「落ちこぼれ扱い」だった新人冒険者、悪魔の商人からぶっ壊れ性能アイテムを手に入れて無双する/ロー・グライクの奇妙な迷宮探索記

横山剛衛門

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8. 新造パーティ、迷宮の中ボスに挑む

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 三人の今日の目標は、次の第二階層への門を守る中ボスの打倒だった。潜るごとに変化する迷宮ながら、こうした中ボスや最後の大ボスの存在は不変となっている。
 その中ボスとは、牛頭人体の怪物、ミノタウルス。巨体と戦斧が武器の、野蛮な魔物である。
 魔術は使わないが、一方で魔術への耐性が高い。非力な魔術師単体では堅牢な守りを突破できないので勝ち目がなく、かといって生半可な戦士でも力負けするのが濃厚という難敵。そのため、下層を目指すパーティへの試金石としてふさわしい障壁と言える。

「確認だけど、俺たちは誰も魔術が使えないよね? その上で考えると、どういう作戦がいいかな」
「うーん、ヤマトナの鞭で足止めしたところにあたしの投げナイフで目を潰して、隙が出来たときに剣で致命傷を与えるとかかニャ?」
「いっそ猫獣人が捨て身で突撃するというのはどうでしょう? 無理そうならば若様と私は撤退しますわ」

 ファムファを捨て石にしようとするヤマトナを白い目で見つつ、グライクはあることを試そうと考えていた。

「えっと、それだとやっぱり近づかなきゃいけないから、どうしても向こうの攻撃に当たっちゃうリスクがあるよね。だから、もっと安全にいけたらって思ってて。それに実は、まだいいアイテムがあってさ」
「……ニャンと」
「……それは、あの店で見せたアイテムと同じくらいにでしょうか?」

 怪しく目を光らせるファムファと、スッと目を細めたヤマトナの前に、グライクは四次元袋から取り出した一つのアイテムを示した。


【創造の壺】
 等級:神話レジェンズ
 解説:中に入れたものを二つにする。


「中のものを二つにする、って説明だと、二つの意味に取れるんだよね。で、もし同じものを二つにできる、って意味の方だとしたら……ちょっと作戦があるんだ」

 アイテムについても自分の意図についても理解が追いつかない二人に、グライクは詳しい説明を続ける。

「――という感じなんだけど」
「なるほど……それならいけそうだニャア」
「さすが若様、素晴らしい作戦です!」

 二人の賛成を確認したグライクは、作戦の要となるあるものを四次元袋から取り出す。

「こいつを買っておいてよかった。切り札は持っておくもんだね」


【火の玉】
 等級:普遍コモン
 解説:油で満たされた丸い瓶の中に火精石が入れてある。衝撃を与えると爆発する。


 要は手投げの爆弾である。消耗品であり、そこまで火力が強いわけでもないが、値段は高いので、新人にはそうそう気軽に使えるアイテムではない。
 が、もし無限に手に入るとなれば、戦闘時の作戦の種類と勝率が一変するだろう。

「じゃあ、試しに入れてみるね」

 高いといってもコモン級のアイテムであるから、もし失ってもまた買えばいい。そうして創造の壺を試してみた結果――
 グライクの手の中には今、二つの火の玉が握られている。

「よし、成功だ!」
「これでさっきの作戦は実行できますね!」
「すごいニャア!」

 ひとしきり喜び合った後、三人は再び迷宮の奥へと足を向けた。



 しばらくして、三人は大きな門の前に辿り着いた。その門にはなにやら古代文字による警句らしきものと、牛頭の魔物が描かれている。

「よし、ここで間違いなさそうだ」
「いよいよですね!」
「ダメだったらすぐ逃げるからニャ?」

 重い扉を押し開くと、中には暗闇が広がっている。

「みんな、俺の後についてきて」

 グライクを先頭に、三人が部屋の中に入り切ったとき、扉はひとりで閉まり、ガチンッ、と鍵のかかる音が響いた。

「あ、そうそう。あっちが死ぬか、こっちが全滅するまで、ここは開かないらしいね」
「じゃあ逃げられないニャ! 何で言わないニャ!」
「忘れてたんだって」
「――来ます!」

 騒ぐファムファを無視し、グライクとヤマトナは暗闇の奥を見た。
 左右の壁に灯りが一人でにともっていき、部屋の中が明るくなる。
 部屋の中央には玉座が設えられており、その向こうに大きな階段がある。
 玉座に座っていたミノタウルスはゆっくりと起き上がると、傍らの大戦斧を持ち上げ、三人をを見下ろした。

「――ブオオオオオオオオォオォォォ!!!」

 そして激しく唸り声を上げ、ズシズシと重い足音を響かせながら侵入者に迫ってきた。

「みんな、作戦通りにね」
「覚悟は出来ております!」
「こうなったらやるっきゃニャイ!」

 迎え撃つグライクは、まず四次元袋からとあるアイテムを取り出した。

「これも買っといて良かった!」


【聖水】
 等級:普遍コモン
 解説:聖なる力で浄められた水。振りかけると、一定時間魔物が寄り付けなくなる。


 これは魔物除けや即席の結界に使われるもので、効果が切れるまでは短い時間ながら一方的に攻撃できる。
 グライクはミノタウルスが近づく前に、彼我を分かつように聖水を振り撒いた。

「よし、中ボスにも聖水は効いてる!」

 目前まで迫りつつあったミノタウルスは最初の勢いを失い、三人の前をうろつきだす。

「では若様、次は例のものを!」
「あいよ!」

 続いてグライクは創造の壺と火の玉を取り出し、何度も出し入れを繰り返して量産する。

「オッケー、どんどん投げてって!」
「はい!」
「了解ニャア!」


 ズズン、と重厚な爆発音が部屋に響き、生まれ出た爆炎と爆煙の向こうでミノタウルスがギロリと三人を睨み付ける。
 しかし、聖水が左右の壁から壁へ届くよう撒かれたことにより、グライクたちに刃を届かせることは叶わない。
 
 そのまま、ヤマトナとファムファがミノタウルスに火の玉を投げ続けることしばらく。
 一発一発の威力は大したことがないが、チリも積もれば何とやら。延々と投げ続けられればさすがの中ボスもついには倒れ、光の粒となって消え去った。ミノタウルスを作り上げた迷宮の魔力へと戻ったのである。

「よっしゃ! 作戦成功だ!」
「お見事です! 若様!」
「ふぃー、やれやれだニャア」

 斯くして、グライクたちはこの迷宮における最初の関門を、易々と突破したのだった。


###


「あーもう、なんて勝ち方だ。みっともない。もっと上手いやりようがあるだろうに」

 グライクたちとミノタウルスの戦いを、不可思議な方法で監視していた存在が、暗闇の中でぼやく。

「ま、この程度の存在であるからこそ、これからが面白くなるってもんだけどな。だから選んだのだし」

 闇に潜むこの魔の王は、迷宮を支配する、旧世界よりの破カイ者。
 かつて自身に挑んだ多くの武者や賢者たちの遺物を迷宮に撒き、新たなる強者を求めている。やがてその者が、自らのもとに辿り着くことを期待して。

 そして、偶然に見せかけてグライクにパワー・ナインのアイテムを与えたのが、この存在だった。

 そうすることに、一体どんな意味があるというのか。
 真の目的は、誰も知らない。


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