トミーが食べ物の入ったカゴを抱えて戻ってきた。
トミーはカゴをカウンター横のチェストに置いたあと「ごめん、ちょっと待っててもらえる?」とこちらに手のひらを向けながら言い、すぐに「オルコット」という男に向き直り話を始めた。
聞き耳を立てる気はないが、店内が狭いので会話が自然に耳に入ってくる。
オルコットは子供の筆記用具を買いに来たようだ。それを聞いたトミーが「子供が使いやすい鉛筆」とやらを探してきてオルコットとその子に渡してやると、子供はニコニコ顔で「すごい! さすがトミーのおじさんだ!」と叫ぶように礼を言った。
トミーは「おじさん」という呼称に苦笑いをしながら子供の頭を撫で、オルコットは「すみません」と平謝りしつつ会計をする。
商品を手にした2人はトミーに改めて礼を言って去って行った。
滞在時間は5分にも満たなかったが、終始和やかな雰囲気だった。
……が。
「……さ! 商売の話しよっか!」
2人を見送ったあとトミーがこちらを振り向き、満面の笑みで「パン」と手を打つ。先ほどまであの親子に接していた時の笑顔と明らかに違う。
――しまった……やはり彼が引っ込んでいる間に逃亡しておくべきだったか……。
トミーがチェストに置いてあったカゴの中から野菜や肉を取り出し、順番にカウンターに置いていく。
いずれもトモミチに渡された色見本の色と同じ色合いだ。
「これねえ、今日の晩飯にしようと思って買ってたヤツなんだ~。お兄さん達、これ使ったレシピとか分かる?」
「いや……」
「だよね~。この食材とレシピをあげるからさあ、オレが作った調味料のモニターになって欲しいんだよね~」
「調味料のモニター……?」
「そー。これなんだけどねー」
言いながらトミーが、身に着けているエプロンのポケットから赤や緑や黄色の液体が入ったビンを取り出し食材の横に並べ置く。
一見、絵の具のようだが……しかし先ほどトミーは〝調味料〟だと言った。一体これは何なのか……。
「ちょっと……なんなの、これ? 調味料にしてはちょっと色がキツすぎない? 素材は何なのよ」
さすがに怪しいと思ったのか、アンソニーが怪訝な顔で口を挟んできた。
この体躯の男がこの表情で絡んでくると、それだけで威圧感がある。だがトミーはそれに怯むことなく笑顔で話を続ける。
「ただの白い粉を魔法で染めただけのモンだよ」
「白い粉、ですって……?」
「だいじょ――ぶ、麻薬とかじゃないよ。……でも、作り方と素材は教えられない!」
「「…………」」
――怪しい。
怪しさしかない……。
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