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~神聖ザカルデウィス帝国 旅禍篇~

~神聖ザカルデウィス帝国後編~ 電撃

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 決戦当日、朝早くからエアラルテはダイレーデンの山脈に布陣を整えていた。その総数、百万と五十。そのエアラルテの陣営を対を成すのが元帥ギルバートの陣営。数は二百万。どの陣営も戦艦と魔導巨神を揃えていた。数は元帥ギルバートのほうが多いが、魔導巨神の数がエアラルテの陣営のほうが圧倒的に多かったので、戦力差としては互角であった。その間に入るようにして、ゼイフォゾンの軍が布陣していた。その数は五十万。それでも充分な数であったが、戦艦と魔導巨神の数が少なかった。旗艦型はミカエラとカオウスの旗艦型クウォルザワートのみで、戦力的には心もとないものであった。しかし機動力に優れ、臨機応変に動ける部隊が多いので、その強みを活かした戦術を考案する必要があった。この三つ巴の戦いはエアラルテの演説から始まった。その演説は、他を圧倒していて、引き込まれるものがあった。


「この度の戦に参加してくれた、我が軍、諸君らに感謝する。この戦には大義が存在している!この大義は、我々の戦争行為は全て正しいものである。諸君らは、この戦のためによく我慢してくれた。革命の時に、こうして軍靴を共に踏み鳴らせる時を、こうして待っていてくれた事に感謝する。この忍耐の時は、神聖ザカルデウィス帝国の元帥が逆賊ギルバートに決まった時から始まった!ギルバートの執政によって苦しめられた者たちは数多く、それに飲み込まれていった村、焼き払われた人々の無念は忘れない。我々は必ず、その無念を晴らすために、正しい行動をしなくてはならない!悪政を敷く大逆者ギルバートは、この戦において最も重要な人間だ、その首を取って我が面前に差し出す事こそが、諸君らの任務である!その血をもって、この戦に終止符を打ち、平和をこの手に掴もう!そして!このエアラルテを元帥とし、新たな治世による神聖ザカルデウィス帝国を作り上げよう!それらは全て、諸君らの努力によりもたらされる!革命を!そして明日を掴むため、自分たちで未来を勝ち取るため、私に力を貸して欲しい!行動を、状況を起こす時は、今である!」

「おおおおおお!!」

「エアラルテ様、この戦い、必ずや勝利を手にしますぞ!」


 まさしく革命という言葉に、戦争という言葉に狂っている者に酔っているようにしか見えない。その演説の効果は凄まじかったが、それだけではなく、狂信者たちの士気を上げるのにこれ以上のものはなかった。その大逆者と呼ばれた元帥ギルバートもまた、演説を行った。


「反逆の徒、エアラルテ・ミッテ・フェノッサが遂に起った。我々は常に準備を続けてきた。その備えはこれを見てどうか!万全であろう。私に付き従う忠義こそが、私を元帥という大任に誠を示してくれる。それを、私を大逆者として扱い、反逆の狼煙を上げたエアラルテの罪は万死に値する!我々で示そう、我々の力こそが、真の正義なのだと。この戦に勝てば、完全なる勝利を得られれば、インペリウス大陸はおろか、ドグマ大陸やライナス大陸さえもこの神聖ザカルデウィス帝国に逆らう事はしないであろう!この歴史こそ、支配の歴史こそが物語っているのは、常にこの神聖ザカルデウィス帝国こそが全て正しいのだという証拠である。このインペリウス大陸の支配がなければ、導きがなければ、皇帝陛下の威光がなければ、このコル・カロリの世界は成り立ってこなかった!諸君!奮戦せよ!力には更なる力を!この戦争はこの神聖ザカルデウィス帝国の、私の示す歴史認識の正しさを証明するために行うのだ!敵を屠れ、目の前にしている敵を片端から屠れ!全ての元凶であるエアラルテの首を我が面前に捧げて、その血が霞となって消えていくのを見届けようではないか!フェイトレイド・ヴァン・デウス・ザカルデウィス皇帝陛下の加護と、光都エリュシオンの繁栄に永久の勝利を!戦端を開くのは今ぞ!」


 この演説もまた、この三つ巴の戦争には必要なものであった。少なくとも元帥ギルバートの陣営にとっては。この両者の演説を聞いたゼイフォゾンたちは、厳しい表情をしていた。この両者、確実に殺し合う気である。それも正面から衝突するのだ。この戦争で失われる命の数は相当なものであるだろう。何としても止めなくてはならない。両者を止める方法、それは軍を二つに分けて、足止めをするしかない。だがそうなると、こちらの軍の消耗が激しくなってしまう。軍の総数では両陣営ともこちらより圧倒的に多い。しかし、足は遅いはずである。大軍だからこその足の遅さをうまく利用して、こちらの機動力を活かした大隊で牽制し、足止めをする。それしかない。しかし、この両軍の士気の高さは尋常ではない。こちらの軍の士気は確かに高いが、向こうは狂信者と主義者の群れである。こちらのダメージが大きくなるのは確かである。この状況を打開するためには、第三軍にも演説を行う必要がある。その役割は誰になるのか、アルティスとカオウス、ソーンは議論した。その結果、この軍を総括するゼイフォゾンが選ばれた。ゼイフォゾンは乗り気ではなかったが、それもまた、宿命であった。ゼイフォゾンがミカエラの甲板に立った。ゼイフォゾンにとって演説などは初めてである。部隊を鼓舞する事ですら稀なのに、こんな道化のような事をやっていいのだろうか。いささか疑問であった。アルティスが横に立っていてくれるので、それは心強かったが、それでも言葉が出てこない。どうすればいいのか、それを迷っているとアルティスが声をかけてくれた。


「お前の言葉でいい。考えるな、自分の思った……そう感じた事を言えばいい。お前の言葉を皆が待っている。あのエアラルテやあ元帥ギルバートの言った台本通りの言葉に呑まれる必要はない。ゼイフォゾン、お前の想いを届けろ」

「分かった。やってみる……」


 ゼイフォゾンは深く息を吸い、そして自分の感じたままの言葉を届けるべく、吸った息を吐いた。


「ここに集まってくれた皆に、まずは感謝したい。そして、私はここに立っている事に、感謝したい。しかし本当だったら、このような戦をしなくてはならない事を、皆と共に落胆したい。私はこの状況を止める事ができなかった事を、皆に詫びたい。人はそれぞれ、平和を求めている。好き好んで争いに行く者など、どこにもいない。そこに誘う者がいても、そこに行きたいと心の底から思う人間などどこにもいない。そうであろう?我々には家族がいて、仲間がいる。その者らと一生を経て平穏を過ごしたいと思う人間がほとんどだ。だが、どうだ。彼らは国のためと言って戦争に喜んで参加しているが、その目は死んでいないか?光を失ってないか?家に帰れば夫や妻が待ち、子もいれば抱きしめたいのに、これから死にに行くのに素直に喜べるだろうか?それは否だ……我々は間違ってはならない。命を奪うための戦争ならこのような演説も必要ないのだ。当然だ!殺戮の限りを、暴虐を尽くせばいいのだからな!我々はその選択を取らない!同じ国の友を殺して何が平和だ!何が平穏か!我々はこれ以上、この神聖ザカルデウィス帝国を血で汚すなと言っている!それのどこに矛盾があろうか!よいか!これは聖戦ではない、これは戦争ですらない、悲しき衝突なのだ!本来なら起きてはならない事なのだ!私は宣言しよう。この戦争行為に正義は存在しない!我々の手で同胞を止めよう!目を覚まさせよう!そして皆で、生きて帰ろう!」

「そうだ……俺たちは生きて友と、家族と帰るんだ。栄光のザカルデウィスに!」

「やるぞ!俺たちはこの戦で本当の平和の意味を知る……」

「おおおおおおおお!!」


 ゼイフォゾンの演説は終わった。これ以上ない心からの叫びを、軍に伝えた。それは瞬く間に広がっていき、士気を他の両陣営のそれとは比べ物にならないほどに高められ、これ以上ないほどの盛り上がりを見せた。


「お前の演説、最高だったぜ。よくやった……ゼイフォゾン、お前は本当に」

「アルティス、それ以上の言葉はこの戦を生きて帰ってからにしよう。私は、この戦は今まで経験したどの戦よりも困難な気がするのだ」

「だろうな……こっちは殺さずに、向こうは殺戮する気満々で来やがるんだからな」

「それだけではない。私の演説を聞いた両陣営の総大将……元帥ギルバートとエアラルテは私が明確な敵だと認識したと思う」

「本当に……過酷だな。これからが」

「ゼイフォゾン、君は僕の言葉ですら代弁してくれたね。僕は君という人間に出会えた事に感謝している。神に、出会った事もない全能の神に。僕は君とクセルクセスの砂漠で出会ってなかったらこんな場所にも立っていなかったと思う。僕の黒竜騎士団は皆、ゼイフォゾンの言葉を待っていた。だから、この演説を聞けて満足だったと思うんだ。アルティス、君は地上だろう?多分、元帥ギルバートが陣取っているはずだ。気を付けるといい」

「私は人間ではないが、ありがとう。カオウス」

「どうしてギルバートが危険なんだ?俺はあいつに勝ったぞ」

「元帥ギルバートはおそらく、覇界の大帝エクスマギアクレアと一緒にいるはずだ。あの竜王のなかの竜王の力は、このグラムと比べても雲泥の差がある。あまりの力の差に、絶望しないで、逃げれる時は逃げるといい」

「俺が逃げるか……どうしてそう思う?」

「僕とゲンドラシルだけが知っているんだけどね、あの竜王はきっと七英雄と同格の存在なんだと思う。エアラルテもそれを知ってるはずだよ。だから行動を起こせた。勝つ算段があるんだろう」

「なるほどな。分かった、気を付ける。あの七英雄と同格か……危険だな。あの帝王ゴーデリウスと同格って事だろ?」

「帝王ゴーデリウス?」

「私の祖国、皇国レミアムの帝王だ。七英雄最強の者、古代文明覇者と呼ばれている」

「君たちの国にも七英雄が存在するんだね。それも皇国レミアムの帝王か、なるほど。アイゼンが失敗したのも頷ける」

「さて、両軍が動くぞ。ミカエラを加速させろ。俺は降りるから、空は任せたぞ。ゼイフォゾン」

「言われるまでもない」


 元帥ギルバートが動いた。それと同時に、エアラルテも動いた。両軍の行軍速度はゆっくりであった。その両軍の先発隊が、様子見と言わんばかりに食い込んでいる。それを指揮するのが、ドラゴンナイトであった。空と地上の両方から攻めるという事なのだろうが、まずは制空権を掴むのが先決なのであろう。そうなるように両軍とも動いていた。その様子を偵察していたエクスキューショナーの暗殺者たちは、その状況を報告するべく、ミカエラに転進した。それを聞いたゼイフォゾンは、ミカエラの戦闘ブリッジの艦長席に座っていた。そして思案した。その先発隊はきっと牽制であろう事は分かっていた。様子見をしているのである。それらがぶつかった時が、戦闘の合図である。漁夫の利を狙うのもいいが、そうすると本来の趣旨とまったく異なる結果を招く。できるだけ両軍をこちらに引き付けたい。そう、そうなると両軍を正面から相手にしなくてはならなくなる。それでもいいから、このミカエラの制空権を奪取せねばなるまい。とにかく、両軍は牽制に小型の戦艦を使っていたので、それらの戦闘能力を奪うために、ゼイフォゾンは砲撃手に小型戦艦の両翼にターゲットを絞って、副砲を放つように命じた。ブリッジに当てると皆殺しになってしまう。なので、とにかく両軍の射程外からの砲撃で戦闘能力を奪うのが先であった。


「距離二千、砲撃手!」

「測距データよし、射線上に味方、認められない!」

「上部、下部、副砲!水平方向に仰角誤差修正!用意!」

「撃ち方始め!」


 副砲は原理の力の衝撃の余剰エネルギーを利用した砲撃で、その威力は他の旗艦型の主砲よりも大きく、破壊力も凄まじいものがあったが、その威力自体を最小限に抑える事によって照準を細く絞る事ができ、ゼイフォゾンの号令によって発射された。その副砲は確実に、そして何の矛盾なく両陣営の小型戦艦の両翼を貫き、轟音が鳴り響いた。小型戦艦が地上に不時着していく。おびただしい煙を上げながら。その様子を見ていた両陣営の総司令、元帥ギルバートとエアラルテが戦慄した。まさかこのような形で第三軍であるゼイフォゾンらが戦端を開くとは思っていなかったのだ。


「馬鹿な……射程外からの砲撃で……それもあんな風に先遣隊の戦力を確実に削いでくるとはな」

「ギルバートの策略だとしても、あんな場所に戦艦を配備すると思うか?いいや違う、これは第三軍、旅禍の砲撃だ。ふざけた真似を……」

「先遣隊はやられた!本隊の陣営を整えろ!アイゼンの部隊も使え!」

「戦力の派遣は急務だな。ゲンドラシルの部隊を使え!中型戦艦と魔導巨神の部隊も派遣しろ!旅禍に好き勝手させるな!」


 この動きはゼイフォゾンにとって読み通りであった。両陣営が第三軍であるこちらに集中してくるのを待っていた。ミカエラに追従してクウォルザワートが並んできた。通信で連絡を取っていたので、連携はきちんと取れていた。


「うまくいったね。ゼイフォゾン、地上ではアルティスが制圧を成功したみたいだ。アルティスはこのままギルバートの陣営に突っ込ませるんだね?」

「そうだ。私はミカエラをこの峡谷に滞空待機させる。クウォルザワートはゲンドラシルの部隊の牽制、黒竜騎士団はエアラルテの陣営の魔導巨神と戦艦を制圧してくれ。私自身はミカエラから降りて、クウォルザワートに移る。私をゲンドラシルの場所まで送り届けてくれればいい」

「了解したよ。ゼイフォゾン、ブリッジで待っている。ミカエラの艦長代理は僕の副官を派遣しよう」

「助かる。カオウス……ミカエラは楔だ。その威力で突破すれば両軍の部隊は壊滅させられるが、それをしてしまえば、私たちの志は失われてしまう」


 ゼイフォゾンはクウォルザワートに乗り込み、カオウスと共にゲンドラシルの座乗艦まで全速前進した。その速度はミカエラと比べたら微々たるものであったが、ミカエラには両陣営の衝突を抑えるために楔となって滞空待機させた。どちらかの戦艦が出張るようであれば、それの戦闘能力をことごとく奪うために、常に目を光らされるべく、全周囲を警戒していた。カオウスの副官、オメガは非常に優秀で、特に指揮系統を任せるにあたっては天才的な頭脳と統率力併せ持ち、それをいかんなく発揮する男であったので、安心できた。そのオメガの横に立っていたのは、密航してきたゼイフォゾンの副官であった。姿形を自在に変化させる事ができるので、今の今まで表に出てくる事はなかった。

 ゼイフォゾンの副官、その正体は魔神であった。名はルシファー…全ての魔神のなかでも最強の者である。全ての魔神が束になっても遊び半分で制圧できる出鱈目な力を誇る存在なのだ。ルシファーは過去にあった百年戦争にも参戦した者で、その力を存分に振るった。その実績から、七英雄に選ばれてもおかしくなかったのだが、その座を帝王ゴーデリウス一世に譲った。七英雄のなり損ないという点ではゼウレアーと一緒だが、力の差は歴然である。ルシファーのほうが格上である。その真の姿は、黄金の翼を六対、ゼイフォゾンと同じく髪は長く、白銀であり、その瞳は真紅に輝いている。ルシファーは魔界の王たちを統べる皇帝である。全力を出せば七英雄最強の存在である帝王ゴーデリウス一世と互角以上にやり合える実力を持った者が、何故、このミカエラに密航してきたのか。それは単純に、ゼイフォゾンの事が心配だったからに他ならない。神聖ザカルデウィス帝国にやってきて、ゼイフォゾンの動向は常に見てきたが、事がここまで大きくなるまで出てくる事ができなかった。ゼイフォゾンの目の前では引っ込み思案になってしまうのが、魔界の皇帝であった。なので姿を変えて、ミカエラを任されたオメガを補佐する役目を担った暗殺者の風貌で落ち着いていた。ゼイフォゾンがクウォルザワートに移ったおかげで置いてきぼりを食らったルシファーは少し、寂しかった。

 アルティスは、地上で戦っていた。目の前に来る元帥ギルバートとアイゼンの陸戦部隊をことごとく吹き飛ばしていった。それも死なない程度に。決して殺さずに、ただ得物を振るう風圧と闘気で吹き飛ばしていった。その力は圧倒的としか言えず、眼前に迫る者はまるで風に舞う木の葉の如く吹き飛ばしていくので、陸戦部隊も退却していった。途中に魔導巨神が制圧しに来たが、その理不尽とも言える力と跳躍力で強引に破壊していった。その速度はカオウスの想像を絶するほどで、クウォルザワートのモニターで見ていたが、アルティスという人間がこんなにも強大だとは思っていなかったのだ。カオウスは、ゼイフォゾンに問いかけた。


「あのアルティスという男、本当に人間かな?」

「れっきとした人間だ。純然たる人類最強の男、それがアルティス・ジ・オードだ。私は、あの男がこれほどの力を持っているとは最初、知らなかった。まるで同じ人類なのに、全く相手にならないであろう?あれは止める事はできん……アルティスを目の前にして無事でいられる戦士はいない。この世の誰にも止められないであろうな」

「皇国レミアムの将軍とは聞いていたけど、これほどまでとはね。皇国レミアムの将軍とはどんな存在なんだい?」

「この世の仕組みを作った、伝説の人間たちで構成されている。あのアルティスには兄がいる。その名はゼウレアー・ジ・オードという」

「あの百年戦争で人類最強の称号を欲しいままにした、あのゼウレアーかい!?」

「そのゼウレアーで正しい認識だ。その人類最強の称号を弟のアルティスに渡したわけだがな」

「なんでその称号を渡したんだい?」

「ゼウレアー・ジ・オードは人外になってしまったからだ。その力は恐ろしいものになったが、それは人類最強という自負を捨てる事に他ならないであろう。だから、己を超えたアルティスに渡したのだ」

「なるほどね……歴史上、有名なのはゼウレアー・ジ・オードの輝かしい功績だから、まさかその弟のほうが強かったとは知らなかったよ。確かに、それならギルバートにも勝てるだろうね」


 神聖ザカルデウィス帝国はそんな強大極まる国を侵攻してしまったのかと、カオウスは後悔した。復讐されてしまった暁には、おそらく神聖ザカルデウィス帝国は防戦一方になるであろう。アイゼンは失敗した、あれだけの大軍を連れていったのに、自分よりも国力で劣るであろう皇国レミアムを侵攻して失敗した。それは必然だったのかも知れない。当然だったのかも知れない。相手は七英雄最強を自負する帝王ゴーデリウス一世が存在する伝説の集団だったのだから。十年、百年、思い煩って勝てるはずがなかったのだ。カオウスは、それを知って、ゼイフォゾンとアルティスを余計に信頼していた。この戦争に終止符の打てる戦力として、この二人は、もしかしたら英雄になるかも知れないと思った。そして、ゼイフォゾンには無限の可能性があるのだろう。だから旅をしているのであろう。そう考えた。

 確実に、そして戦争は激化の一途をたどるであろう。それを止めるために、彼らは覚悟をもって進んでいた。この戦いに、真の平和の意味を知るきっかけは掴めるのであろうか。それを予見できる存在は神聖ザカルデウィス帝国にはいない。冷淡に、現実を受け入れていくしかない。それがこの戦いであった。

 ゼイフォゾン、アルティス、カオウス、ソーン、ゲンドラシル、ルシファー…彼らはこの戦争を正しく破壊する救世主となり得るのか。神は微笑んでくれるのか。その心はこのコル・カロリの世界に届くのか。三つ巴の苦難が、始まった。
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