深い森の彼方に

とも茶

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第十一章 今度は自分の意志で

11-3

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もう一つの疑問がリーダーの言っていた「本部」だ。「自然にわかる」とはなんだ。この銀行も「自然にわかった」ということだろうか。
銀行を出て街をぶらついた。あの地下街にも入りあの管理事務所前も通った。私に掃除の指示をした中年の管理人は、白いブラウスにきちんとプリーツのはいったジャンパースカートの姿で事務所のパイプ椅子に腰かけていた。私に気付くと手を挙げ
「やあ、久しぶりだね。元気そうで何より。」
と声をかけてきた。
彼女の姿はさっきのリーダーと同じように、くっきりとなまなましく姿が浮かび上がっていた。地上の通行人、銀行員、彼女たちが何となく生気がないのに比べ生き生きとしていた。何かが違う。
「ご無沙汰してます。お元気でしたか。」
私は無理に明るく声をかけた。
にこにこしている彼女を後に地下街を進むと、「中央合同庁舎」なる建物の入口があった。地下道から庁舎の地階に入れるようだ。しかし、こんな施設があったとは知らなかった。人気ひとけはないが自由に入れるようなので入ってみた。いくつかの事務室の前を通りすぎると地上階にでる階段があった。階段を上ると広い天井のあるロビーとなりその右側に「本部」とだけ書かれたプレートが置かれたカウンターがあった。何の本部か、全くわからない。これがリーダーの言っていた本部なのだろうか。
カウンターの向こうを覗くと、数名の黄ばんだブラウスに古いプリーツスカートの中年事務員のいるデスクの向こうに、ロングヘアーの若いセーラー服姿の女性が比較的大きな両袖机に向かって書類を眺めていた。姿形はどう見ても女子高校生にしか見えない。しかし、坐っている場所はどう考えても中年女性の上司に相当する管理職の席だ。
セーラー服の女性はふと顔をあげると私に気付き、つかつかと私に向かって歩いてきた。美少女そのものだった。セーラー服の白いタイが眩しかかった。膝丈のスカートは染みもテカリもなく、見事にアイロンのきいたプリーツに包まれていた。そのスカートをなびかせ近寄ってきた美少女が言った。
「今日行かれますか?」
「え、行くって?」
「向こうのお仕事に。すぐ行かれるようでしたら手配します。しばらくそこで・・・」
「まってください。今日はまだ。」
彼女がリーダーの言っていたプレジデントか。こんな美少女を部下として使っていたのか。こんな美少女がこの本部の責任者なのだろうか。いやリーダーの言い方ではこの世界の責任者のような言い方だったはずだ。
「リーダーに言われて、まだ本部に来たことがなかったので場所を確認してみようと思って。」
「わかりました。行かれるときには、早めに連絡を取れれば条件のいいお仕事が準備できますので、できれば前日までに来て頂きたいのですが。」
「条件のいいというと、報酬それとも・・・」
「報酬もそうですが、お相手も素敵な・・・」
彼女は赤くなった。
間違いない。彼女が売春の斡旋をしているのだ。このように純粋無垢な顔をして。
「じゃあ、その時には早めに来ますので、よろしくお願いします。」
「はい、お待ちしてます。」
セーラー服の美少女はにっこり笑うと頭を下げた。
思い出した。あの帰りのワゴン車の運転主の若い女。普通にブラウスとスカートよりジャンパースカートのほうがランクが上と言っていた。更に上位の人はセーラー服を着ていると。するとあのセーラー服の美少女があちらの世界とも折衝できる技能を持った売春斡旋責任者ということになるだろう。
リーダーのいうとおり、銀行すなわちお金も、仕事先の斡旋も、自然に見つかった。何も苦労もせずにだ。合同庁舎を出て外を歩くと、そろそろ夕暮れが近づいてきた街並みは大半がさほど目立ったところもない当たり前の平板な風景だが、合同庁舎や銀行は生き生きと見えた。建物自体もとても立派なものに見えた。平板な風景の中にも、いくつか特徴だった建物があった。それは、いつも食材や弁当を買う食料品店だし、このスーツを買ったブティックだった。私が私の生活のために係りあいを持った建物は平板な風景からなんとなく浮き上がって見えるような気がした。その他の建物の商店や飲食店は、中にいる店員も生気のない表情をしていた。
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