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20.知恵と勇気とアイテムを駆使して弱点を狙う
しおりを挟むグライクが起死回生の一手を練る時間を稼ぐため、全力でボスワームから逃げ回るファムファとヤマトナ。
幸い、猫獣人と忍者メイドである二人は俊敏さには自信があった。しかし不幸なことに、ファムファは体力に難があった。
すでに、ゼェー、ゼェー、と荒い息を吐きながら足を震わせている。
「も、もう限界だニャ……!」
「ちっ、不甲斐ない奴め。そこで休んでろ! おい蛇畜生、こっちだ!」
ついにファムファの足が止まりそうになったのを見て、ヤマトナは鞭でボスワームを叩いて注意を引きつけた。
狙い通りボスワームは怒りもあらわに急速方向転換、目標をヤマトナへと切り替える。
その隙にファムファは草むらへの飛び込み、ひとまず難を逃れた。
しかし、これまで二人かがりで行っていた陽動を、今からは一人でしなくてはいけない。いくら熟練の忍者メイドであるヤマトナといえど、あまりに荷が勝つ修羅場となった。
「やば! ヤマトナ、待ってて……!」
取り出した創造の壺に、以前ファムファにも作った呪いのナイフを入れるグライク。そうしてどんどんどんどん数を増やしていき、ついに百を超えた。
「ひとまずこれでよし! マシンマル、出番だ!」
「ゴ・ゴ!」
グライクが言霊を捧げると、マシンマルは光って分裂を始め、分裂可能最大数となる百二十体が勢揃いする。
その一体一体に呪いのナイフを渡し、グライクはこう命令した。
「全員、逆鱗に狙いを定めて攻撃しろ!」
「ゴ!」
逆鱗がどこにあるかは分からなくても、ナイフが持つ特性を利用することで、その位置を探れるかもしれないとグライクは考えたのだった。
ただし『必中』ではなく『自動追尾』なので、仮に逆鱗を特定できたところで必ずしも命中するとは限らない。それを数で補うという作戦である。
それも、百二十という数ともなれば--
「グギャアアアアアア!」
「よし!」
投じたナイフの大半はボスワームの動きについていけずに弾かれてしまったものの、いくつかは顎の下に当たり、そしてそのうちの一つが、逆鱗に突き刺さったらしい。
ボスワームは甲高い叫び声を上げ、目にも明らかに悶え始める。
「若様……お見事!」
一人でボスワームの相手になり、ほとんど追い詰められる寸前だったヤマトナが、満身創痍ながらに称賛する。
ファムファに至っては酸欠からもはや気絶寸前の状態で、グッタリと横たわっていた。
「やれやれ、これでひと安心……んん?」
たが。急所を突かれたはずのボスワームは、ワナワナと小刻みに震えながら、グライクを強く睨めつけた。
「あれ……? 逆鱗に命中したはずじゃ……? どうなってんの?」
実際、確かにマシンマル109号が投じたナイフは、逆鱗に突き刺さっていた。
しかし、そもそも、逆鱗とは弱点ではなかったのである。竜にとって逆鱗とは、単に触れられるのを嫌うだけの、いわばデリケートゾーン。そこに触れることは、死を意味する--触れた者の死を。
「ゴガアアアアアアアア!」
情報は生死を左右する。そんな当たり前のことを改めて実感しながら、グライクは怒り狂うボスワームの追撃を避けるべく駆け出した。
荒鬼霊主の靴を履いているため、最初の五歩を行く間は余裕を持って距離を開けられた。
しかし、それ以上はスピードをコントロールできず、一度足を止める必要がある。そしていくら広いとはいえ、ここは迷宮という有限の空間である。その隙に一気に距離を詰められ、隅に追いやられたグライクは、いまや絶体絶命の状況に陥った。
「若様……くっ、こっちだ蛇畜生、かかって来い! どうした!」
いくらヤマトナが鞭を唸らせても、ボスワームは見向きもしない。逆鱗に触れられた怒りは、他の全てを忘れさせるのだ。
それほどの憤怒に狙われたグライクは、一目散に逃げたためにマシンマルとも離れ、我が身を守るものはただ己の力のみ。
最後の希望はズーニーに頼ることかと、グライクがいよいよ観念した、その時。
「ヤオヨロズ……? 光ってる?」
腰にさした竜剣ヤオヨロズが、最初は仄かに、やがて激しく、青い光を放ち始める。
「抜けってことか?」
ヤオヨロズの放つ神秘のオーラに気圧されたのか、ボスワームが固まっている隙に、グライクは剣を抜く。
すると、刀身が青い光に染まるヤオヨロズが、はっきりとした意志を感じさせる声でグライクに語りかけた。
「我が主人、ロー・グライクよ。たかがあの程度の蛇如きを畏れ召されるなかれ。このヤオヨロズがその手にあるなれば」
「お、おお。そうは言っても俺の腕じゃ君をあいつに当てることすら……」
「しからば、ご無礼仕り候」
「んんん? --っ!!??」
一際強く眩い光が辺りを照らし、グライクもボスワームすらも目を瞑った。
そして、再び目を開いた時。
青々と輝くグライクの瞳は、これまでとはまるで異なる意志を感じさせる。
その青さは、まさしく先ほどのヤオヨロズの輝きと同じ色である。
その不可思議な現象をきっかけにはたと気づいたようにボスワームが繰り出した攻撃を、グライクはひらりと軽やかにかわしてみせる。それは先ほどまでとはまるで別人の如き身のこなしだった。
「こ、これは?」
「我が身に残りし剣の術理を、お伝えして候。御注意召され、そう長くは持ちませぬ故」
「えっと、今は剣の達人になってるけど、時間制限があるってこと?」
「左様にござる」
喋る剣という奇怪な存在を不思議に思う暇はなかった。ボスワームはなおもグライクに怒りの一撃をもたらさんと迫ってくる。
決着の時もまた、迫っていた。
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