上 下
37 / 39
本編

37.天使と悪魔4

しおりを挟む
 アビの矢の狙いは、まずメズにつけてもらう。二人掛かりで雑魚からちょちょいと片付けて、天使様とやらはメインディッシュといこう。
 アビの腕前なら狙った的は外さないーー避けられさえしなければ。
 逆に言えば、相手は絶対に避けるということ。そしてその動きを先読みすれば……

「イヌイ、今です!」

「おう、任せろ!」

 こっちの思惑通りの場所に追い込むことができる! いかに速かろうが、いる場所とタイミングさえ分かれば斬ることは難しくない。

「ウギャアアアア」

 とはいえ、メズがここに来て一番のスピードを出してきたせいで、急所は外してしまった。失敗失敗。

「すまんアビ! もう一度頼む!」

「はい、任せてください!」

 それでも、俺とアビのコンビネーションにメズは全くついてこれていない。このままもう一度……と思ったら、そうは問屋が卸さんのも当然の展開だった。

「ぐっ⁉︎」

「イヌイ! 大丈夫ですかっ⁉︎」

 天使様もただ黙って見てるわけがない。極太の光線攻撃を頭上の死角から不意打ちで食らってしまい、全身に痛みが走る。

「グフゥ、効いたわ。アビは喰らわないほうがよさそうだよ」

 天使は伊達じゃない、といったところか、これまで受けた中じゃピカイチの威力だった。光となると避けるのも難しいし。
 でも、さすがにこの威力の攻撃を連発できはしないようで、天使様は溜めに入る。今がチャンスとも言えるわな。

「でも大丈夫、まずはこのまま雑魚に集中だ!」

「はいっ!」

 気を取り直してメズに狙いを定め、痛みで呻いて動けなさそうなところを、アビの矢が襲う。

「ガウウウウウ!」

 なんかもう天使の使徒っていうより悪魔憑きみたいな反応だ。てか、やっぱりこいつら……天使じゃないんじゃねえの?
 あるいは、天使は天使でも、堕天使なんでは?
 実は、光線もよく見ると灰色っぽいんだよね。

「はいそこ! これで、おわ、り!」

 ただでさえこっちのコンビネーションに対応できなかったのに、弱ってる今、メズにはもうどうにもできない。

「グワアアアアア……テ、テンシサマァ、イマイチド……オチカラヲ……」

 袈裟懸けに真っ二つにされたメズの最期の言葉にも、天使様はまるで反応しない。使えない奴にかける慈悲はないってことか。
 メズ、利用されるだけ利用されて、かわいそうに。結局、治療師を脅迫してた件については聞けなかったな。
 天使様に直接聞くとするか。言葉分かるか分からんけど。

「おら、残るはお前だけだ」

 ビシッと剣先を突き付けて挑発する。すると、天使様はひと際輝きを強めながら地上に降りてきた。
 眩しい中で目を凝らすと、巨大だった姿が縮んで人っぽく変わってる。

『あの程度の小物ではやはり役に立たぬか。致し方あるまい、次は貴様を我が使徒としてくれる。光栄に思うが良い』

 お、今度はちゃんと分かる言葉で話しかけてきた。最初からそうしろっての。

「いきなり何抜かす。そもそもお前の目的はなんなんだ。治療師達を虐めてどうするつもりだった?」

 ここぞとばかりに聞く俺。

『知りたいか? 教えてやろう。我は治療師どもの白の魔力を必要としておるのだ。全ては我が神となるためよ。この身を天使の座より堕としめた世界に復讐を果たし、新たな世界を切り開くためのな』

 うーん、詳しい事情はさっぱり分からんが、要するにこいつのワガママってことだろう。
 こいつ、やっぱり斬った方がいいな。

「分かった。死ね」

 これ以上は聞く耳持たん。とっとと帰ってズーニーの怪我を治してやって、さっさとユーエスエイに旅立ちたい。
 俺は足に力を込めて踏み出し、一歩で堕天使との間合いを一瞬で詰める。
 相手もさるもの、光と見紛うスピードで後退しながら光線の発射体制に入るが、俺の全力はこっからだ。
 二歩目で更にスピードを増して追いすがり、同時に振りかぶっていた剣を振り下ろす。
 と同時に光線が撃ち出される。堕天使、やるやんけ。
 
「うおおおおおい!!!」

『ヒト如きが生意気な!』

 光線と剣がぶつかり合い、耳をつんざく高周波のせめぎ合いの音と、光の爆発が辺りを呑み込む。
 居合抜きの如く、お互いに一撃で決めるつもりの捨て身の攻撃全振り。
 持てる技術の極みを尽くした戦いの最後が力押しってのも、乙なもんだ。

「いよおおおおいしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 振り切ったのはもちろん俺。光線ごと堕天使の体を真っ二つに斬り裂き、トドメを刺す。
 堕天使を構成していたものなのか、大量の魔力の爆発と共に光の洪水が俺を呑み込み、そしてそれを魔剣があまさず吸収していく。
 改めて感じるが、この剣、なんて能力だ。底が知れんな。マリードの魔力と堕天使の魔力を吸い込んで、まだまだ余力がありそうな印象を受けるぞ?

「おーい、終わったぜ! さ、帰ろう」

 腰を抜かしてるクマさんとアビに、俺はグッと親指を立てるのだった。
しおりを挟む

処理中です...