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「異世界の楽園」編
1.二時間後
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「ここはどこなんだ……」
俺は今、さんさんと太陽の照りつける砂浜をさまよっていた。
あれから気が付いたらこんな南の楽園みたいな場所にいて、新たな体の軽さや筋肉美を喜んでいたのも束の間。何をしたらいいのか分からず、延々と歩き続けている。
幸い目の前が海なので、暑くなったら水の中に飛び込んで体を冷やすことができる。ひんやりして透明度の高い水は気持ちよく、こんな状況でもこれはこれで楽しい。
「お、あれは!」
ようやく、人の手によるものらしき建造物が見えた。ここからだと、小屋のように見えるが……
「……船? 小屋? なんなんだ、これ」
近づいてみると、砂浜に半ば埋まったような状態にあるそれは、船とも家ともつかないなんとも中途半端な形をしていた。
木のような材料で出来ているものの、相当長い間放置されていた様子なのに腐った様子もなく、結構しっかりと原型を保っている。
扉を見つけたので開けてみると、中からは意外とひんやりした空気が流れてきた。
「おお、た、助かった……」
暑い中を長いこと歩き、いい加減喉の乾きも限界だったところ、なんとそこには瓶詰めの飲み物が。
いつからあるのか知らないが、ワインとかなら数百年腐らないと聞いたし、早速栓を開けて飲んでみる。
「うおおぉぉぉ、甘露甘露」
まさに天の恵み給う雫とはこのこと。心なしか空腹まで癒され、体力も戻ってきた。
「酒じゃないみたいだが、なんだこれ」
瓶に貼ってあったラベルを見てみると、知らない文字が書いてある。が、俺にはちゃんと読むことができた。神様から貰った特典のおかげだな。
「『楽園の泉の水』? 大層な名前だな。とにかく、これだけあればしばらくは大丈夫だろう」
棚には同じ瓶が山ほどある。これで脱水症状の危険はなくなった。
とりあえずここを拠点にして、いろいろ調べてみることにした。
***
まずはこの家(と呼ぶことにした)の中にあるものをチェックする。
広さは一般的な1LDKのマンションくらいで、それが三階分。一階は入り口と食料庫、二階は机とか寝台とかごちゃごちゃ家具があり、そして三階には壁いっぱいの本やら地図やらが置いてあった。また、短剣と弓矢、貫頭衣と和服の中間みたいなデザインの服も見つけている。
現状だと、本はある意味で宝の山より価値がある。この世界のことや今いる場所についてなど、生きていく上で大切な情報を知ることができるからだ。
一冊手にとって目を通し、続いて次の一冊、そしてまた一冊と、読み始めると止まらなくなってしまった。
というのも、歴史や生物、果ては呪文的な学問など、いわゆるファンタジーな話が多くて、俺の趣味にピッタリだったからだ。
「お、もう暗くなる時間か」
そうして夢中になっていると、気が付けばすっかり夜を迎えていた。
分かったことは色々ある。例えば、ここが絶海の孤島で、この家の持ち主だった魔術士は、ここにある泉の水(さっき飲んだやつだ)を求める旅の果てに辿り着いたこと、なのに帰る手段がなくなってしまったこと、などなどだ。その魔術士も、今頃はどこかで土に還っているのかもな……
それから、この世界独特のエネルギーである魔力と、その使い方について。簡単に言えば、基本的に魔力は土地から発生するもので、それを魔法言語によって特定の現象に変換するのが魔術だそうだ。
どうやったら人が土地の持つ魔力を利用できるのかというと、その土地に所有者としての印を刻む必要がある。
また、土地は地形によって生み出す魔力の色が違う。
森林:緑
山岳:赤
湿地:黒
河川:青
平野:白
といった具合だ。他にも、ここに当てはまらない特殊な地形もあるらしい。
そして、この魔力の色はそれぞれ、五系統存在する魔術の色に対応する。
緑魔術:創造を司る、荒ぶる地の力
赤魔術:破壊を司る、荒ぶる地の力
黒魔術:破壊を司る、鎮まる地の力
青魔術:破壊を司る、鎮まる天の力
白魔術:創造を司る、鎮まる天の力
魔術を使うには、それぞれの色に応じた魔力が必要となる。当然、土地を一つ手に入れるのも相当大変であり、多くの魔術士は使える色が限定的になるものなのだが……
「しかし、この島は……」
なんとこの島は、世にも珍しい五色全ての魔力を生み出す土地らしい。島を覆う森、その中央に鎮座する火山、底なしの沼、地下水の湧く湖から海へと流れ出す川、そして森と砂浜の間を繋ぐ平地と、あらゆる地形が揃っているからだ。
「もしかして、ここに送り込まれたのは、この島を俺のものにしていいっていうメッセージなのかもな……」
神様とやらの粋な計らいに感謝しつつ、まずは島中を巡ってみようと決め、今日のところは眠りにつくのだった。
***
翌朝、また一本瓶を開けて飲み干し、昨日見つけた装備と瓶を一本持って、島の探索に向かった。
これからの目的は、まず食料の確保。それから、この島の魔力を使えるようになるために各地形を訪れることだ。
と思っていたら、食料問題はあっという間に解決した。食べられる木の実がわんさか生っている場所を、家のすぐ近くに見つけたのだ。また、川魚や鹿みたいな草食動物も見かけたので、そのうち獲ろうと思う。
木の実をいくつか回収して家に置いてから、再度出発。次の目的は、森の魔力を得ることだ。方法は昨日読んだ本に書いてあった。
どうやるかといえば、まずじっと目を凝らすと見えてくる魔力の流れを追い、それらが最も多く合流している場所まで行く。そして、いわばその土地のへそとも呼ぶべきそこに、俺の血を垂らせばいいらしい。
「こっちかな、っと」
魔力の流れは少しずつ、でも確かに集まりつつある。やがて見えてきたのは、他のどれよりも太く高い、一本の巨木だった。
「なるほど、見るからに分かりやすい」
もはや数え切れないほどの魔力の流れが、その木を中心に渦巻いている。これは間違いないだろう。
近づいていって、短剣で手のひらを切り、滴るままに血で濡れた手を木につく。
その手と触れた部分がパアッと輝いたかと思うと、何かが俺の中に流れ込んでくる感触があった。これが魔力なのか。
こうして、俺はまず一つ目となる緑の魔力を手に入れたのだった。
さて、お次は……
俺は今、さんさんと太陽の照りつける砂浜をさまよっていた。
あれから気が付いたらこんな南の楽園みたいな場所にいて、新たな体の軽さや筋肉美を喜んでいたのも束の間。何をしたらいいのか分からず、延々と歩き続けている。
幸い目の前が海なので、暑くなったら水の中に飛び込んで体を冷やすことができる。ひんやりして透明度の高い水は気持ちよく、こんな状況でもこれはこれで楽しい。
「お、あれは!」
ようやく、人の手によるものらしき建造物が見えた。ここからだと、小屋のように見えるが……
「……船? 小屋? なんなんだ、これ」
近づいてみると、砂浜に半ば埋まったような状態にあるそれは、船とも家ともつかないなんとも中途半端な形をしていた。
木のような材料で出来ているものの、相当長い間放置されていた様子なのに腐った様子もなく、結構しっかりと原型を保っている。
扉を見つけたので開けてみると、中からは意外とひんやりした空気が流れてきた。
「おお、た、助かった……」
暑い中を長いこと歩き、いい加減喉の乾きも限界だったところ、なんとそこには瓶詰めの飲み物が。
いつからあるのか知らないが、ワインとかなら数百年腐らないと聞いたし、早速栓を開けて飲んでみる。
「うおおぉぉぉ、甘露甘露」
まさに天の恵み給う雫とはこのこと。心なしか空腹まで癒され、体力も戻ってきた。
「酒じゃないみたいだが、なんだこれ」
瓶に貼ってあったラベルを見てみると、知らない文字が書いてある。が、俺にはちゃんと読むことができた。神様から貰った特典のおかげだな。
「『楽園の泉の水』? 大層な名前だな。とにかく、これだけあればしばらくは大丈夫だろう」
棚には同じ瓶が山ほどある。これで脱水症状の危険はなくなった。
とりあえずここを拠点にして、いろいろ調べてみることにした。
***
まずはこの家(と呼ぶことにした)の中にあるものをチェックする。
広さは一般的な1LDKのマンションくらいで、それが三階分。一階は入り口と食料庫、二階は机とか寝台とかごちゃごちゃ家具があり、そして三階には壁いっぱいの本やら地図やらが置いてあった。また、短剣と弓矢、貫頭衣と和服の中間みたいなデザインの服も見つけている。
現状だと、本はある意味で宝の山より価値がある。この世界のことや今いる場所についてなど、生きていく上で大切な情報を知ることができるからだ。
一冊手にとって目を通し、続いて次の一冊、そしてまた一冊と、読み始めると止まらなくなってしまった。
というのも、歴史や生物、果ては呪文的な学問など、いわゆるファンタジーな話が多くて、俺の趣味にピッタリだったからだ。
「お、もう暗くなる時間か」
そうして夢中になっていると、気が付けばすっかり夜を迎えていた。
分かったことは色々ある。例えば、ここが絶海の孤島で、この家の持ち主だった魔術士は、ここにある泉の水(さっき飲んだやつだ)を求める旅の果てに辿り着いたこと、なのに帰る手段がなくなってしまったこと、などなどだ。その魔術士も、今頃はどこかで土に還っているのかもな……
それから、この世界独特のエネルギーである魔力と、その使い方について。簡単に言えば、基本的に魔力は土地から発生するもので、それを魔法言語によって特定の現象に変換するのが魔術だそうだ。
どうやったら人が土地の持つ魔力を利用できるのかというと、その土地に所有者としての印を刻む必要がある。
また、土地は地形によって生み出す魔力の色が違う。
森林:緑
山岳:赤
湿地:黒
河川:青
平野:白
といった具合だ。他にも、ここに当てはまらない特殊な地形もあるらしい。
そして、この魔力の色はそれぞれ、五系統存在する魔術の色に対応する。
緑魔術:創造を司る、荒ぶる地の力
赤魔術:破壊を司る、荒ぶる地の力
黒魔術:破壊を司る、鎮まる地の力
青魔術:破壊を司る、鎮まる天の力
白魔術:創造を司る、鎮まる天の力
魔術を使うには、それぞれの色に応じた魔力が必要となる。当然、土地を一つ手に入れるのも相当大変であり、多くの魔術士は使える色が限定的になるものなのだが……
「しかし、この島は……」
なんとこの島は、世にも珍しい五色全ての魔力を生み出す土地らしい。島を覆う森、その中央に鎮座する火山、底なしの沼、地下水の湧く湖から海へと流れ出す川、そして森と砂浜の間を繋ぐ平地と、あらゆる地形が揃っているからだ。
「もしかして、ここに送り込まれたのは、この島を俺のものにしていいっていうメッセージなのかもな……」
神様とやらの粋な計らいに感謝しつつ、まずは島中を巡ってみようと決め、今日のところは眠りにつくのだった。
***
翌朝、また一本瓶を開けて飲み干し、昨日見つけた装備と瓶を一本持って、島の探索に向かった。
これからの目的は、まず食料の確保。それから、この島の魔力を使えるようになるために各地形を訪れることだ。
と思っていたら、食料問題はあっという間に解決した。食べられる木の実がわんさか生っている場所を、家のすぐ近くに見つけたのだ。また、川魚や鹿みたいな草食動物も見かけたので、そのうち獲ろうと思う。
木の実をいくつか回収して家に置いてから、再度出発。次の目的は、森の魔力を得ることだ。方法は昨日読んだ本に書いてあった。
どうやるかといえば、まずじっと目を凝らすと見えてくる魔力の流れを追い、それらが最も多く合流している場所まで行く。そして、いわばその土地のへそとも呼ぶべきそこに、俺の血を垂らせばいいらしい。
「こっちかな、っと」
魔力の流れは少しずつ、でも確かに集まりつつある。やがて見えてきたのは、他のどれよりも太く高い、一本の巨木だった。
「なるほど、見るからに分かりやすい」
もはや数え切れないほどの魔力の流れが、その木を中心に渦巻いている。これは間違いないだろう。
近づいていって、短剣で手のひらを切り、滴るままに血で濡れた手を木につく。
その手と触れた部分がパアッと輝いたかと思うと、何かが俺の中に流れ込んでくる感触があった。これが魔力なのか。
こうして、俺はまず一つ目となる緑の魔力を手に入れたのだった。
さて、お次は……
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