怪獣は馬鹿でかい何かではない

横山剛衛門

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殺しの免許

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「危ないところだったな、お嬢さん」

 その老人は私にそう告げて、肩にポンと手を置いた。

「だが、おかげであの化け物を退治できた。これは良い事だ。怖い思いをしただろうが、もう大丈夫。早く忘れてしまいなさい」

 紳士然とした口調で。いかにもな恩着せがましさはなく。しかし断固とした口調で。老人はそう言った。

「さあ、私はもう行かねば。くれぐれも、ありがとう」

 黄昏時の公園のベンチに座っていた私を、訳の分からない、恐竜に似た、それでいてもっと禍々しい、重ねて言うが、訳の分からない怪物が襲った。
 生臭い息の悍ましさに動けなくなった私を、その怪物は気持ちの悪い目でゆっくり眺めた。誓って言えるが、その時、怪物は笑っていた。

「……忘れる?」

 忘れることなどできようか。
 今まさにその臭い口によって私の体が食いちぎられようとしたその時。
 ずっと遠くから、あの老人が大砲のような何かで銛を放ち、怪物の頭を貫いた。
 老人はほっとした様子で近づいてきて、先ほどのように声をかけた。
 それは、優しさ? 偶然? 感謝すべき?

 いや。

 私は、彼を、憎む。あの老人を、憎む。
 私はなぜ、こんな時間に、こんな知らない土地の寂れた公園のベンチに座っていたのか。
 なぜ、あんな怪物に襲われたのか。
 不思議なことに、私はそれを忘れていこうとしている。
 なぜ、こんな目に遭ったのか、原因を忘れていこうとしている。
 あの老人が、私を、このベンチに、座らせたのだ。
 あの老人が、私を、このベンチに座らせて、あの怪物に、襲わせたのだ。
 あの老人が、私を、このベンチに座らせて、あの怪物をに襲わせて、釣り上げる餌にしたのだ。
 黄昏時の光が、辺りを照らしている。
 ここは、一体、どこなのか?
 私は、いつから、ここにいるのか?
 私は、家に、帰れるのか?
 また、生臭い息が、近づいてきていた。
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