愛を知らない空っぽ屍霊術師は、泥の人形に泡沫の恋をする

天草こなつ

文字の大きさ
72 / 118
5章 薄氷の上

4話 空の連盟

しおりを挟む
「やー、ありがと~ロラン君~。助かったよ~」
 
 トミーと料理のことで小一時間ほど話をした。
 トモミチ以外の人間とも長く会話ができてしまって、自分で驚いている。
 ――こいつがすごいんだ。話に乗せるのも話題を引き出すのもうまい。商売人をやっているからか?
 
「別に、助けるというほどのことは……」
「いやいやーレシピももちろん助かるけど、最近疲れること多くってさー。好きなこと好きなだけ喋れてちょっとラクになったよー」
「そう……か」
 
 ――僕と話すことで楽になることがあるのか……ここはどう返すのがいいんだろう?
「よかったな」とか? ……何か偉そうだな……。
 
 そんなようなことを考えているとトミーが伸びをしながら「さーてと」と口を開いた。
 
「そろそろ帰ろっかな~。ロラン君は、まだここいるよね?」
「うん……もう少し探し物をしてから」
「そっか~。そんじゃ、またここで会うことあったらよろしくね~」
「……『ここで』? 店は?」
 
 そう問うとトミーは苦笑いをしてため息をついた。
 
「うん、店はね……ちょーっと事情があって閉めちゃってて」
「なぜ?」
 
 さらに問うとトミーは手のひらで顔を覆いつつピンと伸ばした中指でメガネをクイッと上げ、
 
「……実はオレ、闇の組織に狙われてんだよね……」
 
 と、物憂げに呟いた。
 
「…………」
「…………」
「……小芝居?」
「いやいやいや小芝居じゃないから! ひでえな~ちょっと~~」
「……だって」
 
 ――神妙な顔をしてはいたが、口調がこの前の「色水と食材の話」をしたときと全く同じだった。今のが〝小芝居〟でないなら一体何だというんだ?

 彼はザビーネに困りごとを相談しているという。店を閉めていることと関係しているのかと思って、気になって聞いたのに……。
 僕の〝呆れ〟を感じ取ったらしいトミーが、バツの悪そうな表情で「ハハ……」と力なく笑う。
 
「ゴメンゴメン。……まあ闇の組織ってのはウソだけど、ヤバめのヤツらに目ぇつけられてるのはホントでさ。……〝空の連盟〟っていうんだけど」
「ソラの、連盟……? なんだそれは」
「平たく言うと、異世界人中心で作られた武装集団ってとこかなあ」
「武装集団」
「そ。ここに来たくなかったーってヤツらが集まってさ、『天海てんかいを破って元の世界へ帰ろう~』なんて言ってるよ」
「天海を? そんなこと、できるわけが……」
「まあ、大言壮語ってヤツだよ。実際の活動は『自分を呼んだ屍霊術師をボコボコにする』ってだけらしいから」
「えっ……」
「〝反・屍霊術師〟っていうのかなぁ……この前オレ、『刺されるかもー』って言ったでしょ? アレ結構、マジな話なんだよね」
「…………」
 
 ――背筋が寒くなる。ビクトルを襲ったホロウもそこのメンバーだったりしたのだろうか……?
 
「……なぜそんな奴らに目を付けられているんだ? 勧誘を受けているのか」
「そー。なんかオレ、すーっごい魔力の持ち主なんだって。だから、『同士のためにその力を尽くすべき』ってさー。『暴力行為はちょっとー』って断ったんだけど『暴力じゃない、正義のための正当な手段だ』ってさ、話通じねーの。あんまりしつこいから町外れに引っ越したんだよね」
 
 ――トミーが街の郊外、人気ひとけのない場所に店を構えていたのはそういう事情からだったのか。彼の魔力が高いという話は聞いていたし実際この目でも見たが、まさかそんな弊害があるとは……。
 
「大変……だな」
「大変だよぉ~。引っ越してからしばらくは平和にやってたんだけど、最近また構成員っぽいヤツらが店の周りうろつくようになってさー。集まり悪りぃからかしんねーけど、見境ねーんだわー」
 
 トミーの口調が少し荒くなってきている。「闇の組織」なんて冗談めかして言っていたが、相当に参っているようだ。
 今、質問をしても大丈夫だろうか? 気になることがたくさんある……。
 
「……『集まりがよくない』というのは? メンバーはあまりいないのか?」
「異世界人の全員が全員、屍霊術師を恨んでるわけじゃないからね。嫌いだし腹立ててるけど、殴りたい殺したいってほどじゃないヤツがほとんどじゃないかなー」
「そう……なのか。僕は、てっきり」
「……元の世界で酷い目に遭ってここに来た人も多いからね。ここでやっと平穏な生活を手に入れられたって……救われてる人もいるから」
「あ……」
 
 ――その言葉に少し胸が軽くなる。
 僕自身は嫌われているし恨まれてもいるが……だが、屍霊術師全体が疎まれているわけじゃないと知れてよかった。
 
「……なんだけど。アイツら、それぜーんぜん理解しようとしないんだよね。『逆らわないように頭をいじられてるんだ』とか言ってー。……一応聞くけど、そういうのできちゃうの?」
「で……できない。反魂組成はんごんそせいは、あくまで人を形作るだけの術だ」
 
 魔術の中には人を意のままに操るものもあるが一般的ではない。
 ザビーネの、菓子や茶のカートやぬいぐるみを操る術とは訳がちがう――おそらく〝禁呪〟に属する術だろう。
 身体を操る術がそうなら、思考を操る術は当然それ以上の禁忌。
 ……そもそも……。
 
「……そんなことができるなら、そんな団体を発足させないよう最初からコントロールしていると思うが」
「それもそーだ。……ゴメンねー、オレの世界〝魔法〟ってヤツがないから、どういうのだったらあるかないかってのが全然分かんなくてさー」
 
 言いながらトミーはメガネを外し、ズボンから取り出した布で拭き始めた。
 
(…………)
 
 なんとなしに、その動作と彼の顔をぼんやりと眺めてみる――ツンツンで固そうな黒の短髪に、黒色の瞳。左の目元にホクロが2つある。
 
(黒髪、黒目……)
 
 ――そういえばトモミチの国では、髪色は〝黒〟が標準だと聞いた。
「魔法がない」「毛筆の道具がある」こともトモミチの世界と共通しているし、先日教わった「ハッシュドビーフ」「マリネ」という料理のこともトモミチは知っていた。
 ……もしかして、同じ世界の住人だったりするのだろうか……?
 
「……ってわけで、ザビーネせんせーに色々相談乗ってもらってんだよねー」
「!」
 
 ――いけない、今考えることじゃない。
 彼が抱えている問題は深刻だ。せっかくこうやって話をできるようになったのだから、何か彼の役に立つようなことを……いやでも、ザビーネに相談しているのなら僕が出る幕なんてないか……?
 
「最近見境ねーんだよなー、アイツら。昨日なんか居留守中に家入ろうとしてきやがってー」
「……居留守」
「どーせなんも買っていかないし、出るだけムダだから。けど追い返す力もないし困ったなーって、ザビーネせんせーに泣きついた」
 
 ――昨日のザビーネへのデンワは、それを相談していたのか。
 
「……ザビーネは、何と?」
「『あんたが〝魔除け〟と思うものを置いとけー』ってさ。無理だろーって思いながらオレなりの魔除け片っ端から置いたらなんとかなったよー」
 
(『なんとかなった』……)
 
 勝手に店に入ろうとする人間をなんとかするため魔力を込めた何かを置いたら、相手は店に入れなくなった……そういうことだろうか。
 だとしたら、彼の魔力はやはり相当のものだ。しかし、魔力を買われて勧誘されているならそれは逆効果ではないか……?
 
「……大丈夫なのか。その……魔力を見せつけてしまったら、余計に狙われてしまわないか」
「それなー。見せつける気なんかなかったんだけど、やっぱり加減分かんなくて。……ってわけで、店閉めて引きこもってんの」
「やはり……」
「ハァ……ホント、どーしたもんかね……」
 
 今までで一番大きなため息を吐いて、トミーは机に突っ伏す。
 
「……ロラン君とこにいる異世界人さんは魔力高い人? もしそうだったら、西の都には近づかないよう言ってあげた方がいいかも」
「わ、分かった」

 彼の現状は、トモミチの未来の姿かもしれない。確かに、注意喚起をしておいた方がよさそうだ。……ちゃんと完成させられればの話だが……。

「あーやべ、1回グチったら止まんねーや。今度こそ帰ろ~」
 
 そうつぶやいて、トミーはイスを引いてのっそりと立ち上がる。
 
「……ってことで、またね、ロラン君」
「うん」
「今店閉めてるけど、異世界人さんのことで何か聞きたいことあったら聞くから……あっ、そうだ! 〝電話〟って持ってる?」
「……デンワ」
「もし持ってたら、ここにかけてくれたらいつでも会話できるから――」
 
 トミーがポケットから鉛筆を取り出し、レシピの紙に数字の羅列をサラサラと書き込んだ。
 ――この数字は何だろう。「ここにかけてくれたら」とは、どういう意味だろう……。
 
「よーっし、今度こそ帰ろ~。ロラン君、いろいろありがとね」
「うん」
「気をつけろよ……ヤツらに……闇の組織に……」
 
 そう言い残し、トミーは去って行った。
 ……深刻な問題を抱えているはずだが、どうしても小芝居がしたいらしい……。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

魔法使い、双子の悪魔を飼う

よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」 リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。 人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。 本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり... 独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。 (※) 過激描写のある話に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期更新です。 ※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。 ※何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす

河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。 悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。

可哀想は可愛い

綿毛ぽぽ
BL
 平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。  同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。 「むむむ無理無理!助けて!」 ━━━━━━━━━━━ ろくな男はいません。 世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。 表紙はくま様からお借りしました。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~

春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』 アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。 唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。 美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。 だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。 母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。 そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。 ——カイエンが下す「最後の選択」とは。 ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。

処理中です...