61 / 95
第十一章 今度は自分の意志で
11-5
しおりを挟む
6時に目を覚ますと、洗面、化粧、着替えをあわただしくすませ、昨晩買っておいたサンドイッチを口に放り込み、階下へ駆け下りていった。
7時にはまだ少し間があったが、あの古ぼけたワンボックスカーが停まっていた。
「おはようございます。」
あの若いジャンパースカートの運転手だった。
「今日はお仕事で向こうへ行かれるのですね。」
「ええ・・・」
この娘は私が向こうで何をしようとしてくるのか知っているのだろうか。でも、前に会ったときは「男の運転手」ということばに、「オトコ?」という返事が返ってきた。セーラー服とジャンパースカートの間に男というものを認識しているかどうかの境界があるのだろう。
「これから道が悪くなりますけど、どうしますか?」
「どうするって?」
「その前に寝てしまうと、気持ち悪くはならないかと・・・」
「寝ないといけないんですか?」
「決まりですから。」
「どうして?」
「境界から向こうに行こうとするときは意識を抹消しないとだめなんです。」
彼女はしつこく質問しても無表情にはならなかった。きちんと答えてくれた。
「境界っていうのは、あの城壁というか、城門というか・・・」
「そうです。その門を超えるときは必ず。」
「あなたはいいの?」
「私は、門まで行ったらすぐ引き返してきますから。門までならいいんです。」
「私はそこで意識を失っていろということなのね。」
「そうです。」
「向こうの人は連れにきてくれるんでしょ。」
「来てくれます。」
「どんな人?」
「会ったことはありません。私たちがいる間は来ることができませんから。」
そういうことか、それで前の中年運転手や向こうの男の運転手は私を力づくで気を失わせたってわけか。まあ、この若い運転手はやさしいってことだ。
「じゃあ、お願いします。」
彼女は助手席のバッグからスプレータイプの香水のような容器を取り出した。
「これを鼻に向かってスプレーし、吸い込んでください。2~3回やればいいかと。私にかからないようにしてくださいね。居眠り運転になってしまいますから。」
容器を受け取ると鼻に向けてスプレーを数回押した。押したことは覚えているが、そのあとその容器をどうしたのかすら記憶がなかった。
「おい、姉ちゃん起きろ。」
「・・・」
「まあ、よく寝てるもんだ。」
寝ぼけ眼で体を起こすと、あの古びたワンボックスカーの運転席にはこの前の男の運転手がいた。
「あんた、この前のオカマだろ。ずいぶん見違えたな。ずいぶん女らしくなったじゃないか。」
「そうですか。」
「整形でもしたかい。」
「いえ、そんなことは・・・」
「じゃあ、ホルモン漬けになったか。副作用がたいへんだぞ。」
「それほどは・・・」
「じゃあ、男に抱かれ続けて、徹底的に女にされて、自分の体内で女性ホルモンが大量生産されたってことか。」
「・・・」
男の好き勝手な言葉は無視して。元の世界の風景を眺めていた。
「ほらここだよ。」
ホテルではなく、ちょっと昔懐かしい喫茶店だ。
「中で座って待ってれば、男がやってくるってことらしいぞ。じゃあな。あんまりはりきりすぎんなよ。」
道端で下されると行ってしまった。
中に入るしかない。ここで逃げ出せばまたあの騒動が起きるにきまっている。この世界のことで自分に関することはすべて記憶から失われているから、この世界にとどまることはできないのだろう。そして女だけの世界に戻るにはあの車に乗らなくてはならないのだ。
観念して喫茶店のドアを開け、店内に入った。入口のすぐそばの空いている席に座ったとたん、40歳ぐらいの中肉中背の男性が向かいに腰かけた。
「あんたかい?」
「ええ、まあ・・・」
「あのクラブのマスターが言うとおり結構女っぽいな。まあ、合格としようか、行くぞ。」
7時にはまだ少し間があったが、あの古ぼけたワンボックスカーが停まっていた。
「おはようございます。」
あの若いジャンパースカートの運転手だった。
「今日はお仕事で向こうへ行かれるのですね。」
「ええ・・・」
この娘は私が向こうで何をしようとしてくるのか知っているのだろうか。でも、前に会ったときは「男の運転手」ということばに、「オトコ?」という返事が返ってきた。セーラー服とジャンパースカートの間に男というものを認識しているかどうかの境界があるのだろう。
「これから道が悪くなりますけど、どうしますか?」
「どうするって?」
「その前に寝てしまうと、気持ち悪くはならないかと・・・」
「寝ないといけないんですか?」
「決まりですから。」
「どうして?」
「境界から向こうに行こうとするときは意識を抹消しないとだめなんです。」
彼女はしつこく質問しても無表情にはならなかった。きちんと答えてくれた。
「境界っていうのは、あの城壁というか、城門というか・・・」
「そうです。その門を超えるときは必ず。」
「あなたはいいの?」
「私は、門まで行ったらすぐ引き返してきますから。門までならいいんです。」
「私はそこで意識を失っていろということなのね。」
「そうです。」
「向こうの人は連れにきてくれるんでしょ。」
「来てくれます。」
「どんな人?」
「会ったことはありません。私たちがいる間は来ることができませんから。」
そういうことか、それで前の中年運転手や向こうの男の運転手は私を力づくで気を失わせたってわけか。まあ、この若い運転手はやさしいってことだ。
「じゃあ、お願いします。」
彼女は助手席のバッグからスプレータイプの香水のような容器を取り出した。
「これを鼻に向かってスプレーし、吸い込んでください。2~3回やればいいかと。私にかからないようにしてくださいね。居眠り運転になってしまいますから。」
容器を受け取ると鼻に向けてスプレーを数回押した。押したことは覚えているが、そのあとその容器をどうしたのかすら記憶がなかった。
「おい、姉ちゃん起きろ。」
「・・・」
「まあ、よく寝てるもんだ。」
寝ぼけ眼で体を起こすと、あの古びたワンボックスカーの運転席にはこの前の男の運転手がいた。
「あんた、この前のオカマだろ。ずいぶん見違えたな。ずいぶん女らしくなったじゃないか。」
「そうですか。」
「整形でもしたかい。」
「いえ、そんなことは・・・」
「じゃあ、ホルモン漬けになったか。副作用がたいへんだぞ。」
「それほどは・・・」
「じゃあ、男に抱かれ続けて、徹底的に女にされて、自分の体内で女性ホルモンが大量生産されたってことか。」
「・・・」
男の好き勝手な言葉は無視して。元の世界の風景を眺めていた。
「ほらここだよ。」
ホテルではなく、ちょっと昔懐かしい喫茶店だ。
「中で座って待ってれば、男がやってくるってことらしいぞ。じゃあな。あんまりはりきりすぎんなよ。」
道端で下されると行ってしまった。
中に入るしかない。ここで逃げ出せばまたあの騒動が起きるにきまっている。この世界のことで自分に関することはすべて記憶から失われているから、この世界にとどまることはできないのだろう。そして女だけの世界に戻るにはあの車に乗らなくてはならないのだ。
観念して喫茶店のドアを開け、店内に入った。入口のすぐそばの空いている席に座ったとたん、40歳ぐらいの中肉中背の男性が向かいに腰かけた。
「あんたかい?」
「ええ、まあ・・・」
「あのクラブのマスターが言うとおり結構女っぽいな。まあ、合格としようか、行くぞ。」
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる