深い森の彼方に

とも茶

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第十三章 もう一人の指導者

13-3

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建物の外に出たとたん、軍用ジープが目の前に止まった。
濃緑色の上下に部隊章などを胸に着けた軍服姿の兵士が運転していた。運転手は運転席から飛び降り後部座席の扉を開けた。私が乗り込むと大勢の見送りの直立不動の兵士を残してジープは発進した。
「お疲れ様でした。」
声を掛けてきた運転手の横顔を見てびっくりした。
「あなただったの・・・」
「はい、軍用車を運転するときには必ず軍服になります。それ以外のときは平時の制服、つまりジャンパースカートで勤務しています。」
「私は・・・」
「今日はせっかく基地までお越しいただいたので、この車で外部との接壌地帯のご視察をしていただいて、その後ご自宅にお送りします。よろしいでしょうか。」
「あの・・・」
「最近外部からの侵入者の情報が頻繁にありまして、現場は平時ではありますがかなり緊張した状態にあります。そのため、万が一のことを考えて下車してご案内は残念ながらご遠慮いただこうと思います。申し訳ありませんが、車窓からのご視察とし、説明は私がさせていただきます。よろしいでしょうか。」
「はい・・・」
基地の門から外に出て暫くすると、荒涼とした風景が広がった。
「ここからが接壌地帯で、一般人の立ち入りは禁止されています。」
正面は灌木に覆われた小高い丘だった。その丘を大きく回りこんだところで、いきなり煉瓦造りの延々と続く城壁が目の前に現れた。
「この城壁が我が国の防衛線です。」
これだ。これがあの城壁だ。しばらく城壁伝いに走ると巨大な城郭が現れた。
まさにこれだ。これが深い森を抜けたところで現れた城郭だ。この城郭に連れ込まれて、私は初めてこの国に入ったのだ。
「あの大きな建造物が外部との唯一の接点になっているところです。その他に外部と接している城門はありません。」
城郭の周囲は多くの兵士が警備し、ものものしい雰囲気が漂っていた。
「この建造物は警備部隊の前線基地も兼ねていて、外部からの侵入者があった場合は、取り押さえて尋問するための施設にもなっています。」
城郭の正面で停車した。城郭の警備の兵士は、ジープに向かい捧げ銃の姿勢をとった。
「我が国の国民でも、放逐刑に処せられた者はこの城門から外に出され二度と門内に入ることはできません。また重罪人や外部からの危険な侵入者は門前の広場で処刑され、城郭の向こう側に放置されます。そのうち、肉食獣や猛禽類の餌となり骨だけになって飛散し大地に戻ります。」
私は、かつて兵士に連れられてここまで来て、そして城門の外に放逐されたことを思いだした。ここはそんなところだったのか。
私は、若い運転手の説明にも、ほとんど応答することもできずに城郭を見上げていた。しばらくの沈黙のあと、私は漸く言葉を発することができた。
「この向こうはどうなっているのですか?」
「人の住めない地で、ところどころ灌木のある荒地でその向こうは森が広がっていると聞いています。」
「その森の向こうは?」
「知りません。」
「向こう側に行った人はいるのですか。」
「放逐された罪人だけです。放逐の時と侵入者の確保の時は外門を開けますが、それ以外に城郭の外門を出るような人はいないと聞いています。私は外を覗いたこともありません。」
「そうですか。わかりました。」
「それでは、これからご自宅にお送りするということでよろしいですか。」
「はい、お願いします。」
城郭も森もあった。しかし、まるで朝鮮半島の非武装地帯のように、城郭はその非武装地帯にある板門店の施設のようであった。
それに、理解できないのが、私に対する態度。管理人も運転手も私を上官のような対応だった。いったいどうしたというのだろうか。
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