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学生時代を、田舎町で
10.空虚な夏
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智から連絡が来なくなってから、二ヶ月経つ。
智に起きている出来事も知らずに、智を傷つけてしまったあの日から、連絡が来なくなったのは夏休みが近いからだとか、休み中だからだとか、ずっと言い訳をし続ける自分が情けないのに、何もできない。
僕がこれまで、最低限以外の連絡を智にしたことのないことに気付く。
「この間はごめん」と言えばいいのか。それとも、何の用事もなくただ遊びたいから電話したふりをすればいいのか。それすら分からなくて、僕の手は携帯電話を何度も行き来した。
今までなら「宿題のどこが分からない」とか「暇だ」とかで智が連絡をくれたり、「早くうちに来いよ」と呼び出しがあったりしたのに、全くないまま、夏休みは終わった。
僕は、かつてないほど空虚な夏を過ごした。
学校が始まって、とてもつまらなそうな顔をしている智を見つけた。
僕の目はもう、自動で智を追いかけるようにできているようだ。
「智」
自分からは電話すらできなかったのに、見つけてしまったらもう駄目だった。
智が僕の方をちらりと見る。
見てくれた。
だから、何もなかったかのようにまた話せると思ったのに。
智の目線は、僕を離れて何処でもない遠くを見た。
智が、僕の名前を呼んでくれない。
笑いかけても、話しかけてもくれない。
まるで、今までの日々なんてなかったみたいに。
いや、もっとひどい。
僕という存在はきっと、智の中から消えたのだ。
そこまでどうしようもなくなってから僕は、智に好きだと言えばよかったなんて、できもしないことを考えるようになった。
自分がこれほど馬鹿だなんて、知らなかった。
*
中学三年生になった。
受験生という立場になってしまった僕は、忙しい中、仕事を休んで三者面談に来てくれた父を困らせた。
県下で一番偏差値の高い高校に僕なら入れると、担任も父さんも期待してくれたようだ。だが僕は、一番近くの公立校に入ると決めていた。智はきっと、そこに行くから。
「早音。高校の選択は一生のことなんだぞ。自分の可能性を信じなさい」
「糸島なら無理をしないでも十分狙える」
説得を試みた二人を、僕は突っぱねた。
そうして、僕の後に三者面談の入っていた智の母親が自慢げに、まだ赤児と言っていいほどの子供を連れて学校にやって来たの覗き見て、もう表情のない智がひとこと「近くの高校に行きます」と言うのを、こっそりと聞いた。
同じ高校に入ったからって、僕たちの仲が修復されるなんてことはないのは分かっている。
なのに、智と離れることができない。
見るだけでも。話せなくても。
阪本智が好きで、彼の仕草のひとつひとつが愛おしいと思ってしまうのを、僕は止められない。
智が好きだ。
智がそこにいるだけでいい、から。
だから、想わせてくれ。
智に起きている出来事も知らずに、智を傷つけてしまったあの日から、連絡が来なくなったのは夏休みが近いからだとか、休み中だからだとか、ずっと言い訳をし続ける自分が情けないのに、何もできない。
僕がこれまで、最低限以外の連絡を智にしたことのないことに気付く。
「この間はごめん」と言えばいいのか。それとも、何の用事もなくただ遊びたいから電話したふりをすればいいのか。それすら分からなくて、僕の手は携帯電話を何度も行き来した。
今までなら「宿題のどこが分からない」とか「暇だ」とかで智が連絡をくれたり、「早くうちに来いよ」と呼び出しがあったりしたのに、全くないまま、夏休みは終わった。
僕は、かつてないほど空虚な夏を過ごした。
学校が始まって、とてもつまらなそうな顔をしている智を見つけた。
僕の目はもう、自動で智を追いかけるようにできているようだ。
「智」
自分からは電話すらできなかったのに、見つけてしまったらもう駄目だった。
智が僕の方をちらりと見る。
見てくれた。
だから、何もなかったかのようにまた話せると思ったのに。
智の目線は、僕を離れて何処でもない遠くを見た。
智が、僕の名前を呼んでくれない。
笑いかけても、話しかけてもくれない。
まるで、今までの日々なんてなかったみたいに。
いや、もっとひどい。
僕という存在はきっと、智の中から消えたのだ。
そこまでどうしようもなくなってから僕は、智に好きだと言えばよかったなんて、できもしないことを考えるようになった。
自分がこれほど馬鹿だなんて、知らなかった。
*
中学三年生になった。
受験生という立場になってしまった僕は、忙しい中、仕事を休んで三者面談に来てくれた父を困らせた。
県下で一番偏差値の高い高校に僕なら入れると、担任も父さんも期待してくれたようだ。だが僕は、一番近くの公立校に入ると決めていた。智はきっと、そこに行くから。
「早音。高校の選択は一生のことなんだぞ。自分の可能性を信じなさい」
「糸島なら無理をしないでも十分狙える」
説得を試みた二人を、僕は突っぱねた。
そうして、僕の後に三者面談の入っていた智の母親が自慢げに、まだ赤児と言っていいほどの子供を連れて学校にやって来たの覗き見て、もう表情のない智がひとこと「近くの高校に行きます」と言うのを、こっそりと聞いた。
同じ高校に入ったからって、僕たちの仲が修復されるなんてことはないのは分かっている。
なのに、智と離れることができない。
見るだけでも。話せなくても。
阪本智が好きで、彼の仕草のひとつひとつが愛おしいと思ってしまうのを、僕は止められない。
智が好きだ。
智がそこにいるだけでいい、から。
だから、想わせてくれ。
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