深い森の彼方に

とも茶

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第十三章 もう一人の指導者

13-2

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その時、200mぐらい先の路地から道路から見覚えのある車が出てきた。がたがた揺れながらゆっくりとこちらに向かってくる。ワンボックスカーだ。
「どちらに行くんですか。」
窓から顔をだしたのは、あの若い運転手だった。
「基地に行こうと思って、軽トラックに乗せてもらったんだけど、そこでどうにもならなくなって。」
振り返ってみると、溝に嵌った軽トラックの脇でプリーツスカートの女が所在なげに地面に腰を下ろしていた。
「あんなのに乗ったんですか。無理ですよあんなオンボロでは。ここまでこれただけでも上出来です。乗ってください。これも乗り心地はよくありませんが。」
「ありがとう。」
ワンボックスカーは走り出した。軽トラックよりははるかにマシだ。
「でも、たまたま通りかかるなんてほんとに偶然ね。」
「ええ、まあ。」
「いつも、この車で走りまわっているの?」
「ええ、もう一人と交代で。」
「あの、もう少し年上の人ね。でも普通は誰を運んでるの?」
「あなたのような、というか・・・」
「じゃあ、私のような人が何人もいるってこと?」
「まあ・・・」
何やら話をしづらそうだった。万が一、若い運転手まで消えていまったらと考えると恐ろしくなり話を止めた。

道の廻りの視界がいきなり開けた。広い空地が広がっている。遠くにかまぼこ型の建物。兵舎か、それとも戦車などの格納庫か。いずれにしても広大な軍事施設に近づいた。どう見ても、あの城郭から歩いて町に向かって歩いた時に見かけた施設とはスケールが違う。基地脇の道を暫く走り、2階建ての建物が見えてきた。
「あそこが本部です。そこでよろしいですか。」
「ありがとう、でも帰るときはどうしたらいいか。」
「その時はお呼びください。」
「どうやって? 電話もないのに。」
「大丈夫です。私がわかります。」
「え、どうやって?」
「さあ着きました。」
建物の入口の前に止まると、兵士が駆け寄ってきた。一人の兵士がワンボックスカーの扉を開くと他の兵士は前に並んで直立不動で敬礼をした。面食らった私は、扉を開けてくれた兵士に促されるままに建物に入った。
中で出迎えた女性は、灰色がかった濃緑色の上下、上衣は金ボタンに金モールをななめに掛け、肩章に胸にはいくつもの部隊章や階級章、勲章もいくつかつけている。上衣の襟もとからは白のシャツに上衣と同色のネクタイがのぞいている。下は同色のタイトスカートにストッキングに黒のローヒールのパンプス。脇に帽子を抱えている。どう見てもそれなりのポストについている将校のようだ。
「お待ちしていました。もういらっしゃるころかと思っていました。」
聞いたことのある声だった。私をじっと見つめる顔をよく見ると驚いた。あの地下街の管理人だった。
「どうぞこちらへ。」
重みのある声で入口脇の小部屋に案内された。そこは壁の高いところに賞状や肖像画、ガラスケースにはトロフィーやカップ、中央に重厚な応接セットが配置され、床は毛の長い絨毯、小さいながらも豪華な応接室だった。
ソファーに腰を下ろすやいなや、同じ服を来た若い兵士がお茶を持ってきた。同じ服とはいっても肩章や徽章はない。部隊章らしきものが縫い付けてあるだけだ。管理人は軽く頷き、目ですぐ出て行くように促した。彼女が敬礼をして部屋を出て行く。
私はあっけにとられた。そもそもあの薄汚い地下街の管理人が将校とは、その将校が私をまるで目上の者のように対応している。私はただ「あの城郭って知っていますか。どこにあるのですか、その向こうはどうなてるいるのですか。」程度の質問をしにきただけだったのに、この待遇だ。私は言葉を発することができなくなってしまった。
「どうもわざわざこの片田舎にある基地まで御足労いただきまして・・・」
「最近、外部からの侵入者らしき者が増えて・・・」
「我々も、我が国の安全のために全力を尽くしており・・・」
「是非、訓練の様子もご視察いただき直接御指導を・・・」
色々なことを矢継ぎ早に言われた。すべての言葉が私の生活とはあまりにかけ離れた話題であり、経験したことのないような言い方だったので、ほとんどの言葉は左耳から右耳へ通り抜け、言っている趣旨は全く理解できなかった。
私が茫然として言葉を発せずにいる中で、管理人は20分ほど延々としゃべり続け最後に付け加えた。
「初めてお越しいただいたわけで、詳細は追々ご説明するようにいたします。今日はお疲れでしょうからご挨拶だけということで、お住まいまで軍用車でお送りすることにいたします。本日はありがとうございました。」
といって立ち上がった。
私も釣られて立ち上がり、開けてくれたドアからそとに出た。10名ほどの直立不動の若い兵士は一斉に敬礼し、その敬礼に見送られ外に出た。
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