愛を知らない空っぽ屍霊術師は、泥の人形に泡沫の恋をする

天草こなつ

文字の大きさ
37 / 118
3章 変調

12話 あやしい店から出られない件について(前)

しおりを挟む
「はい、お待たせ~。他に欲しい物ある~?」
 
 買った物を詰めた袋をこちらによこしたあと、店員が再び問うてきた。
 もう用事はないから早く立ち去りたいが、これから先話が聞けそうな友好的な態度の人間がどれくらいいるか分からない。
 できるなら残りの物――色見本に似た色の食材の情報は聞いておきたい。
 そう思い、懐からトモミチに渡された色見本を取り出して男に見せた。
 
「……この色の食べ物を探している」
「えー、このカード――」
「僕のところにいる、ホ、……僕のところにいる奴が、『食べ物の色が嫌で食べられない』と言っている。それでこれを僕に渡して、『この色のなら食べられるかもしれない』って……取り扱っている店を、知らないだろうか!?」
「な、なるほど。えっとね……」
「急いでいるから長居は出来ない。ここから帰るのに3時間はかかる……夕食の時間までには帰りたい。あ、あいつが……腹を空かせて僕の帰りを待っているから!」
 
 相手に口を挟ませないよう言いたいことを一気に言ったのはいいが、すぐに自分の言動の支離滅裂さに気づき羞恥心に襲われる。
 ここに長居をしたくないのは事実だ。しかし夕食の時間はそこまで厳密に決めているわけではないから、別に急いではいない。
 それにトモミチは腹を空かせていない。僕の帰りを待っているということもない。
 勢いづけて言うためとはいえ、普段出さないような大声を出して何を口走ってしまったのか……。
 店員の男は僕の勢いに瞠目していたが、すぐに「プッ」と吹きだして破顔した。
 
「ハハッ……面白いねーお兄さん。えっとねー、そういう食材売ってるとこ知ってるっちゃ知ってるけど……ウチにもあるから見てみる?」
「え?」
「まあ~、食べ物まであるの? なんでも売ってるのねえ」
 
 アンソニーが会話に混じってきた――そういえばこいつも一緒にいたんだった。服屋の時と違ってずっと沈黙していたから、存在が頭から抜け落ちてしまっていた。
 先ほどの僕の立ち居振る舞いを見られた。あとでまたからかわれるかもしれない……。
 
「いやまあ、売ってるっていうか、オレ個人が持ってるヤツなんだけど。急いでるっていうんなら譲ってあげてもいいよ。その代わり、1個だけ条件があるんだけど……」
「条件?」
「うん。……ま、モノ見てから話しようか」
 
 こちらの返事を待たずに男がカウンターの後ろにある扉を開け、中に引っ込んでいく。
 ……待っていなければいけないだろうか……。
 
「こんにちはーっ!」
「!」
 
 店員が引っ込んだのとほぼ同時に、後ろから誰かの声が聞こえてきた。振り返ると、そこには男と少年が立っていた。
 
「トミーのおじさーん! どこー」
 
 少年が大声で叫びながら、店内に駆け足で入ってくる。
「トミー」というのは、あの店員のことだろうか。
 少年のあとをついて、男も店内に入ってきた。男が「声が大きすぎるよ」と少年を諫めると、少年は「だって~!」と言って身体を左右に揺らす。
 同じ髪色、会話の気軽さから見て、おそらく2人は親子だろう。
 
「あー、オルコットさん! こんちは~」
 
 店員の男――トミーが食べ物の入ったカゴを抱えて戻ってきた。
 トミーはカゴをカウンター横のチェストに置いたあと「ごめん、ちょっと待っててもらえる?」とこちらに手のひらを向けながら言い、すぐに「オルコット」という男に向き直り話を始めた。
 聞き耳を立てる気はないが、店内が狭いので会話が自然に耳に入ってくる。
 オルコットは子供の筆記用具を買いに来たようだ。それを聞いたトミーが「子供が使いやすい鉛筆」とやらを探してきてオルコットとその子に渡してやると、子供はニコニコ顔で「すごい! さすがトミーのおじさんだ!」と叫ぶように礼を言った。
 トミーは「おじさん」という呼称に苦笑いをしながら子供の頭を撫で、オルコットは「すみません」と平謝りしつつ会計をする。
 商品を手にした2人はトミーに改めて礼を言って去って行った。
 滞在時間は5分にも満たなかったが、終始和やかな雰囲気だった。
 ……が。
 
「……さ! 商売の話しよっか!」
 
 2人を見送ったあとトミーがこちらを振り向き、満面の笑みで「パン」と手を打つ。先ほどまであの親子に接していた時の笑顔と明らかに違う。
 ――しまった……やはり彼が引っ込んでいる間に逃亡しておくべきだったか……。
 
 トミーがチェストに置いてあったカゴの中から野菜や肉を取り出し、順番にカウンターに置いていく。
 いずれもトモミチに渡された色見本の色と同じ色合いだ。
 
「これねえ、今日の晩飯にしようと思って買ってたヤツなんだ~。お兄さん達、これ使ったレシピとか分かる?」
「いや……」
「だよね~。この食材とレシピをあげるからさあ、オレが作った調味料のモニターになって欲しいんだよね~」
「調味料のモニター……?」
「そー。これなんだけどねー」
 
 言いながらトミーが、身に着けているエプロンのポケットから赤や緑や黄色の液体が入ったビンを取り出し食材の横に並べ置く。
 一見、絵の具のようだが……しかし先ほどトミーは〝調味料〟だと言った。一体これは何なのか……。
 
「ちょっと……なんなの、これ? 調味料にしてはちょっと色がキツすぎない? 素材は何なのよ」
 
 さすがに怪しいと思ったのか、アンソニーが怪訝な顔で口を挟んできた。
 この体躯の男がこの表情で絡んでくると、それだけで威圧感がある。だがトミーはそれにひるむことなく笑顔で話を続ける。
 
「ただの白い粉を魔法で染めただけのモンだよ」
「白い粉、ですって……?」
「だいじょ――ぶ、麻薬とかじゃないよ。……でも、作り方と素材は教えられない!」
 
「「…………」」
 
 ――怪しい。
 怪しさしかない……。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

魔法使い、双子の悪魔を飼う

よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」 リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。 人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。 本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり... 独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。 (※) 過激描写のある話に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期更新です。 ※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。 ※何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす

河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。 悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。

可哀想は可愛い

綿毛ぽぽ
BL
 平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。  同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。 「むむむ無理無理!助けて!」 ━━━━━━━━━━━ ろくな男はいません。 世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。 表紙はくま様からお借りしました。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

処理中です...