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~ドグマ大陸の争乱篇~
~皇国レミアム争乱編~ 強奪
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尋常ではないほどの静かな航海であった。ドグマ大陸の海は水の神と呼ばれる怪物が泳いでいた。それは魔族とも違う、古代には存在していた怪物であった。その名はリヴァイアサン、この怪物は気性は荒かったが、ドグマ大陸の物質を襲う事はなかった。しかし、ドグマ大陸にとっての異物が水域に侵入してくると、多数で襲い掛かってくる。一体の巨躯は約二百メートルはあり、動くだけでも津波が起きそうなレベルであった。ゼイフォゾンは異物と見なされなかった。リヴァイアサンは船に追従してくるが、襲う事無く、まるで航海を守護する護衛のようであった。アルティスとデミウルゴスはその様子を見て、ゼイフォゾンがまるで水の神を従えているように見えた。ゼイフォゾンにそういう能力が宿っているとは聞いていなかったが、ゼイフォゾンが人間でもなければ魔族でもなく、どこかに所属する神でもないのは承知していたが、一振りの剣という括りはとうに古い見識である。だが、段々とゼイフォゾンが神々を遥かに超越した存在になっていくのを、アルティスはひしひしと感じていた。もしかしたら生物全てが、ゼイフォゾンに懐くように、世界がそういう仕組みになっているのかも知れない。デミウルゴスはゼイフォゾンと初めての邂逅を果たした時、帝王ゴーデリウス一世にも引けを取らないほどの偉容に驚いたものである。帝王ゴーデリウス一世はドグマ大陸にとって神として君臨していた。皇国レミアムだけでなく、帝王ゴーデリウス一世はドグマ大陸にとって唯一無二の神として認識されていた。ハーティー共和国とティア王国はそれを認めていなかったが、シュテーム連邦王国とゲイオス王国はそれをよく認識していた。その神と同等か、それ以上の存在として、ゼイフォゾンは認識されていた。そのゼイフォゾンと共に旅をした無二の親友が将軍ガトランという話は拡大解釈された形で物語として完成されていた。ソード・オブ・オーダーとなった今は、その物語は邪魔でしかなかった。自由に動こうにも、ここまで話が流れていけば、民衆に絡まれる事も多くなった。救世主だと吹聴されて、勝手に崇められて、どうにも歓声が沸くようになって、ゼイフォゾンは辟易としていた。それはそれで仕方なく、受け止めるしかなかったのもあるが。それはゼイフォゾンの立場を良くしたが、雁字搦めにもした。下手な事ができない、するつもりもなかったが、イメージを崩すような真似が一切できない。なので、アルティスとデミウルゴスとの航海の旅は楽しくもあった。やっと自分主導で動けるのを嬉しく思っていた。
航海の途中で、リヴァイアサンは追従を止めた。そして身を海上まで出して、警戒し始めた。そう、とうとう神聖ザカルデウィス帝国の排他的経済水域まで辿り着いたのだ。それでリヴァイアサンは警戒していた。その数は数体だったが、その巨躯は凄まじく、動くだけで船が激しく揺れた。ゼイフォゾンとアルティスはその様子を見て、なにか只事では済まないような気がしていた。デミウルゴスだけは、その異変を正確に感じ取っていた。すると、同じく海の中から身を乗り出したリヴァイアサンとは別の怪物が姿を現した。その姿は異様であった。そして様々な姿を掛け合わせたような形をしていた。頭部には仮面、鳥のようなかぎ爪、人間の腕と手、翼、巨大な尾びれ、頭上には光の輪が浮いていた。デミウルゴスが言うには、この生物は神聖ザカルデウィス帝国がリヴァイアサンに対抗して創った怪物という。百年戦争末期から存在している古代の化け物で、神聖ザカルデウィス帝国では水の神と呼ばれていた。性格は大人しいが、神聖ザカルデウィス帝国の者ではないと分かった瞬間から突如として襲い掛かる習性を持っている。その名は、ユグル・デノム。魔界でも有名な怪物で、一度暴れだすと手が付けられない。リヴァイアサンほどの巨躯は持たないが、戦闘能力は同等である。それが一匹、船の前に現れた。異形過ぎて、アルティスの目には何かの出し物じゃないかと写ったが、ユグル・デノムは口を大きく開け、光の熱線を吐いた。その熱線をリヴァイアサンが身を呈して守った。そしてもう一匹のリヴァイアサンがユグル・デノムの首に噛み付き、海中へと押し出した。その一連の行為だけで津波以上の波が船に襲い掛かったが、ゼイフォゾンが空間を遮断する事で、何とか水を被るのは阻止できていた。辛うじて前へと進んだ船だったが、リヴァイアサンが追従してくる事はもうなかった。そして、アトランティスの港が遠目で確認できたが、それを塞ぐ存在があった。ユグル・デノムがおよそ百体、海上に身を乗り出していた。どうやら本気で怒らせてしまったらしい。それを見たアルティスはもう勘弁してくれと言わんばかりにため息を吐いた。デミウルゴスはその様子を見て、またため息を吐いた。船酔いも限界があるぞと二人は思っていた。でも、ゼイフォゾンはそれを見ても冷静なままであった。
ゼイフォゾンは神剣エデンズフューリーを召喚すると、その剣先を多数のユグル・デノムに向けた。そして、神剣エデンズフューリーの刀身が輝きだし、その光の束が扇状に広がり、目の前に広がるユグル・デノムの群れを完全に捉えると、神剣エデンズフューリーの刀身がエネルギーの状態に変わり、それが巨大な熱線となって放たれ、海の表面を削り取りながら進んでいった。その熱線に触れたユグル・デノムたちは電子分解され、消し飛んでいった。これで船を進める事ができる。ゼイフォゾンはこの熱線を“御伽の真っ白な行間”と名付けていた。アルティスは、このゼイフォゾンの力を見てある一種の戦慄を覚えた。デミウルゴスはただ驚いていた。圧倒的過ぎるのもいかがなものかと疑問を抱くほどの力を見せつけたゼイフォゾンは、あくまでも冷静に、船を進めた。アトランティスの港までもうすぐであった。そして、ゼイフォゾンはある術を使って、自分たちをみすぼらしい格好の冒険者の姿に変化させた。あくまでも皇国レミアムから渡ってきて、ユグル・デノムに襲われましたと言わんばかりの姿である。船はただのボロボロな船の姿にカモフラージュさせた。アトランティスの港にいるのは、神聖ザカルデウィス帝国の住人と思わしき者が数名、見られるだけである。書類にはこう書いてあった。「皇国レミアムから神聖ザカルデウィス帝国に亡命してきた」という内容である。カードには神聖ザカルデウィス帝国の戦闘員に貰った体を貫いていた。潜入するのでもこれほど完璧なものはなかった。アルティスとデミウルゴスはこの冒険者の格好を少し嫌がっていたが、仕方がなかった。
アトランティスの港に辿り着いた。神聖ザカルデウィス帝国の人間が近付いてきた。その様子はとても自然であった。どうやらドグマ大陸から神聖ザカルデウィス帝国に亡命してくる人間は少なくないらしい。聞いてみれば、ハーティー共和国とティア王国から逃れた人間だそうだ。そんな中、皇国レミアムから逃れてきたというだけで、貴重な冒険者だと思われている。扱いは丁重だった。神聖ザカルデウィス帝国に無事、入国する事ができた。審査も難なく通ったのである。三人は安堵した様子で入国を果たし、見たこともない金属製の箱に乗せられて、神聖ザカルデウィス帝国の本都、光都エリュシオンに向っていった。乗せられた箱のスピードは馬を遥かに凌駕していて、光都エリュシオンにはすぐ着いた。箱を操っている者に、この乗り物は何だと聞いてみたら、これは車というらしい。他にも自動車という名前を付けられていた。馬は基本的にひとりしか乗れない、もしくは詰めてふたりを乗せる事ができるが、この車という乗り物は四人乗れる。それに操っている者以外はただ座っているだけでいい。これほど楽な乗り物は他の国にはなかった。光都エリュシオンに着いたのは、港からたったの十分くらいで、三人は内心、この技術は広めたほうがいいのではないかと思った。鎖国などせずに、広めればいい財源になるであろう。しかし、この技術を広めないのには理由があった。ただ独占したいだけではない、広めれば、戦争するのに不利になるからである。戦争となれば、より優れた技術を持った国が優勢になる。より近代的な技術の進化を遂げた光都エリュシオンは、まさに数万年先の未来の様相を呈する、まさに光の都市であった。数えきれないほどの車が行き来し、空には船が飛んでいて、建物は天を突くように高い。夜に差し掛かるというのに、光が途切れない。三人は車から降ろされると、目の前には見慣れようはずもない宿があった。その宿に入っていくと、そこには皇国レミアムとはまた違う豪華な造りで、一言でいえば無駄のないデザインで、そこにいる人間はスタイリッシュな制服で統一され、サービスも完璧だった。部屋に通され、体を休めるように言われ、宿の女はドアを閉めた。ゼイフォゾンは術を解き、真の姿を現した。ゼイフォゾンとアルティス、デミウルゴスは、言葉を失っていた。これほどの技術進化を果たした国に、戦争させられそうだったのか。だとしたら、皇国レミアムのみならず、エギュレイェル公国も危険である。これをまとめる将軍は凄まじい力を持っているであろう。その証拠に、空飛ぶ船と一緒に大型の竜が人間を背に乗っけて飛翔していた。
「生活するだけで、この技術を使っている。それだけでなく軍事的な技術も加味してみれば、神聖ザカルデウィス帝国とは果てしない戦力を持っている国という事になる。その情報を持ってきて欲しいという任務だ。やるしかあるまい。しかし、動くのは今ではない。とにかく今はこの宿で一晩を過ごし、日中に散開してやるべきことをやろう。空から監視される可能性も含めて、建物の屋根を移動していく。今日はもう休もう。車という物のおかげで疲れる事もほとんどなかったが。では術をかける。皆、静かに行動しよう」
「賛成だ。俺はこの冒険者の姿は満足に戦えないから納得はしないが、そうした方が情報を獲得できるのならば、俺もゼイフォゾンの指示に従おう。あとはお前にかかっている。デミウルゴス」
「私にお任せください。ですが、行動するときはこの格好を解いて頂きたいのです、ソード・オブ・オーダー。私の力は本来の姿でないと発揮できませんので」
「よかろう。私が責任をもって術を解く。部屋の明かりを消せ、もう就寝しているのだと思われていた方が都合が良い」
「分かった……」
「部屋は暗くしたな。では軍議を始めよう。まず、この神聖ザカルデウィス帝国の技術の情報収集だ。しかし、この生活を支えている技術はそこそこに集めて、軍事技術を最大限情報を集める事に集中したい。それはデミウルゴスではなく、私とアルティスがやる。デミウルゴスはその他の情報を集め、私たちをバックアップしてもらいたい。神聖ザカルデウィス帝国軍の動向や、それに付随してくる戦力などを伝えて欲しいのだ。できるか?」
「ソード・オブ・オーダーの命令であれば、やりましょう。お任せください、このデミウルゴス、完璧に任務を遂行致しましょう」
「ゼイフォゾン、明日には動くんだな?」
「あぁ、その通りだが。アルティスには空飛ぶ船の操り方を急場しのぎで構わないから知っておいて欲しい。潜り込んで操作の方法を体感で身に付けてくれるか?」
「すげぇ事を頼むんだなお前。分かってはいるが、俺は席でこもりっきりなのな。じゃあ、ゼイフォゾンはあれか。本命の情報収集か。大丈夫か?」
「デミウルゴスの支援さえあれば、大丈夫だろう。では軍議は終わりだ。各自、ゆっくりと過ごしてくれ。私は眠らないが、デミウルゴスは眠るのか?アルティスは先に横になってていいぞ」
「分かった。先に寝るぜ」
「察しの通りですが、私には眠るという概念がございません」
「では私と雑談でもして時間が過ぎるのを待とう」
ゼイフォゾンとデミウルゴスは雑談する予定だったが、特には喋らなかった。何を思うわけでもなく、二人はアルティスの寝た姿を見ながら、皇国レミアムの未来について語ったぐらいであった。あの寝ている人間が、ドグマ大陸最大最強の国である皇国レミアムの武の象徴なのである。戦力では一国を滅ぼすほどの武力を誇る人間である。それが今は無防備に寝ている。ゼイフォゾンとデミウルゴスはこういう人間を守るために自分たちは存在しているのだと認識した。無防備に見えて、実はアルティスの寝ている姿は臨戦態勢なのではないかと思われるほど、闘気を垂れ流していた。ゼイフォゾンとデミウルゴスは寝ている姿でも隙のない人間なのだと思った。とことん武芸者という存在は度し難い。兄である総帥ゼウレアーもこうやって闘気を垂れ流して寝るのだろうか。だとしたら兄弟で人間から遠ざかっているという事になるであろう。神聖ザカルデウィス帝国には暗殺に特化した部隊があると言っていた。アルティスによれば、その統率者はソーン・ロックハンス、ラーディアウスの妹であるという。そのソーン・ロックハンスは暗殺の世界では頂点を極める女帝である。暗殺だけでなく、隠密に特化しており、勘付かれた時点で終わりと考えた方がいいだろう。その視線をどこまでかいくぐれるかが問題になってくる。デミウルゴスは自身が意力偵察と隠密機動に特化した最上級魔神であると語っていた。いったいどちらの敏捷性が上回っているのか。そうこうしているうちに朝がやってきていた。陽が昇っていた。特に何も起こらずに一日を迎えていた。宿の人間がやってきた。朝食を準備してくれていた。アルティスはもう起きていた。三人は朝食を済ませると、各々時間差で外に出た。そして路地裏に出た。ゼイフォゾンはデミウルゴスを真の姿に戻した。デミウルゴスは己を影もなく、音もなく、景色と同化して透明になると、人間の知覚を超えたスピードでその場を離れた。任務開始である。二人は建物の屋根に飛び移ると、そこから地図を開いて、神聖ザカルデウィス帝国の軍部がある格納庫と呼ばれる場所を目指して移動した。神聖ザカルデウィス帝国の国民は至って平和に暮らしていた。この国民に害が及ばないようにしなければいけない。その為には、迅速に任務を遂行する必要があった。
二人は格納庫まで辿り着いた。そこには空飛ぶ船が多数、そして三十メートルほどある金属の巨人も多数配備されていた。この軍事力だけでも圧巻であるが、格納庫の奥には五百メートルはある空飛ぶ船が置かれていた。その中にアルティスが入っていった。アルティスはその船の操縦席に座ると、持ち前の空間把握能力で方法を調べ、手引書のような書類を発見し、それを読んでいた。ゼイフォゾンは金属の巨人と空飛ぶ船に直に触って、情報を吸収していた。どうやらこの船は空宙戦艦と呼称し、この巨人は魔導巨神と呼称するらしい。どれも魔力で動き、魔導巨神は自動で動くことが可能らしい。アルティスの乗っている空宙戦艦は小型旗艦型という位置付けで、機動力に特化した部隊に与えられる兵器である事が分かった。そして格納庫には書類が山になっている場所があった。戦艦と竜で制空権を奪い、そして地上は魔導巨神で制圧し、同時に拠点を防衛していくという軍略を使うのが定石であると書いてあった。それを持ち出したゼイフォゾンは、デミウルゴスを待っていた。しばらくしてデミウルゴスは帰ってきた。デミウルゴスによると、格納庫はいくつもあり、この規模の格納庫は氷山の一角にしか過ぎない。そして、旗艦型の戦艦は数千メートルにも達するものまであり、それぞれ強大な攻撃力を誇るとも言っていた。それを持ち出されたら、空は簡単に制圧されてしまうだろうという事。ゼイフォゾンはこれだけの情報があれば充分だと判断した。アルティスは戦艦の動かし方を大体把握すると、起動させた。アトランティスの港の船は多分、使い物にならないであろう。ユグル・デノムに襲われた際に変な音がしたので、見切りをつけるのは早かった。アルティスは二人を戦艦に乗せると、格納庫から滑走路に移動させ、魔導炉心に火を灯して、発進した。異変を感じた神聖ザカルデウィス帝国の兵士たちが集まってきた。兵士たちは攻撃を開始した。小型の戦艦を発進させて、追いかけてきた。戦艦の甲板にゼイフォゾンが立った。追いかけてくる戦艦を神剣エデンズフューリーの、御伽の真っ白な行間で殲滅しながらアルティスは更に速度を上げてドグマ大陸に向っていった。デミウルゴスは戦艦の武装を書類を見ながら操作して、ゼイフォゾンの手伝いをしていた。
その速度は車とは段違いで、船など問題ではなかった。空を疾駆していく戦艦は、間もなくドグマ大陸の排他的経済水域に突入していた。そして、皇国レミアムのエルフェレイム城が見えた。三人は自分たちの作戦が成功した事をまずは喜んだ。皇国レミアムの街に戦艦を着艦させると、国民が集まってきた。物珍しさと、いったい誰が乗ってきたのかが気になって、野次馬のように人間と魔族が集まってきた。そこからゼイフォゾン、アルティス、デミウルゴスが降りた瞬間、歓声が聞こえてきた。そこには総帥ゼウレアーもいた。無事に帰還を果たし、情報を手に入れ、旗艦型の戦艦まで入手してきたソード・オブ・オーダーの手腕は本物であった。これで、神聖ザカルデウィス帝国と戦争となっても、対抗する手段は考える事ができるであろう。そして、軍師メルアーラがその旗艦型の戦艦を見て、ある事を考えた。これに錬金術を加えて生まれ変わらしたら、強大無比な座乗艦になるであろうと。皇国レミアム流の強化改修を加える事でソード・オブ・オーダー専用の戦艦になると踏んだのだ。軍師メルアーラはそれを成し遂げるべく、動き出した。三人は疲れが出たのか、エルフェレイム城から出る事はなかった。そうしているうちに、ゲイオス王国から将軍ガトランが皇国レミアムに入国してきた。目的は、皇国レミアムとゲイオス王国の共同の軍事演習を開催するべく、軍議に参加するべく出向いたのであった。軍議には必ず、ゼイフォゾンも参加していた。そして珍しく、エミリエルも軍議に参加していた。予見の日まで一週間、時間が迫っていた。決して油断ならない。ドグマ大陸の未来がかかっている。ゲイオス王国とシュテーム連邦王国は軍事演習を止めなかった。そして、ハーティー共和国とティア王国は相変わらずであった。帝王ゴーデリウス一世は、いざとなれば自分も最前線に出る覚悟を決めていた。
とにかく任務は完了したのだった。神聖ザカルデウィス帝国ではある組織が動いていた。一体の竜王と将軍が率いる強大無比な軍が、ドグマ大陸を火の海にするべく、準備を進めていた。
航海の途中で、リヴァイアサンは追従を止めた。そして身を海上まで出して、警戒し始めた。そう、とうとう神聖ザカルデウィス帝国の排他的経済水域まで辿り着いたのだ。それでリヴァイアサンは警戒していた。その数は数体だったが、その巨躯は凄まじく、動くだけで船が激しく揺れた。ゼイフォゾンとアルティスはその様子を見て、なにか只事では済まないような気がしていた。デミウルゴスだけは、その異変を正確に感じ取っていた。すると、同じく海の中から身を乗り出したリヴァイアサンとは別の怪物が姿を現した。その姿は異様であった。そして様々な姿を掛け合わせたような形をしていた。頭部には仮面、鳥のようなかぎ爪、人間の腕と手、翼、巨大な尾びれ、頭上には光の輪が浮いていた。デミウルゴスが言うには、この生物は神聖ザカルデウィス帝国がリヴァイアサンに対抗して創った怪物という。百年戦争末期から存在している古代の化け物で、神聖ザカルデウィス帝国では水の神と呼ばれていた。性格は大人しいが、神聖ザカルデウィス帝国の者ではないと分かった瞬間から突如として襲い掛かる習性を持っている。その名は、ユグル・デノム。魔界でも有名な怪物で、一度暴れだすと手が付けられない。リヴァイアサンほどの巨躯は持たないが、戦闘能力は同等である。それが一匹、船の前に現れた。異形過ぎて、アルティスの目には何かの出し物じゃないかと写ったが、ユグル・デノムは口を大きく開け、光の熱線を吐いた。その熱線をリヴァイアサンが身を呈して守った。そしてもう一匹のリヴァイアサンがユグル・デノムの首に噛み付き、海中へと押し出した。その一連の行為だけで津波以上の波が船に襲い掛かったが、ゼイフォゾンが空間を遮断する事で、何とか水を被るのは阻止できていた。辛うじて前へと進んだ船だったが、リヴァイアサンが追従してくる事はもうなかった。そして、アトランティスの港が遠目で確認できたが、それを塞ぐ存在があった。ユグル・デノムがおよそ百体、海上に身を乗り出していた。どうやら本気で怒らせてしまったらしい。それを見たアルティスはもう勘弁してくれと言わんばかりにため息を吐いた。デミウルゴスはその様子を見て、またため息を吐いた。船酔いも限界があるぞと二人は思っていた。でも、ゼイフォゾンはそれを見ても冷静なままであった。
ゼイフォゾンは神剣エデンズフューリーを召喚すると、その剣先を多数のユグル・デノムに向けた。そして、神剣エデンズフューリーの刀身が輝きだし、その光の束が扇状に広がり、目の前に広がるユグル・デノムの群れを完全に捉えると、神剣エデンズフューリーの刀身がエネルギーの状態に変わり、それが巨大な熱線となって放たれ、海の表面を削り取りながら進んでいった。その熱線に触れたユグル・デノムたちは電子分解され、消し飛んでいった。これで船を進める事ができる。ゼイフォゾンはこの熱線を“御伽の真っ白な行間”と名付けていた。アルティスは、このゼイフォゾンの力を見てある一種の戦慄を覚えた。デミウルゴスはただ驚いていた。圧倒的過ぎるのもいかがなものかと疑問を抱くほどの力を見せつけたゼイフォゾンは、あくまでも冷静に、船を進めた。アトランティスの港までもうすぐであった。そして、ゼイフォゾンはある術を使って、自分たちをみすぼらしい格好の冒険者の姿に変化させた。あくまでも皇国レミアムから渡ってきて、ユグル・デノムに襲われましたと言わんばかりの姿である。船はただのボロボロな船の姿にカモフラージュさせた。アトランティスの港にいるのは、神聖ザカルデウィス帝国の住人と思わしき者が数名、見られるだけである。書類にはこう書いてあった。「皇国レミアムから神聖ザカルデウィス帝国に亡命してきた」という内容である。カードには神聖ザカルデウィス帝国の戦闘員に貰った体を貫いていた。潜入するのでもこれほど完璧なものはなかった。アルティスとデミウルゴスはこの冒険者の格好を少し嫌がっていたが、仕方がなかった。
アトランティスの港に辿り着いた。神聖ザカルデウィス帝国の人間が近付いてきた。その様子はとても自然であった。どうやらドグマ大陸から神聖ザカルデウィス帝国に亡命してくる人間は少なくないらしい。聞いてみれば、ハーティー共和国とティア王国から逃れた人間だそうだ。そんな中、皇国レミアムから逃れてきたというだけで、貴重な冒険者だと思われている。扱いは丁重だった。神聖ザカルデウィス帝国に無事、入国する事ができた。審査も難なく通ったのである。三人は安堵した様子で入国を果たし、見たこともない金属製の箱に乗せられて、神聖ザカルデウィス帝国の本都、光都エリュシオンに向っていった。乗せられた箱のスピードは馬を遥かに凌駕していて、光都エリュシオンにはすぐ着いた。箱を操っている者に、この乗り物は何だと聞いてみたら、これは車というらしい。他にも自動車という名前を付けられていた。馬は基本的にひとりしか乗れない、もしくは詰めてふたりを乗せる事ができるが、この車という乗り物は四人乗れる。それに操っている者以外はただ座っているだけでいい。これほど楽な乗り物は他の国にはなかった。光都エリュシオンに着いたのは、港からたったの十分くらいで、三人は内心、この技術は広めたほうがいいのではないかと思った。鎖国などせずに、広めればいい財源になるであろう。しかし、この技術を広めないのには理由があった。ただ独占したいだけではない、広めれば、戦争するのに不利になるからである。戦争となれば、より優れた技術を持った国が優勢になる。より近代的な技術の進化を遂げた光都エリュシオンは、まさに数万年先の未来の様相を呈する、まさに光の都市であった。数えきれないほどの車が行き来し、空には船が飛んでいて、建物は天を突くように高い。夜に差し掛かるというのに、光が途切れない。三人は車から降ろされると、目の前には見慣れようはずもない宿があった。その宿に入っていくと、そこには皇国レミアムとはまた違う豪華な造りで、一言でいえば無駄のないデザインで、そこにいる人間はスタイリッシュな制服で統一され、サービスも完璧だった。部屋に通され、体を休めるように言われ、宿の女はドアを閉めた。ゼイフォゾンは術を解き、真の姿を現した。ゼイフォゾンとアルティス、デミウルゴスは、言葉を失っていた。これほどの技術進化を果たした国に、戦争させられそうだったのか。だとしたら、皇国レミアムのみならず、エギュレイェル公国も危険である。これをまとめる将軍は凄まじい力を持っているであろう。その証拠に、空飛ぶ船と一緒に大型の竜が人間を背に乗っけて飛翔していた。
「生活するだけで、この技術を使っている。それだけでなく軍事的な技術も加味してみれば、神聖ザカルデウィス帝国とは果てしない戦力を持っている国という事になる。その情報を持ってきて欲しいという任務だ。やるしかあるまい。しかし、動くのは今ではない。とにかく今はこの宿で一晩を過ごし、日中に散開してやるべきことをやろう。空から監視される可能性も含めて、建物の屋根を移動していく。今日はもう休もう。車という物のおかげで疲れる事もほとんどなかったが。では術をかける。皆、静かに行動しよう」
「賛成だ。俺はこの冒険者の姿は満足に戦えないから納得はしないが、そうした方が情報を獲得できるのならば、俺もゼイフォゾンの指示に従おう。あとはお前にかかっている。デミウルゴス」
「私にお任せください。ですが、行動するときはこの格好を解いて頂きたいのです、ソード・オブ・オーダー。私の力は本来の姿でないと発揮できませんので」
「よかろう。私が責任をもって術を解く。部屋の明かりを消せ、もう就寝しているのだと思われていた方が都合が良い」
「分かった……」
「部屋は暗くしたな。では軍議を始めよう。まず、この神聖ザカルデウィス帝国の技術の情報収集だ。しかし、この生活を支えている技術はそこそこに集めて、軍事技術を最大限情報を集める事に集中したい。それはデミウルゴスではなく、私とアルティスがやる。デミウルゴスはその他の情報を集め、私たちをバックアップしてもらいたい。神聖ザカルデウィス帝国軍の動向や、それに付随してくる戦力などを伝えて欲しいのだ。できるか?」
「ソード・オブ・オーダーの命令であれば、やりましょう。お任せください、このデミウルゴス、完璧に任務を遂行致しましょう」
「ゼイフォゾン、明日には動くんだな?」
「あぁ、その通りだが。アルティスには空飛ぶ船の操り方を急場しのぎで構わないから知っておいて欲しい。潜り込んで操作の方法を体感で身に付けてくれるか?」
「すげぇ事を頼むんだなお前。分かってはいるが、俺は席でこもりっきりなのな。じゃあ、ゼイフォゾンはあれか。本命の情報収集か。大丈夫か?」
「デミウルゴスの支援さえあれば、大丈夫だろう。では軍議は終わりだ。各自、ゆっくりと過ごしてくれ。私は眠らないが、デミウルゴスは眠るのか?アルティスは先に横になってていいぞ」
「分かった。先に寝るぜ」
「察しの通りですが、私には眠るという概念がございません」
「では私と雑談でもして時間が過ぎるのを待とう」
ゼイフォゾンとデミウルゴスは雑談する予定だったが、特には喋らなかった。何を思うわけでもなく、二人はアルティスの寝た姿を見ながら、皇国レミアムの未来について語ったぐらいであった。あの寝ている人間が、ドグマ大陸最大最強の国である皇国レミアムの武の象徴なのである。戦力では一国を滅ぼすほどの武力を誇る人間である。それが今は無防備に寝ている。ゼイフォゾンとデミウルゴスはこういう人間を守るために自分たちは存在しているのだと認識した。無防備に見えて、実はアルティスの寝ている姿は臨戦態勢なのではないかと思われるほど、闘気を垂れ流していた。ゼイフォゾンとデミウルゴスは寝ている姿でも隙のない人間なのだと思った。とことん武芸者という存在は度し難い。兄である総帥ゼウレアーもこうやって闘気を垂れ流して寝るのだろうか。だとしたら兄弟で人間から遠ざかっているという事になるであろう。神聖ザカルデウィス帝国には暗殺に特化した部隊があると言っていた。アルティスによれば、その統率者はソーン・ロックハンス、ラーディアウスの妹であるという。そのソーン・ロックハンスは暗殺の世界では頂点を極める女帝である。暗殺だけでなく、隠密に特化しており、勘付かれた時点で終わりと考えた方がいいだろう。その視線をどこまでかいくぐれるかが問題になってくる。デミウルゴスは自身が意力偵察と隠密機動に特化した最上級魔神であると語っていた。いったいどちらの敏捷性が上回っているのか。そうこうしているうちに朝がやってきていた。陽が昇っていた。特に何も起こらずに一日を迎えていた。宿の人間がやってきた。朝食を準備してくれていた。アルティスはもう起きていた。三人は朝食を済ませると、各々時間差で外に出た。そして路地裏に出た。ゼイフォゾンはデミウルゴスを真の姿に戻した。デミウルゴスは己を影もなく、音もなく、景色と同化して透明になると、人間の知覚を超えたスピードでその場を離れた。任務開始である。二人は建物の屋根に飛び移ると、そこから地図を開いて、神聖ザカルデウィス帝国の軍部がある格納庫と呼ばれる場所を目指して移動した。神聖ザカルデウィス帝国の国民は至って平和に暮らしていた。この国民に害が及ばないようにしなければいけない。その為には、迅速に任務を遂行する必要があった。
二人は格納庫まで辿り着いた。そこには空飛ぶ船が多数、そして三十メートルほどある金属の巨人も多数配備されていた。この軍事力だけでも圧巻であるが、格納庫の奥には五百メートルはある空飛ぶ船が置かれていた。その中にアルティスが入っていった。アルティスはその船の操縦席に座ると、持ち前の空間把握能力で方法を調べ、手引書のような書類を発見し、それを読んでいた。ゼイフォゾンは金属の巨人と空飛ぶ船に直に触って、情報を吸収していた。どうやらこの船は空宙戦艦と呼称し、この巨人は魔導巨神と呼称するらしい。どれも魔力で動き、魔導巨神は自動で動くことが可能らしい。アルティスの乗っている空宙戦艦は小型旗艦型という位置付けで、機動力に特化した部隊に与えられる兵器である事が分かった。そして格納庫には書類が山になっている場所があった。戦艦と竜で制空権を奪い、そして地上は魔導巨神で制圧し、同時に拠点を防衛していくという軍略を使うのが定石であると書いてあった。それを持ち出したゼイフォゾンは、デミウルゴスを待っていた。しばらくしてデミウルゴスは帰ってきた。デミウルゴスによると、格納庫はいくつもあり、この規模の格納庫は氷山の一角にしか過ぎない。そして、旗艦型の戦艦は数千メートルにも達するものまであり、それぞれ強大な攻撃力を誇るとも言っていた。それを持ち出されたら、空は簡単に制圧されてしまうだろうという事。ゼイフォゾンはこれだけの情報があれば充分だと判断した。アルティスは戦艦の動かし方を大体把握すると、起動させた。アトランティスの港の船は多分、使い物にならないであろう。ユグル・デノムに襲われた際に変な音がしたので、見切りをつけるのは早かった。アルティスは二人を戦艦に乗せると、格納庫から滑走路に移動させ、魔導炉心に火を灯して、発進した。異変を感じた神聖ザカルデウィス帝国の兵士たちが集まってきた。兵士たちは攻撃を開始した。小型の戦艦を発進させて、追いかけてきた。戦艦の甲板にゼイフォゾンが立った。追いかけてくる戦艦を神剣エデンズフューリーの、御伽の真っ白な行間で殲滅しながらアルティスは更に速度を上げてドグマ大陸に向っていった。デミウルゴスは戦艦の武装を書類を見ながら操作して、ゼイフォゾンの手伝いをしていた。
その速度は車とは段違いで、船など問題ではなかった。空を疾駆していく戦艦は、間もなくドグマ大陸の排他的経済水域に突入していた。そして、皇国レミアムのエルフェレイム城が見えた。三人は自分たちの作戦が成功した事をまずは喜んだ。皇国レミアムの街に戦艦を着艦させると、国民が集まってきた。物珍しさと、いったい誰が乗ってきたのかが気になって、野次馬のように人間と魔族が集まってきた。そこからゼイフォゾン、アルティス、デミウルゴスが降りた瞬間、歓声が聞こえてきた。そこには総帥ゼウレアーもいた。無事に帰還を果たし、情報を手に入れ、旗艦型の戦艦まで入手してきたソード・オブ・オーダーの手腕は本物であった。これで、神聖ザカルデウィス帝国と戦争となっても、対抗する手段は考える事ができるであろう。そして、軍師メルアーラがその旗艦型の戦艦を見て、ある事を考えた。これに錬金術を加えて生まれ変わらしたら、強大無比な座乗艦になるであろうと。皇国レミアム流の強化改修を加える事でソード・オブ・オーダー専用の戦艦になると踏んだのだ。軍師メルアーラはそれを成し遂げるべく、動き出した。三人は疲れが出たのか、エルフェレイム城から出る事はなかった。そうしているうちに、ゲイオス王国から将軍ガトランが皇国レミアムに入国してきた。目的は、皇国レミアムとゲイオス王国の共同の軍事演習を開催するべく、軍議に参加するべく出向いたのであった。軍議には必ず、ゼイフォゾンも参加していた。そして珍しく、エミリエルも軍議に参加していた。予見の日まで一週間、時間が迫っていた。決して油断ならない。ドグマ大陸の未来がかかっている。ゲイオス王国とシュテーム連邦王国は軍事演習を止めなかった。そして、ハーティー共和国とティア王国は相変わらずであった。帝王ゴーデリウス一世は、いざとなれば自分も最前線に出る覚悟を決めていた。
とにかく任務は完了したのだった。神聖ザカルデウィス帝国ではある組織が動いていた。一体の竜王と将軍が率いる強大無比な軍が、ドグマ大陸を火の海にするべく、準備を進めていた。
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