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6.新人冒険者は貴族の家出人と発覚する
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その後、魔物のドロップ品を引き取ってもらって小金を手に入れたグライクは、ファムファの案内で宿に向かうことにした。
「また来いよ!」
ショーニンの声を背中に受けながら、二人は店を出る。
「……やっぱり、コイツに付いていくことにして正解だったニャア」
「何か言った?」
「なんでもニャイ!」
しめしめと薄ら笑いを浮かべるファムファの後ろを歩きながら、グライクはグライクで喜びと驚きと戸惑いを噛み締めていた。
(これだけのアイテムがあれば、きっと迷宮の覇者として名を上げられる! でも、自分の力だとは言えない……それじゃあ意味がないんだ……!)
しばらく歩いて、二人は宿屋についた。そこは小さめで控えめな外装ながら、歴史を感じさせる良い寂れ方をした建物で、グライクも一目で気に入った。
「ここがあたしの常宿ニャンだ。外見はこんなでも、部屋は綺麗だし、ご飯も美味しいよ」
「へ~、確かに良さそうだ」
その時、グライクは宿屋の窓ガラスに少し気になるものが映った気がして、ふと振り返る。
「どうしたニャ?」
「……いや、なんでもない。気のせいかな?」
それから宿屋の中に入って、受付で一週間分の予約を頼む。
「一週間ですね。一人部屋と二人部屋がありますが、どうなさいますか?」
「あ、一人部屋で――」
「二人部屋にするニャ!」
自分の言葉を遮って身を乗り出したファムファに、グライクは驚きの目を向ける。
「いやいや、別がいいでしょう!」
「一つのベッドで寝るわけでなし、仲間なんだからカタいこと言うのはなし! あ、料金は建て替えといて~」
「やっぱりそれが狙いか!」
と、そこへ。
「そこな下郎! 若様と相部屋など、この私が許しません!」
扉をバンッと勢いよく押し開けてそう叫んだのは、一人の女であった。
「若様! ご無事で嬉しゅうございます!」
「げ! ヤマトナ! どうしてここに?」
黒髪黒目のその女は、感涙にむせびながらグライクに駆け寄って抱きつく。
「若様が出奔されてからというもの、このヤマトナは気が気でありませんでした。噂を辿ってお探しに参り、とうとう先程お見かけして、まさかと思いながらついてまいりました! こうしてお会いできて幸せにございます。ささ、お屋敷へ帰りましょう。今ならお父上もきっとお許しくださいますよ」
「いや、俺は一人で生きていくって決めたんだ。もう戻るつもりはないよ」
「何を仰います! 若様、どうかお考え直しを……世俗は危険でいっぱいです。もうこんな虫がくっついてしまっておるではありませんか。しっしっしっ」
ファムファは自分が虫と呼ばれたことに大いに憤慨し、声を荒らげてヤマトナという女に噛み付く。
「んニャーにを! いきなり現れてなんだ! グライクはあたしとパーティを組むって決めたんだい! それを後から現れて、あんた何様?」
「下がりなさい下郎! 私はゲイム家にお仕えする者です! ロー様はゲイム家の大事なご嫡子! あなたなんかが口をきいて良い相手ではないのです!」
「ご嫡子って……もう。ヤマトナ! 俺はもうあの家とは縁を切ったんだ。ほっといてくれよ」
グライクの言葉を聞いたヤマトナは、ファムファに対する剣幕はどこへやら、よよと泣き崩れた。
それを見たグライクは慌て、今度は少し声音を変えて優しく語りかける。
「いや、ずっとかどうかはアレだけど、とにかく俺が俺として名を上げるのが、今の目標なんだ。分かってくれるよね」
「……分かりました」
するとヤマトナは顔を上げ、キリッと言い放つ。
「斯くなる上は、不肖このヤマトナもご一緒いたします! 一日でも早くご家族のもとへ帰られるよう、全力でのご助力を誓いますわ!」
それからファムファに向き直り、こう続ける。
「あなたにもご協力頂きますからね! 若様のお役に立てるなど、身に余る光栄と思いなさい」
呆気にとられたグライクとファムファは顔を見合わせ、ついでグライクが深いため息ののちにこう答えた。
「あんまり気乗りはしないけど、これ以上騒がしくされるよりヤマトナも仲間に入れたほうがよさそうだ。でも、冒険者は危険な職業だよ? 分かってる?」
「ふふふ、若様。ご心配無用です。私はこう見えて武芸百般を修めております。そうでなくては若様の御付きなど任されましょうか」
「それなら、まあ……」
「ちょっと待ってほしいニャ! あたしの意見は?」
「あ、嫌ならファムファは別に無理して一緒に来なくても――」
「分かった! 仲良くやるニャ! ところで、若様って呼ばれるグライクって何者ニャン? ゲイム家って?」
「まあまあ、それはおいおい話すから」
こうして三人は、共に迷宮に命をかけることとなったのだった。
###
(こいつは一体何者ニャンだ? 最初に見かけたときは、どこにでもいるような新人にしか思えなかったけど……訳の分からないほどオーラのあるアイテムを持ってるし、こんな付き人が追ってくるし……)
立て続けに起こる異常事態に、ファムファの心は揺れていた。
己だけを頼りに裏街道を生きてきた彼女にとって、グライクのような世間知らずは絶好のカモである。そのはずだった。
警戒されているとはいえ、値打ちものを強奪して逃げる、という手もある。普段ならそうするところだ。
しかし、今回は何かが違う、と本能が訴えてくる。生き残ることに特化した、彼女の本能が。
ファムファは、それを信じてみることにした。
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「また来いよ!」
ショーニンの声を背中に受けながら、二人は店を出る。
「……やっぱり、コイツに付いていくことにして正解だったニャア」
「何か言った?」
「なんでもニャイ!」
しめしめと薄ら笑いを浮かべるファムファの後ろを歩きながら、グライクはグライクで喜びと驚きと戸惑いを噛み締めていた。
(これだけのアイテムがあれば、きっと迷宮の覇者として名を上げられる! でも、自分の力だとは言えない……それじゃあ意味がないんだ……!)
しばらく歩いて、二人は宿屋についた。そこは小さめで控えめな外装ながら、歴史を感じさせる良い寂れ方をした建物で、グライクも一目で気に入った。
「ここがあたしの常宿ニャンだ。外見はこんなでも、部屋は綺麗だし、ご飯も美味しいよ」
「へ~、確かに良さそうだ」
その時、グライクは宿屋の窓ガラスに少し気になるものが映った気がして、ふと振り返る。
「どうしたニャ?」
「……いや、なんでもない。気のせいかな?」
それから宿屋の中に入って、受付で一週間分の予約を頼む。
「一週間ですね。一人部屋と二人部屋がありますが、どうなさいますか?」
「あ、一人部屋で――」
「二人部屋にするニャ!」
自分の言葉を遮って身を乗り出したファムファに、グライクは驚きの目を向ける。
「いやいや、別がいいでしょう!」
「一つのベッドで寝るわけでなし、仲間なんだからカタいこと言うのはなし! あ、料金は建て替えといて~」
「やっぱりそれが狙いか!」
と、そこへ。
「そこな下郎! 若様と相部屋など、この私が許しません!」
扉をバンッと勢いよく押し開けてそう叫んだのは、一人の女であった。
「若様! ご無事で嬉しゅうございます!」
「げ! ヤマトナ! どうしてここに?」
黒髪黒目のその女は、感涙にむせびながらグライクに駆け寄って抱きつく。
「若様が出奔されてからというもの、このヤマトナは気が気でありませんでした。噂を辿ってお探しに参り、とうとう先程お見かけして、まさかと思いながらついてまいりました! こうしてお会いできて幸せにございます。ささ、お屋敷へ帰りましょう。今ならお父上もきっとお許しくださいますよ」
「いや、俺は一人で生きていくって決めたんだ。もう戻るつもりはないよ」
「何を仰います! 若様、どうかお考え直しを……世俗は危険でいっぱいです。もうこんな虫がくっついてしまっておるではありませんか。しっしっしっ」
ファムファは自分が虫と呼ばれたことに大いに憤慨し、声を荒らげてヤマトナという女に噛み付く。
「んニャーにを! いきなり現れてなんだ! グライクはあたしとパーティを組むって決めたんだい! それを後から現れて、あんた何様?」
「下がりなさい下郎! 私はゲイム家にお仕えする者です! ロー様はゲイム家の大事なご嫡子! あなたなんかが口をきいて良い相手ではないのです!」
「ご嫡子って……もう。ヤマトナ! 俺はもうあの家とは縁を切ったんだ。ほっといてくれよ」
グライクの言葉を聞いたヤマトナは、ファムファに対する剣幕はどこへやら、よよと泣き崩れた。
それを見たグライクは慌て、今度は少し声音を変えて優しく語りかける。
「いや、ずっとかどうかはアレだけど、とにかく俺が俺として名を上げるのが、今の目標なんだ。分かってくれるよね」
「……分かりました」
するとヤマトナは顔を上げ、キリッと言い放つ。
「斯くなる上は、不肖このヤマトナもご一緒いたします! 一日でも早くご家族のもとへ帰られるよう、全力でのご助力を誓いますわ!」
それからファムファに向き直り、こう続ける。
「あなたにもご協力頂きますからね! 若様のお役に立てるなど、身に余る光栄と思いなさい」
呆気にとられたグライクとファムファは顔を見合わせ、ついでグライクが深いため息ののちにこう答えた。
「あんまり気乗りはしないけど、これ以上騒がしくされるよりヤマトナも仲間に入れたほうがよさそうだ。でも、冒険者は危険な職業だよ? 分かってる?」
「ふふふ、若様。ご心配無用です。私はこう見えて武芸百般を修めております。そうでなくては若様の御付きなど任されましょうか」
「それなら、まあ……」
「ちょっと待ってほしいニャ! あたしの意見は?」
「あ、嫌ならファムファは別に無理して一緒に来なくても――」
「分かった! 仲良くやるニャ! ところで、若様って呼ばれるグライクって何者ニャン? ゲイム家って?」
「まあまあ、それはおいおい話すから」
こうして三人は、共に迷宮に命をかけることとなったのだった。
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(こいつは一体何者ニャンだ? 最初に見かけたときは、どこにでもいるような新人にしか思えなかったけど……訳の分からないほどオーラのあるアイテムを持ってるし、こんな付き人が追ってくるし……)
立て続けに起こる異常事態に、ファムファの心は揺れていた。
己だけを頼りに裏街道を生きてきた彼女にとって、グライクのような世間知らずは絶好のカモである。そのはずだった。
警戒されているとはいえ、値打ちものを強奪して逃げる、という手もある。普段ならそうするところだ。
しかし、今回は何かが違う、と本能が訴えてくる。生き残ることに特化した、彼女の本能が。
ファムファは、それを信じてみることにした。
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