拝啓、死に際の貴方へ。

Q太郎

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「俺さ、明間アスマさんに告白するよ」

「ぶっ!」

昼休み。

教室では各々が持ってきた昼食を食べている。

ガヤガヤと賑わうこの3-Aの教室の隅にポツンと座っているのが、俺こと桐原愛斗キリハラアイトと、中学校入学当時から三年間同じクラスの腐れ縁である神保望ジンボウノゾム

「熱でもあるのか?血迷ったのか?」

まさか脅迫‥と失礼な言葉を並べ立てるので俺は批判を込めた目で睨む。

「いやでも冗談ではなくてだな。何か無いとそんな無謀な行動は取らないだろう」

無謀な行動。
一瞬イラっとしたが、それが事実なので何も言い返せない。

「まぁ、お前にだけ言うけどさ。俺、来月転校するんだよ」

またも口に含んでいる飲料水を噴き出した。

「さっきから汚いわ!」

「衝撃的な事を続けて言うからだろっ、え、まてよ、いつって?」

「だから、来月だよ」

ぽかんと口から見える汚い顔と共に望は目を潤ませる。

え、何こいつ、怖い。

「そんな、急な話あるかよ。俺たちはまだまだこれからだろうに」

打ち切り連載の最後のコメントの様な台詞を吐き、涙を拭う振りをする。

「嘘泣きはいらねーって。金輪際の別れでもねーし」

「まぁそれもそうだなっ」

ケロッと表情を変えサンドイッチを口に含んだ。

こいつはいつもそうだ。
整った容姿と人を軽そうな発言と行動に泣かされた人間は一人二人では無い。

「で、なんで転校するんだよ」

フルーツサンドという俺には理解できない食べ物を美味そうに口に運びながら聞いてくる。

「親父の転勤だよ」

「またぁ?中学の時にこっちに来た時もそうだったよな」

俺は頷く。

「ふーん。なんか、振り回されてるな」

フルーツサンドを食べ終えた望は、次に手製のおにぎりを取り出した。

「お前だけこっちに残る事出来ねーの?あと九ヶ月で卒業なのに」

「それが出来たら告白するなんて言わない」

「あぁ、そういう話だったな。どうせ振られるなら想いを‥ってやつ?」

一口頬張って中の具材が見える。

俺は表情に出ていたのか「意外に合うんだよ」と望が言う。

「フルーツってさ、ご飯の後に出てくるものじゃん?ご飯の具材がフルーツって、邪道すぎるだろ」

「愛斗、この三年間で俺が見つけたお前の悪い所を教えてやる」

「何だよ」

「それはな、自分の小さな尺度で物事を推し量るところだ。フルーツサンドは無理、フルーツにぎりは無理、野菜クレープも無理だろ?」

「だって、合わないだろ、普通」

それだよ、と溜息と共に言う。

「挑戦もせずに決めつけて諦める。悪い癖だ。ほら、食べてみ?」

「挑戦してフルーツ握りは無いなって思ったから食べないんだよ」

一年前、昼食を忘れた俺は望におにぎりを一つ貰った。
中の具材がまさかのイチゴであり、予想だにしていなかった俺はかつてない程盛大に吐いた。

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