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スタートライン編
第二話『前進』
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今日引ける『食事ガチャ』はあと二回。
一回目に提供されたのは、大ハズレの『激苦ドリンク』だった。常温ドロドロの液体で、喉の渇きが満たされる訳でもないそれは、罰ゲームでしかなかった。
「これを回したら食べ物が出るんだね!」
期待の目でガチャ機を見つめるシエル。
当たりハズレがあることや、時計回りにハンドルを回すことなど、ガチャについては大まかに教えてある。
「引いてみます?」
「引いてみよう!」
彼女はレバーに手を伸ばす。ガチャを引くのが初めてな彼女からは、ワクワク感が見て取れる。
微笑ましい光景だが、しかし不安もあった。大ハズレを引いた場合だ。彼女にとって苦い思い出にならないよう願うばかり。自分が引く時よりも緊張する。
「回ったよ!」
興奮の表情で、俺を真っ直ぐ見ながら言う。
回転が少なく、まだカプセルが落ちていない。
「もうちょっと」
声色を柔らかくして言うと、彼女は再びガチャに見向き、さらにハンドルを回す。そしてついに、ゴロンと音をたて、カプセルが落下した。
またもや彼女は俺の方へ、輝きの眼差しを向ける。俺が頷くと、彼女は少し不器用にカプセルを取り出した。色は黒だ。
「当たりかな?」
「開けてみて」
シエルは「ふんっ!」と声を漏らしながら、力づくでカプセルを開ける。カポッと開くと、中には安っぽい紙が入っており、そこに書かれていたのは──……
「『唐揚げ定食』!」
シエルが読み上げると、目の前に唐揚げ定食が現れた。唐揚げ・白米・味噌汁の三点セット。
「当たりだ!」
思わず声を挙げると、シエルも嬉しそうに「当たりだよ!」と喜ぶ。
「「イェーイ!」」
ハイタッチを交わし、笑い声が溢れる。
幸せに包まれる小屋であった。
〇
「よし、俺も引こう」
「頑張れー!」
一日三回の『食事ガチャ』。
今日はひとまずラストチャレンジだ。
一回目は『大ハズレ』だったが、二回目は『当たり』。『ハズレ』でもマトモな料理が一品提供されるから、『大ハズレ』さえ引かなければ問題ない。
シエルは俺が食事を手に入れるまで、唐揚げ定食に手をつけずに待ってくれている。ホカホカのご飯が冷める前に引くべく、早々に覚悟を決めた。
指を軽くほぐしてから、ハンドルを回す。
カプセルが落ちる。色は青。
結果は──……『ナン』
「なん?」
読み上げると、目の前にナンが提供される。もちろんトッピングはない。プレーンのナンだ。
意外な品に驚きつつも、ひとまずは安心する。
「それ当たり?」
「うん、当たり」
「良かったねシンヤ!」
「ありがとうシエル」
実際は『ハズレ』に位置するが、普通の食事なだけでも十分『当たり』だ。
「それじゃあいただきまーす」
ナンを作った人に感謝をして、頬張る。
やはりトッピングがないのは寂しいが、香ばしくて美味しい。
と、シエルがこちらを見つめていることに気づく。
「『イタダキマス』ってなぁに?」
「……!」
会話が出来ていたから特に気にしていなかったが、俺と彼女とでは、文化に違いがあるらしい。
「食材や料理を作った人に感謝を表す言葉だよ」
説明すると、シエルは理解したのかポンと手を叩いてから、「イタダキマス!」と不慣れながらも感謝をし、カトラリーを手に取った。
白米と味噌汁はスプーンで、唐揚げはフォークで食べている。というのも、定食と共に出てきたからだ。箸は現れなかったので、おそらく彼女の生まれ故郷の食文化に合わせて──……
「これなに?」
シエルの故郷について思案していると、彼女が味噌汁を指さして、その名前を尋ねる。
「それは味噌汁」
「ミソシル好き!」
「そりゃ良かった。俺の故郷、『日本』の料理なんだ」
「聞いた事ない国だ~!」
改めて異世界に来たことを実感させられる。
「ところでシエルはどこで生まれたんだ?」
「『ウィミングス王国』だよ」
聞いたことがない。やはり彼女は異世界の住人ということで間違いなさそうだ。問題はその先、シエル視点ではどういう風にしてここに辿り着いたか、だ。
まさか俺みたいに強制的に転移させられたんじゃ。その場合、まずは彼女を故郷に送り届けるのが優先となるが……。
人恋しさから考え無しに彼女を召喚したことを悔いた。
「ミソシルいる?」
「……?」
突然の提案。
「貰ってもいいのか?」
「故郷の味だよ」
「──!」
そこにどんな意図があるのかは分からなかった。気づかず不安を表情に出してしまっていた俺を、慰めようとしたのか。それともやはり、何の意図もないのか。
なんにせよ俺は、もう二度と戻れないかもしれない故郷の味を欲しがっていた。
「じゃあ、いただきます」
「イタダキマスだね!」
味噌汁を飲む。飲む。飲む。全部飲み干して、深く息をつく。目頭が熱くなり、泣きそうな喉元が痛む。けれど泣いちゃいけない。泣いたら楽しい雰囲気がダメになる。
「どうしたのシンヤ」
「いや、なんでもない。ありがとう」
俺はシエルを見つめ、微笑みながらグッドポーズをした。すると彼女も微笑んでグッドポーズをした。
彼女も楽しそうだし、今日のところは、難しい話はやめにしよう。
「ちなみに唐揚げはどうだ?」
「美味!」
〇
「さて、腹ごしらえもしたし、歩きますか!」
「冒険だー!」
小屋から出て、辺りを見渡す。
来た時と打って変わらず何にもない草原で、町も人もモンスターも見当たらない。
「ここどーこだ!」
「わかんない!」
「俺もわかんない!」
「致命的だねシンヤ!」
「確かに致命的だ。が、しかし、心配することはないぞシエル」
「もしかしてガチャの出番?」
「いいや……まあでも、ある意味これもガチャだな」
俺はその辺に落ちていた木の棒を拾って、地面に突き立てる。手を離すと、ストンと前に倒れた。
「この棒の倒れた先が、俺たちのゆくべき道だよシエル」
「なるほど!」
「これを度々繰り返せば、神様が正しい方へ導いてくれるのさ」
「さっすが神様!」
「そうと分かったら前進だ! 行くぞシエル!」
「合点!」
楽しい旅の一歩だあぁ──……と、危ない危ない。忘れるところであった。
「えーと」
ステータス画面から『もちもの』を開き、『小屋(木製)』と表示されている部分をタップする。すると、【収納しますか?】という質問が投げかけられたので『はい』を選択した。
瞬間、小屋は消えた。さっきまで小屋があった草むらには、キーホルダーの形でミニチュア化した『小屋(木造)』が落ちてあった。それをパジャマのポケットに突っ込んで……。
「これで完璧だ! 行くぞシエル!」
「出発進行だー!」
一回目に提供されたのは、大ハズレの『激苦ドリンク』だった。常温ドロドロの液体で、喉の渇きが満たされる訳でもないそれは、罰ゲームでしかなかった。
「これを回したら食べ物が出るんだね!」
期待の目でガチャ機を見つめるシエル。
当たりハズレがあることや、時計回りにハンドルを回すことなど、ガチャについては大まかに教えてある。
「引いてみます?」
「引いてみよう!」
彼女はレバーに手を伸ばす。ガチャを引くのが初めてな彼女からは、ワクワク感が見て取れる。
微笑ましい光景だが、しかし不安もあった。大ハズレを引いた場合だ。彼女にとって苦い思い出にならないよう願うばかり。自分が引く時よりも緊張する。
「回ったよ!」
興奮の表情で、俺を真っ直ぐ見ながら言う。
回転が少なく、まだカプセルが落ちていない。
「もうちょっと」
声色を柔らかくして言うと、彼女は再びガチャに見向き、さらにハンドルを回す。そしてついに、ゴロンと音をたて、カプセルが落下した。
またもや彼女は俺の方へ、輝きの眼差しを向ける。俺が頷くと、彼女は少し不器用にカプセルを取り出した。色は黒だ。
「当たりかな?」
「開けてみて」
シエルは「ふんっ!」と声を漏らしながら、力づくでカプセルを開ける。カポッと開くと、中には安っぽい紙が入っており、そこに書かれていたのは──……
「『唐揚げ定食』!」
シエルが読み上げると、目の前に唐揚げ定食が現れた。唐揚げ・白米・味噌汁の三点セット。
「当たりだ!」
思わず声を挙げると、シエルも嬉しそうに「当たりだよ!」と喜ぶ。
「「イェーイ!」」
ハイタッチを交わし、笑い声が溢れる。
幸せに包まれる小屋であった。
〇
「よし、俺も引こう」
「頑張れー!」
一日三回の『食事ガチャ』。
今日はひとまずラストチャレンジだ。
一回目は『大ハズレ』だったが、二回目は『当たり』。『ハズレ』でもマトモな料理が一品提供されるから、『大ハズレ』さえ引かなければ問題ない。
シエルは俺が食事を手に入れるまで、唐揚げ定食に手をつけずに待ってくれている。ホカホカのご飯が冷める前に引くべく、早々に覚悟を決めた。
指を軽くほぐしてから、ハンドルを回す。
カプセルが落ちる。色は青。
結果は──……『ナン』
「なん?」
読み上げると、目の前にナンが提供される。もちろんトッピングはない。プレーンのナンだ。
意外な品に驚きつつも、ひとまずは安心する。
「それ当たり?」
「うん、当たり」
「良かったねシンヤ!」
「ありがとうシエル」
実際は『ハズレ』に位置するが、普通の食事なだけでも十分『当たり』だ。
「それじゃあいただきまーす」
ナンを作った人に感謝をして、頬張る。
やはりトッピングがないのは寂しいが、香ばしくて美味しい。
と、シエルがこちらを見つめていることに気づく。
「『イタダキマス』ってなぁに?」
「……!」
会話が出来ていたから特に気にしていなかったが、俺と彼女とでは、文化に違いがあるらしい。
「食材や料理を作った人に感謝を表す言葉だよ」
説明すると、シエルは理解したのかポンと手を叩いてから、「イタダキマス!」と不慣れながらも感謝をし、カトラリーを手に取った。
白米と味噌汁はスプーンで、唐揚げはフォークで食べている。というのも、定食と共に出てきたからだ。箸は現れなかったので、おそらく彼女の生まれ故郷の食文化に合わせて──……
「これなに?」
シエルの故郷について思案していると、彼女が味噌汁を指さして、その名前を尋ねる。
「それは味噌汁」
「ミソシル好き!」
「そりゃ良かった。俺の故郷、『日本』の料理なんだ」
「聞いた事ない国だ~!」
改めて異世界に来たことを実感させられる。
「ところでシエルはどこで生まれたんだ?」
「『ウィミングス王国』だよ」
聞いたことがない。やはり彼女は異世界の住人ということで間違いなさそうだ。問題はその先、シエル視点ではどういう風にしてここに辿り着いたか、だ。
まさか俺みたいに強制的に転移させられたんじゃ。その場合、まずは彼女を故郷に送り届けるのが優先となるが……。
人恋しさから考え無しに彼女を召喚したことを悔いた。
「ミソシルいる?」
「……?」
突然の提案。
「貰ってもいいのか?」
「故郷の味だよ」
「──!」
そこにどんな意図があるのかは分からなかった。気づかず不安を表情に出してしまっていた俺を、慰めようとしたのか。それともやはり、何の意図もないのか。
なんにせよ俺は、もう二度と戻れないかもしれない故郷の味を欲しがっていた。
「じゃあ、いただきます」
「イタダキマスだね!」
味噌汁を飲む。飲む。飲む。全部飲み干して、深く息をつく。目頭が熱くなり、泣きそうな喉元が痛む。けれど泣いちゃいけない。泣いたら楽しい雰囲気がダメになる。
「どうしたのシンヤ」
「いや、なんでもない。ありがとう」
俺はシエルを見つめ、微笑みながらグッドポーズをした。すると彼女も微笑んでグッドポーズをした。
彼女も楽しそうだし、今日のところは、難しい話はやめにしよう。
「ちなみに唐揚げはどうだ?」
「美味!」
〇
「さて、腹ごしらえもしたし、歩きますか!」
「冒険だー!」
小屋から出て、辺りを見渡す。
来た時と打って変わらず何にもない草原で、町も人もモンスターも見当たらない。
「ここどーこだ!」
「わかんない!」
「俺もわかんない!」
「致命的だねシンヤ!」
「確かに致命的だ。が、しかし、心配することはないぞシエル」
「もしかしてガチャの出番?」
「いいや……まあでも、ある意味これもガチャだな」
俺はその辺に落ちていた木の棒を拾って、地面に突き立てる。手を離すと、ストンと前に倒れた。
「この棒の倒れた先が、俺たちのゆくべき道だよシエル」
「なるほど!」
「これを度々繰り返せば、神様が正しい方へ導いてくれるのさ」
「さっすが神様!」
「そうと分かったら前進だ! 行くぞシエル!」
「合点!」
楽しい旅の一歩だあぁ──……と、危ない危ない。忘れるところであった。
「えーと」
ステータス画面から『もちもの』を開き、『小屋(木製)』と表示されている部分をタップする。すると、【収納しますか?】という質問が投げかけられたので『はい』を選択した。
瞬間、小屋は消えた。さっきまで小屋があった草むらには、キーホルダーの形でミニチュア化した『小屋(木造)』が落ちてあった。それをパジャマのポケットに突っ込んで……。
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