霧島がゲスすぎる話について。

虚実

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~望の本当の気持ち~ 11話

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「ごめんね、ごめん。暁人。俺が目を離したから…」

望が僕を抱きしめながらそう呟く。
抱きしめられていたので顔は見えなかった。だけど、ごめん、ごめん。と呟く望の声は少し震えていて、とても辛そうだった。

なんで、お前が辛そうなんだよーーーー。
望がなぜ自分の事じゃないのにそんなに辛そうなのか、僕には理解ができなかった。
でも、なぜが心の内は暖かさを感じていた。この気持ちは…。

「もう、大丈夫だって。」

「本当に?あ、こんな事でお詫びになるとは思ってないけど、暁人が行きたい所とかないの?何処へでも連れていってあげるよ。地方でも、海外でも、宇宙でも!!」

物凄い勢いでそう言う望は、真剣な目をしていて、嘘をついていない顔だった。
それが可笑しくて、僕はつい笑ってしまった。

「あっはは!望、そんな真剣な顔して
怖い事言うなよ。 まぁ、望ならやり兼ねないけど………うーん、そうだなぁ。あ!
じゃあすぐ近くのテーマーパークの観覧車に乗ろうよ!」

「え、そんな所でいいの…?」

「当たり前だろ。第一、あいつらに目をつけられたのはお前のせいじゃないし。」

「……そんな事…ないよ。、」

望は罰が悪そうな顔をしながら、顔を僕から背けた。

「?まぁ、とりあえずいいから、早く観覧車行こうぜ。」

僕は立ち上がり、望の手をとって、テーマパークにある観覧車に向かった。

「うわぁ!すげぇな。随分久しぶりにテーマパークなんて来たな…」

僕が感嘆をしていると斜め後ろにいた望は急に笑った。

「あははっ 暁人ってば、目輝かせちゃって、ーーーーー。」

「?なんていったんだ?」

「なんでもないよ。」

?…何か最後に言ってた気がしたんだけど…気のせいか?

「ほら、そんな事より観覧車についたよ」

「あ!本当だ。」

そうして僕と望は観覧車に乗り込んだ。

「うわぁ!!すげぇな!ほら、望。見てみろよ」

僕が窓から見える景色に興奮しながら望の方を振り返ると、
望は何故かあまり楽しそうじゃなかった。

「…観覧車、嫌だったか?」

「え…。い、いや。そんな事ないよ。
…………ただーー。」

「ただ?」

僕が望の言葉の先を待っていると、
望はニヤリと笑ってこう言った。

「ただ、こんな密室で狭い場所で二人っきりなのに無防備な暁人が可愛くてね…?」

「え。…………っ!?な、なんなんだよっ」

僕が望から体を引くと望は僕に体を近づけた。

「っ!!」

ヤられるっ!そう思いとっさに目を瞑った僕だったが、望がしたのは、意外な事だった。

チュッ

「え……?」

望は僕のおでこにキスをしただけだった。


な、なんだ。別にヤるわけじゃなかったのか…

ーーーーーーーーーー!

え。僕、今寂しいとか思った…?
は?な、なんで。
そんなはずは…………で、でも、最近は望が無理矢理迫ってくることは無くなってたな……。なんでだ?

「?どうしたの、暁人。」

望が不思議そうな顔で僕の顔を覗き込んだ。
【なんで迫って来ないのか】僕はこの疑問を素直に望にぶつけることにした。

「なぁ、なんで最近お前
     僕の事無理矢理
        犯そうとしなくなったんだ?」

「え?…………」

望がしばらく黙り込んだ後、ニヤリと笑ってこう言った。

「それって、暁人は俺に期待してるって事でいいの?」

またそうやって曖昧にしようとしてる。
こいつはいっつもそうだ。自分にとって不都合な事があると誤魔化す。

「誤魔化すなよ。僕は真剣なんだ。
     最初に再会したとき、僕の事脅してでもシようとしてたのに、なんで最近はそんな素振り見せないんだ?」

望は困ったような顔をしながら、
僕の目を見つめて言った。

「実はね……最初に俺と暁人が会ってからその日のうちに俺の家に来てSEXしたでしょ?
それで暁人が気絶して、無防備な顔をみて思ったんだ。【また、同じ事を繰り返してしまった。】って」

「え……?それって、どういう……」

「中学の頃に、実は一度だけ君に声をかけられたんだよ。まぁ、暁人は覚えてないだろうけど。」

「……」

僕は中学の頃の事を思い出そうと必死に頭を動かした。
ーーーでも、思い出せるのは僕がイジメられていた記憶。
僕がまた震えているのを感じ取ったのか、
望がフッと優しく微笑み、僕の手を握ってきた。
ーーーーーー暖かい。
望に握られた手は暖かくて、震えがすっとおさまった。……おかしいな、なんでなんだろう。

僕はなぜ望に手を握られて安心するのか自分の心に問おうとしたが、今は望の話を聞かなければならない。
僕は望の目をみて、続けて。と言った。
すると望は頷き返し、話を続けた。

「俺になんの警戒心も持たずに話しかけてきた人は暁人が初めてだったんだ。」

「それから俺は暁人の事をずっと目で追うようになって、ある日から暁人が他の男や女と話してるところみて、俺の心の中で怒りの感情があったんだ。
それで、気づいたんだよ。
俺は、【暁人が好きだ】って。」

「!?」

僕が…好き?
また、冗談……なのか?
僕は望が急に放った衝撃の言葉に動揺していたが、望は気にすることなく、話を続けた。

「それで、暁人がイジメられていたとき、
【それを利用すれば効率よく暁人とSEXできる】って。ほんと、我ながら最低だよな。   でも、その当時はそれが一番良い策だと思ったんだ。
でも、中学2年生の秋頃、暁人が引っ越して、暁人が居なくなって決めたんだ。
【あんな卑怯な事はもうしない】って、でもいくら時間が過ぎても考えるのは暁人の事だけで、結局こうしてまた会いにきた。
しかも、もう卑怯な事はしないって、心に誓ったはずなのに……また…俺は同じ過ちを犯した。ほんと、最低最悪のクソ野郎だよね。」

そう語った望は、また辛そうな顔をしていた。何故か、その顔を見ていると、僕まで心が締め付けられた。
ふと、僕の手を握っている望の手が、震えていることに気づいた。
無意識に、僕はその手をギュッと、強く握った。
すると望は驚いた顔をして、やがてふっと微笑んだ。

「俺がした事は許される事じゃないし、許してもらおうとも思ってない。けど、これからは無理矢理にシようとしないから。
本当に、ごめん。」

「…………そうだったんだな。
確かに、望が僕のイジメに直接的に関わっていなかったとしても、僕がイジメられてるのを利用してたのは、許せない。
でもね、望のした事は許せなくても、望の事は許せるんだ。だから、これからも【友達】でいよう。」

望が僕の事を【好きだ】と言っていたが、僕にはそれを断る事も、受け入れる事も出来なくて、結局逃げてしまった。

望は少し悲しそうな顔をしていたが、すぐに笑顔を取り繕いずっと握っていた手を放した。

それと同時に観覧車はいつのまにか一周し終えていて、僕たちは観覧車を後にした。

「今日は楽しかったよ。
まぁ、途中で邪魔が入ったけど。」

望がそう言って僕の正面に立った。

「?どうしたんだ?」

「嘘だよ。」

「へ?」

急にそう言った望は、歪んだ笑顔を浮かべていた。ーーーー笑顔?なのか?僕には望のその顔は笑顔にも見えて、苦しそうにも見えた。

「観覧車で話した事、全部嘘だよ。
まぁ、嘘じゃない事もあったけど。
暁人の事好きでもないし、暁人とSEXしたのは、ただの性欲処理。理由はさっき言った通り、【効率が良かったから】」

「え……?な、何言ってるんだよ?
じゃ、じゃあなんでまた僕に会いにきたんだよ?」

「あー、それはただ単にまたイジメたかったから?だって、暁人すっごい体が敏感で、面白かったからまた会いにきたの。
いや~、俺に睡眠薬飲まされて無理矢理されてたのに、少し一緒に居たら警戒心薄れちゃって、【騙してて面白かったよ】」

「は…………」

僕は言葉も出なかった。
ただ、心の底から怒りが湧いてきた。
なんで、こいつの事信じたんだろうか。
なんで、一瞬でも優しいとか、いい奴だとか思ったんだろうか。
そんな自分に腹がたった。
そんな怒りが僕を突き動かした。

パンッ!!!!

気付いたら、僕は目の前のこいつの顔にビンタをしていた。

「あっ、ごめっ……」

咄嗟に謝ろうとしてしまった自分に釘を刺し、これは望の、こいつの自業自得だと言い聞かせ、僕はその場から立ち去ったーーーーーー。


暁人が去った後、街灯一つない闇のなかで一人残された望は、とても苦しそうな顔をして、小さく呟いた。

「これで……良かったんだよ。
だって……。
暁人と一緒に居たら、
友達の関係のままで……
いられない気がするから……。
ごめんね、暁人ーーーーーーーーーー。」
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