拝啓、死に際の貴方へ。

Q太郎

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「そうだった。じゃあ言い換えよう。一度の挑戦で諦めるのが悪い癖だ」

「何度も挑戦しろと?」

「そう。だから明間華に振られたからと言って、一度で諦めては駄目だ」

「何で振られる前提で話を‥」

「お前、付き合えるとでも?」

まるで捨て犬を見つけたよう哀愁漂う目で俺を見た望は、そのまま「あのアイドル的存在の彼女と付き合えるわけないだろ」と断言した。
その後、思い出したかのように「あっ」と短く声を漏らし、言いにくそうに続けた。

「嫌な噂がある」

「噂?」

「あぁ。綺麗な棘には毒がある、ってね」

「お前の話は本当に見えないな。はっきり言えよ」

「明間さんに告白した人間はことごとく、痛い目にあってるのさ」

「痛い目って?」

「文字通り、痛い目だ」

物理的に、と望は言って険しい顔を作る。

「何だよ、妬んだ人間が手を出すのか?」

「いやいや、そんな分かりやすい事ではなくてだな。ちょっと不気味なんだよ」

「な、なんだよ。だからハッキリ言えって」

「俺が知る限り、告白した人間は事故に遭ってる」

「は、はぁ?」

思わず手に持っていた箸を落とす。

「自転車での帰り道、ブレーキが壊れていて下り坂の先にあるガードレールにぶつかったとか」

「整備不良だろ」

「夜道、ガラの悪い中年に絡まれてカツアゲにあったり」

「この町、治安悪いよな」

「告白した翌日、階段から勢いよく転げ落ちて全治一ヶ月の入院生活を送ったとか」

「廊下にバナナがあったんじゃないの?」

「な?どれも犯人が特定できないから不気味だろ」

「全部不慮の事故だろ」

馬鹿馬鹿しい、と俺は牛乳を口に含み廊下を見た。

「まぁそうかもしれないけどな。だけど、明間さんも可哀想だよな」

「何が?」

こんな奴に惚れられて、なんて言うのだろうか。

「皆から嫌われてさ」

「嫌われている?」

何を言ってるんだこの男は。

才色兼備、文武両道。
明間華は誰もが羨む人物であり、尊敬こそされるが嫌われているなんて‥。

「あー、そっか。お前スマホ持ってないからこれ知らないんだ」

可哀想に、と小さくマウントを取られた気がするが、俺は次の画面に視線が釘付けになった。

それはとある掲示板で、俺たちが通う中学校の裏掲示板のようなものだった。

【明間華呪い隊】

そんな掲示板は、チャット形式で何人かがやり取りをされており、実名が分からないように工夫されていた。

「な、なんだよこれ」

「妬みだな」

内容を見ようとそのチャット画面に触れたが、【secret】と言う文字が出てきた。

どうやら、内容を見るには会員になる必要があるらしく、望は登録をしていないようで見ることができないらしい。

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