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スタートライン編
第三話『ダッシュ』
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──歩き続けて数時間。
何度も倒した木の棒に愛着が湧き、会話の種として二人で名前もつけた。協議の結果、彼の名前は『棒切れスティくん』となった。
くだらない会話をし続けて、すでに夕暮れ時だ。相変わらず草原にいる。
「夕陽が綺麗だねシンヤ!」
「あぁ、綺麗だなシエル」
シエルは出発時とテンションが変わっていない。だが俺は完全に失速している。とにかく楽しく行こう、そう意気込んで序盤にテンションを上げすぎた。
疲れや、昼食をあまり摂れなかった空腹もある。今日のところはここで休むか?
ポケットに入った『小屋(木製)』のミニチュアを片手に握った時だった。
「あっ!」
途端、シエルが感嘆符を零す。
「どうした?」
「あそこ」
彼女が指さす方向を見ると、そこには人がいた。
「人だ……」
「うん、人だよシンヤ」
「人、人だよシエル!」
「人だねシンヤ!」
徐々に喜びが込み上げてくる。もしかすると、近くの町について何か情報を得られるかもしれない。人が行き交う場所にさえ行けば、きっと冒険も進捗する。
「よくぞ見逃さなかった、ありがとう!」
「どういたしましてだよシンヤ!」
互いに向かい合って笑い合う。
「よぉし! そうと決まれば、早速あの人の所まで行くぞ!」
「競走だね!」
「よし乗った!」
希望が見えたお陰で、疲労も空腹もぶっ飛んだ。そこそこ距離はあるが、今なら走れそうだ。
「じゃあ行くぞ。『よーい……ドン!』」
お馴染みの掛け声と共に地面を蹴る。
しかし、
「なにそれー?」
シエルには伝わらなかった。
少し進んだ俺は、後ろ歩きでスタート地点へ戻る。
「って言ったらスタートだ!」
「了解だよ!」
「それじゃあ位置について──
よぉ───い…………ドンッ!!!」
瞬発的に地面を蹴る。強く蹴る。素早く蹴る。とにかく前に出ることだけを考える。五十メートル走を七秒ジャストで走り抜いた実力を見せてやろうと、闘志が滾る。
褒めるにも貶すにも難しいタイムであることは承知の上、今は調子に乗りたい気分なのだ。と、彼女との差を確かめようと横を向くと、ぴったりついてきていた。
「同じくらいだねシンヤ!!」
声を出すと呼吸のリズムが乱れそうで、軽く頷くことしかできない。一方彼女は、軸をぶらさずに走れている。差は僅かにして良い勝負だ。
ゴールはあと少し。もうひと踏ん張りだ。
風が気持ちいい。夕焼けが綺麗だ。自然に祝福されているような気分になりながら、ラストスパートを駆け抜けた。
結果は──……
「っ……ハァ、ハァ、ほぼ同着だ」
「引き分けだね!」
「あぁ、今日のところは、引き分けだ」
互いに勝敗を確認しあう。引き分けながら、気持ちよく走れた満足感がある。浸りつつも、前を見据え、目的の人に話しかけた。
「ハァ、すみません。私、旅の者ですが、この辺りに村や町は、ありませんか?」
「────」
返事はない。それどころか、俺たちに背を向けたまま、ゆっくりと前に進んでいる。
「あの、すみませ……」
「ねぇシンヤ」
既に息の整ったシエルが、俺の肩を軽く叩いて言う。
「この人、浮いてるよ?」
「……え?」
反応がない人の足元へ目線を向けた。しかしそこには何も無かった。
「──っ!」
逃げようと、咄嗟にシエルの手を掴む。
急な行動に、彼女が「わっ」と驚く声が聞こえたのと同時、振り返ると目の前に、この世のモノとは思えない形相をした男が立っていた。
「ひぃっ……!」
心から驚くと、人はロングトーンの声が出せなくなる。
それでもと、身体の向きを変え、走り出す。
走り終わったかと思えば、また走る羽目になった。全速力を出す体力はもう残っていない。
「くっそぉ……!」
「どうするシンヤ!」
並んで走るのは、異世界生活一日目にして、俺にとって横にいなくちゃ寂しい存在となったシエルだ。
「とにかく走るぞ!」
「了解!」
宙に浮いて移動する、死人の形相をした奴ら。
仮に彼らを『ゴースト』と呼ぶ。
幸い、ゴースト達の移動速度は大して早くない。距離が広がるまで、そう時間は掛からなかった。
「よし何とか、って言いたいところだが」
すでに夕陽は見えない。
辺りは一層暗くなり、灯りも無いため周りが見ずらい。かろうじて捉えた情報は、良いものではなかった。
「ゴーストがうじゃうじゃ湧いてやがるっ!」
作戦を立てるべく、近くにある木陰にしゃがみこんで身を隠す。
「まずいねシンヤ」
「まずいぞシエル」
とにかく今出来ることを考えた。
「シエル、ガチャを引こうと思うんだが、引くか?」
「うん引きたい!」
「よし、ではその手に命運を託そう」
「託された!」
俺は一日一回『アイテムガチャ』をタップする。今のところ引ける最後のガチャだ。
ガチャガチャ機が目の前に現れ、シエルは緊張した様子でハンドルに手を伸ばす。一方俺は、『棒切れスティくん』を地面に突き立てていた。
ずっとここにいても、増え続けるゴーストに囲まれたら終わり。ならば早めに動いて、ちゃんと安全な所を見つけた方が良い。
「どうせ土地勘のない俺らからしたら、どっちに進んでも同じなんだ。だからお前は、俺たちが道に迷って止まらないよう、進む理由になってくれればいい」
願掛けも兼ねて、スティくんに一通り語りかける。手を離すと、スティくんは手前に向かって倒れた。つまり俺たちが行くべきは後方だ。
一方真横では、シエルがガチャを引き終えていた。
「黄色だ!」
「なっ……」
一回目に『食事ガチャ』を引いた時も黄色のカプセルだったが、結果は『大ハズレ』だった。
仮にカプセルの色が内容を示唆しているのであれば、これは『大ハズレ』のアイテムだ。
「ハズレ?」
俺の反応を見て、シエルが不安げな表情になる。
「いいや、大丈夫だ」
「だよね!」
彼女がカプセルを開ける。中に入ったお馴染みの安っぽい紙に書かれていたのは──……「『激苦ドリンク(500mlボトル)』」
「『アイテムガチャ』にもいるのかよ!」
「やっぱハズレ?」
「案ずるな。いいかシエル、物はなんでも使いようだ。きっと後で役に立つ」
「そうだよね……」
彼女の声色が不安を帯びる。俺にもっと頼り甲斐があれば、と自分の不甲斐なさを悔いた。
排出された『激苦ドリンク』は律儀にボトルに入っていた。『食事ガチャ』はその場での消費、『アイテムガチャ』は持ち運びが想定されているのだろう。
とにかく今は……
「我らが心強い仲間、『棒切れスティくん』が俺たちの真後ろを指した。とにかく突っ切るぞ」
「うん……」
彼女の声色は落ちきっている。
彼女が不安になると、俺も不安になる。
これは良くない。
「いいかシエル。これからするのは、俺とお前と、そしてバケモノ共の三つ巴競走だ」
「──!」
こういう時は楽しいことを考えて笑おう。
楽しくないなら、楽しくしよう。
俺だって不安だ。だけど笑っていなければ、笑って前を見据えなければ、負けてしまう。
さぞこれからお楽しみだと言わんばかりのドヤ顔で、シエルに話しかける。
「容赦はしないぞ。俺はこう見えて負けず嫌いなんだ」
俺が微笑みかけると、
「……うん、望むところだね!」
君が微笑む。
「それじゃあ位置について──
よぉ───い……」
ドンッ! の掛け声と共に、二人は再び走り出した。
何度も倒した木の棒に愛着が湧き、会話の種として二人で名前もつけた。協議の結果、彼の名前は『棒切れスティくん』となった。
くだらない会話をし続けて、すでに夕暮れ時だ。相変わらず草原にいる。
「夕陽が綺麗だねシンヤ!」
「あぁ、綺麗だなシエル」
シエルは出発時とテンションが変わっていない。だが俺は完全に失速している。とにかく楽しく行こう、そう意気込んで序盤にテンションを上げすぎた。
疲れや、昼食をあまり摂れなかった空腹もある。今日のところはここで休むか?
ポケットに入った『小屋(木製)』のミニチュアを片手に握った時だった。
「あっ!」
途端、シエルが感嘆符を零す。
「どうした?」
「あそこ」
彼女が指さす方向を見ると、そこには人がいた。
「人だ……」
「うん、人だよシンヤ」
「人、人だよシエル!」
「人だねシンヤ!」
徐々に喜びが込み上げてくる。もしかすると、近くの町について何か情報を得られるかもしれない。人が行き交う場所にさえ行けば、きっと冒険も進捗する。
「よくぞ見逃さなかった、ありがとう!」
「どういたしましてだよシンヤ!」
互いに向かい合って笑い合う。
「よぉし! そうと決まれば、早速あの人の所まで行くぞ!」
「競走だね!」
「よし乗った!」
希望が見えたお陰で、疲労も空腹もぶっ飛んだ。そこそこ距離はあるが、今なら走れそうだ。
「じゃあ行くぞ。『よーい……ドン!』」
お馴染みの掛け声と共に地面を蹴る。
しかし、
「なにそれー?」
シエルには伝わらなかった。
少し進んだ俺は、後ろ歩きでスタート地点へ戻る。
「って言ったらスタートだ!」
「了解だよ!」
「それじゃあ位置について──
よぉ───い…………ドンッ!!!」
瞬発的に地面を蹴る。強く蹴る。素早く蹴る。とにかく前に出ることだけを考える。五十メートル走を七秒ジャストで走り抜いた実力を見せてやろうと、闘志が滾る。
褒めるにも貶すにも難しいタイムであることは承知の上、今は調子に乗りたい気分なのだ。と、彼女との差を確かめようと横を向くと、ぴったりついてきていた。
「同じくらいだねシンヤ!!」
声を出すと呼吸のリズムが乱れそうで、軽く頷くことしかできない。一方彼女は、軸をぶらさずに走れている。差は僅かにして良い勝負だ。
ゴールはあと少し。もうひと踏ん張りだ。
風が気持ちいい。夕焼けが綺麗だ。自然に祝福されているような気分になりながら、ラストスパートを駆け抜けた。
結果は──……
「っ……ハァ、ハァ、ほぼ同着だ」
「引き分けだね!」
「あぁ、今日のところは、引き分けだ」
互いに勝敗を確認しあう。引き分けながら、気持ちよく走れた満足感がある。浸りつつも、前を見据え、目的の人に話しかけた。
「ハァ、すみません。私、旅の者ですが、この辺りに村や町は、ありませんか?」
「────」
返事はない。それどころか、俺たちに背を向けたまま、ゆっくりと前に進んでいる。
「あの、すみませ……」
「ねぇシンヤ」
既に息の整ったシエルが、俺の肩を軽く叩いて言う。
「この人、浮いてるよ?」
「……え?」
反応がない人の足元へ目線を向けた。しかしそこには何も無かった。
「──っ!」
逃げようと、咄嗟にシエルの手を掴む。
急な行動に、彼女が「わっ」と驚く声が聞こえたのと同時、振り返ると目の前に、この世のモノとは思えない形相をした男が立っていた。
「ひぃっ……!」
心から驚くと、人はロングトーンの声が出せなくなる。
それでもと、身体の向きを変え、走り出す。
走り終わったかと思えば、また走る羽目になった。全速力を出す体力はもう残っていない。
「くっそぉ……!」
「どうするシンヤ!」
並んで走るのは、異世界生活一日目にして、俺にとって横にいなくちゃ寂しい存在となったシエルだ。
「とにかく走るぞ!」
「了解!」
宙に浮いて移動する、死人の形相をした奴ら。
仮に彼らを『ゴースト』と呼ぶ。
幸い、ゴースト達の移動速度は大して早くない。距離が広がるまで、そう時間は掛からなかった。
「よし何とか、って言いたいところだが」
すでに夕陽は見えない。
辺りは一層暗くなり、灯りも無いため周りが見ずらい。かろうじて捉えた情報は、良いものではなかった。
「ゴーストがうじゃうじゃ湧いてやがるっ!」
作戦を立てるべく、近くにある木陰にしゃがみこんで身を隠す。
「まずいねシンヤ」
「まずいぞシエル」
とにかく今出来ることを考えた。
「シエル、ガチャを引こうと思うんだが、引くか?」
「うん引きたい!」
「よし、ではその手に命運を託そう」
「託された!」
俺は一日一回『アイテムガチャ』をタップする。今のところ引ける最後のガチャだ。
ガチャガチャ機が目の前に現れ、シエルは緊張した様子でハンドルに手を伸ばす。一方俺は、『棒切れスティくん』を地面に突き立てていた。
ずっとここにいても、増え続けるゴーストに囲まれたら終わり。ならば早めに動いて、ちゃんと安全な所を見つけた方が良い。
「どうせ土地勘のない俺らからしたら、どっちに進んでも同じなんだ。だからお前は、俺たちが道に迷って止まらないよう、進む理由になってくれればいい」
願掛けも兼ねて、スティくんに一通り語りかける。手を離すと、スティくんは手前に向かって倒れた。つまり俺たちが行くべきは後方だ。
一方真横では、シエルがガチャを引き終えていた。
「黄色だ!」
「なっ……」
一回目に『食事ガチャ』を引いた時も黄色のカプセルだったが、結果は『大ハズレ』だった。
仮にカプセルの色が内容を示唆しているのであれば、これは『大ハズレ』のアイテムだ。
「ハズレ?」
俺の反応を見て、シエルが不安げな表情になる。
「いいや、大丈夫だ」
「だよね!」
彼女がカプセルを開ける。中に入ったお馴染みの安っぽい紙に書かれていたのは──……「『激苦ドリンク(500mlボトル)』」
「『アイテムガチャ』にもいるのかよ!」
「やっぱハズレ?」
「案ずるな。いいかシエル、物はなんでも使いようだ。きっと後で役に立つ」
「そうだよね……」
彼女の声色が不安を帯びる。俺にもっと頼り甲斐があれば、と自分の不甲斐なさを悔いた。
排出された『激苦ドリンク』は律儀にボトルに入っていた。『食事ガチャ』はその場での消費、『アイテムガチャ』は持ち運びが想定されているのだろう。
とにかく今は……
「我らが心強い仲間、『棒切れスティくん』が俺たちの真後ろを指した。とにかく突っ切るぞ」
「うん……」
彼女の声色は落ちきっている。
彼女が不安になると、俺も不安になる。
これは良くない。
「いいかシエル。これからするのは、俺とお前と、そしてバケモノ共の三つ巴競走だ」
「──!」
こういう時は楽しいことを考えて笑おう。
楽しくないなら、楽しくしよう。
俺だって不安だ。だけど笑っていなければ、笑って前を見据えなければ、負けてしまう。
さぞこれからお楽しみだと言わんばかりのドヤ顔で、シエルに話しかける。
「容赦はしないぞ。俺はこう見えて負けず嫌いなんだ」
俺が微笑みかけると、
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