我が魂よ最強を求むることなかれ。ただ自由の限界を汲み尽くせ！

横山剛衛門

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本編

18.魔神怒る

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「あー、こちら、ズーニーさんです。旅の仲間に加わることになりましたので、よろしくです」

「イヌイ、いきなり何を言っているのですか？」

「そうだよ、ちゃんと説明して！」

　まあ予想通りと言うべきか、ズーニーを連れて戻った俺に対するアビとマナの反応は辛辣なもんだった。
　そりゃな、仲間の男がこんな美女を連れて帰ったら、色ボケで騙されたと思うに決まってる。否定できないところもないことは、ない。

「黙れ下郎ども。我輩はズーニー。お前達が＂魔神＂と呼ぶ者だ。先ほど、イヌイは契りを交わして我が主人となった。侮辱はこのズーニーが許さんぞ」

「契り、ってオイ！　ズーニー、何言ってんだ……あ、もしかして指環のこと？」

　それが決定的な誤解を招く言動だと気付くのが、一瞬遅かった。

「ゆ、指環⁉︎　イヌイ、どういうことですか！　さっきここを離れてから全然時間経ってないですよ⁉︎　そんなわずかな時間で婚約をーー？」

「キャー！　いくらなんでも早すぎよ！」

「おいマナ、落ち着けって！　誤解だから！」

「何が誤解ですか！　わ、私というものがありながら、何という……！」

「え、待ってアビ、それも違わない？　まだあん時のこと誤解してるの？　ちょっと⁉︎」

「乱れてる！　乱れてるわこの人達！　きゃー！」

　アビもマナも全然話を聞いてくれない。思った以上に混沌としてきた状況の中、ズーニーが更なる爆弾を放り込む。

「それで、おまえ達のうちのどちらが正妻なのだ？　その座を賭けて、今から勝負をしようではないか」

　はい？　あんたもあんたで何を言い出すの？　そもそもこの二人は別に俺とそういう関係じゃ……

「はい！　受けて立ちます！」

「いいわ、かかってらっしゃい！」

　二人とも、ナニ乗っかってんの⁉︎

「おいおい、わざわざそんなことする理由なんてないだろ？　つうかなんで俺抜きでずんずん話進めちゃうのさ」

「イヌイは黙っていてください！　これは私達の意地の問題ですから！」

「そうよ、負けられない戦いなのよ！」

　ダメだ、勢いが止まらない。これはやらせるしかないのか？　でも、それにしたって仲間同士で暴力沙汰はナシだ。

「話は決まったな。では、方法はどうする？　我輩としてはもちろんこの腕にモノを言わせてーー」

「ダメ！　そこだけは俺が決める！　今考えるから！」

　ズーニーの恐ろしい提案を遮って、俺は長考に入る。
　まず、怪我するようなのは絶対ダメ！　それから、遺恨が残るのもよろしくない。それでいてしっかり勝負がつかない方がプライドを傷つけずあやふやにできるし……って、どんな無理ゲーやねん！
　いや、ここは発想を変えるんだ。本当に一番を決めなきゃダメなんですか？　ナンバーワンじゃなくてオンリーワンを目指せばいいのでは？
　ーーそうだ。閃いたぞ。

「三人ともよく聞け。勝負のやり方を決めたぞ」

　俺の次の言葉を待って、三人はジッと耳をすます。誰かがゴクリ、と唾を飲んだ。

「それは……この島のいいところ紹介勝負だ！」

　つまり、今はせっかくこんな素晴らしい島にいるので、その中で一番素晴らしいと思うところを俺にプレゼンするというわけだ。
　これは簡単なようで奥が深い。なぜなら、この島のいいところをよく考えるのはもちろん、その上で俺の好みに合わせる必要がある。つまりは俺のことをどれだけ理解できるか、という勝負なのだ。
　たとえば、この島で獲れる海の幸を使った一品を作り、それを俺に食べさせるとか。材料はどうやって手に入れてもいいが、当然その方法も評価に入れる。
　で、最終的に最も俺を喜ばせた一人が勝者になるわけだが……ここにも仕掛けがある。というのは、実際のところ採点は俺の裁量次第なので、胸算用一つで勝負の結果をどうにでもできるのだ！

「面白い、やってやろう」

「了解です、負けません！」

「ふふふ、この勝負もらったわね！」

　三人とも完全にやる気になっている。俺の計算には気付いているのかいないのか……
　まあいいや。とにかく、いかに上手く勝負をコントロールするかって意味で、俺もこの戦いに参加するってことだな。

「ルールはこれこれこう……分かったな？　じゃあ、期限は今日いっぱいで、スタート！」

　俺の合図を皮切りに、女性陣三名、もといアビとマナの二名がダダダッと駆け出した。
　ズーニーだけは、なぜかその場に残ったままだ。

「あれ、行かなくていいの？」

「ふん、この島において最も素晴らしいものなど決まりきっている。探すまでもない」

　あ、そう……そうか？　なんか嫌な予感はするけどアドバイスするのも不公平だし、ここは黙って二人の帰りを待つことにした。

　＊＊＊

　そして数時間後。戻ってきたアビとマナは、揃ってしてやったりと言いたげな笑みを浮かべていた。

「さあ、覚悟はいいわね？　勝負の時間よ！」

「望むところなんだから！」

「よかろう、どうせ勝つのは我輩だ」

　アビ、マナ、ズーニーはそれぞれ絶対の自信があるようだ。なんでこんなポジティブなんだろ。
　ま、楽しませてもらおうじゃないの。

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