45 / 59
腐れ大学生の物見遊山編
第44話 少女よ、大志を抱け
しおりを挟む
そんなやり取りをしていると、会計カウンターの方から、からんころんと、赤子をあやすガラガラのような音がした。
振り返って見ると、会計カウンターの前で、壮齢の男性がハンドベルのような楽器を鳴らしていた。
手には数冊の符を持っているので、買い取りに来た客だと思われる。
店主は、広げた術符を袖口へと仕舞い、私に話しかける。
「イナバさん。すいません。一度、仕事に戻ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
律儀にも、店主は私に伺いを立ててから、カウンターへと歩いていった。
「なぁ、バイリィ」
あまり交渉をまじまじと眺めるのも失礼かと思って、私は書棚に背を預けているバイリィに話しかけた。
彼女は、私と店主が会話している間、ずっと娯符を読んでいた。
「んー?」
彼女の目は、まだ紙面に向けられていた。
「君の作品は、この店に置いてあったりしないのか?」
何気ない質問のつもりだったのだが、彼女の目線は急に上がった。
「な、何言ってんの?」
珍しく、焦りと照れを感じる表情になるバイリィだった。
「いや、君は文学を書いているんだろう? あの部屋を見ればわかる。そんな君なら、この店にひとつやふたつ、作品を提供していてもおかしくはないと思ったんだが」
「は、は、はぁ?」
彼女の手にギュッと力が込められ、符が歪んで、買い取り確定となった。
彼女の反応は、まるで、部屋の掃除中に夢小説を発掘されてしまった女子中学生のようだった。目は泳ぎ、頬は赤らみ、手にはじんわり汗が滲んでいる。
「イナバ! それはqiǎn xuéだよ! 娯符はたいてい、面白い原典の複製ばっかり! 新作なんて、簡単には受け入れてもらえないんだから! あたしの作品なんて、まだまだ、」
「ということは、書いてはいるんだな。そして、いずれ店に出したいとも思っている、と」
「……うん」
「どんな物語なんだ?」
「言わないよ! 口で伝えられるほど、あたしの作品はchán yīじゃないの!」
私は彼女の口ぶりに、文芸サークルに所属していた頃の雰囲気を感じた。懐かしくなって、思わず口角があがる。
「それに、あたしが作りたいのは、今までの、読んで楽しむだけの娯符とは違うの! ちゃんと、魔術回路もしっかり組み込んで、その魔術の効果の中で読んでもらうの! 物語と魔術の融合文学! 読んで、体験してもらうための作品にする予定なの!」
自分にまだ無限の可能性を見出している若者の、大きな志であると思った。
現世の友人にも、似たようなことを言っているヤツはいた。だが、彼は口から絵空事を吐き出すばかりで、一向に行動を移さなかったので、内心で軽蔑していた。
バイリィは違う。
彼女の部屋を見る限り、彼女は少なくとも、自分の志を実現させようと努力している。
ならば、むしろその志は尊敬に値する。
「良い作品になりそうじゃないか。君の完成品を見るために、私はこの世界の文字を理解しようと思うぞ」
私にしては、気の利いた文句を言えたと思う。バイリィも、
「……ありがと」
と、小さな返事をした。
「あー、もう、どこまで読んだかわからなくなった!」
バイリィは、照れ隠しのためか、再び娯符に目を落とし始めた。
振り返って見ると、会計カウンターの前で、壮齢の男性がハンドベルのような楽器を鳴らしていた。
手には数冊の符を持っているので、買い取りに来た客だと思われる。
店主は、広げた術符を袖口へと仕舞い、私に話しかける。
「イナバさん。すいません。一度、仕事に戻ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
律儀にも、店主は私に伺いを立ててから、カウンターへと歩いていった。
「なぁ、バイリィ」
あまり交渉をまじまじと眺めるのも失礼かと思って、私は書棚に背を預けているバイリィに話しかけた。
彼女は、私と店主が会話している間、ずっと娯符を読んでいた。
「んー?」
彼女の目は、まだ紙面に向けられていた。
「君の作品は、この店に置いてあったりしないのか?」
何気ない質問のつもりだったのだが、彼女の目線は急に上がった。
「な、何言ってんの?」
珍しく、焦りと照れを感じる表情になるバイリィだった。
「いや、君は文学を書いているんだろう? あの部屋を見ればわかる。そんな君なら、この店にひとつやふたつ、作品を提供していてもおかしくはないと思ったんだが」
「は、は、はぁ?」
彼女の手にギュッと力が込められ、符が歪んで、買い取り確定となった。
彼女の反応は、まるで、部屋の掃除中に夢小説を発掘されてしまった女子中学生のようだった。目は泳ぎ、頬は赤らみ、手にはじんわり汗が滲んでいる。
「イナバ! それはqiǎn xuéだよ! 娯符はたいてい、面白い原典の複製ばっかり! 新作なんて、簡単には受け入れてもらえないんだから! あたしの作品なんて、まだまだ、」
「ということは、書いてはいるんだな。そして、いずれ店に出したいとも思っている、と」
「……うん」
「どんな物語なんだ?」
「言わないよ! 口で伝えられるほど、あたしの作品はchán yīじゃないの!」
私は彼女の口ぶりに、文芸サークルに所属していた頃の雰囲気を感じた。懐かしくなって、思わず口角があがる。
「それに、あたしが作りたいのは、今までの、読んで楽しむだけの娯符とは違うの! ちゃんと、魔術回路もしっかり組み込んで、その魔術の効果の中で読んでもらうの! 物語と魔術の融合文学! 読んで、体験してもらうための作品にする予定なの!」
自分にまだ無限の可能性を見出している若者の、大きな志であると思った。
現世の友人にも、似たようなことを言っているヤツはいた。だが、彼は口から絵空事を吐き出すばかりで、一向に行動を移さなかったので、内心で軽蔑していた。
バイリィは違う。
彼女の部屋を見る限り、彼女は少なくとも、自分の志を実現させようと努力している。
ならば、むしろその志は尊敬に値する。
「良い作品になりそうじゃないか。君の完成品を見るために、私はこの世界の文字を理解しようと思うぞ」
私にしては、気の利いた文句を言えたと思う。バイリィも、
「……ありがと」
と、小さな返事をした。
「あー、もう、どこまで読んだかわからなくなった!」
バイリィは、照れ隠しのためか、再び娯符に目を落とし始めた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる