拝啓、死に際の貴方へ。

Q太郎

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そして彼女は夕陽に照らされながら、教室の窓際まで行き、おもむろに窓を開けた。

心地よい風が窓から吹き込む。

髪を靡かせた彼女は、紙を半分に破った。

半分、また半分と破っていく。

まさか。

俺は彼女の側までゆっくりと近づいていく。

「一度やってみたかったんだよね」

細かくなった紙を、彼女窓から両手一杯に広げて投げ捨てた。

あっと言う間もなく、3階の窓から放たれた紙吹雪は、グラウンドの至る所に散っていく。
幸い、グラウンドには誰もいない。
無人のグラウンドに散り行く紙。それがむしろ絵になっていた。

「てことは、今までも脅しかなぁ」

彼女はため息混じりに独り事のように言う。

「今まで?初めてじゃないの?」

「それはそうでしょ。今日キミがキョロキョロと私をみていたから、あ、もしかして犯人かなって思って待ってたんだし」

そ、そんな不審な動きをしていただろうか?

「はぁ。色々、落ち込むな」

目を瞑り、悲痛そうにそう言うと、シクシクと子供のように泣き始める。

「ちょ、ちょっとどうしたの」

「どうしたじゃないよ。あー、本当、キミって最低」

彼女は涙も拭かずにキツイ目を向けてきた。

「私、今日はウキウキワクワクしてたの。ついに手紙の通り、ヤってくれるんだって」

「‥おかしいよ。それって、間違ってる」

「だからこうしてキミを待っていたのに、違うだなんて。それに、今までの手紙も単なる脅し、だなんて」

「明間さん!」

俺のことが見えていない明間さんの肩を掴む。
肩を大きく振るわし、その目には動揺の色が滲んでいる。

「あ、ごめん‥でもさ、おかしいよ。殺されるのを、待ってるなんて」

「おかしい‥?」

何を言われているのかが分からないと言った様に問い返してくる。

「なにが、おかしいの?」

「何がって‥だって、そうでしょ」

言葉がうまく出てこない。
そんな自分がとてつもなく、歯がゆい。
でも言いたいことは変わらない。
そんな事、間違ってる。
俺が言葉に詰まっていると、彼女は「あぁ」と両手をパチンと合わせた。

「理解されたいと思ってないの。私も流石に、顔は使い分けているし。本当なら、一生見せるはずもなかった一面を、油断してキミに見せただけなの。だから、忘れてね?」

じゃあ、と彼女は手を振る。
後ろ姿が、どうしても、過去の俺の記憶の中の一場面と重なる。
あの時、止めていれば‥。

「ねぇ!」

俺が呼び止めると、また彼女は身体をビクッと震わせた。思った以上に大きな声が出てしまった事に自分でも驚く。

まだ何か?と言った顔で彼女は振り向く。

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