33 / 39
29.死者の王との決戦
しおりを挟むあくまでゆっくりと。悠然と、グライクは足を進める。
その先に待つリッチもまた、ゆっくりと玉座から立ち上がる。
グライクの天眼は、あらゆるものを見通す。それは敵の隙であり、弱点であり、また逆に敵の攻め手の防ぎ方であり、そうした戦いに勝つのに必要な全てを教えてくれる。
が、今この場において、グライクには何も見えていなかった。
正確に言えば、見えた端から変わっていくのだ。リッチは、グライクに対してあらゆる攻め手を瞬時に思考し、またあらゆる防ぎ手を瞬時に思考していたからだ。
刻一刻と未来が変わり、かつてない強敵に対して打つべき手か定まらない。そんな死地にあって、それでも、グライクは静かに進んでいた。
「間合いだね」
「クカカカ」
ついに、両者の間の距離は必要最小限にまで圧縮された。
立ち上がったリッチが、はるかに背の低いグライクを見下ろす形になる。その手には、禍々しい大鎌。命を刈り取る形をした、太古からの魔の力を持つアイテムである。
構えた、と思った時には、大鎌は振り抜かれていた。しかしグライクも瞬時にヤオヨロズでそれを受け止め、遅れて刃と刃の衝突する甲高い金属の悲鳴が部屋に満ちた。
「今のは見えたよ。それに、間に合う。さあ、次はこっちの番だ」
「カカカカカカ」
竜人の肉体と竜剣ヤオヨロズに、天眼という人知を超えたスキルが加わったからこその、埒外の動作である。
しかし、髑髏の空洞から響く笑い声は、あくまで喜色を隠さない。それは、久方ぶりの相手に対する喜びか、はたまた、単に命を刈り取ることへの悦びか。
ふ、とグライクの顔に笑みが差した。そして、次の刹那に、その場から全身が消失した。
「カッ」
再び現れたグライクの姿は、リッチの遙か後方。玉座の上にあった。彼が振り返ったタイミングで、ゆっくりと、リッチの頭が首からずり落ちていく。
そして、その頭が地面に落ちようとしたとき。なんと、リッチの右手が動いてそれを受け止めた。
頭は再び首の上に戻されると、僅かに煙のような何かが湧き上がり、瞬時に元通りに接着する。
「死者の王、だもんね。この程度じゃ死なないか」
「クカカカカ、クカカカカカカカ!!!!」
髑髏の奥から哄笑を上げたリッチは大鎌を突き出し、ヒトの耳には聞き取れぬ不可解な言語で呪文を唱え始めた。
「こっちも本気で行くよ。さあ、ヤオヨロズよ。力を貸してくれっ!」
「いざ、承りまして候!」
グライクの目にヤオヨロズの力が加わり、ついに最終決戦が幕を開けた--
「し、しぶとかった……」
グライクとリッチの戦いは、まさに死闘を極めた。
リッチの放つ太古の禁呪をグライクの振るうヤオヨロズが断ち続け、一方でグライクの斬撃と各種アイテムによるコンボをリッチの不死性と魔術が防ぎ切った。
共に一撃必殺の力を持ちながらも決して有効打を許さない一進一退の攻防は百合を超え、千合にも届かんという数を積み重ねた。
均衡を破ったのは、グライクが手に入れたパワー・ナインの最後の一つ、【最後の聖杯】であった。
【最後の聖杯】
回数:∞
等級:神話
解説:神より下されし聖なる杯。この杯に汲まれた液体は、それがただの水であっても、あらゆる病と傷を癒し、あるいは死者に命を与える霊薬と成る。
とうとう魔力の尽きたリッチの大鎌をヤオヨロズで抑えたところで、グライクはこの聖杯で作り出したエリクサーを振りまいた。
死者に命を与えれば、すなわち生者となる。死者としての特性を失ったリッチは、不死性を失った単なる怪物となった。
そして、グライクの秘密兵器である七死刀が居合にて振り抜かれ、死の限界をオーバーロードさせることで、復活も許さぬ完全な決着を押し付けたのだった。
「お見事にございます、若様!」
「ひゃあああ、たまげたニャア」
「ゴ! ゴ!」
他の三名は戦いについてゆけず、ひたすら自分の身を守ることにだけ専念しながらグライクを見守っていた。
戦いが終わった今、彼らの前には、迷宮の更なる深部への道が開けている。
ちなみに、リッチのドロップアイテムは、得物であった大鎌と、その頭を飾っていた王冠である。
【死神の大鎌】
攻撃力:+66
等級:伝説
解説:死の神が天命を全うした生者の魂を刈り取るのに使う鎌。その刃はヒトの身とこの世のモノでは防ぐことができない。
【不死王の冠】
等級:伝説
解説:禁呪を重ねて作られた環。被った者の魂を奪い、代わりに不死性と強靭な力を与える。
いずれもグライクの四次元袋へと仕舞うと、三人はこの先へと続く扉を見据えた。
「この階層で終わりかニャ?」
「行けば分かるさ。迷わず行こう」
「若様について参ります!」
ボスの玉座の後ろにあった記録石の先は、上でも下でもなく、地面と真っ直ぐに続いている。これまでと違う様子に、ついにこの冒険が終わりを迎えたのかと一行の期待は高鳴っていく。
そうして、光が差し込んでくるその先へと、グライクは足を進めていくのであった。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる